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3-1 分かれ道での困りごと

 平地を歩いていく。天気も良く、朝方の涼しい風が気持ち良い。


「予定としてはどれぐらいで次の町に着く感じだっけ?」


「えーと、日中には村の近くを通るけど、どうしようか」


 地図を見ながらレオが答えた。


「そうね、野宿はそんなにしたくないし寄っても良いけど、宿泊代が勿体無いといえば勿体無い気もするわね」


 リーナがそう言いながら財布袋の中を確かめている。


 食料品としては2日分は買ってあるので問題はないのだが、やはり野宿と言うのは女の子的には出来るだけ避けたいのだろう。


「うーん、どの道お金はそんなにある訳でもなし、使いながら稼ぎながらでも良いかもね。急ぎ旅でもないんだから」


「そういや金稼ぎってどうやって稼いでいく感じなんだ?」


 地図を片付けレオが答える。


「日雇いで魔物を退治したりとかになるかな」


「依頼をこなす感じになるのか」


「そうだね、今は魔王軍の進軍もあって警備の人が足りずに野生の魔物の被害が出るって事も多いみたいだから」


「後はアタシが魔法で道具を作って売ったりかしらね。これは元のお金も掛かるから最後の手段だけど」


 レオの言葉にリーナが続ける。


「魔法使いって道具を作ったりもするんだよな」


「そうよ、一流の魔法使いは一流の錬金術でもあるんだから。アンタも何時か作れるようになるよう、早く魔力を使えるようにならなきゃね」


 魔力を使う、それは変わらず目下の目標だった。


 リーナの助けもあり最近は何となく感覚を掴めている気はするのだが、未だ完全な制御は出来ていなかった。


 談笑をしながら道を歩き続けると昼時となったので、道の横にシーツを敷き昼食をとる事にした。


 肉や野菜をレオが切り分けていったので、俺はそれをパンと共に皿に並べていく。


「前から思ってたんだけどさ、リーナって料理は作らないんだな」


 今までの道中でもリーナが料理を作る姿を見たことがなかった。今回もこうしてレオが用意している。


「なによ、悪い?」


 先程まで本を読んでいたリーナがやけに不機嫌に答えた。


「いや悪いって言うか、当番決まってるんだなって」


「そうよ当番制なの」


「君が料理できないだけじゃないか」


 俺の言葉に乗っかってしまおうとしたリーナをレオがバッサリと切り落とした。リーナの顔が赤くなり始める。


「いいでしょ別に料理なんてまだ出来なくても、アンタが変に出来るだけでリョウだって出来ないんだから」


「いや、俺は出来るけど」


「え!?」


 リーナがそんな馬鹿なと言った顔で驚く。


「一人暮らしも結構してたから一通りは出来るようになってさ、それと……まぁ料理出来る方があれだ、向こうの流行的なやつだったんだ」


 本当の事を言うと、多くの物語の主人公が料理が出来る事に憧れて手料理を始めたのだが、なんとなく恥ずかしくて誤魔化した。


「じゃあ僕達の中で料理が出来ないのはリーナだけになるね」


 ニッコリとレオがリーナに笑いかける。


「わかってるわよ!アタシだって何時かは料理もするようになるんだから」


 悔しそうな顔をして昼食を食べ始めた。


 それを見てレオに近づき小声で尋ねる。


(なあなあ、リーナって何で料理できないんだ?味音痴だったりするのか?)


 それを聞いてレオも小声で返してくる。


(いや単に料理をしてなかっただけ。魔法の勉強とかで家の手伝いをあまり出来ていなくて、少し前に気まぐれで料理と作ろうとしたら失敗しちゃって、拗ねてやらなくなったんだ)


(成る程、それでお前が出来るって事で更にやらなくなったんだな)


(でもリョウのおかげでするようになるかもね)


(なんでだ?)


(一人だけ料理出来ないっていうのを嫌いそうだから)


