魔王の因子と呪い「1」
はじめまして。たまねこと言います。思いつきで書いているだけで文章も拙いですがよろしくお願いします。
よく夢を見る。
かつて自分は全種族の敵対者だった。
目につくのを何でも喰らった。
それは下等な種族も、そして同胞であっても。
見境なしに喰らい、血を啜り、骨をかみ砕き、そして新たな獲物を求めて移動する。
自分は王。
はじまりの魔物にして魔物を統べる王だ。
窮屈な【あれ】の束縛から解放され、殺りたいことを殺る。
もはや自分を止める奴などいない。
そう思っていたのだが。
いきなり封じられてしまった。
目の前に現れた金髪と青い目の男に。
蒼の英雄━━と呼ばれているらしい男に。
憎悪に満ちた目を向けた蒼の英雄に心臓を貫かれ、そして眠りについた。
それが果たしてただの夢か分からない。
だが鮮明に残っている。
蒼の英雄の憎しみ、そして渇きが。
「まあ、それが夢であってもそうじゃなくてもどうでもいい。俺は今日も殺る。楽しい一日になりそうだ」
彼は薄く笑いながら、獲物がいる場所へと足を向けた。
ネム島という場所がある━━いや、あったといったほうがいいかもしれない。
かつて地図にも載っていたその場所は今では地図から抹消されていた。
その理由は危険地域に指定されているからだ。
今からおよそ50年前から。
それはなぜか━━
その島は腐っているからである。
原因不明の瘴気が溢れだし、あっという間に島全体を覆い、一夜を待たずに生物が住めない場所へとなった。
ネム島忠心に海流も変化し、あちこちに渦が出来て渡ることもできなくなった。
そしてネム島の海域近くを泳いでいた海の生物も死滅し、まさに死の海域に近い環境になった。
だからネム島が今どのような有り様なのか━━それを調べようとする者はいない。
そのためネム島中腹にある【それ】が薄く笑い、もうすぐ完全に目覚めようとしていることも誰も知らな━━
「なんて思っているのか? 出来損ない」
あるはずもない声に【それ】は静かに目を開けた。
いつもは漆黒の洞窟内に光はない。
洞窟内の奥にあるそこは【それ】にとっての住み処。
大きな卵の中で丸まり、五十年あまり目覚めるのを待っていた。
自分を護らせるために凶悪な魔物を配置し、可能性は低いが襲撃者がいれば即殺せるようにしていた。
それなのに━━
まったく気配がなくなっていた。
あれだけいた魔物一匹の気配すら、消えていた。
【それ】を抱えるように洞窟の奥の広い空間に突如として炎が舐めるように走り━━
「何だ? 貴様は?」
【それ】が見たのはゆっくりと歩いてくる青年の姿だった。
年齢は代二十代前半か。
この世界でも珍しい蒼い髪と紅い目。
同世代の少年よりも若干幼い顔立ちで薄い唇に笑みを浮かべていた。
紅い法衣を着ていてむき出しの腕は少女のそれより柔らかそうで━━
(ありえん)
それは胸中で言葉をもらした。
【それ】は驚愕した。
もしも配置していた魔物などに遭遇したらケガをしたり服が汚れていても良さそうだ。
それなのに彼はかすり傷はおろか服は洗いたてのように汚れていなかった。
ありえん。
そう、ありえないのだ。
洞窟内にいる魔物は10匹やそこらではない。
この洞窟はいわば【それ】の胎内のようなもので無尽蔵に魔物を生むことができる。
しかも生物に猛毒な瘴気まで充満しているのだ。
そんな中、平然としているのがおかしい。
「そんなに驚くなよ。俺は瘴気には耐久があるし、竜姫様の加護も受けている。こんなクソ悪い場所でも平気でいられる」
━━瘴気に耐久? 竜姫?
竜姫……その情報は【それ】の耳にも入っている。
アーサー王国という場所がある。
それは建国されてまだ二百年にも満たないのだが急成長し、十年たらずで大国の一つになった。
そこを統治しているのはすべての魔法を扱扱っていたと伝えられる魔法王を祖先に持った者で、一人ではじまりの魔物━━魔物の王を倒したと伝えられている。
そしてアーサー王国の王の伴侶、王妃は実は竜の化身だと言われていた。
王は竜帝と契約することによって巨大な力を得、彼の子孫は代々竜帝の娘、竜姫をめとることになっている。
竜姫は特別な力を持ち、気に入った相手には加護を与えるという話だ。
現在の王も竜姫の加護を受け、とある場所に突き刺さっていた聖剣を引き抜いたと言われている。
そして。
「貴様……まさか魔導騎士か」
青年は答えずに笑っただけだった。
「人の言葉を理解し喋る。相当に育ったようだな、【魔王の因子】を持つ者よ」
「なぜ……貴様のようなヤツがいる?」
「俺は鼻がきくんだ。お前みたいな魔にはな。それでなくても竜姫様がお前の居場所を見通した。見つけるのは容易かった」
「まさかとは我を倒しにか? この絶対者の王者。世界の脅威である我を?」
「は?確かに俺はアーサー王国の騎士だが、世界うんぬは関係ないよ。俺は正義感なんかであまり動かないからな」
「ならなぜ……姿を現した? 我の糧になるためか?」
「冗談だろう」
青年は無造作に歩を進める。
無防備だ。
警戒すらしてない。
まるで散歩でもしているような感じ。
━━殺れる。
【それ】は本気でそう思った。
しかしそれは甘い間違いだとすぐに気づいた。
その堂々とした様にはまったく油断はなく少しでも攻撃の意識を見せたらどんな返しがくるか━━そういった不気味さがあった。
【それ】は金色の目を細め、青年を分析してみる。
【それ】は鑑定眼という目を持っている。
鑑定眼は能力の細心までは分からないが、相手の簡易データーを見抜くことができる特殊な目だ。
□名前はエラー
■種族:エラー
■職業:アーサー王国の双翼の魔導騎士
■職種:魔人
■能力:秘匿
■属性:秘匿
分かったのはそれだけだった。
他のこと、その能力を調べようと試みるが、頭にノイズが走り、何も浮かんでこなかった。
しかし。
━━見た目は若い人間種族だが、それが騎士をつとめるとは。
エクレール王国を守護するのは双翼の魔導騎士団と双翼の魔導師団である。
そして世界の国々は他種族に偏見を持つことがあるがアーサー王国はそういったものはない。
だから他種族だろうと仕事をもらえる。
【それ】が耳にした話だと魔法騎士はバケモノぞろいだという。
━━簡単に殺れる。
とは思えない。
戦闘のエキスパートであるアーサー王国の双翼の魔導騎士、その一人だとすれば。
油断していると致命傷を負いかねない。
だが、負けるとも思えなかった。
そんなイメージがわかない。
「俺は仲間の中では欠点だらけなんだ。それにかんしてまだ部下のほうがましだな」
━━何?
それを見定めればこの青年を狩るのも容易いのか?
「俺はついているぜ。次期魔王の一人になるであろう【魔王の因子】持ちと対峙できるんだからな」
「人間よ、笑わせるな。まだ完全に覚醒してないが、貴様を凌駕し、糧にするのは簡単だ」
「できるなら殺ってみろよ」
【それ】は最後まであまく見ていたのかもしれない。
相手がいかに強かろうと自分を上回るわけがない。
だから【それ】は自分がいた【卵】が破壊され、何か見えない力で斬られたことに気づいたのは倒れこんだあとだった。
次回の更新は未定です。