転生してしたくもない出世をしています。
楽しんでいただけると幸いです。
こんにちは、メイと言います。
私、この皇都で中級の商人の次女をしております。現在15歳のぴちぴちの女の子
古いって突っ込まないで下さい。お願いします。
私の特徴を言いますと、この世界には多いブラウンな髪の毛と瞳、背は高くも無く低くもなくです。顔はなかなか良いと思いますよ
そして実は私、生まれる前の記憶がある転生者なのです。
ちょっと悲しいことに生まれる前の性別は男なのです。
22歳の時、テンプレよろしく、横断歩道を飛び出した子供を庇って車に引かれてしまいました。
そして気がつくと女の人に抱き抱えられて揺られていました。
最初わけがわからず泣き叫んでいましたが、すぐに転生だと気づきました。
そして、赤ん坊の時に転生に気づきひゃほおいと思って育ってみるとびっくり
すぐに自分にあった物が無い事に気づきました。
これから女として過ごさないといけないことにガッカリしているとお姉ちゃんとお母様が心配したのか、凄くかまってくれました。
親子や姉妹の愛情を感じられて私はすぐにこの世界で生きていくこと決意しました。
この世界、剣と魔法の世界なのに私には魔法の才能がありませんでした。
というよりお父様にもお母様にもお姉さまにもありません。
お父様は代々続く商人ですし、お母様も商人の娘です。
二人の結婚は両祖父が決めたものです。
この世界の結婚は親が決めるものです。恋愛結婚がしたかったら駆け落ちでもしなさいということなのです。
でも、お父様はお母様の事を愛しているのはわかりますし、お母様もお父様の事を愛しているのがわかるので問題なしです。
お父様とお母様の年齢差は18歳もあります。
お父様が祖父に一人前と認められたのが35歳の時、商人の世界は一人前と認められてから親が結婚相手を探すので、どうしても男性は晩婚化しちゃうのですよ。
結婚2年目でお姉さまが産まれ、その3年後に私が産まれました。
お父様は後継となる男子が欲しかったみたいですが産まれたのが二人とも女で、それ以後お母様も子供が出来ませんでした。
男子を産めなかった事にお母様は落ち込んでいますが、お父様はそれをお母様に言うことはありません。
11歳の時、私は初潮を迎えました。
そしてなんとなくでしか思っていなかった。女という自分を考えさせられました。
つまり結婚して子を成すことが出来る様になったという事、正直に言えば私は元男、男と○○○○することに抵抗があります。
でも、女として生きて11年、元より男が好きになるわけでもなし、お姉さまが婿養子を取るでしょうから私はどこかの商家に家と家を繋ぐ役割で嫁ぐ事になるでしょう。
愛情を込めて育ててくれたお礼に嫁に出ることぐらいなんてことないですよ!
と覚悟をしてから2年が起った頃、姉が結婚しました。
相手はこの皇都でも大きな商会の三男坊です。
長男はとても優秀で既に商会の半分を任されている方で、次男の方はどうしようもないでくの坊
ですがこの三男の方はまじめに兄を補佐しながらその実力を認められた方でした。
ですので、その商会の会長さんが独立させるか婿養子に出させるかを悩んでいたところ私の家に白羽の矢が立ったのでした。
なぜ白羽の矢が立ったのか、それはわたし達姉妹が皇都でも有名な才色兼備姉妹だからなのです。
きっかけは私が5歳の時、教会で読み書きの勉強が始まり、私は前世の知識という下地があったのですらすらと問題を解いていきました。
そして教会の神父様やシスター様にすごいすごいと褒められているのをお姉さまは悔しがって見ていました。
お姉さまはものすごく負けず嫌いで妹の私に負けることを良しとしない人でした。
お姉さまは私に勝とうと必死の努力をしていました。
そしてそれが実を結びました。
お父様も鼻が高いのかわたし達姉妹を褒めちぎります。
それがうれしいのかお姉さまはさらなる努力を重ねました。
実は私もかなりの負けず嫌いなのに気づいたのはその時でした。
お姉さまと一緒に切磋琢磨していくのが楽しい日々を過ごしました。
