3-7 新しい仲間
日が変わり引き続き魔法と剣の特訓を続けていく。
エイミーはこちらと一緒に居ることが多くなり、俺の元居た世界の話を熱心に聴いたり、特訓を応援したりしてくれている。
「そうだ、この世界って教会がこうしてあるって事は神様も居るんだよな?」
日の終わりに体の疲れを癒してくれているエイミーに尋ねる。
「はい、ヘレディア様がおられます。私達聖職者はヘレディア様から力を授かり、それを祈りによって使う事で人や物を治したり、教えを伝えるものとして国の役職や、学校の先生になる方も居ます。キーン神父はこの村出身の方で、ここで学校の先生をしながら農作物の研究等を行っていらっしゃいますね」
この世界に来た時にレオ達から教えてもらい、この世界には本当に神が居る事は知っていた。
それ自体は自分が持っている異世界基準としては特に不思議な事ではなかったので、気にはしていなかったが、先日の夜の話の中で疑問に思っていることがあった。
「神様は居るけど、その……何と言うか、神様を称えるみたいな話とかってないのか?神様が誰かを救ってくれるとか?」
「そうですね……教典に載っている話は前に話したように教訓と言いますか、世界での生き方といいますか、色々と役に立つ知識の話になります」
「それがどうかしましたか」と聞いてきたので「いや、ちょっと気になっただけだから」とはぐらかす。
とても不思議な事に俺は思えていた。
神様が実際に居て、人を救える技能を与えられた人が居て、なのに人を救う話が無いのだという。
いや正確にはあるのだろう。誰某と言う医者や聖職者が人を救ったと、誰某と言う剣士や魔法使いが魔物を倒したと。
しかし、その話はそこで終わり物語になっていないと言う。
この世界ではそうなのだと思うには何処か違和感を感じた。
呪いを解いてから三日が経ち、エドアルドさんが修道士を含む応援と大量の物資を持って村に着いた。
「大変遅くなり申し訳ございません。町に戻り話しを聞いたところ、なにやら簡単には対処できない問題だと知り準備に時間がかかってしまい」
そう言ってエドアルドが村長へと頭を下げる。
「いえ、私共の村を救おうと行動してくれた方を感謝こそすれ、非難する気など毛頭ございません」
謝るエドアルドに対して村長が頭を下げ返す。
「しかし、あの子らに道の途中で出会えて良かった。あれが無ければこの村を救う手段を私はもっていなかったでしょう」
「本当に彼らには感謝をしてもしきれません」
二人は頭を上げて、持って来た物資を村へと運ぶのを手伝っている涼達を見た。
「あの物資は全て無利子貸しと言う事でこの村に置いて行きますので、どうかご活用くださいませ」
「いえ、そこまでしてもらうのは」
エドアルドからの申し出に慌てて村長が頭を下げたのを見て、エドアルドが申し出の内容を変える。
「それではこの村を救ってくれた子供達の為に何か宴を開き、あの子たちが手を振って村を出られるようお使いください」
その申し出に村長が深々と頭を下げて受ける。
「本当に何から何までありがとうございます」
「礼を言うならあの子達にお願いしますよ。それに代金は何時か貰いますから、村を立て直してくださるようお願いいたします」
夜になり宴が開かれた。
村を救ってくれた子供達に対する感謝と、村の復興を誓った宴を。
「なんだかさ、本当に村の人達が元気になれそうで良かった」
出された料理を食べながら、振る舞いでなく心から笑っている人達を見て、隣に座っているエイミーに話しかけた。
「はい。本当に、本当に良かったです」
エイミーも同じく人々の笑顔を見て頷いた。
「リョウさん達はこれからどうなさいますか?」
「うーん、明日か明後日には出発するんじゃないかな」
その言葉に「そうですか」とエイミーが小さく答えた。
それを見て思わず「一緒に来ないか」と聞こうとしたが、言い出せなかった。
宴も終わり日も変わり、涼達は旅立ちの準備をしている。
それをエイミーは教会から思いを馳せていた。
「おほんっ」とぼーっとしてしまっているエイミーに対してキーン神父が咳をする。
「す、すみません!」とエイミーがペンを手に取った。
今は授業の真っ最中であった。
「何か夢中になれるものを見つけることは良い事ですが、それ以外のことを疎かにする事はいけませんよ」
注意が飛び、申し訳なさそうにエイミーが頭を下げる。
「しかし、ここ数日の彼らと話している時はとても楽しそうにしていましたね。私の授業もあれ位楽しそうに聞いてくれると助かるのですが」
「すみません……」
