本文88 チュールさんの決意
「は、はい!そうですよね!まだ図書館に行ると思うので連絡してみます!」
別に慌てる必要は無いと思うけど。理解が追い付いてないから、理解出来る話に飛びついたんだろうな。
「チュールちゃん、こっちに来るそうです。北門に向かって歩いて、とは言ったんですが、ここをどうやって説明すれば…」
看板無いし、脇道だから、何番目の角とか覚えてないと、説明出来ないよね。
「左側を歩いてもらうよう伝えてください。シフォンさん、迎えに行きましょう」
「チュールちゃんも居た方が良いのは確かね。お願いしていいの?」
「口でここを説明する自信が無いですしね。ちょっと話も有りますので。行ってきます」
ドミニクさんに同意を貰い、シフォンさんを促して外に出る。
「あの、話って?」
「職人志望の件ですが、どの辺からやるつもりでいますか?」
「え?」
「現実の被服科でやるのは布を選んで、型をとって裁縫が普通だと思うんですよね。細かいことは抜きにしたら」
「…まぁ、そう言う事になりますね」
「ドミニクさんが、糸から造ってる職人なのは良いですよね?」
「魔綿取りと魔蚕取りに行ったことから、解ってますよ?」
「じゃあ、この世界の職人が一からやってることは理解してますか?」
「え?」
「糸を造る、糸を染める、布を織る、全部手作業だと思うんですよ。ああ、木製の織機は有るみたいですけど。で、技能のレベルや職業のレベルがあがるまでは、間の工程が一切省略出来ないんですよ。現実の手作業の工程を丸々しなくちゃいけないんです。調合でそうでしたし、木工でもそうです。って事は、裁縫もそうなんだと思います」
「え?」
「で、ドミニクさんの弟子ってことは多分ドミニクさん、最終的には、糸造りから教えるつもりで居るんじゃないかな、と思いまして、そこからやるつもりでいました?」
「ええ!?糸造りから?え?ちょっと待って…全部手仕事?省略が無い?木製の織機って、あの昔話でみるような、機織り機ってこと!?」
「実物見てないんで、正確には解らないです。コボルトの村で糸紡ぎ見たんでしたよね?糸紡ぎはどうでした?」
「…手で紡いでましたね。糸車とか全部木製でした。でも、それはあの村だからじゃなくて?あ、でもそうか、機械は無いんだもの。全部そうな可能性も有るのね…省略が無いって言うのは?」
「現実で縫い物した場合、時間かかりますよね?服ならミシンでもそれなりにかかると思うんですがどうですか?」
「形状によるけど、何時間かかかります」
何時間かで出来るんだ。それはそれで凄い。私なら何日かかるか…服なんて造ろうとも思わないよ。
「それを手縫いでしたら?もしかしたらミシン有るかもですが」
「手縫いだったら…もっとかかりますね。…まさか丸々その時間がかかるって事ですか!?」
「技能があがるにつれて、手早くはなると思いますが、多分かかりますよ」
「…何をするにも現実と同じだけ時間と手間がかかるって事?」
「はい。恐らくですけど。技能や特技で、どこかしらの工程を省略出来るようになるかも知れませんが、最初のうちは無理だと思います」
私も〔乾燥〕やら〔破砕〕やらが出たのは最近だ。今から始めて、イン時間が短いと結構かかるんじゃないだろうか?
「布屋さんはありました。魔物素材の布も売ってたので、布を買う所からできるかも知れません。でも魔綿は普通の鋏では切れないそうです。なら、きっと針と糸もそうなんでしょう。その値段支払えますか?」
魔綿は木綿の150倍の値段したからね。
「…いや…でも!ドロップで落とせば!」
それ、さっきも突っ込まれてたよね?