お姉さまの結婚式の日、結婚の衣装に身を包んだお姉さまはとても美しく輝いていました。
お姉さまと義兄様は初めての顔合わせです。
義兄様もお姉さまを見て顔を赤らめています。
義兄様とお姉さまは14歳の歳の差がありますが、義兄様ならお姉さまを大切にしてくれそうな気がします。
さらに2年が起ってお姉さまのお腹に赤ちゃんが宿りました。
今、我が家は幸せに満ち溢れています。
倍近い歳の差があるにも関わらず姉夫婦は幸せそうです。
最近になってお姉さまが私に言ってきます。
「そろそろメイも結婚を考える時期ね」
たしかにもう15歳になった。親友のユウちゃんも結婚してしまったし、男の人とする覚悟も…できてるし、
「うん、お父様に話してみる。」
その日、お父様に、そろそろ相手を探して欲しいとお願いしら
「メイに結婚なんてまだ早い!ユメだって泣く泣く許したってのに」
と怒っていました。
あっ!ちなみにユメとはお姉さまの名前ですよ
私はもう少し独り身を楽しもうと思っていました。
そんな考えを打ち砕く出来事が1ヶ月後に起きました。
私の家に豪華な馬車が止まり綺麗な服を着た太った男の人が現れました。
家族、使用人が頭を下げて迎えるとお父様と一緒に奥に入っていきました。
そしてしばらくすると変わらない表情の太った男の人とやつれた感じのお父様が出てきました。
そしてすぐに太った男の人は帰って行き、私たちはお父様にかけよりました。
「あのお方は、さる御身分の方の使者だそうだ、なんでもメイを妾に欲しいという事だ」
家にいるみなさんはなんだってー!という驚いた顔をしている。
「あ、あの、それはどなたなのですか?」
「それを言う事は出来ない。」
お父様はどうすることも出来ないと首を振った。
「それほど、偉い方なのですね?」
「ああ」
「それは良かったです。それほどの身分なのでしたら良縁だと思います。」
私はお父様に笑顔で答える。
正直貴族の妾なんて嫌な予感しかしないが、お父様がここまでびくびくしている相手、つまりこの家の為になること、良いに決まっている。
私は父に抱きしめられてごめんねと何度も謝られた。
三日後
また豪華な馬車が来た。
なんでも妾に成る為の準備でとある貴族のお屋敷で訓練をするらしい。
その事は家族に教えてもいいと言われていたので皆知っていた。
「お父様、お母様、今まで育てていただいてありがとうございます。」
「メイ」
お父様はそれしか言わなかった。
「メイ、幸せになるのですよ」
お母様は別れの言葉と同時に私を抱きしめてくれました。
「メイ、元気でいてね」
お姉さまが顔を布で拭いながら別れの言葉を言ってきました。
私を乗せた馬車が家を出発した。
皇都の商業区を出て貴族区に入る。
貴族区に入る時の検閲なども無かった。
私は一際大きなお屋敷に連れて行かれた。
そこには、いかにも身分の高いご婦人が私を待っていた。
そのご婦人は無言で私を食い入るように見てきた。
「あなたがメイね、今日から私の事を先生と呼びなさい」
「はい、先生」
「来なさい。」
そのご婦人に連れられて部屋に入った。
「まずは行儀作法からよ」
先生の授業は厳しかった。
食事の行儀作法に始まり。お酌の仕方、夜の行儀作法まで
二週間の授業の後、ついに妾として輿入れする時になった。
軽く化粧を施し、ハデ過ぎない服を着て馬車に乗った。
そして、馬車に乗ると先生に目隠しをはめる様に命令される。
素直にそれに従う。
目隠しを外していいと言われたのでそれを外す。
目の前に一人の老人が座っていた。
私は習ったとおり座り頭を下げる。
頭を下げながら目線を上げた。
髪と髭に白髪が混じっているが、肉体は引き締まっている。
「そなたがメイか?」
「はい、メイと申します。」
すぐに目線を下に戻す。
「苦しゅうない。面をあげい」
いわれた通り頭を上げた。
「わしは、11代皇帝フェイブスだ」
私は驚いた。
この方は現皇帝であらせられるフェイブス陛下だ
確か65歳で帝位は未だ陛下の物だが、今は政治を息子達に任せて隠居している身だ。
まさかこの方が私を妾に?
