本文86 保護者会議(ロイ視点)
「一体なんの用よ。忙しいのよ?」
少し怒ったようにドミニクが言う。
宥めるように返す。
「嬢ちゃんの事だよ。もう少しでグスタフも来るだろう」
「庚ちゃん?庚ちゃんがどうしたの?」
「まぁ、グスタフとビバリーが来てからだ」
揃ってからじゃないと二度手間だからな。
「そう言えば木工してるのよね?どう?」
「…向かないみたいだな。細工がでちまって、そっちに持って行かれてる」
「細工出来るならいいんじゃない?別に建築やる訳じゃないし。数こなせば物になるでしょうよ」
なんの問題があるのか、解らないと言った様子でドミニクが言う。
「俺は木工師なんだがなぁ」
本音としては木工がでて欲しかったんだかな。鉄刀木と枇杷の杖を渡したら、嬢ちゃんは目の色を変えた。白樫とイチイ樫の杖では普通だったから、違いが解るんだと思ったんだよな。サイモンとの会話で知識(木材)が生えたと言うのも聞いたから、てっきり木工に向いてると思ったのに。向いていたのは〔知識〕の方だとは思いも寄らなかったぞ。
「似たようなもんじゃない。木材に特化してるだけで」
「そうだな。石でも金属でも目利きしてんだ。細工師のが向いてるのかもな。まぁ、嬢ちゃんのやる気次第だが」
となると弟子に、と言うのは可哀想だったかも知れない。もう少し様子見てから、他をもやってみるように言うべきかも知れない、と思っている。やる気があるなら、だけどな。
「その話だったの?」
「いや、違う。お、来たな」
「さて、嬢ちゃんの事じゃと聞いたが、どうしたんじゃ?午後は木工じゃなかったかの?」
「奥でやってるよ。鑿は使いこなせてないが、彫刻刀と小刀ならなんとかって所だな」
「見とらんで良いのかの?」
刃物を使わせているからだろうか、グスタフが言う。と言うことはグスタフは嬢ちゃんが刃物の扱いを持て余してるのには気付いているのかも知れない。
「たまに様子は見に行くよ。持ち方はしっかり覚えてるようだから大丈夫だろう」
「庚ちゃんナイフの使い方知らないみたいなのよ」
「今日解体したんだっけ?解体ナイフの事?」
ドミニクは全く気付いて無いって事だな。
「それが違うんだよ。ナイフ全般だ。多分物に対して刃物を使ったことが殆ど無いんだろう」
「わしは強盗の時と練習場の一回しか見ておらんが、嬢ちゃんはどう戦うんじゃ?包丁は使えておったぞ?」
「ロイにも言ったけど、魔法で状態異常かけて、頭狙って撲殺してたわ。でも、大きい奴にはそれが通用しないのは、自覚してるみたい」
異邦人は魔法を覚えるのも早い。魔力も俺らよりは多めだと聞いている。だが、矢継ぎ早にかけるほど使い慣れてて、魔力が持つとは思わなかったぞ。包丁は…見たこと無いが料理が出来るなら使えるだろう。使い慣れてない刃物が多すぎる、と言うところか。
「で、お前さん達がどこまで、嬢ちゃんにさせる気なのかを聞こうと思ってな」
「どこまでさせるって、私荷物持ち頼んでるだけよ?」
「じゃあ、お前に関してはどこまで連れて行くかだな。採集場所はかなり厳しい所も有るだろう?今回はビバリーがいたし、他にも居たみたいだから、嬢ちゃんは山犬しか留め刺してないが、お前と二人だったら、全部お前が仕留めて回るのか?お前の手が回らんときに嬢ちゃんが窮地に陥ったらどうする?」
ポーターとしては願っても無い人材だが、身を守る、相手を倒すと言う点では、ビバリーの話を聞く限り、無理だろう。そもそも嬢ちゃんはその辺を避けている傾向がある。魔法も状態異常を主に使って、攻撃魔法を使わないのは、そう言うことだろう。まぁ、魔法のレベルが低いと攻撃力がたいしたことがないから、状態異常魔法のがましだったのかも知れないが。
