14-2 神の塔
馬車に揺られてサンロメアに着いた。
騎士団と共に来たのは涼達一行に、信奉者と呼ばれていた人達から代表して3種族から一人ずつ、それとルル・ノーランド。
教会へと向かう途中の街道で、馬車の窓から顔を出し不思議な街にレオとルルが目を輝かせている。
「凄いな、世界にはこんな街があるんだ」
「ねぇねぇ、ここって後で見て回ってもいいの?」
ルルの言葉に人間の研究者ラトランド・マードックが優しく答える。
「勿論大丈夫だよ、後で私と一緒に街を見て回ろうか」
「やったあ!ヘルムートとフィーネも一緒に行こう?」
そうワーウルフとエルフの手を引くが、二人は微妙な顔をした。
「大司教様は貴方方も同じ、この星に命を貰った友として考えている。気にすることは無いさ」
その二人に騎士長ウィルパーが笑って答える。
「それに私にとっても貴方達は同じ目標の為に共に戦った同志だ。それを愚弄するものは我等が許さない」
その真っ直ぐな物言いにヘルムートが照れくさくなって頬をかいた。
「そうかい、それはありがたいね」
「だが、今回は私達は遠慮させてもらおう」
フィーネがルルの手を両手で包む。
「この街が私達を受け入れるにはまだ早い。一緒に行っても君の楽しみを奪ってしまうだけだ」
その言葉にルルが寂しそうに、少し泣きそうに口を紡ぐが、ぐっと我慢した。
「ごめんなさい、我侭言って」
「いいさ、君と一緒に街を歩けるようになる事を私達も楽しみにしている」
「うん、何時か、約束ね」
馬車はそのまま教会に辿り着き、皆はヨハネス大司教の出迎えを受けた。
「ようこそ、お出で下さいました。イサベラの勇者達よ、そしてこのイザレスに生まれた友達よ」
「お久しぶりです、人の大司教よ」
それにフィーネが頭を下げて答える。
「3年ぶりですね。申し訳ありません、私が貴方方を信じることが出来なかったばかりに、貴方方に苦難を背負わせてしまい」
「仕方ないさ、あれは本当に緊急事態だったし俺達だってどうする事も出来なかった。でも、こいつらがやってくれた」
ヘルムートが隣に居るレオの背をバンバンと叩く。
「本当に、レオさん達の活躍は多大な物でした。どれ程の謝辞を述べても足りないほどに」
「あ、いえ、僕は……」
褒められて「僕は大した事はしていない」と、つい言いそうになってしまったが、一度呼吸を置いて顔を上げた。
「僕も皆を助けられて良かったです」
その言葉に皆が笑顔を浮かべた。
「さて、積もる話はありますが、レオさん達にはやらなくてはならない使命がある、そうですね?」
大司教の言葉にレオが頷く。
「はい、僕達は神の塔を登りヘレディア様に会って確かめなくてはならない事があります」
「それが何なのかは、私達に伝える事は出来ませんね?」
「それは……すみません」
謝るレオに「良いのです」と大司教が手を上げた。
「良いのですよ、話せないのは分かっていますから。では、レオ・ロベルト、そして皆さん達に神の塔へと行く許可を出しましょう」
立ち上がり大司教がこちらに頭を下げる。
「不肖の身ではございますが、私がヘレディア様の下へと案内させていただきます」
ルルちゃん達と教会で別れ、桜の森を抜けて俺達は大きな湖の前へと辿り着いた。
「遠くからでも凄かったが、こうして見ると本当すげぇなぁ……」
雄大な桜が湖の中央に咲いており、その影は湖全体を覆っている。
「アンタさっきから凄いとしか言ってないわね、まぁ実際凄いんだけど」
その威容にリーナと二人して語彙を失っていた。
「これって塔なんだよね?」
レオの問にエイミーが答える。
「はい、聖典によれば木の中に登っていく階段があるそうです」
「え、階段で登るの?これを?」
ロンザリアがすこぶる嫌そうな顔で桜を見上げた。
「嫌なら別に付いてこなくて良いんだぞ」
「またそんな意地悪言って~、いいも~ん、疲れたらお兄ちゃんにおんぶして貰うも~ん」
「絶対やらないからな」
突っぱねる言葉にロンザリアが「むー」っと頬を膨らませる。
「皆様方お待たせしました、どうぞこちらへ」
大司教から呼ばれて、小型の船に乗り込んだ。
装飾が豪華な船は「ぎぃ」と音を立てて、自然と前に進んでいく。
「これはどの様な力で動いているのですか?」
動力が見当たらないのに進む船を見て、アンナさんが疑問に思う。
