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第6話

 俺たちは、あれからどんどんクエストを攻略していき、レベル9まで到達していた。

「やりましたね、行人さん! もうすぐレベル10ですよ!」

「ああ、10になったら、ユニオンの設立をするか」

「はい!」

 俺と恵のコンビネーションも板についてきた。今では、息ぴったりだ。まるで夫婦のよう。って、それは冗談だけど。

 恵はヒーラーだけど、光魔法が使えたようで、レベルアップにより、攻撃にも転じることがこれで出来るようになっていた。

「よし、これで周りの敵は全て倒したな。ちょっと、休憩しよう」

「はいっ! あ、私……お弁当作って来たんですよ。今日はサンドイッチです」

「おー、やったぜ。ハムある?」

「ありますよ~」

「やったぜ」

 いや、ほんと。長年連れ添った夫婦のような安心感がそこにありますよ、はい。息もピッタリだし、かわいいし、胸でけーし、飯もうまいし、言うことないね!

 俺が恵からハム入りのサンドイッチを受け取り、食べようとした時だった。

「頼もう!」

 崖の上から大きな声が聞こえてきたのは。

「なんだぁ?」

 思わず、頭を上げる俺。そこには、ゴテゴテの黒い鎧を身にまとった男が突っ立っていた。

「勝負だ、有馬行人! この俺と尋常に勝負しろ!」

「嫌です」

「そうか、ならば……何ぃ!?」

 男は驚いていた。誰だよ、こいつ。いきなり、勝負とか。なんかむさ苦しいし。俺とめぐみんとのラブラブ食事タイムを邪魔しないでくれる?

「ねー」

 俺は恵に声をかける。

 にこっと笑みを浮かべる恵。それからきょとんとした顔で男を見ていた。

 うんうん、アイコンタクトもばっちりだ。俺たちは心まで通じあっているんだ!

「逃げるつもりか! 有馬行人! この俺と勝負しろ!」

「逃げます」

「なっ……貴様、恥ずかしくないのか! それでも男か!」

「だが男だ」

「むううううう……俺は攻撃の『チートステータス』を持つ男、カズマだ! お前の『チートスキル・攻撃無効』とどっちが上か、試させて貰うぞ!」

「だから、嫌だって」

「貴様っ……!」

 ったく、なんなんだよ、しつこいな。っていうか、チートステータスつったな。おいおい、ヤバイだろ。俺はともかく、恵に危害が行かないように注意しないと。

「あの……ユーザー同士で争いあうのは、良くないと思うんです」

「何ぃ? 女が男の戦いに口を出す……なぁ!?」

「はい?」

 カズマが恵を視認してから、様子がおかしくなった。

「て、天使だ……」

「?」

 首を傾げる恵。あ、わかった。こいつ、恵に気があるな。

「と、とにかく。勝負を……」

「争いごとはやめてください」

「は、はいぃいいいい!?」

 完全に恵に気圧されているカズマ。チート能力者の癖に、情けない……それでも、男かよ。

「くっ……今日のところはこのぐらいにしておいてやる。いいか、必ず近日中に俺と勝負しろ! いいな!」

 そう言って、立ち去っていったカズマ。なんだったんだ、あれは……。

「あれは『デストロイヤー』のカズマじゃない。あんた、面識あったの?」

「……いつから居たんだ、お前は」

「そうねぇ……あんたがにやけ顔で恵の胸見ながらサンドイッチを手に取ろうとしていた所からかしら」

「……行人さんの、えっち」

「ちがーう! 誤解だ! 手渡しで受け取るんだから、必然的に胸にも目が行くだろ!」

「やっぱり、えっちじゃないですか」

「……そうですね」

「そ、そんなことより! 誰だよ、あいつは」

「そんなことぉ? まあ、いいわ。あいつは攻撃の『チートステータス』を持つ男よ。攻撃力はカンストの99999。この数値はチート所有者以外で誰も到達していないわ。文字通りのバケモンね。あいつが通った後は草も残らないらしいわ。デストロイヤーってのは、二つ名ね。あいつの持つ魔剣『デストロイヤー』から来ているみたい」

「今度はそんなチートユーザーからも目をつけられたのか、俺は……あいつも、大手ユニオンに所属しているのか?」

「いいえ。あいつはソロプレイヤーよ。群れるのが嫌らしいわ。まあ、そもそもあいつは周りから嫌われているんだけどね」

「どうして?」

「さっき言ったじゃない。草も残らないって。あいつの場合、どんな攻撃もカンストダメージ。つまり、手加減が一切出来ないわけ。魔王に挑むような最強スキルを常に連発していると思ったら想像はつくんじゃない? あいつの攻撃一発で小さな町が一つ吹き飛ぶぐらいだから」

