5-2 合理的な作戦です
(何故か上手く行っちゃったね)
(本当な、失敗すれば良かったのにな)
ヒソヒソと小さな声で喋っていく。
俺とレオは小鬼の様な見た目の魔物に連れられ、女性や子供が捕えられていた場所に座らせられている。
周りの女性達は怯えている……と言うよりは退屈そうな顔で座っていた。
縛られている訳でも、外傷がある訳でもなく、早くこの騒動が終わらないだろうかと言った顔をしている。
子供に至っては与えられたおもちゃで普通に遊んでいた。
(どうしようか?人質の人たちは別に酷い目にあってはいないみたいだけど)
(まぁ何だか緩い雰囲気でやる気が削がれるが、人質解放だけはやっとかないとな)
周りの魔物達の会話を聞いていても、傷つけるつもりが無いのは確かなようだ。
もっとも、その行動の理由はドッカリと座っている豚の様な顔をした大きな魔物の指示のようだが。
でっぷりとした見た目の魔物はテキパキと指示を出している。
人質にちょっかいを出そうとした小鬼には注意を飛ばし、何やら字を書ける魔物達に手紙を書かせているようだ。
しかし、まぁ……よくも本当にこんな潜入作戦が成功したもんだ。
俺とレオは女性達と共に捕らわれている。その服装は女性の物となっていた。
どうしてこうなったのか、話は朝に遡る。
朝になり起きるも、どうも頭が眠い。夜の騒動のせいだ。
朝食と朝の鍛錬を終えて出発する。
「今日も一回も当たらなかったな……」
危険だからとリーナに木の剣に変えられて続けている模擬戦は、未だに一度もレオに掠り傷一つ負わせていなかった。
「でも魔法を使うまでの速さはどんどん良くなってるし、ちゃんと防御はしておかないと危なかったよ。だけど攻撃の際に体がぐうっと前に出過ぎる時があるから、そこは直していかないとね」
相手に切り込む際のアドバイス等を聞きながら歩いていると村が見えてきたが、何やら物々しい雰囲気の武装した人たちが正面に立っている。
「何かあったのでしょうか?」
その様子を見てエイミーが心配そうにしている。
「もしかしたら夜に来た魔物と何か関係があるのかもな。どのみちこの村には寄る予定なんだし聞いてみようぜ」
小走りで村へと向かっていくと、村の前に立っている人たちがこちらに気が付いた。
「君達!外は危ないぞ、早く中に入りなさい!」
やはり何やら警戒しているようだ。
「俺達旅の者なんですけど、何かあったんですか?」
「昨日から魔物による人攫いが続いていて警戒中なんだ、君たちも危ないから村の中に居た方がいい」
「アタシ達は多分その魔物と会っています。魔物退治に協力させてください」
そう言うリーナの顔はやる気に満ち溢れている。夜の事を根に持っているのだろう。
「君は魔法使いか、そうだな……村長の所に行ってそこで話をしよう」
村長の家まで行き、今回の誘拐事件のあらましを聞いてゆく。
なんでも、昨日の昼頃から何人か女性や子供が行方が解らなくなる事が起きており、夕方頃に一人の女性を連れ去ろうとしている魔物を村人が目撃し追ったものの「女は人質にする」と魔物が言い、逃げられてしまったとの事だ。
その後は村全体で警戒態勢に入り、今の所は誘拐された人は増えてはいない。
「目撃によると魔物の正体はゴブリンのようで、最近は悪さもせず森に篭っているとばかり思っていましたが、まさかこんな事をするなんて」
話をしている村長が心配そうに頭を抱えている。
「それと今朝方に恐らくゴブリン達からと思われる矢と、それに括り付けられていた……恐らく手紙が届いております」
そう言って村長が紙を一枚取りだして見せてきた。
そこには……図?いや文字か?と言うより落書きなのでは?
