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おやつ その3

司は気になるおやつ類を一通り買って帰ってきた。


「わーい!美味しいの!美味しいの軍団!」


お菓子の山に一番喜んだのはテペヨロトルだ。


リビングのテーブルいっぱいに並べられた色とりどりのパッケージに瞳を輝かせる。


「せっかくだから、日本のお菓子も食べてもらおうと思って……お茶とコーヒー、どっちがいいかな?」


キッチンに向かおうとする司にセイパがすくっと立ち上がった。


「なにかお手伝いすることはありませんか?」


「お客さんにやらせるわけにはいかないからな。くつろいでいてくれ」


「このようなもてなし、大変感謝いたします」


「いいって。そんなに恐縮されても俺の方が緊張するから」


セイパは深々と頭を下げると、じっと司を見つめた。


「司様に保護していただいて、本当に良かったです」


その瞳がかすかに潤む。表情がほとんど変わらないセイパだが、テペヨロトルと再会を果たした時に、涙を流したのだ。


よっぽど心配だったのだろう。


一方、テペヨロトルは大げさだと、セイパに少し呆れてさえいるようだった。


またセイパに泣かれても気まずいものがある。司は取りつくろうように言った。


「あー、こっちももう少し早く連絡がつけられたら良かったんだけどな」


くるっとセイパが顔をテペヨロトルに向けた。


「テペヨロトル様。なぜこちらのメッセージに返信なさってくださらないのですか?せっかくのスマートホンが宝の持ち腐れです」


お菓子の山に視線を釘付けにされたまま、テペヨロトルは応えた。


「返信ってなぁに?それより、お菓子だよぉ!いっぱいあるね!」

セイパは諦めたように伏し目がちになる。司は少しだけセイパが気の毒に思えた。


「そうそう、セイパは食べられないものはあるか?」


お菓子類にもアレルギーに関する表記が書かれている。


が、司の確認をセイパは食べ物全般の全般的な好みについてと、解釈したらしい。


「肉類は苦手です」


「あ、ああ。そうか……ええと……紅茶かコーヒーは?」


「お任せします」


どことなくだが、セイパには紅茶が似合うように思えて、司は紅茶を淹れることにした。


乳製品が苦手かもしれないため、ストレートティーにする。


母親のコレクションの中からダージリンを選んだ。


日本の水は軟水で紅茶も色が出やすい。


そして紅茶を淹れる時は、くみ置きの水は使わず、蛇口から出たばかりの空気を含んだ水を使うといいらしい。


水を入れたヤカンをコンロにかけてお湯を沸かした。


おそろいのカップとソーサーを並べる。


茶葉をいれたガラスポットにお湯を注いだ。


二分待つ間に紅茶缶の並ぶ棚の中から、シュガーポットも見つけた。


ポットは透明なガラス製で、中には白と茶色の角砂糖が交互に積み上げられるように並んでいた。


紅茶の色がしっかり出たところで、司はそれぞれのカップに注いでいく。


カップを温めるところまで気が回らなかったが、それでも無事、人数分の紅茶を用意して、トレーに載せてリビングに運んだ。


テペヨロトルが司の帰りを待ちわびていた。


「はやくはやく!」


「あ、ああ……食べずに待ってたのか」


テペヨロトルはうんうんと首を縦に振る。


期待に目を輝かせる様子は、まるで待てをされた子犬のようだ。


四人でテーブルを囲んだ。


テペヨロトルとセイパにはソファーにかけてもらって、司とひじりはカーペットに座布団を敷いて座る。


先ほどからひじりは惚けたような顔をしていた。


司が聞く。


「紅茶の砂糖はどうする?無糖か?」


「そ、そうね。そのままいただくわ」


ひじりが紅茶のカップを手に取った。


「テペヨロトルとセイパは?」


セイパは「癒やされる香です。そのままで結構です」と、控えめに司に告げた。


使わないのももったいないため、司は自分の紅茶に角砂糖を二つ落とす。


「わー!テペヨロトルもそれいれて!」


「何個にする?」


「司といっしょがいいです」


「じゃあ、二つな」


「えっとね、じゃあじゃあ白のと茶色の一個ずつ!」


二つの角砂糖がテペヨロトルのカップの中に溶けて消えた。


司が号令するように、テーブルと紅茶に一礼する。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


波乱のティータイムの始まりだった。

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