7-8 過去が眠る島
悪夢の元凶となった魔物を倒し終わった所で辺りを調べていく。
そういやあの魔物の名前を聞いてなかったな。ま、いっかあんなやつ。
この島は俺たちが目指していた謎の島で間違いは無い。
魔法で上空から見ると遠くに港町ヴィエステが見え、俺たちが乗っていた調査船は街に戻っている。
俺たちが消えてどれ程の時間が経ったかは分らないが、突然俺達が消えたことや、水の怪物に襲われた事もあり街に戻ったのだろう
辿り着いた島の建物は、やはり何処か悪夢の中にあった城とは違う。
そもそも悪夢の中で完全に倒壊していたし、同じ建物であるはずも無いか。
しかし、この場所は……
「アンタ的にはあの悪夢をどう考える?」
建物を調べながらリーナが聞いてきた。
「ダニロ船長はこの島が元からここにあった様だと言っていた、レティーシャ姫は遥か未来の自分が俺たちを呼んだと、あの魔物は長い間隔離された空間に居たと言っていた」
なら答えは一つだ。
「あれはこの世界の過去だ。そしてここは誰かが過去を隠す為に封印されていた場所なんだ」
あの魔物によって悪夢が展開されてしまっていたのは、恐らく予期せぬ事故だったのだろう。
魔物自体にそこまでの強さがある訳では無く、あの魔物自身も突然世界が隔離されたと言っていたし。
ならこの島を封印していた者はまた別に居るんだ。
あの過去を隠しておきたい誰かが。
「うーん、確かに今までの要素を考えるとアンタの考えが正解だと思うけど、それが本当だと思うには証拠が少ないうえに突拍子もないわね」
リーナが口に手をやり考えていく。
「そもそもこんな島一つを無かった事に出来るような人は誰?リョウが見たって言う魔王は今居る魔王と何か関係はあるの?それにあんな高度な技術が何も残っていないのはどうして?」
考えていくも答えは思いつかない。
二人して考えているとレオが何か見つけたと声を上げた。
「皆ー、ちょっとこっちにー」
レオの呼び声に集まる。
レオの正面には両開きの扉と、文字が書かれた壁があった。
「僕にはこの文字が読めないんだけど、リョウは読める?」
「えーっと、『真実を知った者の為に封ず、魔を絶つ力はここにあり』って書いてあるな」
「アンタ達は何か見えてるの?」
俺が壁の文字を読み上げるとリーナが聞いてきた。
「何って普通に壁に文字が刻まれてるけど」
レオには読めない文字のようだが、特に不思議な事はなく文字が壁に刻まれている。
しかし、リーナとエイミーは頭を捻り「何を見ているのだろう」と言った顔をしている。
「あれ?ここに書いてあるんだけど見えないのか」
書いてある部分を指差すも、目を凝らしている二人はやはり見えていないようだ。
「島からの声が聞こえていたのも俺とレオだけだったし、その辺に何か関係があるのか?」
疑問に思いながらも、どうせ考えても仕方がないだろうと扉を開ける。開けた先には階段が見えた。
「とりあえず先に進んでみようぜ」
扉を開けて進もうとした俺を二人が驚きの顔で見ている。
「リョウ、アンタ何をやってるの?」
「扉を開けて入っただけだけど」
「それが私達からは壁にめり込んで行ってるようにしか」
ん?扉も見えていないのか?