私から話しかけることは出来ない。
「なぜ自分がという顔をしているな」
なぜばれたのだろう。
「ふわはっはっは、顔は正直だぞ、教えてやろう。」
陛下が立ち上がり私の側に歩み寄る。
「わしはな、今までにいろんな女を後宮に入れてきたが、どれもこれも似たり寄ったりでつまらなくなった。そこでこの離宮の御用商人にふと聞いてみたのだ、なにか珍しい女はいないか?と」
陛下が私の顎を持ち上げて目を見てきた。
「そしたらその商人は言ったのだ、『とある商家に美人姉妹がおり、両者とも女にしとくのはもったいないほどの知識を持っております。もし姉妹のどちらかが男でしたら10年後この皇都で1、2を争う商家になっていたでしょう。』とな」
陛下の唇が私の唇に重なった。
正直男にキスされた事がショックで何も考えることが出来ない。
「顔は確かに美しい。が、この後宮では凡、だが、その瞳に宿る智の光は確かに非凡、聞いた通りだな」
私は陛下にされたキスによる違和感で口がもごもごしてしまっている。
だけどこの違和感のおかげで冷静な思考が出来る。
もし、どこかの中途半端な貴族なら金貸し業もやっている義兄様の実家の力で私は実家に帰ることも出来ただろう。有力な家でないなら見得の為の借金などいくらでもしている。
だがそれは、無理だ。中途半端どころかこの国の最高権力者で今も発言力の強い皇帝陛下だ。
これはもう、実家に帰るのは無理だと諦めよう。
「ほう、わしを前に考え事か、普通なら叱る所だが、その思案している時の顔、なかなか良だ」
しまった。目の前の方は皇帝陛下よ、もし、そのお怒りに触れれば不敬罪で家族全員縛り首なんてこともありえる。あぶないあぶない。
陛下が私の顎を離しさっきまで座っていた場所に戻った。
そこには布団が敷かれてある。
「さぁ、始めようか」
「はい」
俺は決めていた覚悟を振り絞りその場で立ち上がり着ている服を脱いだ。
この国の夜の作法で閨に凶器を持ち込んでいないことを証明するための行為だ。
もちろん男から脱がしてもいい。
だが、男が離れている時は自分から脱ぐのがルールだ
一枚、一枚と服を脱ぎ、胸と腰に巻いてある布を取り外した。
「陛下、私の体はいかがでしょうか…どうぞお好きなように、ご存分にお楽しみくださいませ」
先生に教わった口上だ、陛下は少しつまらなそうな顔をしていた。
「んむ、ではこちらに来い。」
「はい」
私は何も着ていない状態で陛下の横へ座った。
陛下の手が私の顎を捉える。
皺だらけの手に顎を持ち上げられ再度キスをされる。
乾いた唇が私の唇を覆う。
ちゅるちゅると陛下の舌が私の舌を絡め取っていく。
私はなされるがまま陛下の舌を受け止めた。
私は陛下の右腕に引き寄せられた。
陛下の左手が私の右胸を掴む。
ごつごつして乾燥しきった手が私の肌を荒く削る。
ただただ、気持ち悪い。だけどそれを出せば家族がどうなるかわからない。
「ん、んぅ」
「ほう、なかなか良い声を出すではないか」
そしてそのまま私は陛下の寵愛を受けるのであった。
ついに男に抱かれてしまった。
女に生まれた事である意味覚悟していた事だが、それでもやってしまった感は高い。
それも、相手はお父様よりも年上の方だ。
その後、気絶するように眠った私は朝目が覚めたら目の前に一人の女性がいた。
「おはようございますメイ様」
「お、おはようございます。」
「私、メイ様の担当メイドをさせて頂きます。レイナと申します。以後ヨロシクお願いいたします。」
「はい」
レイナというメイドは私に一礼してきた。
「メイ様、先に湯浴みをいたしますか?それとも朝食にいたしますか?」
湯浴み、つまり入浴のことか、正直生まれてから15年間入浴をすることが出来ていなかった。
本来浴槽なんて貴族か、豪商の物、中級の商家な私には無理な話だった。
「入浴の方をお願いいたします。」
「かしこまりました。」
転生後初めての入浴は前日の処女喪失を忘れるぐらい極楽であった。
