本文87 鉈
「そんな物騒なもん取らなくても、〔叩きバショウ〕取れば良いじゃないか」
毒かぁ、と思ってたらロイさんがそんな事言い出した。保護者達は皆、あぁ、と言った顔をしている。アドルフさん除いて。
「え?あれって根元から切るだろう?倒しちゃだめなんじゃないのか?」
「根は残すから、殺してないぞ?あれの本体は根だからな」
叩きって、なんか攻撃方法が目に浮かぶようなんですけど…
「バショウって芭蕉布とかのバショウですか?」
さすがにこれはシフォンさんも知ってたね。古典でも、松尾芭蕉の時にやったような気がする。…あれは先生の雑談だったか?
「そうだ。偽茎から採るのが主だが、葉からも繊維が採れる。攻撃方法も葉でバサバサ叩いて来るだけだし、鬱陶しいだけで、大したことが無い。動き回ることもしないしな。鉈使えれば楽な相手だぞ?しかも本体が根だから、地上部分をいくら採っても死なない。条件に合ってるだろ?東の海岸沿いに群生してる。荒野まで足延ばすなら〔暴れマオラン〕でも良いかもな。葉で切りつけてくるから、ちょっと危険だが」
「…基本動き回る植物は魔物ですか?」
「まぁ、そうだな。動いたり、泣き喚めいたり、攻撃してくるのは植物系の魔物だと思って良い」
…動くのと攻撃してくるのはいいよ。泣き喚くの?マンドラゴラ?あれは叫ぶのか。
「獣形の魔物みたいに紫なんですか?」
「いや。本体を切ると発光する体液を出す」
発光?蛍なの?どれくらいの明るさなの?
「うっすら光ってるだけだから、明るい所だと解りにくいんじゃよ。魔素が抜けるまでの間は光っておるな」
魔素は空気で分解されるんですか!?ほんとになんなんだ、魔素って。どんな設定してるのか聞きたいよ。ついでに聞いておくとしよう。
「因みに昆虫の魔物の見分け方は?」
「昆虫の魔物は、大型なの奴と、本来群れない昆虫が群れてたら、まず魔物だな。後は切ったら青かったり発光する体液を流す奴は魔物だ」
「それも、魔素が抜けるまで?」
「あぁ。魔素が抜けたら、透明から白っぽい、若しくは緑っぽくなるな」
…魔素は寄生虫か細菌みたいなもんなのか?空気に触れると死ぬのか?
「〔叩きバショウ〕なら丁度良いわね。鉈の練習になるし、繊維から服も造れるわ。織機は工房にあるし。シフォンちゃんとチュールちゃんの都合の良い時教えてよ。庚ちゃんもね。っとその前に鉈買わないとね。ロイ、どんなのか出してあげてよ」
あれ?問答無用で私もなの?確かに鉈の練習は必要ですが。で、シフォンさんの武器の話は?棚上げ?
「葉を落とすだけなら、このクラスで行けるが、偽茎から行くなら、こっちのクラスだな」
「え?私も使うんですか?」
シフォンさんが素っ頓狂な声をあげる。あなたの武器の話してて、この流れなんだから、優先順位は私より、あなた達なんじゃないでしょうかね?まぁ、普段では見ないような大型刃物出されたら、自分がそれを使うとは思わないかもだけど。
偽茎用と出されたのには、どう見ても斧にしか見えない奴もあるし。てか斧だよね?
「あなた達、よ。チュールちゃんも含めて。素材なんて、道沿いに生えてるのは殆ど無いわよ?分け入って探さないと。それは魔物素材でも普通の素材でも変わらないわ。採集するなら、弓よりこっちのが使う頻度、高いと思うわよ?」
「え、これを使うんですか…?」
偽茎は、葉だか茎だかが何層にも巻きついてて、木に見えるんだよな?バナナがそうだったはず。葉も似てるし、仲間なのかな?どっちがどっちかまでは忘れたけど。
斧以外のこれは鉈、なのかな?四角い奴、腰鉈ってのがこんなんだったような…。やったら長い刃物と、「へ」の字形のこれは映画とかで見たことが有るような。てか、基本的に全部「へ」の字だな。いや、「く」の字なのか?どっちでもいいか。
用途によって刃物を持ち替えるか。あれ?
