6-6 岩山のアジト
ロンザリアは嬉しそうに部屋を飾っていく。
クッションはどれを置こうか、ベッドのシーツはどうするか、何か使いたい道具はあるだろうか。
ウキウキと笑顔を浮かべながら部屋の模様替えを行っている。
それをハミルダは頭を抱えながら見ていた。
「ロンザリア様、先程から侵入者がこちらに向かっていますがどういたしましょうか?」
「うーん?ハミルダがやっておいて~」
浮かれた様子でこちらの事など見向きもしていない。
しかし、こうなってしまったのは自分の責任と言えなくも無い。
あの後フラウ様へ連絡をし、ロンザリア様はフラウ様からお叱りを受けている。
その結果完全に不貞腐れてしまったロンザリア様のやる気を復活させる為に、気に入った様子だった人間の男性を捕えてみてはどうかと進言したのは自分だ。
その際にロンザリア様の事を褒め称え、今の状態にしてしまったのも自分だ。
それにそもそも、ロンザリア様の能力は非常に高くとも精神面においてまだ子供だからと、副官として就けられた自分がロンザリア様の幾つかの暴走を止められなかったのが悪い。
そうだ、そうに違いない。ロンザリア様に対する怒りを鎮める為に、自分の心の安寧の為にもそう思っておこう。
「……私の能力は多人数を相手するには向いていませんので、どうかロンザリア様のお力をお貸し下さいませ」
頭を下げて頼み込むと、ようやくロンザリアがこちらを向いた。
「んも~仕方が無いな~、じゃあ何すれば良い?」
「そうですね……ではゴーレムを使って相手を分断してしまいましょう。この先に下に大きな空間のある道がありますのでそこを使います」
「りょ~か~い、じゃあパパッとやっちゃうよ」
「なんか、本当になんも無いわね」
俺達は洞窟の中を歩いていく。洞窟内には明かりが付けられており、所々の分かれ道はご丁寧にも案内の看板が置いてあった。
普段だったら罠の一つや二つあって当然の事だと思うが、本当に何の妨害もなく進んでいる。
「一応は上から見られてる感覚はあるけどな」
自分達の頭上に何となく魔力が感じられ、そこから誰かに見られている感覚がする。
今までリーナがやっていた偵察の魔法を相手に勘付かれる様な方法で使うと、この様な感覚を相手が受けて気付かれてしまうのだろう。
今回相手からの監視の目を感じられるのは、こちらが知った所で向かってくるのを止めないと分っているからなのか、それとも完全に余裕ぶっているのか……
「監視を続けているのなら、何かをするつもりはあるのかもしれませんね」
そう言っていると、その何かが遂に来た。
地面から壁から岩の怪物達が生み出されていく。
「ゴーレム!?またやっかいな物を。相手してたらキリが無いし強行突破するわよ!」
リーナの言葉に頷き全員駆け出した。
迫るゴーレム達を次々となぎ倒して洞窟を駆けていく。
すると正面に道を塞ぐかのように大きなゴーレムが姿を現した。
「倒し方は前に会ったエレメントと一緒、アタシとレオでデカブツを倒すから、その間リョウ達は周りをお願い!」
「任せろ!」
返事を答えて周りのゴーレム達の相手をする為に振り返り駆け出す。
エイミーの援護を受けて、ゴーレムの群れへと突っ込んだ。
魔方陣から炎の塊を撃ち出しゴーレムへとぶつけ、爆散したゴーレムから上がる土煙を突き抜け他のゴーレムを両断していく。
「リョウさん下がって!」
十分に注意を引き付けた所でエイミーがこちらに叫んだ。それを聞いて横に跳んで射線を開ける。
「光の槍を!」
エイミーが正面に構えた印から光の槍が放たれ、ゴーレム達を飲み込んでいった。
しかし群がっていたゴーレムは消え去ったものの、次から次へと沸いて出てくる。
「これは本当キリが無いな」
となると問題はレオ達の方なんだが。
振り向くと既に巨大なゴーレムは両腕を両断され、今正にトドメを刺そうとしている所であった。
これなら大丈夫そうだなと思ったその時、
「流石に勝てないか」
ロンザリアの声が巨大なゴーレムから発せられた。
何かを感じ取ったレオが咄嗟にゴーレムから飛びのくと同時に、ゴーレムがその場で自爆した。
巻き起こった爆風が洞窟内を駆け巡る。
防壁を張り爆風から耐えるその下で、洞窟の地面が音を立てて崩れて行く。
レオとリーナはそれに飲み込まれていった。