初日以降、陛下は毎日通っていただいている。
陛下は私のいる部屋に来るといつも宝石や服の贈り物をくれる。
私は陛下の杯にお酒を注いで、陛下のお話を聞く。
そして陛下の質問に対して答えを求められたら答える。
私の何気ない答えに陛下は目を丸くするように驚いて頂ける。
そして夜は陛下の寵愛を受ける日々だ。
陛下は65歳で未だ毎日することが出来るほど元気である。
私はこの部屋とバルコニーと浴室以外の部屋に行くことを許されていない。
身の回りの事は全てレイナがしてくれるし本が読みたければどんな本がいいか言えばレイナが持ってきてくれる。
正直、陛下の寵愛を我慢すればこのままの生活も良いかなと思い始めていた三ヶ月目、異変が起きた。
その異変も月の物が無かったから気づけるはずだった。
私は浴室で嘔吐してしまった。
この症状を見たレイナが医者を呼んできた。
後宮に勤める医者である。
もちろんそういう知識がある医者である。
「身篭ってますな」
「そうですか」
「はい」
それだけ言うと医者は去っていった。
わかっていたが、ダメージは大きかった。
ついに私は子供を身篭ってしまったのか…
その日の夜、陛下は沢山の贈り物を持って部屋を訪れてくれた。
「メイ、わしの子を身篭ったのだな?」
「はい、その、大変うれしゅうございます。」
心にもないことを言っているのは重々承知している。
「めでたい、めでたい。それで男か?女か?」
「陛下、いくら私でも産まれるまでわかりません」
「そうだな、いや、すまない、年甲斐も無くはしゃいでしまった。」
陛下は小躍りしそうなほど喜んでいた。
「では、メイは男がいいのか?女がいいのか?」
陛下も気が早いな、でも、男か女かか…
「女の子を私は望みます。」
「ほう、それはなぜ?」
「陛下にはすでに15人以上の男子のお子がおられ、皇太子様にも男子の子が5人おられます。ならば後継者争いに巻き込まれる男子よりも女子のほうが天寿を全うできるかと…」
「ほうほう、なるほど、いままで身篭った室や妾達に同じ質問をしたが皆、男子を望んでいた。やはりメイお前は面白いの」
「ありがとうございます。」
こうして陛下の子を身篭った私を陛下は毎日会いに来て下さっている。
正直ちょっとウザイがそれを言うわけにはいかない。
月日が流れて半年、日に日に大きくなるお腹の中に命を感じる。
子共がお腹を蹴ると自分がこれから母親になるという事を理解させられる。
だけど嫌な感じはしない。
多分お腹を痛めて産んだ子という言葉の意味を本能で理解しているのだと思う。
そして更に月日が起って私は男の子を産んだ。
産まれてぐったりしている私に産婆は元気な男の子ですと言ってきた。
正直、恐怖で顔が引きつった。
この国の歴史を紐解けば新しい皇帝が即位して兄弟達を皆殺しにしたなんてことは少なくない。
わが子を抱きしめると心の奥底がギュッと引き締められてくる。
この子を守りたい、この子を幸せにしたい。
そんな気持ちが俺を支配してくる。
心が完全に母親になっているのだとこの時気づいた。
「メイ」
陛下がこの部屋に駆け足で入ってきた。
「メイ!産まれたか!見せてくれ」
私は産まれたばかりのわが子を陛下に手渡した。
「おお!メイに似て賢そうだ、よし、名前は…フォス、この子の名はフォスじゃ」
俺はさらに心を絞めつけられた。
名前の頭文字がF(この世界では少し形が違う)の男子は皇族にしか許されていない。
陛下の子供の中で頭文字がFの方は正室の子であらせられる長男の皇太子様、三男様、第一側室の子の六男様そして七男様のみである。
この子は皇帝が認めた子供という事になる。
正直恐ろしくて気が狂いそうになる。
こんなの皇位継承で一悶着あるに決まっている。
そんなのに巻き込まれたくない。
俺はこの子を皇帝になんかしたくもない。
「どうしたメイ?うれしくないのか?」