「……ひどいな、それは」

「でしょ。それはあいつも察していて、なるべく被害のでないフィールドで狩りをしているみたいだけど。案外、チート所有者って『万能』じゃないのよ。どこかしらの欠点が必ず存在していてね。あいつの場合は高すぎる攻撃力を一切、調整出来ない所と、魔剣『デストロイヤー』以外の装備をすることが出来ない点ね。しかも、完全攻撃特化だから防御は逆に紙切れ同然だし」

 なるほど。たしかに、全万能のチートをもっていたら、ワンサイドゲームになるだけだもんな。それはさすがに世界は許さなかったってことか。しかし、剣以外装備出来ないってのもそれは……防具もつけられないんだろ? ひでえな。ん? でも、あいつたしか……やけに大仰な鎧を身につけていた気がするけど。

「あれは、飾りよ。飾り。何の防御力も存在しないわ」

 飾りなのかよ、あれ。

「あんたのスキルはそれに比べると非常に使いやすいわよね。ただ、あんたも魔法や状態異常の『抵抗値』が0になっているわ。つまり、簡単に状態異常にかかって動けなくなったりするわけね。攻撃を無効化するだけだから、即死魔法にかかってジ・エンドもありえるわよ、注意しなさい」

「……マジ? やっべ、完全無敵かと思ってたわ……危ねえ危ねえ、教えてくれてサンキューなって、なんでお前が俺のステータスについてそんな詳しく知ってんだよ」

「ん? この『盗賊のルーペ』を使ってサーチしたからよ。これは、盗賊の職業を持つ人間が、製造した特注品でね。高価だけど、それに見合った性能でよほどのプロテクトをかけていない限り、サーチ出来るわ」

「へえ、そんなのがあるんだ……ていうか、その対処どうするんだよ? 抵抗値を上げる方法はないのか?」

「そこで恵のヒーラースキルが役に立つわけね。他の状態異常はどうにもならないかもしれないけど、即死だけは防ぐスキルがあったはずよ。後は、状態異常とかにかかっても、ヒーラーなら解除出来るし」

「恵がヒーラーでほんとよかった……」

「ふふ……よかったですね、行人さん」

「うんうん」

 ヒーラーとかマジいらねとか言った最初期の俺を許しておくれ、恵さん。

 恵の笑みがちょっと怖かったのは、俺にやましい気持ちがあったからだろう。

「前にも言ったけど、自分の力を過信しすぎないことよ。チームワークが重要ね」

「ああ。ところで、アリサ達は何の特典があったんだ? ステータスか? スキルか?」

「私はヒーラースキル威力アップのパッシブですね」

「私は攻撃力1.5倍のパッシブね」

「へえ……てか、パッシブが多いのか? 特典って」

「そうとも限らないわよ。カズマの奴みたいに装備だったり、ステータスに補正がついたり、スキルだったり、スペルだったり……特殊アイテムだったり、お金だったり、色々よ」

「なるほど。俺らはたまたまパッシブだったと」

「そういうことね。その人の性格が反映されているような気はするわね。私は攻撃的だし」

「私は癒し系ですね~」

 たしかに。じゃあ、俺はなんだろう。内向き……引きこもり……殻にこもる……心を閉ざす=無敵? んなアホな。どっかのなんとかフィールドかよ。死にたくないって気持ちが強いからかね……。わからん、まあいいや。

「しかし、嫌な奴に目をつけられたわね。あいつ、相当しつこいわよ」

「うげ……」

「行人さん……」

「どーすんだよ、まったく」

「一度、戦ってやれば? そうすりゃ、相手も満足するでしょ」

「おいおい、町一つ吹き飛ばす奴とやりあえってか? 無茶だろ……俺のチートスキルだって完全無敵ってわけじゃないのをさっき知ったばっかだし。そのデストロイヤーとやらに、即死付与とかされてないだろうな?」

「それはないわね。単純な攻撃バカだから。蟻に向かってミサイル打つようなものよ」

「例えが最悪だな……俺はアリか」

「うーん……さすがに『チートVSチート』は、結果がわからないだけあって怖いんだよなぁ……そんなの、最悪死ぬだろ。俺が」

「そうね、死ぬわね」

 あっさり言いやがる……アリサの奴って時々残酷だよな。ズバっと物事を言うというか。いや、女って結構どいつもそういうところあるよな。急に口調変わってズバっと言ってきたり、そもそもが荒いんだよなあ……男よりも。

「パスパス。そんなのと戦えるか!」

「ま、PKゾーンにでも行かない限り、戦えないし。大丈夫でしょ」

「そうだな……」

 その時の俺は楽観的な気持ちでいたのだった。


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