「レオは俺が扉を開いてるのは見えてるよな?」
「うん、僕からは普通……普通なのかな?何にせよ扉を開いて中に入ってるように見えるね」
うーむ、壁には真実がどうのと書いてあったし、何か別の方法で開けるべきだったのを無理やり開けてしまった感じな気がするな。
「どうする?先には進むか?」
この扉の向こうに行けるのは今のところ俺とレオだけになる。
先に進めべきか、どうするか……
「僕とリョウで先に行ってみよう」
レオが扉の中へと入ってきた。
「お、珍しく乗り気だな」
「今回は色々と気になる事も多いし、確かめておきたいから」
レオがそう言って階段を下りていく。
「大丈夫なんでしょうね?」
壁の向こうに消えてしまったように見えているリーナが声をかける。
「大丈夫、危なそうだったら直ぐに戻るよ」
「……本当に戻ってきなさいよ、レオの事頼んだからね」
「任せとけって」
答えて階段を下りていく。
「お二人ともお気をつけて」
エイミーの言葉に手を振ったが、そういえば見えていないんだよな。
扉から出て「心配するな」とエイミーの頭を撫でて、階段を再び下りてレオの元に向かう。
扉があるらしい壁へと消えて行った男二人をリーナとエイミーは見送った。
「本当に大丈夫なのかしら」
「心配ですが、無理は多分しないと……思いたいです」
正直な所かなり心配だった。
「まぁ言っても戻って来ないでしょうし、アタシ達はのんびり待ってましょう。にしてもあれは本当にこの世界の過去だったのかしら」
崩れている壁の上の埃を払い、リーナがそこに座る。
「どうでしょう……あんな世界が本当に過去にあったとは常識的には考え難いと思いますが」
エイミーがリーナの横に座った。
「ですが、あのアデルという剣士の方は何処となくレオさんに似ていましたね。もしかしてご先祖の方だったりするかもしれません」
「……そうね、そうかもね。そうだ、アンタあれは大丈夫なの?」
「あれ?」
リーナの質問にエイミーが首をかしげる。
「ほらリョウが頬にキスされてたやつ」
リーナの言葉にエイミーがムスッと顔を背けた。
「別に、気にしてませんし」
「ほほ~、そうは見えないけどね」
顔を背けるエイミーにリーナが詰め寄る。
「本当に気にしてません!それに頬ですし、サキュバスにキスされたよりも全然平気です」
詰め寄るリーナにエイミーが言い放ち、強がる。
「アンタも言ってくれるじゃないの」
「リーナさんが意地悪言うからですよ」
二人の笑顔の間に火花が飛び散った。
「ま、でも本当にリョウの奴はニブチンなんだか、わざとなんだか。アンタは自分から言おうとは思わないの?」
リーナが肘をつき尋ねる。
「伝えたくはあります……ですが、私の思いを伝えたらリョウさんは考えてくれるのではなく、抱え込んでしまいそうで」
エイミーは俯き答えた。
「あー、何か分るわ言いたい事。アイツ自己評価が滅茶苦茶低くなってるからね、アンタが好きですと言ってもこんな自分なんかがと思いそうだし」
「何だかなー」と二人が消えて行った壁の方を見る。
「リョウはそろそろ自分の事を認めてやって良いと思うんだけどね……」
俺とレオは階段を下りて行った。下りた先に大きな広間があった。
そこに全身が鎧で包まれた、おぼろげな一人の剣士が待ち受けていた。
鎧から発するプレッシャーには身に覚えがある。
「あんた、アデルさんか」
呼ばれて鎧の奥にある光がこちらを向いた。
「何故私の名前を知っている」
頭の中に声が響く。
「ここの上であんたの過去と会ってきた。いや、あれはあんたと、この世界の過去で間違いないんだよな?」
「そうか、上に巣食っていたナイトメアを倒してくれたのは君達か……そうだ、あれはこの世界の過去だ」
鎧のアデルの言葉を聞いてレオが疑問を聞く。
「あの世界は僕達が今居る世界とは大きく違っています。この世界になにがあったのですか?」
深い沈黙の後にアデルが答える。
「それを私から言う事は出来ない」
「どうして答えられないのですか?」
答えを出さないアデルにレオが聞いた。
「私が言えることは少ない、そして言葉を間違えればきっかけとなりかねない。答えを知りたいなら神に会う事だ」
その言葉に俺の中で一つの考えが生まれた。
「この島も、過去も、神が封印してるのか」
「そうだ、ここは秘匿されるべき場所だった。だが君達が来たことで封印が何故か緩み地上に出てしまった」
アデルは語っていく。
「地上に出ても君達を呼ぶべきではなかったが、私達の国を苦しめ利用される事に我慢がならなかった……上手く行くかは分らないが、君達が島を出次第この空間を再び閉じる」
アデルは鎧の奥にかつてあった瞳を真っ直ぐにレオへと向けた。
「国を解放してくれた君達に対し私は何もする事は出来ない。そして君は、恐らくこれから過酷な運命を辿るのだろう。その先で真実を知り、知った上で力を欲するのなら再びここに来ると良い」
一つ間を置いてアデルがここにある物を、神が隠した物を言った。
「星と人との、力と叡智の結晶がここにはある」
その言葉を最後に鎧は喋らなくなった。
「僕に、運命……」
レオはアデルに言われた言葉を反芻していた。
過酷な運命だとアデルは言った。
俺とレオだけが来れた場所、神が隠した場所に入れたレオに何があるんだ?
俺は多分異世界人だから、エイミーの加護と同じく神の力が通用しなかったのだろう。
なら、レオはどうしてなんだ?
答えの出ない問いを考えながら、俺達は階段を登りエイミーとリーナの元へと戻った。