 それを聞いて思わず笑ってしまい、それを見たレオもつられてしまう。


 その瞬間背後に雷が落ちた。


「聞こえてるから」


 俺達はそさくさと別れ昼食を再開した。


 昼食を食べ終わり、片付けて旅路を進む。道に沿って歩いていると分かれ道が見えてきた。


 そこに馬車を連れた商人らしき男が何やらオロオロと歩き回っている。


「なにかあったのかな?」


「聞いてみるか。すみません、何かあったんですか?」


 近寄り声をかけるこちらに気がついた。


「ええと、貴方達は?」


「俺達は旅の者です。何か困った様子に見えたので何かあったのかなと」


「うーむ確かに困った事が起きてる様なのですが、私としても何が起こっているか詳しく解っておらず……おや、そちらの女性は魔法使いの方ですかな?」


「そうだけど」


 答えを聞いて商人がジロジロとリーナが着ているマントを見ている。


「いやーこれは中々に綺麗に織り込まれた……おっと失礼しました、これ程に良質に作られたエーテル織りは中々目にしませんから。これは貴方が?」


「アタシのお手製よ」


 ちょっと嬉しそうにリーナがマントをヒラヒラと揺らし見せる。


「そうですか、私の名前はエドアルドと申します。腕の立つお方たちとお見受けして、ご助力をお願いしたいのですが」


 そう言って商人が話し始める。


「今日の朝方に私はこの道の先にあるシエーナと言う村に荷物を届けに行っておりました。行く道には特に問題は無かったのですが、村が見えてくると……なんと言いますか村そのものが夜になっているかの様に暗くなっており、何事かと様子を見ようとも思いましたが何やら魔物の様な影が見えましたので、お恥ずかしながら逃げ帰ってしまったと言った所でして」


 面目なさそうに商人が頭を下げる。


「リーナ、なにか解る?」


 話を聞きレオが尋ねた。


「うーん、なんとなくは想像付くけど直接見て見ないと何ともって感じかしらね」


「じゃあ直接見に行くか」


 俺がそう言うとレオもリーナも頷き、それに商人は頭を下げた。


「ありがとうございます。私ではどうする事も出来ず」


「いえいえ、僕達が村の様子を見てきますので、エドアルドさんは他の町へと行って応援を呼んでください」


「本当にご迷惑をおかけします。では私は一度町へと戻りますので、そうだお名前をまだ聞いていませんでしたな」


「僕はレオ・ロベルトと言います」「アタシはリーナ・エスカロナ」「俺は、リョウだ」


「はい。それではお三方ともどうかお気を付けて」


 そう言って商人は頭を下げ馬車に乗り込み去って行った。


「苗字、名乗らないのね」


「言って異世界人だと教えても説明が面倒なだけだしな」


「そうかもね」とリーナがこちらに微笑んだ。


「そういやリーナのマントって何か凄いものなのか?」


 外に出る際は何時も着込んでいるし、戦いの中では光り輝いて居たのを思い出していた。


「この辺のはまだ説明していなかったわね。村に向かいながら話しましょうか」


 分かれ道を元行く予定とは別の道を行き、村へと向かいながらリーナが説明を始める。


「さてと、さっきも少し話したけど、アタシ達魔法使いは同時に魔法で作られた道具を作成するのも仕事の内になってくるの」


 そう言いながらレオが背負っているバックの中をごそごそとし始めた。


「例えば昨日見たこの会話機とかね、効果としては対応したものと距離が離れていても会話が出来る。でも一個数分しか喋れないから無駄遣いは厳禁ね。他にも」


 他にも幾つか出して見せてくれる。


「コンパス、電球、コンロの燃料、洗剤、石鹸、この辺も大体魔法で作られた物ね。ここに来た時の話を聞くにアンタの世界にも似たようなのはあったんじゃない?」


「石鹸も魔法製なのか」


 思わぬところに驚きの声が出る。


「最近は手作業で作られた物も流通してるけど昔は魔法で作られていたし、アタシ達が使ってるのはアタシ作の。匂いも汚れの落ちも市販のより断然良いのよ」


 次になにやらビンに入った砂の様なものを取り出して見せた。


「それでこれが何かを作る際に必要になってくる物」


「なんだこれ」


「これはエーテルって言って星の魔力を結晶化させたもので、何か大きな物や複雑な物を生成する際に自身の魔力の肩代わりして貰う物ね。これを使えば変化が難しいものも作れる様になるの」


「じゃあ毎回このエーテルを使えば強力な魔法が撃てるんじゃないか?」


「それは皆が考えたわ。でもエーテルを使った魔法は準備に時間が掛かるし、相手の前で机を用意して待ったをかける訳にもいかないでしょう?そこで考案されたのがこのマント」


 そう言ってマントを脱ぎ見せてくれる。


「別にマントじゃないとダメって訳じゃないけど、まぁそこは伝統ね。それでこのマントはさっきのエーテルを魔力を使った特殊な方法で編みこんで行って、エーテルをそのまま使った時よりは効力が落ちるけど、それでも十分に魔力を強化できる代物なのよ」


「はぁ……」


 何かしら効果はあるとは思ってはいたが、何やら凄いもののようだ。


「ふふっアンタの分も魔力の制御が出来るようになったら作ってあげるから期待してなさい」


 物欲しそうな目をしていたらリーナから少し笑われた。


「レオはこういうのは着けてないのか?」


「僕のはインナーをリーナに作ってもらってるよ。マントだと接近戦の時に邪魔になるからね」


 へー。と流しそうになったが、詰る所レオの下着はリーナのお手製のものという事なのでは?


 なにやら高度なプレイのような気もしたが、二人にそんなつもりは多分無いだろうし黙っておこう。


 道に沿って歩いていく。時間としては夕焼け空に変化し始めた頃。


 道の先に真夜中の村が見えて来た。

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