「私にも分りません。ただ、歴代の大司教のみがこの船を使って神の塔へと向かうのを許可されています。それと皆様方はしないとは思いますが、この船を使った移動方法以外で神の塔に向かうのは厳禁となっております。仮に別の手段、飛ぶにせよ何にせよ行えば神罰が下りますのでご注意下さい」
神罰ね……どんな物か興味はあるにはあるし、もしかすれば俺には効果が無いかもしれないが、命を張ってまで試すものではないな。
船はそのまま桜の根の横に止まり、根を渡って塔の入り口へと歩いて行く。
木の幹に備え付けてある、あからさまに聖域への入り口ですと言った両開きの扉に大司教が印を嵌めた。
「私がご案内できるのはここまでとなります。では皆様にヘレディア様の祝福があらんことを」
そう一礼し、扉の前から退いた。
「じゃあ、行くよ」
レオが代表して扉に手を当て、押し開けていく。
開いた扉の間から俺達は中へと踏み込んでいった。
涼達が塔の中へと入ってから暫くして、大司教は教会へと戻ってきていた。
「彼等は塔を登り始めました。恐らくは試練が待ち構えているでしょうが、彼等なら辿り着けると私は信じられます。それで、ルルさんは今はどちらへ?」
「ルルなら暇そうにしてたからラトランドと一緒に街の観光に行ったよ」
床に座るヘルムートがそう答える。
「そうですか……私は彼女の事で一つ貴方方に聞かねばならない事があります。彼女の力は再び暴走する可能性はありますか?」
その問に立って手を組むフィーネが深く息を吐いて頷く。
「ある、可能性はある。それが何時になるかは分らないが、可能性は高い」
「しかし」とフィーネが顔を上げた。
「あの力をコントロール出来る可能性もある、現にレオ・ロベルトは更に強大な力を自身の制御化に置いているのだから。彼の協力があればルルを救える可能性が、いや救う事が出来ると私達は考えている」
フィーネの強い意志を持った目に、大司教が優しい笑みを浮かべる。
「そうですね、彼等とならば……良いでしょう、ルル・ノーランド身は教会がその名を持って守護する事をここに誓いましょう」
大司教が二人の魔物に手を差し伸べる。
ヘルムートも立ち上がり、二人は大司教と握手を交わした。
「こうなったのもあいつ等のお陰だな」
握手を交わした自分の手の平を見てヘルムートが笑う。
「そうだな、不思議な二人だ。どんな困難でもあの二人ならばと思えてしまう」
「二人、ですか?」
同じく手の平を見て笑っているフィーネの言葉に、大司教が疑問に思う。
「そうだ、レオと、それにリョウの方も。彼等二人の言葉で私達は前に進む事が出来た」
「リョウさんがそんな事を」
「ああ、あいつは力は無くとも根性があった。何にがあっても諦めないって根性がな。あれだろ?そんな奴を人間はああ呼ぶようになったんだ、ろ……」
ヘルムートが言葉を止めた。
「どうかしたのか?」と思ったフィーネも気が付いた。
その音はどんどんこちらに近付き、人の耳でもハッキリと聞こえるほどに慌てた足音が扉の向こうから聞こえてくる。
扉が勢い良く開きウィルパーが入ってきた。
「何事ですか?」
大司教の言葉に姿勢も正せずウィルパーが報告する。
「申し訳ありません、フレージュより緊急通信です!」
そこは連合国会議が行われているアルビから少し離れた大きな港町。
会議が行われている都合幾つもの国の軍艦が停泊しており、それによって生まれた人の流れで非常に賑わっている港町。
そこに涼達が塔に入るのと同じくして、それは海を割って出現した。
大質量の物体が起こす高波が港町を飲み込んでいく。
「なん……だ、山、山が……動いてる」
その日は海が荒れており、謎の地響きもあった為に仕事にならないとして港町を出ていた漁師が空を見上げる。
それは山だ、いや城塞だ。いや手がある、足がある、あれは巨人だ。
遠くから見ても数百mはある巨体が街を踏む度に、街が捲れ上がり爆ぜていくのが分る。
その巨人の両肩に光が宿っていく。
そして、凛とした女性の声が響いた。
「私は魔王軍四天の一人、フラウ。このテュポーンをもってお前達に滅びを送る者だ」
超弩級ゴーレム、テュポーン内で美しいドレスを身に纏ったフラウが世界に向かって宣言する。
「抵抗せよ、反抗せよ、我等に対して降伏など意味を成さない。我等は世界を滅ぼす力、我等が王が創りし力に対し貴様等の全てをもって歯向かって見せろ」
光が放たれ、滅びの厄災が港町を消滅させた。