「あぁ、そう言う事。二人っきりで行く予定は無いけど、そう言う可能性も有るのね…今の所そんなに厳しい所に連れて行くつもりは無かったわ」
「お前らの場合、「厳しい」の感覚が人と違う事が問題なんだがな…グスタフはどうだ?調合の素材もかなり厳しい所のも有るだろう?」
この二人にとって「厳しい」は、普通の人間には「無理」な事が良くあるのは、付き合いの長い連中では知れ渡ってる事だが、嬢ちゃんはそれを知らんだろうしな。
「早くとも春になってから、と思っておったよ。今回で解ったが、嬢ちゃんは外での行動に慣れておらん。素材も区別つけられんようだし、気配を隠す事も、感じることも出来ないようなら、この近隣以外での採集は無理じゃろ」
グスタフは解ってたか。でも、今回帰りが一緒じゃなきゃ気付いてなかった、と言うことでもあるな。ついでに気になった事を聞く。
「鎌を使わせたのはあんたか?」
「あぁ。庭のリカバ刈りに貸したが、普通に使っておったぞ?包丁よりはぎこちなかったが。小さな刃物よりは、使い易かろうと思ったが、刃物その物を持っとらんとは思わなんだよ。思えば昼待草は仕方無いとして、チョシルも手で採集しておったか。あれは刃物が無いからだったのか」
話を聞くに異邦人の植物の持ち込みはリカバが大半だ。なら素手でちぎっても問題は無い。だが、物によっては棘があったり毒があったりするのもある。かぶれたりもするし、基本採集は素手で行うのは間違いだ。チョシルとソルタンも問題無い。昼待草はひっついて大変だったんじゃないか?まぁ、あれは手袋しても、どうにもならない奴だが。
「依頼受けてないけど、手袋も追加しておこうかしら?」
ビバリーが呟く。
「お前の採算は取れてるのか?」
「あの子気前がいいから、どっちかって言うと、私が負債抱えてる状態よ。手袋一双…いや、二双ね。それでトントンにできるかな」
「自分の労働を過小評価する傾向にあるのは確かじゃの。ビバリーがあくどくて、全部自分のもんだと言い張ったら、素直に渡したじゃろうな」
確かに遠慮がちな所はあるな。駆け出しの弟子の素材や道具の面倒は、親方が見るもんなんだが、嬢ちゃんには解らないようだ。異邦人だからなのか、嬢ちゃんの性格なのかは知らんが。
「採集で外に出るのは春か…今から持たせて使い慣れさせた方がいいのかもな。多分嬢ちゃん持って無かったら、使わないままですませるぞ?」
「そうじゃのう。おいおい、とは考えておったが、良い機会かも知れんの。しかし、草の採集用はリカバで練習するとして、それ以外はどうしたもんかのう。一部は鑿と被っとるから、それはそれで良いとして…」
「要るのはどれだ?」
グスタフはかなり色んな種類の刃物を持っている。俺の持ってる鑿と同じぐらいの種類を、持ち歩いているんじゃないだろうか?これがあったら便利だと思ったら、すぐにオグニルに造らせてるから、俺の知らないもんも持ってるんだろう。
「採集用と枝打ち用は最低限じゃの。で、仕留め用かの?」
「枝打ちもロイの所でやったら?竹とか枝付きの奴あるでしょ?後は薪割りするとか」
「薪割りは斧のが楽なんだが、慣れさせると言う点では鉈でさせても良いかもな。でかいのは斧で、細かいのを鉈でって、竹はともかく薪割りは木工じゃないだろう」
嬢ちゃんはうちに木工しにきてんだよ。…細工になっちまってるが。
「薪割りはこっちでして貰うかのう。どうせ調合には火が必要じゃ。嬢ちゃんも覚えるべきじゃろう。斧が追加じゃな。買えんようなら、わしが貸し出すよ。ところで嬢ちゃんはそれで問題ないとして、ドミニク、お前さんはどうなんじゃ?あの二人を弟子にしたんじゃろ?」
なんだ?ドミニクが弟子を取ったのか?