「これは……なんでしょうか?」
「私共としても何とも……恐らくは人質も取っている事ですし、何かしらの脅迫文だとは思いますが」
「リョウ、アンタこれ読める?」
「いや、全然」
恐らく何か文章を書いているのだろう。うねうねとした線の塊が一応は横に列になって並んでいる。
だが何と書いてあるかはさっぱり解らなかった。
村長との話が終わり、宿へと向かって作戦会議に移る。
「でさ、ゴブリンってどんなの?俺の考えているちっこい奴であってる?」
「多分あってんじゃない。村長も言ってたけど、森に迷い込んだりしない限りはそんなに合わない魔物らしいわ」
どうやら俺が思っている雑魚敵なゴブリン以上に弱い存在のようだ。
でも、なんでそんなのが人を襲っているんだ?
「ゴブリン達の目的ってなんだろう?人質を取ったと言う事は何かを見返りに要求したいって事だよね」
「うーん、あの手紙の内容が解れば良いんだけど、これは直接問いただした方が良いかもね」
「ですが、どうやってゴブリンを見つけましょうか……話によると村には寄り付かないみたいですし、森の中の捜索は時間が掛かりますし」
そうだな……向こうから何か来てくれるような事があれば……
「そうだ、誰か囮になって捕まれば良いんじゃないか?」
「……まぁ良いんじゃない。それで誰が囮になるの?」
「そりゃあ……女の子を攫ってるみたいだし、リーナが」
「い~やっ」
心から嫌そうな顔でこちらを睨みつけてきた。
魔物に捕まってくれなんてそりゃ嫌ではあるだろうし、正直頼むのは気が引けるが、それでもリーナが一番適任だとは思う。
単純な戦闘力で考えるならそのゴブリン達が束でかかって来ても返り討ちに出来るだろう。
「嫌だからね、絶対いやっ!そんな事言うならアンタが囮になれば良いのよ」
「でも狙いって女の子なんだろ?なら俺が行っても無視されるだけだろ」
「じゃあアタシは捕まっても良いって言うの?アタシは嫌だからね!」
「捕まって良いとは思ってはないけどさ……」
リーナと言い合いをしていると、名案を思いついたとばかりにエイミーが手を叩いた。
「そうだ、リョウさんが女の子の格好をすれば良いんですよ」
は?
「あっ良いわねその案。これなら何の問題もないし、レオも一緒に行けば安全面もばっちりでしょ」
「え!?なんで僕まで」
突然降りかかった火の粉にレオが驚いた。
「リョウ一人だと不安でしょ、アンタも女装して行けば完璧よ」
「そうですね、レオさんも似合いそうです」
盛り上がっていく女性二人が準備を進めていく。
「服はアタシ達のだとサイズが合わないから、何かないか村長に聞いてみましょうか」
「お二人とも顔も良いので、化粧をすればバッチリいけると思います」
男二人の心境を他所に、あれよあれよと女装計画が進んでいった。
「なんでこんな事に……」
カツラを被せられ、化粧をされ、女性用の服を着させられた俺の姿は、確かに村娘と言って間違いない見た目になっていた。
「リョウはまだ良いじゃないか……僕なんてカツラすらないんだ……」
レオも俺と同じような格好をさせられて項垂れている。
「いやー、まさかこれ程似合うとはね、アンタの世界にあるらしいカメラがあれば良かったのに」
俺は心から無くて良かったと思ってるよ。
「でも本当に似合ってますよ、どこから見ても可愛い女の子です」
落ち込んでいるこちらを慰めるつもりかもしれないが、正直逆効果にしかなっていない。
「早く行って終わらせてこよう」
「そうだな、早く終わらせよう」
そうさ、こんな変装上手く行くものか。
失敗したらどれだけ嫌と言おうとも、絶対にリーナとエイミーに人質役をやってもらおう。
こんな作戦上手く行かないに違いないって。
こうして無事に俺達はゴブリン達に捕まった。
(本当になんで成功したんだ)
(本当にね……)
そうは言っても成功したものはキチンと仕事を果たさなくてはならない。
人質達や魔物の雰囲気が妙に緩くてやる気が削がれても、人質として捕らわれている事実は変わらない。
(一応出来る限り相手にも怪我をさせないようにいこうか)
(そうだな、出来る限りはやってみるよ)
とりあえず行動開始だ。