「ビバリーさん剣鉈一本じゃなかったですか?」
「私?枝打ち用は別に持ってるわよ?予備も持ってるし」
「見せてもらって良いですか?」
ビバリーさんが取り出したのは、以前にも見せて貰った剣鉈二本と更に長い剣鉈だった。…小太刀?日本刀?反りがないから違うんだろうけど。「く」の字だし。
「枝打ち用は厚く重くなってるのよ。重さで叩き切ってる様な所有るからね。剣鉈にしてるのは仕留め用が壊れた時に代用になるようによ」
「代用になるんですか?」
「なるわよ。それなりのランクの刃物ならね」
ランクが高ければ切れ味も良いと。そしてお値段高めで扱いは難しいってことですかね。
「大きすぎて採集には向かないんだけどね。植物の採集は遠方で野宿する時ぐらいだし、それならこれを使うわ」
なんと!ブーツに薄手の刃物が入ってました!こんな物がこんな所に!
「あ、これ庚ちゃんに頼まれた外用の靴にも付けるわよ。刃物の形状とランクは後で選んでね。あまり高いのにされると、持ち出しして貰う事になるかもだけど」
はい?そんな注文はしておりませんが。…ブーツに刃物を仕込むって、どこの軍人さんですか!そしてナイフの値段は既に込まれてたんですか!?
「なら、採集用の刃物は要らないんですかね?」
「それは小さすぎるじゃろう。嬢ちゃんの場合は採集がメインになるからの。よく使うならもう少し大きめのが良いぞ。かと言って、ビバリーの持っとる様なのでは大きすぎるがな」
頭混乱してきた。刃物がどれだけ必要なんだ?せめて大・中・小の三種類ぐらいにならない?
「採集の際に、最低限必要な刃物を教えてください。仕留め用の刃物も勘定に入れて教えて下さい」
「まずは仕留め用ね。魔物は攻撃仕掛けたら、なかなか諦めないから、逃げ回るより仕留めた方が楽だわ」
「植物採集用じゃな」
「後は枝打ち用だな」
「枝打ち用は、採集用と同じに出来ないんですか?」
やってることは同じだろうよ!
「ビバリーが言ったように大きすぎるんじゃよ。そこまで大きな物を採集する事は殆ど無いだろうからの。大きすぎず、小さすぎず、じゃよ」
殆どって、ちょっとはあるんですか!?
「となると三種類ですか…ここに出てる刃物で、その三種類に当てはめられるのはどれになります?」
「ふむ。そっちの偽茎に使うように出したのが、枝打ち用になるんじゃが、わしとしてはもうちょっと良い物を持って欲しいかのう。〔ファーム・ウッド〕が切れるぐらいは欲しいの」
「となると値段が跳ね上がるぞ?ランクも高くなるし…嬢ちゃんなら払えるのか?…払えるか。払えるならその方が良いな」
いや、なんですか、その三段活用!勝手に決めないでくださいよ!ランク高いのは止めた方が良いんじゃないの?
「これらだ。ビバリーのよりランクは落ちるが、これより上は、使いこなせてからにした方が良いだろう。これらは鋼材に〔ディアマン・ピエール〕が入ってる。堅いが折れにくくなる性質を与えるんだ」
「ディアマン?」
なんか人の名前みたいなんだけど。ディアマンて聞いたこと有るよな…
「〔ディアマン・ピエール〕。鉱物の名前だ」
鉱物…。ディアマンテ!ダイヤモンド!…え?
「ダイヤモンド?」
「違うのじゃ。硬度は似たようなものじゃが、大きな結晶は見つかっておらんくてな。一部の鉱石に微量に含まれておるのしか、見つけられておらんのじゃ」
え?ダイヤモンドと同じ硬さって、それはめちゃ硬いんじゃ無いですか?…あ、ダイヤモンドより硬いものがある世界でしたね…。すっかり忘れてたよ。微量にって、それならかなり高いんじゃないの?何本か出された物をしげしげ眺める。見た目には前に出された刃物とさっぱり区別が付きません。
「さっきから黙っておるが、お前さんらも同じじゃぞい?」
「はい!?」
シフォンさん魂抜けたように唖然としてましたが、更に唖然としている。
「染色素材でそこまで硬い素材は、今の所知られてないから、染色素材の採集だけならそっちので良いけどね。仕留め用はこっちのが良いわよ?」
目を白黒させてますね。多分理解が追いついてないんだろうな。話が勝手に進んでるからな。武器見にきただけなのに。
「シフォンさん、チュールさんと連絡とれますか?チュールさんもこの場に居た方が良いと思うんですけど」