「戦闘能力はもっと付けて貰わないといけないわね」
「そっちもじゃが、あの二人異邦人じゃろ?素材集めはどうするんじゃ?魔物じゃないなら普通に採集出来るが、魔物素材は採れるんかの?」
「え?…あ、異邦人は、仕留めたら何を手に入れるのか解らないんだったわね…毎回素材部分が残るとは限らないのね。獣系だけでなく植物でも残らないのかしら?となるとあの子達だけで採集は無理になるの?…下手すれば乱獲になるわね。それはダメだわ。…庚ちゃんは残ってるわよね?何か条件があって、それを満たせば残せるようになるのかしら?」
「それは、嬢ちゃんに聞くしか無かろう」
「と言うことはあの二人もナイフが使えない、それどころか持ってない可能性がある?」
ドミニクが、愕然としたように呟いた。異邦人ならその可能性は高いだろうな。サイモンが連れてきた奴も、剥ぎ取りナイフ買ってたからな。剥ぎ取りナイフは、死体に突き立てる為だけにある。生きてる物には使えないんだよな。
「坊や達が留め刺してたわよね?知らないと思った方が良いんじゃない?魔物迫ってきても、近距離用の武器を取り出そうともしてなかった所みると、持ってないんじゃないの?」
「魔法使いで近距離が無理って、相当魔力持ってて、色んな魔法使えないと無謀じゃないか?」
魔力切れたら狙い放題じゃないか?
「だからパーティー組んでるんでしょ?あのパーティ、バランス悪いけど」
「寧ろ嬢ちゃんより深刻かも知れんのう」
「えぇ~。私は被服で弟子にしたつもりで、戦闘面で弟子にしたつもりは無いわよ?」
「採集に連れて行くなら同じ事だろう」
「それもそうね…」
「ま、買うなら連れてこいや」
客が増えるのは歓迎だ。
「そうなんだけど、あの子達お金持ってないのよね。庚ちゃんも最初は持ってなかったじゃない?でも、今ではちゃんと払ってくれるわ。…なんであんなにお金持ってないのかしら?」
こないだも武器買ってたしな。今では嬢ちゃんは、そこそこ金持ちだと思うぞ?
「それは嬢ちゃんがわしの所で調合しておるからじゃよ。素材、道具、燃料全部わしの所のを使っておったからの。納入用の瓶もわしの依頼分のを使っておった。つまり、嬢ちゃんは自分の労力以外は一切使っておらん。更にじゃ、嬢ちゃんは今まで一度しか失敗しておらんのじゃよ。しかもその一回は〔亜人の軟膏〕じゃ。つまり素材を全くと言っていいほど無駄にしておらん」
「え?ちょっと待ってよ。調合でお金使ってない、失敗してないって事は、庚ちゃん、今かなりお金持ってる?」
「庚ちゃんの性格から言って、売ったお金を全部受け取るとは思わないんだけど…」
ビバリーの言う通りだな。受け取ったとしても一部だろう。
「半額じゃ。依頼料はわしに全額渡しておる」
「半額もよく受け取ったわね?」
「半額受け取らんかったら、調合を教えんと言ったら大人しく受け取ることにしたようじゃ。…最近は半額以上渡してくるが、まぁ、ほぼ半額じゃの。それでも結構な金額じゃが、先日器具を揃えたからあまり残っておらんと思うぞ?薬師になったら素材も自分で揃えて貰おうと思っておったのじゃが、思ったより早く薬師になりおったわ」
調合は適性が高かったんだな。それにしても早すぎないか?異邦人はそんなに早いのか?木工を見てる限りではそんな事は無さそうだが…。それにしても、グスタフ、それは脅しじゃないのか?そうでも言わないと受け取らなかったのか。確かに最初、他に仕事探そうとしてたような記憶があるな。
「じゃあ、グスタフの弟子は卒業?」
「いや。薬師になっても二級ポーションまでじゃし、回復薬以外の処方はまだ教えておらん。薬師はこれからが結構長いんじゃよ。毒師も出ておるし、そっちも全くやっておらんからな」
毒師が出たのか!本当に調合の適性が高いんだな。だが、毒の素材は基本店では売ってない。
「毒師になるなら採集は必須だな」
「その通りじゃ。嬢ちゃんに異論が無ければ、大方の物は採集出来るようにするつもりじゃ。当分わしの弟子じゃよ」
あ、嬢ちゃんが気の毒になってきた。こりゃ戦闘訓練も入れる予定だったな。下手すりゃ死ぬまでグスタフの弟子だ。木工でも細工でもいいから、うちではのんびりやって貰うことにしよう。
ガラッと戸を開けてアドルフが入ってきた。見たことのない少女を連れている。客か?
「おう。雁首揃えてどうしたんだ?」




