7-6 魔の王
目が覚めると路地裏に居た。
「5週目か」
意識が覚醒し起き上がる。
2度目の死の後、3週目は再び同じように城への侵入を試み失敗し、4週目は別の侵入方法を模索するも見つからず時間切れと相成った。
「人生で4回も死ぬなんて普通じゃないわね」
「2回だって普通じゃないよ」
リーナとレオが力の無い漫才をしている。
「今回はどうしましょうか……」
そう言うエイミーの声にも力が無い。
毎度体が消し飛ぶ感覚を味わうのはやはり疲れる。
「一度、この街から出てみない?」
答えの出ない現状を何とかするためにもリーナが提案した。
「そもそもこの街から出れるのか?」
「行ってみなきゃ分らないでしょ。それにまた城に行っても捕まって死ぬだけでしょうし」
答えは確かに城の中にある予感はある。
しかし、そこに辿り着く方法が無いのが現状だ。
「そうだな、一度街の外に出てみよう。もしかしたら城に行く答えとかも見つかるかもしれない」
歩き街の外へと向かう。
大通りを真っ直ぐに進み城とは反対の方向へと向かって行く。
歩いて行く途中に何かにぶつかった。
「いって」
音は何も鳴らなかったが、確かに壁にぶつけたような痛みが顔に生じた。
他も同じようで不思議な顔をしながら目の前にある透明な壁に手を当てている。
「なにこれ、壁?」
「でも周りの人は普通に通り抜けられていますよ」
エイミーが言うように周りの街の住人は壁など無いように、普通に道を通っている。
寧ろ、変なパントマイムをしているかの様な俺たちを怪訝な目で見ている。
道行く男性の一人に声を掛ける。
「すみません、俺を向こうに引っ張ってくれませんか?」
「はぁ?行き成り何を言ってるんだ」
「どうか少しで良いんです。お願いします!」
俺が頭を下げて頼むと面倒そうな顔で男性が俺の手を引いた。
しかし男性が引っ張っても、俺の腕は透明な壁に阻まれた。
男性が何が起きたのかと、思わず強く俺の手を引いた。
「いたいたいたいたいたい」
手が壁に押し付けられ変な風に曲がろうとする。
痛みに出た声を聞いて男性が慌てて手を放した。
「おっと、ごめん。あれ?でもなんで」
実際に起ってしまった謎の現象に、不思議そうに男性頭を捻る。
「いやーちょっと魔法の実験に失敗して、この街から出れなくなったみたいなんですよ。それで誰かに引っ張って貰えれば出られるかなと思って」
何かを疑われて聞かれても説明が面倒だ、ここは適当に嘘を付いてしまおう。
「はー……まぁそれは大変だな。早く治ると良いな」
「お気遣いありがとうございます」
俺が感謝の礼を述べると、男性はまだ頭に?を浮かべながらも去って行った。
「んで、結局俺達はこの街から出る事は出来ないって訳か」
コンコンと透明の壁を叩く。
叩いた感じではそんなに厚い壁とは思えないが、壊して済む様な代物ではないだろう。
「どうしましょう、今からでもまた城に戻りますか?」
「そうね……城に戻っても多分何も変わらないし、今回は壁のギリギリで待ってみない?もしかしたら死なずに済むかもだし」
リーナの提案は希望的観測も良い所だが、俺達は壁の近くでその時を待つ事にした。
周りを行く人たちは普段と変わらぬ日常を過ごしている。
今日の、明日の、その先の予定を話し、笑顔で過ごしている。
今回の破壊は止められない。そもそも城に辿り着いた所で破壊は止められるのか。
女性の声は言っていた。
「囚われた魂を救って欲しいと」
恐らくこの世界は何らかの原因で滅んだ世界を、何らかの悪意を持った者が捕えているのだ。
ならば、このループを破壊した所で彼等を救う事は出来ないのだろう。
