ターシャの決断
そういうことなのか、とすっと頭がクリアになった。
「ルーク殿下は、『中継ぎ』婚約に対して猛反対しておられる。したがって、誰が殿下と婚約するかは決まるのは長引くはずだ。ソフィアは今年で十九歳。もし、ずるずると話が二年、三年と延び、殿下の婚約者に内定されなかったら――嫁ぎ先がなくなるだろう」
ソフィアが結婚するにはちょうど今が適齢期だからな、とミヒャエルが続ける。
ふっと嫌な考えがターシャに浮かんだ。
要するに、これは貧乏くじを引く人がいなくなったということ?それで、この話がわたしに?
元々あまり物事が良い方向に考えられないターシャの悪い癖だ。
ミヒャエルがターシャの表情をみて、苦笑いをした。
「あまり深く考えすぎない方がいい。この提案を了承すれば、アッヘル家の『候補』が決まる。君もマーガレットから解放される。両方にとっていい話だと思うが……どうかな?」
どっちにしても、ターシャに選択権があるといって、ないようなものだ。
――早くマーガレットと離れたいと思うのも事実だ。こんな機会はない。
「わかりました、ミヒャエル様。わたくし、この話をお受けいたします」
ミヒャエルが満足気に笑った。
「よし。では、今晩中に身支度を整えなさい。といっても、君はあまり衣服を持っていないようだから――帝都に着き次第、すぐにドレスを発注しよう」
ミヒャエルがターシャの着ているドレスを苦々しそうに見て、言った。マーガレットの衣装だとわかっているようだ。そのまま、会議室の扉を開ける。
「レギル、決まったぞ。ターシャが『候補』だ」
「……えっ!」
なぜかうろたえた様子で父が立っていた。隣にはマーガレットがいて、穴が開くほど力強くターシャを睨んでいる。
「すぐに準備を行う。夜明けには、帝都へ出立だ」
「は、はい……」
「支度の手伝いは、わたしが用意した侍女がやる。……それでよいな、ターシャ」
「はい」
マーガレット付きの侍女に冷遇されている内情も知っているらしい。義母の冷え冷えとした視線を受けたままターシャはその場をあとにした。