本文79 放置
「おい、一体これはどうなってるんだよ!」
あ、〔気絶〕かけた男が起きた。
「どうって、強盗失敗してとっ捕まったんだよ」
「なんだと!?八人もいたのにか!」
「こっちは九人だしねぇ」
「…七人しかいなかったぞ?」
七人だとしても、一人しか違わないのにね。どれだけ自分達に自信が有ったのやら。
「とりあえず全部集めてくるか。ビバリーは気絶させたんだろうけど、グスタフはなにしたんだ?」
「眠らせただけじゃよ。起こすのは簡単じゃぞ?」
アドルフさん力持ち。肩に一人、片手に一人ぶら下げて戻ってきた。グスタフさんは一人を肩に背負って戻ってきた。グスタフさんも力有るな。成人男性をそんなに軽々と運ぶとは。
二人がもう一度同じようにして戻ってきて六人。あ、しまった。手伝えば良かったか。二人とも軽々と運んでるので呆けてしまった。
「さて、どうして欲しい?このまま放置されるか、街に連れて帰るか。あ、街に帰ったら即衛兵に拘束されるわよ?放置するなら、道だと邪魔だからどっか奥に持って行くけど?」
「…めんどくさいな」
アドルフさん、ボソッと言わないでくださいな。どっちにしてもめんどくさいのに変わりは無いのか…。
「そんな、なぁ、見逃してくれよ。出来心だったんだ。もうしないからさ。人を襲ったのだって初めてだったんだよ」
盗人猛々しいとはこの事か。…全然猛々しくないな。…今日はあがりが少ないとか言ってなかったか?
「そんな事云われても、もう罪状付いちまったから、衛兵詰め所で申し開きするしかないぞ?」
「なんだと!?…そうだ!「GMコール!」」
え?なんでコールかけてるの?
「呼びましたか?」
エフェクトと共にまた妖精が現れた。
「こいつら、縛り付けたまま放置しようとしてるんだよ!それは犯罪だろ!?」
「…彼らに対する犯罪行為が認められています。彼らには逮捕する権利があり、護送する義務は有りません。犯罪は認められません」
「俺はそっちのじいさんに縛られたんだ!じいさんには何もしていない!じいさんには逮捕する権利は無いだろ!なら犯罪じゃねぇか!」
「…拘束を犯罪被害者より依頼されています。犯罪行為は認められません」
「なら!そのじいさんとそっちの獣人に何かされた連中は!?」
「…あなた方の脅迫発言以降の行為であり、善意の救助者と認めます。犯罪行為は認められません」
おお。真っ当ですね。
「私は罪状を裁定するのみです。罪状に不満が有る場合は衛兵詰め所にて、衛兵に申し出てください。尚、逮捕された場合、既に衛兵詰め所、及び役所に申し出られている犯罪行為も、加算される事をお伝えいたします。では失礼いたします」
あらら。被害に有った人達が申し出てれば追加ですか。門番さん達が言ってたのと同一人物なら大変だな。
「納得したかの?」
「くっ…」
「街に連れてくとなると、全員起こさなきゃか?」
「起こすと騒ぐんじゃない?捨ててくのが一番楽よ?」
「…このままログアウトだとどうなるんだ?」
「次のインは街の中央広場だから、そこで拘束されるんじゃないの?」
「死んでも同じだよな?」
「デスペナ付いて、尚且つ罰則、ですよね。罰則がどんなもんか知らないですけど。庚さん知ってますか?」
「えっと、強盗の場合は物品の返却、賠償金の支払い、所持金の三分の一の没収だったかな?それにプレイヤーカーソルが15日間、犯罪者カラーの黄色になって、それが戻る前に犯罪犯すと、罰則が厳しくなったと思います。未遂は解らないです」
「賠償金は幾らぐらい?」
「返却する物品と同額だったはずですよ?」
「…その金持ってなかったらどうなるんだ?」
「さぁ?」
無い袖は触れないよね~。