だけど、この覚めない悪夢だけは終わらせないと。
日が落ち始め、その時間がやって来た。
街に破滅の光が降り注ぐ。
俺達はその光に対し全力の防壁を張った。
街が焼かれ消え往く中で俺達は破滅から生き残る事ができた。
獄炎に包まれた街の向こうに光の壁に包まれた城が見える。
「城がまだ残ってる!」
「結局あそこがゴールって訳ね、行くわよ!」
城に向かって駆け出す。
一瞬にして死の街と化した中を走っていく。
それは突然にして現れた。
それは黒い体に赤い血管の様な模様を浮かばせ、二本の腕に二本の足であっても人とは似ても似つかぬ2m程の大きさの異形の怪物だった。
その怪物が黒い顔に真っ白な目と、真っ白な歯を向けて笑った。
レオが抜刀し、問答無用で切り付ける。
切っ先が届く前に、怪物が3体に増えた。
怪物の1体がレオの剣を止め、2体目の怪物がレオに魔法を放つ。
暗い光の塊がレオを押し潰し、建物に叩き付けた。
残る1体がこちらに襲い掛かる。
3人がかりで攻撃を放つも、身を貫く雷も、炎も、光の槍も全てを意に介さぬかのように突き進む。
「何なんだよこいつ!?」
止める為に俺が前に出るが、怪物が2体に増えた。
振り下ろされる怪物の拳を歯を食いしばり剣で受け止めるも、万力の様な強さで押さえつけられる。
エイミーの放つ槍も鎖も物ともせず、力を誇示し相手を嘲るような笑みと共に力が強くなっていく。
「この野郎ぉ……」
耐える横を怪物がリーナの元へと迫る。
迫る怪物を引きつけ、リーナが渾身の雷の弓を放った。
怪物の上半身の大部分が抉れ飛ぶ。
普通の生物では生きてる筈も無い損傷。しかし、怪物はぶらりと辛うじて繋がっているだけの腕でリーナの胸倉を掴み、地面へと叩き付けた。
起き上がる暇も与えずリーナの胴を踏み潰す。
グシャリと音を立ててリーナの胴が潰れ、口から大きく血を吐いた。
体が痙攣した後、上に伸ばそうとした手が力なく落ちる。
「リーナアアアアアア!!」
レオが悲痛な叫びを上げた。
莫大な魔力を噴出させ怪物に切りかかる。
放たれた魔法を爆発的な魔力でねじ伏せ怪物を両断するも、両断された怪物がレオを襲った。
レオが吼え、怪物達を細切れにする。
俺を抑えていた怪物もレオの方へと向かった。
更に増えていく数多の怪物の群れがレオに襲い掛かる。
迫り来る死すら恐れず、レオは怒りと湧き出る魔力に身を任せ怪物の群れに飛び込んだ。
「エイミー、行こう」
潰されたリーナを呆然と見ているエイミーの腕を引っ張る。
「でも……リーナさんが、レオさんが」
「分ってる、だけど行くぞ」
強く腕を引っ張りエイミーを連れて行く。
「この世界なら死んでもまた生き返ってる」
その筈なんだ、
「今やらなくちゃいけないのは、このループを終わらせる手段を見つけることだ」
リーナは死んだけど、死んでないんだ。
「敵はレオが引き付けてくれている、今がチャンスなんだ!」
エイミーの手を引き、城へと走った。
城の方では大きな音と、迸る魔法の応酬が見える。
誰かがこの事態を引き起こした者と戦っている。
大きな力のぶつかり合いが空をも揺らし繰り広げられている。
一際大きな音が鳴り響き、城が崩れ城壁が吹き飛んだ。
崩れ落ちる城壁の土煙から誰かが飛び出し、それを空中に出現した魔法陣が打ち落とした。
打ち落とされた人が、俺たちの近くの建物に激突する。
衝撃で破壊された建物から輝く剣を持った一人の剣士が飛び出した。
「レオ!?」
飛び出した剣士の顔を見て思わず叫んでしまう。
俺の叫びに剣士が振り向いた。
「誰だ!?子供?生き残りが居たか……しかし、今の私では君達を守ってやれそうにない」
右腕を失っている剣士がこちらを向く。
