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お花見の準備 その5

中央の空いたスペースに……露出度の高い水着姿(?)の女性が立っていた。


「ふーん。あなたが司クンね」


その風貌は異様なもので、蝙の羽根を背にはやし、山羊の角のような頭飾りをつけ、蛇のような尻尾まで揺らしている。


今日、ショッピングモールでヒーローショー的なものでもあったのだろうか?


戦隊モノの悪の女幹部と言われれば、どことなくしっくりくる見た目だった。


こんな倉庫が控え室とは到底思えないのだが……。


悪の女幹部風衣装の女の目に前には、鉄くずのようなものが置かれていた。


前衛的なオブジェにも見えるそれは、内側から破裂したように破壊された檻だった。


セイパが冷たい眼差しで女に聞く。


「先に宣言しておきます。私は貴方が何者であろうと興味はありません。必要以上に関与するつもりもありません。テペヨロトル様はどちらにいらっしゃいますか?」


セイパの質問に女は「ふふっ」と笑った。


「なによぉ。自己紹介くらいさせてくれてもいいじゃない。あたしはリリス。こう見えてすべての悪魔のお母さん的な存在なのよ」


「たくさんお子さんがいるようには見えないな」


司はつい、呟いた。


母親というには単純に見た目が若々しい。


そして、仕事なのかもしれないけれど、割とものすごい格好をしているのに、堂々としているのもすごいな。と、思う。


“すべての悪魔の”という部分が引っかからないでもないが、ついテペヨロトルと接するときのくせで、司は自分なりに解釈してしまった。


それにしても、どうして外国の人は何かにつけて悪魔や天使を持ち出すのだろう。


「あらぁ……お世辞でもうれしいわ」


頬を赤らめるとリリスは身もだえた。司を見つめて舌なめずりをする。


「んふふ。本当に可愛い男の子ね」


ひじりが遮るように司とリリスの間に割り込み、庇うように両腕を広げた。


小さな背中が震えている。


「つ、つつ、司に手を出したら許さないんだから!」


「どうしたんだひじり?」


「あ、あれは……変態よ!」


「「はぁ!?」」


苦しげにひじりの口から搾り出された言葉に、司だけでなくリリスまで唖然とした。


「変態とは失礼ね」


「どこからどう見ても変態じゃない!ショッピングモールの倉庫で一人でコスプレ露出してるなんて、おかしな人よ!逃げて司!」


「いやいや、確かに格好はアレだけど、それで逃げるのはどうかと……」


「変態の餌食になってもいいの!?」


「落ち着けひじり。ここは俺が話をつけるから」


「で、でも……」


「下がってて。大丈夫だよ」


司はひじりの頭を優しく撫でると、リリスの目前まで歩み寄り聞いた。


ひじりは今にも泣きそうな顔だ。


よっぽど変態さんが怖いんだな。と、司は思った。


改めてリリスと対峙する。


「もしかして、迷子になったテペヨロトルを保護してくれたのか?」


司の問いかけにリリスは目を細めた。


「保護といえば保護かもしれないわねぇ。彼女、すっかりお腹を減らしてしまって、今ならきっと大好物をぺろりと食べちゃうんじゃないかしら?あたしとしては、あなたみたいな男の子は嫌いじゃないのよ。もったいないとは思うんだけど、今回は彼女に譲ってあげようと思うわけ」


リリスの視線がセイパに向く。


「ねえそっちの樹霊ちゃん。あなたの望みは何かしら?」


「それは……テペヨロトル様の幸福と安全です」


「なら、テペヨロトルちゃんのしたいようにさせてあげるべきよね?」


リリスがにっこり微笑むと、セイパは苦しげな顔で立ち止まる。


「テペヨロトル様がお望みとあらば……ですが……」


「がうあああああああああああああああああ!」


次の瞬間――物陰から影が飛び出した。獲物の隙をうかがい息を殺して、じっと待っていたのだ。


影はひじりを突き飛ばして司に飛びかかると、押し倒し覆い被さった。


「きゃあ!」


「……くっ!?」


それは一匹のジャガーだった。


司は抗うこともできず組み敷かれた。


身体が硬直して動けなくなる。


生まれてこの方、感じたこともない恐怖に、司は表情さえ失った。


ひじりが悲鳴をあげる。


「司ッ!逃げて!」


牙を剥きよだれを垂らしながら、ジャガーはエメラルド色の瞳で司の顔を見つめる。

その瞳の色に、司はハッとなった。


「うが、うがあああ!うがああああああああああああああああああ!」


「司……だめ!逃げてぇ……」


獣の叫びが倉庫内にこだまする。


ひじりは助けに向かおうとするが、膝が震えてその場にへたりこんだまま、立ち上がることさえできない。


ジャガーは美しい黄金の獣毛に覆われた前腕で、がっしりと司の身体を地面に磔りつける。


鋭い爪が食い込む痛みに司は耐えるしかなかった。


尖った耳がピクピクと動き、司の吐息を聞いていた。鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、


尻尾を鞭のようにしならせる。


「がうああああああ!がおおおおおおおおおお!」


再びジャガーは吠えた。


エメラルド色の瞳で射貫くように司の喉元を見据えた。


押さえ込まれた腕はぴくりとも動かせない。


ものすごい力で押さえられている。


大きく開いた獣の口から鋭利な牙がのぞく。


司の背筋がゾクリとなる。


したたる涎と、長い舌。


ジャガーの息づかいは荒く興奮していた。


こうなってしまっては、もはやどうすることもできない。


止められるものはいなかった。


司自身も観念したように、獣の顔を見据えている。


ジャガーは顔を司の首筋に近づけた。


柔らかい喉に刃のような牙の先端が当たる。


「――ッ」


ジャガーの動きがぴたりと止まる。


一度頭をあげると見下すように司の顔をのぞき込んでくる。


それからジャガーはもう一度、スンスンと鼻を鳴らした。


次の瞬間――司は自分でも驚くくらいの冷静さを取り戻した。


殺されるとか、食われるとか、身の危険を感じながらも、思い出したのだ。



初めて出会った時、彼女に耳と尻尾がついていた事を。

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