すっかりエイミーはしょげてしまっている。
「彼らは今日この村を出るそうですが、見送りなどは良いのですか?」
キーン神父が落ち込んでいるエイミーに聞いた。
「お別れの言葉は村を出る時にでも間に合いますし、それに……」
「それに?もしかしてそれは、突然授業をして欲しいと頼んできた事に関係はありますか?」
その言葉にはエイミーはごにょごにょと答えられずに居た。
「それでは今回は一つ、別の授業と行きましょう」
キーン神父がそう言って、エイミーが持っているものよりも精巧に作られた教会の印を取り出した。
「これは試験を終え、一人前になった修道士が持つ印となります。あなたにはまだ早い物ですが、今あなたが持っているものよりも更に大きな力を発揮し、あなたと、あなたの仲間たちの大きな助けになるでしょう」
「はい……ありがとうございます」
突然渡された物をどう反応すれば良いかエイミーは解っていなかった。
「これを持ち、彼らの旅に同行しなさい」
「え!良いんですか!?あ、いえ、でも村の事とかもありますし、それに私なんかが行った所で」
あわてふためくエイミーをキーン神父が諭していく。
「村の事は心配ありません。寧ろあなたのご両親にこの話をしたところ、喜んで承諾してくれました。それに、あなたが彼らに付いて行って良いかはあなたではなく、彼らに聞いて決めるべきではないですか?」
キーン神父の言葉によって、エイミーの心は既に外に居る筈の彼らの元に走っていた。
「あの、本当に行ってきても良いんですか?」
「はい、行ってきなさい」
その言葉を聞き、エイミーは印を握り締め「ありがとうございます」と礼を言って駆け出していった。
「エイミー、あなたの旅路に多くの喜びと発見があらんことを」
俺達は荷物をまとめ終わり、宿を出ていた。
「それじゃあ色々と挨拶してから出発しましょうか」
歩いていくリーナ達を見て俺も付いていくが、何処か後ろ髪を引かれるような思いだった。
あの時に言ってしまえば、来るにしろ、来ないにしろこんな思いは無かったんだろうけどな。
そう思いながら先ずは村長の家に挨拶に行こうと歩き始める。
「待ってください!!」
後ろから大きな声で呼び止められた。
振り向くと、走ってきて息を切らしているエイミーがそこに立っていた。
息を整えエイミーがこちらを真っ直ぐに見る。
「私を、皆さんの旅に連れて行ってください!」
断る理由なんてどこにも無かった。手を伸ばし答える。
「ああ、こちらこそ!俺達と一緒に来てくれないか?」
「はい!よろしくお願いします」
その手をエイミーが掴んだ。
「なーに、勝手に決めてんのよ」
リーナが後ろから割り込んできた。
「それで、無計画に飛び出してるように見えるけど、色々と両親とかと話はしたの?」
「一応許可は貰ってはいますが、まだ直接は」
「じゃあ先に両親と話して荷物纏めて、それからまた来なさい。それまで待ってるから」
「はいっ行ってきます」
言うが早いかエイミーは自宅へと一目散に走っていった。
「まぁアタシ達が言えた義理じゃない気もするけど、行って来ます位はちゃんと言ってからじゃないとね」
「そうだね、言えるなら直接言って考えた方が良いものね。そうだ、リョウは突然この世界に来たんだよね?何かご両親とかに無事を連絡できる手段があれば良いけど……」
「ん?ああ、両親の墓に報告ってのは別にやらなくても良いんじゃないか?爺さんとかには何かあれば良かったとは思うけどさ」
その言葉を聞いて二人とも動きを止めた。
「あれ?両親が死んでるって話してなかったっけ?」
「一人暮らしをしてるとかは聞いたけど、両親が死んでいるってのは初耳ね」
「ごめん。知らずに変な事を言っちゃって」
二人の空気が少し暗くなるのを感じた。
「いやいや、父さんも母さんも死んだのは俺の小さい頃で殆ど記憶もないし、気にする事じゃないって。むしろ両親が居ない方が好き勝手できてよかったしな」
「だから気にするなって」と言うと二人とも少しばつが悪い顔をしながら「リョウが言うなら」と答えた。
まぁ相手の両親が死んでるって聞いたら大体こうなる。
学校で初めて会う友人達も、最初は大体こんな反応だった。
でも、言ったように記憶にも殆ど無い昔の話だ。
俺はこうして別世界での旅が出来ている。これは自身の身の不幸よりも大きな幸運だと思う。
そうさ、この世界に来て辛い事も後悔もあった、それでもこの世界に来られて良かったと心から思っている。
新しい仲間も増えて、これから俺は一生の思い出になる旅を体験するんだ。




