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逃げるなど癪だ

 第四章に突入した。

 この章の前半には死の危険があったはずだ。間違った選択肢を選んだすぐ後の死だったか。

 章前半の主な舞台は王都を囲むように広がる森の中だ。学校の行事で行くことになっている。

 そしてその行事は、明日ある。

 寮の自室で、椅子に座って考え事をしていると、どうかしたのかとフィーネに聞かれた。

「明日のことを考えてた」

「心配なことでもあるの?」

 フィーネも自分の椅子に座り、首を傾げた。

「何かあったらどうしようかと」

 本当は、明日起こることにどう対処するのがいいかを考えていた。

「大丈夫だよ。よく整備されてるし、そんなに深く入るわけじゃないし。それにメルアちゃん強いし、本当に困ったらお守り取るって手もあるじゃないの」

「……村を襲ってきたやつの中に、魔石ありの私と普通に戦えるやつがいたんだ」

「ひぇー、世の中にはそんな人が」

 そいつがね、明日私の前に現れるんだよ。

「で、そいつには逃げられたんだ」

 私はそれなりに強くなったと思うが、ウェルに関しては、間違ったものを選んでしまった時に結果をひっくり返せるのかと不安になってしまう。

 しかし、ウェルが現れるということは、彼を退場させる良い機会でもある。だから問題の選択まではゲームどおりに動こうと思う。

「その人がまた来るかもってこと? でもさあ、軍が行くの許可したんでしょう? そんなに心配しなくてもいいんじゃないかなあ」

「うん……」

 命がかかっているのに、どこで選択することになるかすらわからない。図書館でレナイトに会った時のように選択肢のことすら忘れていたのに比べればましだろうが……。



 翌朝、学校を出発した。

 今日の行事は二年生が実施するもので、秋の森に行って散歩するだけである。遠足の一種と考えていいだろう。

 目的地に着き、先生が生徒たちに注意事項を話した。

「――最後に。まずないとは思いますが、迷子にならないようにしましょう。では、いってらっしゃい」

 先生の言葉が終わってすぐに生徒たちは思い思いに歩きだした。

 好きな散策コースを適当に歩き、決められた時間までに戻れば良いのだ。

「メルアちゃん、私あっちに行きたい」

 フィーネが遺跡見学コースを指差して言った。

 ここは覚えているから選択肢が出るところではない。悩む必要はない。

「ん、じゃあ行こう」

「うん!」

 遊歩道をフィーネと歩いていくと、ある所で道が二手に分かれていた。

 問題の選択はここか?……違う、選択肢が表示されるがここはウェルとは関係ない。

 だが悩む。どちらかは“彼”の好感度を上げることに関わってくるはずだ。また意見を聞いてみるか。無駄だろうが少しだけ期待して。

(どっちがいいと思いますか?)

(左)

 嘘っ、返事があった!? しかも即答だった! 意外と散策を楽しんでいるのか?

 左に行くと、カデルとその友人たちに会った。彼らはなぜか木登りをしていた。

 フィーネがカデルを見上げて声をかける。

「何してるのー?」

「これ!」

 カデルが高い所から飛び降りて、綺麗に着地した。彼はヒラヒラしたものを握っている。

「珍しいキノコ! 危なくなかったら持ってこいってヤーベン先生が言ってた。おいしいんだってさ」

 カデルの手にあるものは、全体的に焦げ茶色で縁が白っぽい。

 ……カデル、残念だけど、

「それ、よく似た毒キノコ」

「え? マジ?」

「食べるとクラクラするらしいよ」

 カデルがキノコを持つ手を上げて、友人たちに大声で言う。

「これ毒だってー!」

 それを聞いた、木に登っている男子の一人が、

「おれの努力返せー!」

 手に持っていたキノコを地面に叩きつけた。おや、これは縁が白くない。

「これ毒じゃないよ!」

「マジかよー!」

 賑やかな男子たちと別れ、ゆるやかな上り坂をのんびり行くと、開けた所に出た。遺跡に着いたのだ。

 目立つものは古墳のようなもの以外に何もないが、地面を掘るといろいろと出てくるらしい。

 発掘した痕跡や古墳を見て回り、気が付くと他の生徒たちからずいぶん離れた所に移動してしまっていた。

「ねえメルアちゃん……」

 フィーネが私にくっついてきて小声で言った。

「なんか、見られてるような気がするの」

 フィーネは隠れている人の気配や視線に敏感だ。彼女が「見られている」と言うのなら、実際に誰かが彼女を物陰から見ていると考えるべきである。

「……昨日の心配事が現実になったんだと思う……」

「そんなあ」

「で、どこから見られてる?」

「うーんと、あの辺に隠れてると思う」

「確認してみるよ」

 フィーネが指差した方へ村の時と同じように水の塊を飛ばすと、ウェルがまた木の陰から出てきた。暗殺者のくせして堂々とし過ぎではなかろうか。どうせ殺すから姿を見られても構わないとでも考えているのだろうか。