突然の事ではあったものの、リーナは風の渦を作り出しレオをキャッチして深く開いた穴の下へと着地した。
無事を伝えようと上を向き叫ぼうとすると、ゴーレム達が次々と空いた穴に飛び込んできている。
落下しながら自爆を繰り返し、周りの壁を巻き込み落ちて来る。単純だが効果的な落下する質量による物理攻撃。
「リーナ、こっちに」
レオが横穴を見つけたので、その中に急いで逃げ込んでいく
轟音と共に、落ちて来た穴がゴーレム達の手で塞がれてまった。
「これは中々な事をしてくれたわね」
道を塞いでいる岩をリーナがコツコツと叩き調べる。反応を見るにここから戻っていくのは難しそうだ。
「道は続いているし、先に進むしかないかな」
「相手の策に嵌るようで癪だけど、行くしかないわね」
リョウ達は無事だろうか……
相手の行動の意図は解る、僕達を分断したかったんだ。
ここで立ち止まっていても仕方が無い、早く相手を倒してリョウ達と合流する事を考えよう。
暗い洞窟をリーナに明かりを灯してもらい歩いていく。
歩いていくと開けた広間に出た。
ゆらりと揺れる明かりの向こうに、何と言うか、変な服を着た少女が待ち構えていた。
「いらっしゃ~い、ロンザリア~貴方達の事をずっと待ってたんだよ~」
ロンザリアの言葉に背中を舐められるかの様な不思議な感覚を感じる、頭にも何か痺れの様な物が生まれてきていた。
そうか、これが昨日言っていたサキュバスの能力か。体が動かなくなるまではないけど、早めに対処する必要があるかもしれない。
「アンタがロンザリアってやつね、それで?リョウ達はどうしたの?」
「リョウお兄ちゃん達はハミルダが相手をしてる筈だよ。貴方達もすぐに会えるようにしてあげるから、心配しなくても良いからね~」
「あっそう」
魔方陣を展開して雷をロンザリアに向かって放つ。
ロンザリアはそれを岩の壁を作り出して防いだ。
「いや~ん、怖~い」
そうは言うが顔には余裕の笑みを浮かべている。
「レオ、とっとと終わらせるわよ」
「うん、早くリョウ達と合流しよう」
リーナの言葉に頷き、ロンザリアへと迫る。
「んも~、ちょっとぐらいお話しようよ~」
ロンザリアは魔方陣を展開し、ゴーレムを、石柱を、幾つも生み出していく。
しかし、レオはそれらを物ともせずにロンザリアの元へと迫る。
ロンザリアはレオの強さに正直に驚いていた。
魔法使いの援護もあるとはいえ、自身が放つ攻撃を全て打ち払って迫る少年の強さは直ぐに解った。
だが、それでもロンザリアはレオに負けるとは微塵も思っては居なかった。
彼の顔を見れば彼がどのような性格をしているのか、サキュバスたるロンザリアには予想が出来ていた。
自身に纏っていた魔力の防壁を消し、一切の敵意の無い表情を浮かべてレオに一歩踏み出す。
レオは甘い男であった。敵だと解っていても、魔物だとしても、完全に無防備な少女を前に剣を振り下ろす事が出来なかった。
「お兄ちゃんと違って甘いんだね」
笑顔を見せ、すっと背伸びをし、頬に両手を当てレオの唇を奪った。
ロンザリアとキスを交わした瞬間、レオの頭の中が大きく揺らぐ。
これは……いったい……!?
サキュバスの力が体を駆け巡り、思考が支配されるような快感が走る。
「何をしてー!」
サキュバスに捕えられたレオを助け出す為に、巻き込み承知でリーナが魔法を撃とうとする。
だが、魔法を撃つ前にロンザリアが強くレオを突き飛ばした。
突き飛ばされ後ろに大きくよろめくも、何とか踏みとどまる。
「レオ、アンタ大丈夫!?アタシが誰だか解る!?」
僕の肩を抱きしめリーナが必死に呼びかけてきた。
「大丈夫……何とか……でも体の調子がちょっと悪いかな」
頭がくらくらする、あのまま支配されると思った。でも途中で向こうから拒絶してきた。
一体どうして……?
前を見るとロンザリアがこちらを睨みつけている。
「あんた、なに?」
問いかけられた。問の意味は解らなかった。
「何だっていいや……生かしておこうと思ったけど、やっぱり貴方達はここで殺しちゃうね。お兄ちゃんにはロンザリアが言っておくから安心して」
ロンザリアが巨大な魔方陣を展開する。
ロンザリアの体が魔法で作られた岩に包まれ、両の手に大剣を二本携えた巨大な黒い岩石の鎧兵士が作り出された。
「ばいばい」
巨大な足を踏みしめ巨兵が大剣を振りかざし、レオとリーナに猛然と襲い掛かった。




