4-4 結晶の中で
洞窟の最奥で巨大な結晶のエレメントが待ち構えている。
どうやら近づくまで動く気配はないようだが、作業の邪魔にしかならないし倒すしかないだろう。
「中々大物が出てきたわね」
「なんだか今までのとは見た感じが違いますね」
確かに今までは火に水に風に土に、魔法の四大元素そのままが塊となって人の形をしていたのが、目の前の巨人はエーテルの結晶が人の形をなしているようだ。
「ここの親玉ってところね。さっきまでの小さいエレメントはこいつが生み出した物だから、こいつさえ倒してしまえばここは安全になるわね」
「でも、どうやって倒そうか?」
「何度か攻撃を繰り返して魔力の中心を壊すのが一番ね。何処が中心かは解るでしょう?」
「うーん、何となくは」
目を凝らして見るレオの真似をして、俺もエレメントの魔力の流れを注視してみる。
成る程胴体の上の部分に魔力が渦巻いている部分がある。あそこが弱点なのだろう。
「さてと、アタシとレオはあのデカブツの相手で、リョウはあのデカブツが起きると周りに小さいエレメントが沸くだろうからそれの対処、エイミーはリョウの援護と、余裕が出てきたらこっちの手伝いをお願いね」
テキパキとリーナが指示を出していく。
勢い任せや自身の特殊体質での活躍と違い、自分で身に付けた力を戦力とされると今までとは違った緊張が来る。
「一緒に頑張りましょうね」
緊張を察してエイミーが手を握ってくれる。
我ながら現金だと思うがやる気が沸いてきた。
「ああ、やってみるさ」
準備が整った所でリーナのマントが光り輝いく。
「この一撃で終われば良いけど、そうは上手くいかないでしょうね」
「僕が一緒に攻撃して雷の刃を撃てば倒せるんじゃない?」
「それだと洞窟ごと吹っ飛ぶわよ。それじゃあ、アタシが雷を撃ったらエイミーはエレメントの拘束をお願い。後は指示通りで」
「いくわよ」とリーナが言い、魔方陣が展開され雷がエレメント突き刺さる。
しかし、エレメントは撃たれ続ける雷をものともせず起き上がった。
縛りつけようとする光の鎖も千切りながら、エレメントが咆哮を上げた。
それに呼応するように周りのエーテルの結晶から小さなエレメント達が生まれてくる。
レオは巨大なエレメントへと立ち向かっている、小さな奴等は俺の仕事だ!
現れたエレメント達に火の玉を放っていく。攻撃としての決定打にはならないが、注意を引くのにはこれで十分だ。
こちらに向いたエレメントから雨あられと多種多様な魔法が放たれた。
それを撃ち落しきれないと判断し、魔力を放出させ防壁を張る。
多彩な魔法が重なり合い爆発音となるも、自身は無傷で乗り切った。
「これならリーナの特訓のがキツイな」
指導の確かさと、自身の成長を同時に実感する。
これなら前に出て戦う事も出来るだろう、任された事を果たす為にも。
「エイミー援護を頼む!」
そう言って前に駆け出した。
「はいっ!」とエイミーが返事と共にエレメント達を拘束していく。
拘束されているエレメントを加護の掛かった剣で切り落として行きながら、自分以外の方へと向こうとしたエレメントには魔法での攻撃を放つ。
敵の魔法を突っ切りながらエレメントの群れの中で戦っていく。
今の俺の武器を最大限に活かせている。エイミーの援護もあるし、これならこっちは何とかなりそうだ。
そう思っていると背後で大きな音が鳴り響いた。
後ろを振り向くと二体目の巨大エレメントが洞窟の壁から立ち上がっていた。
「そんなのありかよ!?」
その光景に驚き集中力が乱れ、エレメントの魔法が防壁を破った。
痛みによろめくも、何とか防壁を張り直し二撃目は阻止する。
「傷は私が治します」
「助かる!」
傷を回復してもらいながら、もう一度エレメントの群れの中に飛び込んでいく。
向こうの事を俺は気にしている場合じゃない。だけど、このままじゃ……
「エイミー!二人の方を頼む、こっちは俺が何とかするから!!」
涼の言葉に悩むも、エイミーは涼の顔を見て決心し答えた。
「すみません、後は頼みます。お気をつけて!」
エイミーも後ろの戦いへと参じて行く。ここから先は俺一人だが、持たせてみせる!