うれしいわけない。
「いいえ、うれしゅうございます。」
「メイ、お前はすぐ顔に出る。そうか、確かにFを与えれば皇位継承に巻き込まれるな…だが、わしはお前が気に入っておるのだ、許しておくれ」
ふざけんな
「許すもなにも陛下の御心のままに」
陛下からフォスを受け取りゆりかごのように揺らす。
今、この部屋にはメイドのレイナ、メイド兼乳母のユイがいる。
ユイは私を迎えに来たあの太った方がつまみぐいをして子を成してしまったメイドである。
陛下のいない普段の時は、ユイと赤子をあやしながらどうやってこの子を守るかと考えている。
陛下が来るとフォスをかわいがってくれる。
一通り可愛がるとフォスをユイに預け私と二人っきりになる。
そこからはいつもと変わらない。
『産後数ヶ月は子供を作らないほうがいいでしょう。メイ様を大事にしたいのならそれを守ってください』と医者に言われているらしく、陛下の寵愛は控えめである。
ある日、私の部屋に一人の人物が尋ねてくる。
この国の皇太子であられるファイグ様である。
私はフォスを抱きしめたまま頭を下げた。
「いや、かしこまらなくて良い、顔を上げてくれ」
ファイグ様は今年47歳まだ皇太子という立場だが政務は彼が行っている。
「さ、私の弟を見せてくれ」
正直恐い、もし渡してすぐに地面にたたきつけられたらこの子は…
陛下はお怒りになるでしょうが、将来の禍根を絶ったと言えば帝国の臣達は納得するだろう。
だが、逆らうわけにもいかずフォスを差し出した。
「大丈夫だ、殺したりはしない。」
皇太子様はフォスの顔をジッと見つめ私に返してきた。
「たしかに賢そうな子供だ、それに母親も目に智を宿しているのがわかる。父がいつも言っておる。『この国最大の不幸はメイが男ではなく女として産まれた事だ、だが、わしの最大の幸運はメイが女として産まれてくれたことだ。』とね」
正直そこまで気に入られているのが恐くて仕方ない。
その後、皇太子様にいくつかの質問をされた。
私はそれに『愚考しますに』と頭につけて答える。
皇太子様は私の答えに満足したのか帰っていった。
「我が母に気をつけろ」
帰り際皇太子様に耳打ちされた。
3年の月日が流れた。運が良いのか悪いのかその後子供は身篭らなかった。
陛下はもう一人欲しいと言って私を寵愛なさる。
だけど2年前ほどから夜の方がめっぽう元気がなくなっている。
ある日、陛下に手を取られてこの部屋を出た。
二つとなりの部屋、この部屋は書斎になっており沢山の本が並べられていた。
陛下は無言で奥まで行くと一つの小奇麗な本棚にたどり着いた。
「メイ、この本だ、この本を奥に押し込むんだ」
陛下が本を押し込むと本棚が動き出す。
そして奥に階段が現れる。
陛下に手を引かれ階段を下りる。
そこは小さな小部屋になっており扉が下りてきた階段以外に扉は一つ
「この扉を開けて奥に進めば城の外へ出られる。この場所はわし以外は皇太子とその息子しかしらん。いいな誰にも言ってはいけないぞ」
私は無言で頷いた。
この時陛下が永くないと少し悟ってしまった。
陛下は毎日私の部屋に来ていただけるが、お酒の量は目に見えて減り、寵愛も無くなって来た。
私は陛下のいない時に陛下に頂いた宝石などの小さい物をバックに詰めて部屋の隠し場所に置いた。
そしてとある朝、いつも冷静なレイナが慌てて入室してきた。
「メイ様、陛下が、陛下がお隠れになりました。」
「そうですか…最後のお別れは出来るの?」
「いいえ、御正室であられるカミュ様が名指しでお別れをしてはいけないとおっしゃっております。」
「そう、わかったわ」
私は急いで動きやすい服に着替え、フォスを抱え、バックを持った。
そして初めて自分の意思で部屋を出た。
レイナとユイが無言でこちらを見つめ見送ってくれた。
最後に見た二人はとてもいい笑顔だった。
廊下はあわてふためいて歩く人々が右往左往していた。
