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飛行機が子午線を越える。


空輸される動物たちの檻に紛れ込んで、少女は密航の最中だった。


薄い褐色の肌に、猫科の肉食獣を連想させるしなやかに伸びた四肢。


豊かな金髪は絹と金糸を織り交ぜたような光沢を放ち、漆黒の夜空に浮かぶ満月を思わせる。


少女はエメラルド色の瞳をキラキラさせた。


この飛行機が到着すれば、向こうで人間が食べ放題なのだ。ワクワクが止まらない。


久しぶりのお肉である。こうなったのもアイツが「もう人間を食べないようにしてほしい」と、言い出したせいだ。


あまりにしつこいので「じゃあ、おまえが生け贄の代わりに喰われるか?」と少女が冗談半分で聞いたところ、アイツは快諾した。


それで、しぶしぶアイツを食べてしまったのが運の尽き。


少女はお腹を壊して寝込んでしまった。


うなされているうちに月日は巡り、巡り巡って五百年……。


少女が目を覚ますと、世界はすっかり変わっていた。


困ったことに、今まで生け贄を捧げてくれた民たちがどこにも見当たらない。


しばらくは樹霊セイパが持ってくる、トウモロコシを食べて暮らしていたものの「やっぱりお肉が食べたい!」と、なってしまったのが、つい先日のことである。


そんな時、買ってもらったばかりのスマホにメッセージが届いた。


それが“人間食べ放題ツアー”の当選通知だったのは、運命だったのかもしれない。


少女に応募した覚えはなかったが、その内容はあまりにも魅力的だった。


返信したところ、メールの送り主でツアーの主催者はLと名乗り、参加者は現地集合とのことだった。


親切な主催者で、五百年の眠りから覚めて右も左もわからない少女に、わざわざ出国の仕方から密入国の方法まで教えてくれたのである。


お腹が空いて死にそうだが、到着すれば夢の食べ放題が待っている。


これだけお腹が空いているのだから、一口目はとろけるような美味しさだろう。


五百年も経てばアイツとの約束も時効だと、少女は自分に都合良く考えていた。


何人食べようか数えているうちに、だんだん眠くなってきた。檻の中で身体を丸めると、その姿が一匹の美しいジャガーに変わる。


少女の名は――テペヨロトル。



今は滅んでしまった文明が恐れ敬った一柱にして、人間を喰らう邪神だった。

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