本文81 衣桁と衝立
役所前に行く前にロイさんの所により、無事の報告をと思ったんだけど…なんじゃこりゃ。
工房には大量の衣桁と衝立が…。
「戻ったのか。どうだ?」
「いや、どうだ?と言われても何を聞かれてるのかが理解できません」
「いや、試作品なんだがな」
「衣桁と衝立だなぁ、としか…あ、ハンガーまである」
どこのホームセンターですか?ここは。長め目のはまっすぐだけど、短めのは軽くカーブを描いてる。洋服用のハンガー?
「衣桁も、刀使いの着物かけるならこれぐらいの長さは要るが、コートなんかをかけるなら、そんなにいらんだろう?で、少し幅の短いのを造ってみた。これなんかはこっちに服、こっちには小物をかけられるようにしてみたんだか、どうだ?」
「いや、だからどうだと言われても…」
「お前なら買う気になるか?」
「私が買うわ!」
え?ドミニクさん?
「それハンガーよね?貸して。……。これも買うわ。これ、竹よね?造るの大変?」
「いや?かなり楽だ」
「まずは20本造って。…これも、ハンガーなの?やたらと長いわね?」
「刀使いの着物用だ」
「…なる程、袖を伸ばしてかけられるのね?あの服基本まっすぐなラインで造られてるものね」
「で、ハンガー以外はどれだ?」
「その広い奴、上の棒の強度は?こう、ハンガーでずらっとかけたら、折れる?」
「これは着物一着用だからそんなに強度無いぞ?それならここをもっと強度のある物に変えたらいいのか?」
「そうね。そうしてくれる?で、その洋服用の狭い二つ折りの奴。それを両方、細かいのをかけられる用に出来る?それと、両方抜いてあるのは?」
「抜いてあるのはそっちにある。…そう、それだ。両方細かいのは造ってないな」
「衝立は…これ、良いわね」
ドミニクさんが選んだのは一枚物で、上と下に少し空きがあり、真ん中の板を四つに割って色が交互になるように張ってある、背の高い物だった。和風にも、洋風にも使えそうだ。
「それはちょっと高いぞ?んで、何に使うつもりだ?他はなんとなく想像つくが」
「店と工房の境に置くのよ。カーテンで区切ってたけど、どうしても手垢で汚れてくるでしょ?これならドンと置いておけば良いじゃない」
正しい衝立の使い方ですね。衣桁の使い方は間違ってる気がするけど。
「私もそのハンガー欲しい。10本ね。ドミニクが言った衣桁も両方」
え?ビバリーさんまで?
「で?嬢ちゃんは?」
「私ならさっきの半分抜いてあって、半分小物かけの衣桁と、その丸くなってるハンガーですかね」
「衝立は?」
「色々素敵ですけど、特に隠すものが無いので…」
客も運営さんしか来ないしな。
「そうか。衝立は商人に回すべきかな…」
「で、なんでこんな物造りだしたの?」
「いや、嬢ちゃんから話聞いて、そんなに高価にしなければ、一般家庭に売れるんじゃないかと思ってな。特に衣桁は、狭くすれば普通に使えそうだったから、だな。濡れてるコートを壁に引っかけると、壁に染みがついたり、コートに汚れが付いたりするだろ?コレならその心配も無いからな。これから寒くなってコートやらマントやら使う奴が増えるだろ?売れないか?」
「…どこで売るか知らないけど、売れると思うわよ。値段に寄るけど」
…看板出してなくて、武器屋をやってるこの店では、売れないと思います。
「会合で提案してからだが、売りたくなったら道具市の場所取りでもする」
「…一部からは反発きそうね。今までこれ、全部注文品でしょ?殆ど独占だったじゃない」
「客層が違うだろ?あっちはお大尽用だ。蒔絵だの螺鈿だので飾り付けてるじゃないか。どうしても反発されるようなら身内で売ればいい。お前さんらも買うんだろ?」
「もう注文したじゃない」
「さっき注文したわ」
「衝立は持って行っていいぞ。後で纏めて請求する」
「了解。後で店行く予定だから丁度良かったわ」
「私の分もよろしくね」
「嬢ちゃんもそれ持って行け。アイデア料だ」
え?アイデア料って、元々有った物を教えただけなのに…。
「儲けたら一部を渡す。まずは、試作品の代金が回収出来るかだな。一番かかってる奴が売れたからな。なんとかなるだろう」
いや、その一番乗り高いのを買ったのはドミニクさんで…っていいの?それ?