私はそれを無視して二つ隣の部屋に急いで入った。
そして、陛下のやったとおりに本を押し込んだ。
本棚は動き階段が現れる。
私は階段を降りて小部屋に入りすぐに門を開いた。
門の先は長い一本道でそれを進むと階段が見える。
その階段を上ると外の景色が見えた。
上手に隠されている出入り口であるが皇都の城壁が東に見える。
つまりここは皇都の西にあるのか
私は頭の中の地図を思い起こした。
そして更に西に向かったのだ
二日間、不眠不休で歩き皇都近くのシン山にたどり着く。
ここは帝国の国教の拠点のひとつで総本山の次に大きい場所でもある。
私はフォスを抱え山の階段を上る。
皇帝崩御の話はここまで伝わっているのかお祈りに来ている民衆や僧侶が沢山いる。
「あなたも祈りに来たのですか?」
「い、いえ、その、夫に先絶たれここでこの子と一生夫に祈りを捧げて生きていこうかと思いまして来た次第です。」
「そうですか、おくやみ申し上げます。ではこちらに」
その僧侶はやさしく中へ案内してくれた。
「申し訳ございませんが今皇帝陛下がお隠れになってしまい私しか対応出来ないのです。」
「ええ、構いません。私と息子のヘス(HETH)が祈りを捧げて安息な暮らしが出来るのならそれで充分でございます。」
そう言ってバックから宝石を三つほど出した。
これを見せることで自分はどこかの偉い人の妾であり。自分を害そうとする人達から保護して欲しいという表明である。
宝石を見た神父は目の色を変えた。
「ご安心下さい。教会は来るものを拒みません。」
よく言うよ
用意された部屋に戻ると今まで黙っていたフォスが話し出した。
「お母様、私の名前はフォスですへスではありません。」
私はフォスをぎゅっと抱きしめてから目を見て話しかけました。
「あの場でそれを言わなかったのは偉いです。でもいいですか、あなたは今日からヘスです。いいですね?」
私の圧力に怯えてフォスがゆっくりと頷いた。
「わかりましたお母様、私は今日からヘスです。」
「偉いです。ヘス」
私はヘスの頭を何度も撫でた。
その後、皇帝の葬儀が終わり、ファイグ様が皇帝に即位された。
やっと教会も落ち着いた頃私はこの教会を取り仕切る神父様にお会いした。
そしてその場で持ち込んだ宝石類の八割を神父様に渡した。
神父様はいつまでもここにいるといいと言ってくれた。
俗世から離れ祈りをする日々でも俗世の話は耳に入ってくる。
大后となったカミュ様がその権威を使い次々に側室の産んだ子供達を粛清していっている。
六男様、七男様に始まり次男様、四男様とその家族が二年のうちに粛清された。
そしてファイグ様も亡くなりその息子が即位するとカミュ大后を抑える人物がいなくなってしまった。
自らが産んだ三男様を含めて全てのフェイブス様の子供とその家族を殺してしまった。
その話を聞いて私はヘスを抱きしめ真っ先に動けて良かったと思うばかりであった。
ヘスと教会に来て七年の月日が起った。
未だに皇都の血なまぐさい話は終わらずファイグ様の息子はなぞの奇病により亡くなられた。
今はその息子で3歳の子供が皇帝である。
カミュ大后は自分の一族を重臣に置いてさらに権威を高めている。
だが、カミュ大后も寿命には勝てず亡くなってしまった。
ある日、昼の祈りを捧げていると神父様に話しかけられた。
「メイ殿、お客様です。」
「お客ですか?」
「レイナと名乗っております。お会いになりますか?」
「わかりました。会います。」
談話室に入るとそこにはレイナがいた。
私は駆け寄りレイナを抱きしめた。
「レイナ、元気にしていたの?」
「はい、メイ様もお元気で」
「ええ、なんとか、それよりもどうしたの?」
「メイ様にあって欲しい方がいらっしゃるのです。」
私は嫌な予感が当たったと思いながら了承する。
そして部屋に私を迎えに来た太った男が入ってきた。
「メイ殿、お久しぶりでございます。」
「お久しぶりです。」