「糸とか布で出てくるかもですよね。でも、出ないかも知れない。どれぐらい狩らなくちゃいけないんでしょうね。そして糸がドロップした場合、染色や織る事を職人に頼むとしたら、依頼料かかりますよね?」
職人さんにかかる金額は、今一解ってないけどさ。多分魔物素材を扱うなら、高レベルで、高レベルなら依頼料は高いんじゃなかろうか?使う素材も魔物素材になるわけだし。
「う…それは確かに」
「今回の件、それもあって鉈の話になったと思うんですよ。一部の採集が可能かどうかを知りたいって。可能ならそのまま職人になれるかも知れない。でも不可能だったら、魔物素材は倒して入手するしかない。でも倒したら滅多に出てこなくなるような魔物だったら?」
「レアならリポップするとしても、時間がかかる…?」
そもそもリポップするかが、怪しいような気もしてるんですが。魔物含めて生態系創っててもおかしくない、と思うのは運営さんへの買い被りですかね?
「まぁ、普通の素材を採集するにも、不可欠な道具と言うのも有るとは思いますよ。現実でも、ハイキングとかの整備された道を歩くんじゃなきゃ、鉈は必要だと思いますから」
「庚さんは鉈使ったこと有ります?」
「木工で竹細工用の小さいのは使いました。でも、あんな大きい刃物触ったこと無いですよ。…いや、鋸がありました。鋸はあれより大きかったですね」
大きいけど厚みも無いし、完全に道具だからね。…普段鉈使ってる人には鉈も道具なんだろうけど。
怪我するとえらい目にあう、という点では鋸は酷い武器にもなるのかも知れない。…回復薬有るから関係無いか。
「いきなり呼び出してどうしたの?あ、庚さん!無魔法と土魔法覚えました!二回書き写すだけで覚えられたんです!教えてくれてありがとうございます!」
覚えられて何よりです。…普通は二回ぐらい必要だったのか?全部一回で済んだんだけど。
「あのね、チュールちゃん…」
先程話したことをチュールさんに説明するシフォンさん。チュールさんも「え?」とか「は?」とか疑問の声をあげてる。
私が知ってるゲームでは、生産者とか職人と言う職業は無かった。小説のゲームでは割とありふれた職業としてかかれてる事が多かったけど、この時代の他ののゲームではどうなんだろう?
まぁ、あったとしても、実際と同じ時間かかるような事は多分ないだろう。それこそ、玉ねぎ・人参・豚肉・ご飯・豆腐で、麻婆カレーが出きるようなもんじゃないのかな。でないと生産者、しんどすぎる。
でも、レベルアップは生産者のが早そうだよな?…私が早いのは廃人より廃人プレイしているからか。ここで9時間寝ても、現実では3時間しか経って無いんだもんな。そりゃレベルアップもするわな。称号効果も有るだろうし。
「…コボルトに貰った〔魔蚕の生糸〕を加工しようとしたら、魔物素材が必要になるんですよね?染めるにしても、織るにしても、縫うにしても」
「ドミニクさんはそう言ってましたよね?」
あれ?染めるのだけだっけ?でも織機も普通のだと保たない、とかも言ってたよね?縫う、に関しては聞いてないけど、魔綿が普通の鋏で切れないなら、魔蚕だって無理だと思うんだよね。鋏が無理なら針も無理でしょ、普通。
「なら、私はやります。もし、魔物素材の一部分の採集が出来ないのなら、解体覚える。…ドミニクさんに話を聞いて、お金貯めるのと、どっちが早いか聞いてからにするけど」
あら~。すっかり魔蚕に入れ込んでますね。いや、コボルトか?まぁ、でもちゃんと聞いてからにするあたり、我を忘れる程ではないんですね。
「魔力切れたら、何もできないのも本当のことだしね…魔法ってもっと攻撃力高いと思ってた。レベルあげなきゃ、兎と犬以外には牽制にしかならないなんて思わなかった。…鉈って使ったこと無いけど、二人はあるの?」
二人して首を横に振る。
「聞いたことは有るんだけど、どんなものなの?」
「どんなものって…大きな刃物?」
「店に行けば解ることです。行きましょうか」