「儲けが出たら、私の木工の材料代にしてください…」
「いいのか?まぁ、儲けてから考えるか」
「一番高いの買ったみたいですけど、良かったんですか?」
てか、ドミニクさん値段一切聞かずに注文してましたよね?それは大丈夫なんでしょうか?
「気にしないのよ。一番高いのって言ってもあの中では、でしょ?普通じゃ払えないような値段なら最初からロイがそう言ってるわよ。ロイが造る木工はそんなに高い物は、注文でもしなきゃ滅多に無いのよ。あ、武器は別ね。武器の場合はあいつ、素材の値段に糸目つけないから」
「ドミニクも似たようなもんよ。造りたくなったら採算度外視で造るじゃない。私も人の事は言えないけど」
「この区画に住んでる職人は皆似たり寄ったりなのよ」
…なんて所に弟子入りしたんだ、私。となると、グスタフさんもそうなんだろうな。今はまだ、処方通りの物しか造ってないだけましなのかも知れない。
…毒の方に行ったらどうなるんだろう…あれ?でも解毒薬は種族毒ごとなんだよな?ならそこまで毒に種類も無いのか?
あれかな。役所で取り扱わない回復薬の種類が、膨大に有ったりするのかも知れないな。亜人の軟膏みたいな物とか。
「そう言えばグスタフは?」
「片付ける事があるから、行かないって。明日、明後日庚ちゃんに休みあげるから、なんかするんじゃない?」
「あら?休みなの?」
「午前中だけですけどね。ビバリーさんに解体教えて貰う予定です」
「庚ちゃんも解体出来なかったの?でも、庚ちゃんが倒したの、死体残ってたわよね?」
「そうなんですよ。だから解体覚えておいた方が、いいと思ったんです」
「まぁ、解体業者に持ち込んでもいいけど、覚えて置いて損は無いわね。出先で食糧無くなった時とか…ってボックスがあるから、異邦人にその心配は無いのね。水の心配もしなくて良いんだもの。ダンジョンにだって籠もれちゃうんじゃない?」
「そんな予定は無いですけどね」
「そんな事するのグスタフぐらいよ」
…グスタフさんはするんだ…一体何者なんでしょうか、私の師匠その1は。
「庚ちゃんに教えるなら、シザーちゃんにも教えたら?」
「自分から言ってこない人に、教える気は無いわ」
「それもそうね。やる気無い人に教えても仕方ないものね。でも、不思議よね、あのドロップって奴。何が手に入るか解らないなんて」
「皮なんて、ちゃんとなめし革になって出てくるものね。全身分がそれで出てくるなら楽なのに」
「それは楽だわ。…魔綿とか魔蚕倒したらどうなったのかしら?ちょっと気になるわね」
「弟子にしたんでしょ?野生の見つけたら試してみたら?魔蚕はともかく魔綿は難しそうだけど」
「逃げ足早いからね。…でも、その前に戦闘能力上げて貰わないと連れ歩けないわ。チュールちゃんは魔法だけみたいだし、庚ちゃんぐらい覚えてくれたらいいんだけど、シフォンちゃんは…」
「子供のコボルトのがましね。でも、異邦人って成長早いんでしょ?なんとかならないかしら?」
「あの子そもそも、弓があってないと思うのよね。なら何ができるのか、と言われると…」
「色々させてみたら?好き嫌いも有るから、あわないから止めたら?とは言えないけど」
合う合わないじゃなくて、使ったこと無いからだと思うんですけどね。基本一般人は武器なんて持たないんだから。和弓、アーチェリーをやったことあっても、短弓は別物だろうし。射って当てて、殺せばいい、と言われりゃそうなんだろうけど。まずは当てる練習からだよね。
役所前では既に四人が待っていた。アドルフさんは我慢できなくて、先に食べたから、来ないそうです。