「またあなたですか」

 私がウェルに向かってそう言うと、フィーネが聞いてきた。

「もしかして昨日言ってた人?」

「そう」

「ど、どうしよう?」

「それはあの人次第かな」

 フィーネを私の後ろに隠して、ウェルに話しかけてみる。

「今日は何の用ですか。お嬢様の誘拐にでも来ましたか」

 ウェルは今日も無言でナイフを投げてきた。ナイフは私の手前で落ちた。宣戦布告のようなものだろうか。

「フィーネ、先生にあの人のこと言いに行って。ナイフ投げてきた不審者がいる、って」

「う、うんっ」

 走り出したフィーネにウェルがナイフを投げた。当たることはないだろうが剣で弾き落としておく。

 そして大声で異常を周囲の人に伝える。

「不審者ーっ!」

 近くにいた何人かの生徒が様子を見にきて、関わらない方がいいと判断したらしく遠ざかった。だが一人だけ近付いてきた生徒がいた。リゼイルだ。攻略対象らしい行動だ。

「どうした?」

「あの人、村を襲ってきたやつらの一人」

 リゼイルに向かってナイフが飛んだ。リゼイルは首を少し傾けて攻撃をよけた。

「お前が取り逃がしたやつか?」

「そう」

「それならお前も集合場所に戻れ。殺されたら困る」

 ……あ……ここだ! 問題の選択!

 選択肢は二つ。『戻る』と『戻らない』だ。

 どっちだ。どっちならゲーム続行だ?

 別のゲームでは、序盤で攻略対象(指揮する立場だった)の言葉に従って撤退したら主人公が死んでゲームオーバーになった。しかし別の場面では従って撤退して正解だった。

 この場合はどっちだ。思い出せない。わからない。

 ……ええい、逃げるなど癪だ。戦ってぶっ潰す。

 魔石による体調不良がなければ今度こそきっとうまくいく。

「戻らない。巻き添え増やしちゃいけないし」

「それもそうか」

 リゼイルが小さな光の球をいくつも出した。何でもないかのようにやったが、かなり難しいことである。私もできるがせいぜい五つだし、魔石が無ければ二つでもできるかどうか怪しい。

 連射された光の球をウェルは全てよけきった。これでは私の魔術での攻撃はなかなか当たらないかもしれない。学校だけでなく軍の施設でも何度か特訓したので命中率は上がったが、的が動く場合はまだいまいちだ。

 ウェルが再びナイフをリゼイルに向けて投げた。今度は危なかった。

「さっきのは手を抜いてたのか」

 ギリギリでナイフをよけたリゼイルが忌々しげに呟いた。

 次から次へとウェルは魔術で出したものやナイフを飛ばしてくる。私もリゼイルも、なかなかウェルに近付けない。遠くから攻撃しようにも私の魔術は通用しない。ナイフを拾って投げ返す攻撃の方が有効だ。

 ウェルの光の球をよけるために跳び、着地した時、そこにあった何かを踏んだ。

 ……土器割ったかも。などとのんきなことを考えてしまったせいか、続いて飛んできたナイフをかわしきれなかった。ナイフは頬をかすった。

「いっ……」

 痛みを感じたその時、思い出した。


 全速力で走る主人公。彼女を???がリゼイルに妨害されながらも追ってくる。

 ???が投げたナイフが脚に刺さって主人公はまともに動けなくなったが、近くにいたカデルとその友人たちに???のさらなる攻撃から守ってもらえた。

 ???は敵が多くては分が悪いと判断したのか撤退していった。

 読み進めていくと主人公が無事に学校に戻ったので、正解の選択肢だったとわたしは判断して、そこでセーブをした。そして選択肢が出たところで止めておいた別のセーブデータをロードして『戻らない』を選んでみた。ウェルの強さを知らない主人公はお守りを取るのが遅れてあっさり死んだ。


 今の、初めて遊んだ時の……!

 『戻る』が正解で、こっちは外れだった。しかし私はあっさり死んでなどいない。怪我は頬だけ。

 これならきっといける。生きることだけでなく、ウェルを退場させることも不可能ではない。魔石にもだいぶ慣れた。大丈夫。

 お守りを外そうとしたその時、

「オレの友達に何やってんだテメー!」

 そんな叫び声と共にウェルの頭に何かが直撃した。カデルが近くまで来て何かを投げたのだ。

 当たったものに威力はあまりなかったようだが、ウェルは直後のリゼイルの攻撃もくらった。カデルに意識が向いて反応が遅れたのだろう。

 左肩を怪我したらしいウェルは大きく跳んで後退し、素早く木々の陰に隠れた。『戻る』の時のように撤退を選んだようだ。

 逃がすか!

 剣を鞘に一旦納め、ウェルを追う。彼の足は速いが、草木が生い茂る空間を走るのはやや苦手らしい。

 走っているうちに足下は下り坂となった。こういう所は私は得意だ。

「忘れ物ですよっ」

 拾って持ったままだったナイフをウェルの背中に向けて投げる。

 回避しようとしたウェルの足が木の根に引っかかった。チャンス!

「捕まえた……!」

 よろけたウェルに飛びつき、彼の左腕を掴んでやった。のはいいが、彼の右手に魔術による大きな光が作り出された。

 しまった!

 そう思った瞬間、光が弾け、私は吹っ飛ばされた。

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