その顔はレオとは似ているが、髪の色は茶色く、20代後半といった出で立ちの別人だった。
それでも何故か一瞬彼を見たときにレオだと勘違いしてしまった。
その疑問を考える間もなく、目の前の空に力が顕現した。
青い髪をした魔物が空間を切り裂き現れた。
強く、恐ろしい目をした人型の魔物であった。
神の彫刻を思わせるような荘厳で力強さを感じる体と、対峙するだけで魂を押し潰されそうな魔力を持った魔物であった。
その魔物を認識した瞬間に世界が大きく揺らいだ。
エイミーが悲鳴と共に頭を抑えて蹲る。
揺れ崩れる世界の中で剣士の叫びを聞いた。
「貴様は何者なんだ!?」
魔物は答えた。
「我は魔、我こそ魔の王、世界を破壊する者」
崩れて行く世界の中で意識は暗転し、明るい路地裏へと落ちて行った。
「すっごく嫌な死に方した」
戻ってきた路地で号泣するレオに抱きしめられながら、リーナがげっそりとした顔を浮かべている。
「あれなら今までみたいに一瞬で消し飛ばして貰った方がまだマシね、どっちも嫌だけど」
「よかった……よかった……」
リーナを抱きしめているレオがまだ泣き続けている。
「はいはい、もう分ったからそろそろ離れなさい。アタシ達はまだやらなくちゃいけない事があるんだから」
言われてレオも涙を堪えてリーナから離れた。
「でも、本当によかった。ごめん、守ることが出来なくて」
「あれはもう仕方が無いでしょ。それにこうして全員で路地裏に居るって事は、また全員死んじゃったって事だし」
頭をシャキッとさせる為にリーナが自分の顔をパンッパンッと叩く。
「それで、アタシは真っ先に死んじゃったけど、あの後に何があったの?」
「俺とエイミーは城に向かって行って、途中で剣士と魔王の戦いに巻き込まれて世界がぶっ壊れた感じかな」
「剣士に、魔王に、世界がぶっ壊れた?」
何言ってんだこいつと言った顔をしているリーナに、俺たちが見た事を説明していく。
「僕は戦っていたら何時の間にかこの路地裏に戻っていたから、リョウ達が見た世界の崩壊に巻き込まれたのかな」
俺の説明を聞いてレオが自身の結末を話した。
「はー、じゃあその魔王に会ったらその時点で失敗と思った方が良いかもね」
「あれに勝たなきゃ駄目だって条件じゃないなら何だって良いさ」
「そんなにやばかったの?」
「やばい何て物じゃなかったな、プレッシャーだけで押し潰されそうだった。エイミーも辛そうだったけど大丈夫か?」
ぼーっとしてしまっているエイミーに話しかける。
「……あっ、すみません。それで何の話でしょうか?」
「ほら、あの剣士に会った後に魔王が来ただろ?その時に頭を抑えていたから大丈夫かなって」
「えっと……駄目です、走った後の記憶が混乱してて」
リーナが潰されたり、あの魔王の力を見て頭がパニックを起こしているのだろか?
「体調が大丈夫そうなら、無理して思い出す必要はないよ」
「すみません。ご心配おかけします」
謝るエイミーの頭に手を置き「気にするな」と撫でる。
撫でるとこちらに頭を預けるように下を向いたので、安心できるようにしばらく頭を撫でた。
「それで、今後の方針なんだけど」
全員落ち着いた所でリーナが話を再開する。
「今の現状として、街からの脱出は不可能、あの攻撃を耐えても変な化け物がウヨウヨと沸いて多分生き残れない、そもそも生き残った所で魔王と名乗る魔物を認識した瞬間に強制終了」
順番に指を立てながらリーナが整理していく。
「そうなるとやっぱり時間が来る前に城への突入を成功させる必要があるわね」
「でもどうやって?」
俺の疑問にリーナがぐっと拳を構えた。
「成功するまでやるっ!」