「時間が惜しいので早速本題に移らせて頂きます。フォス様を連れて皇都に帰還していただきたいのです。」
「フォスとはどなたでしょうか?私にはヘスという息子はいますがフォスという人は知りません」
「いえ、知っているはずです。」
「知りません」
私はきっぱりと言い放った。
そうすると太った男は深々と頭を下げた。
「お願いにございます。カミュ大后の一族はすでに粛清済みにございます。」
「そうですか、ならば何故ヘスが必要なのですか?」
「それは、実を申しますと、今の皇帝は皇帝の血を引いていないのです。」
私は驚いてその場から立ち上がった。
「ファイグ様の息子もカミュ大后に殺され、現皇帝もカミュ大后の一族がどこかから連れてきたまったく縁もゆかりもない者ということです。」
私がレイナを見るとレイナは無言で頷いた。
「つまり今、皇家の血を引く者はフォス様以外おられないのです。」
深々と頭を下げて説明する。
正直この方を信用していいのかわからない。
私はレイナを見る。
「メイ様、お願いです。皇都に戻ってきてください。この方は信用できると思います。なんでもメイ様の御家族を保護していらっしゃるのもこの方なのですから」
レイナの一言は私を驚かせた。
正直家族のことは心のどこかで諦めていた。
いつの間にか家族よりヘスのことを中心に考えるようになっていたのだと思う。
「わかりました。フォスと共に皇都に参りましょう。」
その返事を聞いて二人は明るい顔をして礼を言ってきた。
その夜、私とフォスはここを出て行く準備をした。
「フォス、あなたの出生を今から教えます。」
「はい、母上」
フォスは静かに私の話を聞き入り頷いた。
「わかりました母上、私は、皇帝に即位しなくてはいけないのですね」
「そうです。私はあなたを皇帝にしたくはなかったです。ですが、それも許されません。良いですね」
「はい」
次の日、教会の神父様たちに挨拶を済ませ、15歳の時、私を皇帝に輿入れさせた時と同じ馬車に乗り込んだ。
女の足では二日かかった道のりが馬車では一日もかからない。
馬車の外を見渡せば一面柱にくくり付けられた、死体、死体、死体
なんでも粛清したカミュ大后の一族らしい。
私たちが皇都に入り入城した。
そしてその日の夜、3歳の皇帝と兄弟達は病死した。
一週間の空位があって10歳になる我が子のフォスが即位した。
私は大后の身分を得てフォスの後に座る。
10歳の皇帝に政治が出来るわけも無く。
政治は大臣達と私で話し合われる。
だけど私は終始無言に興じる。
第二のカミュ大后になるわけにはいかない。
カミュ大后によって齎されたこの混乱はこの国を大きく疲弊させた。
だから私は発言を極力しない。
唯一大臣から意見を求められた時に対して『愚考しますに』と頭につけて自分の意見を述べた。
日に日に意見を求められる回数が増えているが、それ以外は一切発言をしない。
フォスが15歳の成人したら潔く身を引くつもりであったが、大臣に懇願されフォスが25歳になるまでの間大后として意見を求められた時だけ意見を返す事をした。
この国は優秀な者が多い。だから、すぐに国力も回復してくれた。
私は後宮の部屋でゆっくりと余生過ごすのであった。
後世の歴史家達の間でフェイブスに対する評価で意見が割れることがある。
政治家、軍人としての評価では彼はどの歴史家からも高く評価されている。
評価が割れるのは女の見る目である。
カミュ大后を見抜けなかったという意見
メイ大后を見初めたという意見
どちらの意見もたびたび議論され、未だ決着がつかない。
歴代帝国最高の皇帝は?と聞かれると100人いれば80人はフォス皇帝と答えるだろう。
フォス皇帝は帝国の最繁栄期を築いた偉大なる皇帝と親しまれている。
その母メイ大后の名は帝国の女性の模範として語り継がれていくのであった。
感想や誤字、脱字があれば報告お願いします。
感想をいただけるとうれしい限りです。