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6-4 夜が明けても戦いは続く

 呪いを破壊した俺達は街の人たちの救助の手伝いをしている。


 呪いが無くなったとは言え、倒れている人たちは病院に連れて行く必要があった。


 何せ倒れている人の数が多い、動ける奴は働かないと。


 役所や教会等にも場所を使える様に協力してもらい、日が沈む前には何とか病人達の救助が完了した。


 食事等も行き渡り、安静にしていれば全員元気になる事だろう。


 仕事を終えた俺たちも宿に戻った。


「皆お疲れさま」


 俺とレオで夕食を作り並べていく。エイミーとリーナは治療の疲れもあって机でぐったりしていた。


「すみません。私が当番なのに、ご飯の準備を全部任せてしまって」


「気にするなって、当番は今度俺がへばった時にでも代わってくれたら良いさ」


 今日のエイミー達の仕事量を考えればこの位どうって事ない。


「それで、アンタが会った敵ってどんな奴だったの?」


 夕飯を食べながらリーナがこちらに聞いてきた。


 あの敵、ロンザリアの事を思い出していく……何とも人に伝えたくない外見をしてるな、あいつ。


 どう考えても痴女にしか見えない服をした少女の事はどうも言い難い。


 見た目の特徴はカットして、攻撃方法や今回の呪いを発動させた動機などを伝えていく。


「労働力が欲しいだけで街を全滅させようなんて舐めた事をしてくれるわね。それでその土の魔法を使う悪魔って見た目の特徴的には何かある?後は相手にされた事とか」


「見た目……あー、あれだ尻尾があったし目は悪魔っぽかったけど後は普通の小さな女の子っぽかったな、うん。された事と言うと話しかけられると頭がぼーっとする感じがあったな」