レオは巨大な敵を二体前にして攻めあぐねていた。
巨大エレメントの魔法攻撃は自身とリーナの防壁を破るまでの攻撃ではなく、エレメント自身の肉弾戦もレオに当たるような物ではなかった。
しかしその巨体と硬さ、更に二体に増えた事による隙の少ない波状攻撃を前に攻めあぐねていた。
「まずい、このままじゃアイツ等を倒す前に洞窟の方がもたない」
暴れ続ける二体に洞窟にはひびが入り始めている。
「レオさん、リーナさん、私も援護します!」
声にリーナが振り向く。
「アンタ、リョウの方は!?」
「リョウさんは大丈夫だと、お二人を助けてくれって」
エレメントの猛攻の合間に、ちらりと見た背後の戦いでは涼が一人奮闘している。
「これは僕達も負けてられないな。リーナ、少しの間左を押さえられる?」
「解った、何とかやってみる」
「エイミーは僕が一度右の方のバランスを崩すから、鎖で転倒させて」
「解りました」
返答を聞いて走り出す。リーナが片方を止めていてくれる間に勝負を決める。
迫り来る魔法はエイミーが結界を張り防いでくれた、足元へと走りこみ剣を突き立てる。
力を込め、無理やり片足を割り砕いた。
足を砕かれたエレメントがバランスを崩し手を付こうとした時、光の鎖が伸びそのまま正面へと引っ張り、地面に磔にした。
レオが切り抜け走る勢いそのまま壁を蹴り上がり、天井を蹴って倒れているエレメントの背に渾身の一撃を突き刺す。
「入りが甘い、リーナ!」
呼びかけ飛びのいた。
「これで一体目!」
剣が突き刺さった部分にリーナが岩の塊を落とす。剣が上から押し込まれ、魔力の中心を貫いた。
エレメントの魔力が爆ぜ、動きが止まる。
だが、その魔力がもう一体のエレメントへと吸収されていく。
「ここから本番とでも言いたいわけ?」
更に輝きを増したエレメントが魔法を放ち、洞窟が大きく揺れ始めた。
「させません!」
崩壊が始まろうとする洞窟をエイミーが結界と修復で何とか支える。
だけど、これでは長くもたない。背負っているもう一本の剣を構えてリーナに呼びかける。
「リーナ、やるよ!」
「でもあの攻撃は」
「僕を信じて!」
リーナは一瞬悩んだ、しかし他に方法はない。
「解った、アンタを信じる!」
リーナの放った魔力でレオの剣に雷が宿る。
この力をそのまま放てば洞窟も一緒に崩れてしまう。
だからこの力を押さえて、押さえ込んで、敵に当てる一瞬に込める。
出来るのか……いや、やるんだ!
踏み出し、駆け出す。飛び上がり、相手の放つ魔法すら巻き込んだ剣を振り下ろした。
「これで、決まれっ!!」
エレメントの魔力の中心へと切り込み、周囲へと爆発しそうになるエネルギーを必死に押さえ込む。
そのエネルギーの全てを一身に打ち込まれたエレメントが悲鳴を上げ、弾け飛んだ。
洞窟内を細かな欠片となった結晶がパラパラと宙を舞う。
魔力の光を反射し輝く欠片の中で持っていた剣が炭となって崩れ落ち、レオは大きく息を吐いた。
涼はそれを見ていた。他のエレメント達が消滅していくのを確認し、戦いの手を止め見ていた。
ああ……何て強いんだ、何て凄いんだ。俺も何時か……あいつに並び立ちたい。
一人静かに、手を握り締めていた。