「ぼーっとね……」とリーナがフォークを咥えながら考えている。するとエイミーが少し恥ずかしそうにしてこちらに聞いてきた。


「その魔物って……その、変な格好をしていませんでしたか?」


 変な格好……いや、まさしく変な格好なんだが。


「そうだな、こう何と言うか奇抜な格好をしてたな」


 あの見た目を女性の前で説明する度胸は持っては居なかった。


「もしかすると、その魔物ってサキュバスなんじゃ……」


 赤くなり始めた頬に手をやるエイミーの言葉に、リーナが「あー……」と合点が着いたような顔をする。


「そうね、それっぽいかもね。でもそれなら良くアンタは無事だったわね。サキュバスの魅了はヤバイって聞くけど」


「何がどうヤバイかは知りたくはないが、相手の反応を見るに効き目が薄かったみたいだな」


「サキュバスの魅了も呪いに近い物があるので、もしかしたらリョウさんには効き目が薄いのかもしれません」


 成る程な。こうしてみると結構便利な体だな、俺の体質って。


「サキュバスってどんな魔物なの?」


 頭の上に?マークが浮かんでそうな顔でレオが尋ねた。


「あれだよ、あのサキュバスだよ」


「どのかは解らないけど、多分アンタが思い浮かべているそのサキュバスは間違ってない気がするわ」


 答えになっていない俺達の言葉にレオの頭の上の?マークが増えていく。


 それを見てエイミーが指をもじもじさせながら説明していった。


「その、何と言いますか……男の人を、いえ女の人もなんですけど、特に男の人を惑わす悪魔と言いますか……言葉や視線で相手の心を操るとか何とか……」


 しどろもどろな説明を聞いて「うーん」とレオが考えている。


「精神攻撃を仕掛けてくる悪魔なら何か対策を考えなきゃね」


 生真面目な結論だ。うん、お前はそれで良いんじゃないかな。


「対策としては私が加護を張れば言葉と視線による誘惑は防げると思いますが、その……直接的な攻撃は多分ちょっと……リョウさんは何かその、攻撃を受けたりは?」


 直接的な攻撃は受けた、思いっきり受けた。頭は半分霧の中だったが思いっきりキスをされた事は覚えている。


 しかしこの事は黙っていた方が良い、そんな気がする。


「地面に押さえつけられはしたけど、それだけだったな」


 俺の答えを聞いてエイミーが「ほっ」と安心の息を付く。


「いい?レオ、アンタは絶対にサキュバスなんかの魅了に掛かったら駄目だからね!その、戦力的にすっごく困るから掛かったら駄目だからね!」


「う、うん。気をつけるよ」


「絶対だからね!」


 勢いに押されているレオに何度もリーナが釘を刺していく。


 なにやら言い訳を挟んでいるが、正直な所自分じゃないサキュバスなんかにレオを魅了されて欲しくないのだろう。


 素直に言えば良いのにと思っていると、ふと思った。


 そういやレオ達って恋人同士って感じじゃないな。


 話を聞くに幼馴染ではあるようだし、仲良く旅をしているし、双方共に双方を気にはしているようだが、恋人らしいかと言われるとそうでもないように思える。


 ふーむ、これは機会があればレオに一度聞いてみるのも良いかもしれないな。


 話も一段落ついた所で部屋に戻って体を休めることにする。


 敵の正体は解っていても潜伏場所が解っていない以上、うだうだ考えても仕方が無い、明日の為にも早く寝てしまおう。




 街の裂け目から出た先、山道を通って着いた基地の中をずんずんと怒った様子でロンザリアが歩いていく。


 ドアを蹴破り部屋の中に入った。


「お帰りなさいませ」


 長身のメガネを掛けた女性の悪魔が出迎えた。ロンザリアと違い普通のドレスを身に纏っている。


「ただいまっ!」


 怒った表情のままロンザリアは答え、ソファに飛び込んだ。


「なにあれ、まじ意味解んないんだけど。それに何で下は誰も働いてないの!サボって良いなんて誰も言ってないでしょ!」


 お菓子を掴み食べながら文句を垂れていっている。するとメガネを掛けた女性が溜息まじりに答えた。


「昨日ロンザリア様がもっと良い労働力があると捕まえてた者たちで遊びつくした結果、誰も動けるものが居なくなっているだけです」


 それを聞いて自分の行いを思い出し、菓子を食べる手を止めてソファに備え付けられているクッションにうつ伏せで倒れこんだ。


「それで、作戦の方は失敗したようですが」


「知らないっ!」


 クッションに抱きつき、足をバタバタとさせて聞きたくないと主張している。


「ですがストレッジ様から頂いた呪具まで使って何故失敗したのですか?」


「そうよ、あの触手爺が渡してきたやつが欠陥品だったの!なんなのあの使えないやつ!普通に魔法で打ち抜かれたじゃん!」


 起き上がりクッションを何度も叩いていく。


「あれを魔法で?」


「うん、変なお兄ちゃんが誘導して、外に居た魔法使いが魔法でドカーンって」


 ロンザリアの言葉を聞いて眼鏡を掛けた女性が考え込む。


「それは相手が呪具の存在を知っていたという事ですか?」


「そりゃそうでしょ最初から探し回ってたし」


 適当に言い放つロンザリアに対して眼鏡の女性が頭を抱えた。


「その方達はちゃんと仕留めたのですか?」


 そう聞かれてバツが悪そうに顔を背けてクッションを抱える。口がうじうじと動いた後にようやく答えた。


「……してない」


「はぁ……どうするおつもりですか?」


「知らないっ!ハミルダが考えて!」


 またもクッションに顔を押し付け、徹底した無視の構えを取る。


 ハミルダと呼ばれた悪魔がロンザリアを見て「どうしたものか」と考え込む。


「街を襲撃しますか?」


「……やだ、めんどう」


「ではここで迎え撃ちますか?」


「……うん」


「それでは情報を流し、その方達をここに誘導しますのでお待ちくださいませ。それと今回の事はフラウ様にご報告させて頂きます」


「え!?なんで、なんで!!」


 突然と言えば突然ではあるが、全くもって当たり前の事として出された上司への報告の旨にロンザリアが「やだ、やだ」と抗議する。


「労働力を全部使い物にならなくした上に今回の襲撃の失敗と、フラウ様にご報告するには十分な理由です。私も一緒にお叱りを受けますから、大人しく怒られて下さい」


 そうは言われてもロンザリアは抗議を続けている。


 それを見てハミルダは大きく溜息を付き部屋を出て、四天の一人フラウへと繋がる水晶へと報告に向かった。

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