「金持ってなかったら、所持品を売却してそれに充てるんだ。ちゃんと正規値段で買い取ってくれるぞ?それでも足りなかったら強制労働だな。世界人の場合だが」
「強制労働って何やるんですか?」
「そこまでは知らない。幾つかから選べるみたいだぞ?ただ、強制労働中は技能は一切伸びないらしい」
「うわ、酷い」
「異邦人はどうなんだろうな?まだ、金を払えない奴が出たって話は聞かないなぁ」
「え?そんなに異邦人から犯罪者が出てるんですか?」
シフォンさんが驚いた声をあげている。うん。驚いたよ。
「ん~、犯罪者って言っても軽いもんだがな。落ちてるもん拾って届け忘れた、とか。後は売買するのに役所の許可が要るのを知らなかったとか。大半は「知らなかった」が原因だな。確実に摘発されるの解ってたら最初からしなかった!って奴もいたぞ?それは単なる開き直りだが、大半は初犯の段階で反省してるから、もうしないんじゃないか?」
「落とし物拾って、犯罪者になるの!?」
「所有権限の無い物を12時間以内に届けなかったら、着服扱いだな。門番、役所、衛兵詰め所のどれかに渡してくれりゃ良かったんだけどな。あ、街に居ない時間はカウントされないぞ?」
「所有権限が有るか無いかはすぐ解るんですか?」
「物によって、所有権限を付けられる物が有るんだよ。それはアイテム名に「専用」とか、但し書きが追加されたりする。捕まった奴も、名前が有るから自分で探そうとして、時間経過しちまったんだよな。そう言う場合は三カ所のどこかに拾ったことと、持ち主は探すってことを伝えておけば、落とし主が探してくれと言い出さない限り、預かってても問題は無いんだがな。売っ払っちまったら勿論着服だぞ?」
日本の警察は優秀だと思うけど、完全に信じられる、と言うほどは優秀では無いんだよね。特に落とし物の場合、見つからない可能性も高い。名前が有るなら探して本人届けてあげよう、そっちのが早かろう、と言うのは善良な日本人が考えそうな事だ。裏目にでちゃったね。
「持ち主も、善意でしてくれたんだから咎めないでやってくれって話になって、これは罪になるから今後気を付けるように、と言う注意だけで、罪状も罰則も無かった筈だぞ。おまえ等も気を付けろよ?」
「知らなかったらやりそうだな…」
「えぇ。その人が私でもおかしくなかったわ…」
「ちょっと!そこっ!何時まで脱線してんのよ!」
ウダウダ言ってる連中の相手を任せっきりにして、雑談してました。ごめんなさい。
「全く。異邦人とは犯罪の感覚が違うのかしら?」
「衛兵の優秀度の違い、じゃろう。この国の衛兵は瞬時に現れるし、間違いも犯さん。じゃがな、そうじゃない国では、ばれなきゃ大丈夫。これぐらいは許される。と言うのが有るんじゃよ。治安が悪い国では、衛兵と悪人、役所と悪人の癒着があったりもするんじゃよ。異邦人の国がどんなもんかは知らんがのう。まぁ、この子らを見るに、そこまで悪い国では無さそうじゃがの」
「…確かに私もこの国にきて、所有権限の落とし物の件は驚いたわよ。でも「所の法に矢は立たぬ」って言うじゃない?自分の滞在する国の法律ぐらい目を通しておきなさいよね。それとも、そんな諺知ないのかしら?」
「あります。「郷に入りては郷に従え」ってのが」
こっちのが有名だけど、「所の~」も類語に載ってたはずだ。なぜそっちを選んだ、第二世界。…そんなの多いな。
「それ、同じ意味なの?」
「知ってる?」
「郷に従えは知ってるけど…」
「帰ったら調べるか…」
口々に言う異邦人達。多分「所の~」より「When in Rome,」の方が有名だと思うんだけど、どうなのかね?
「おい!ほったらかしてんじゃねぇぞ!」
おっとまた雑談に入っちゃいましたね。すみません。てか、なんでそんなに態度でかいの?何様なの?
「全く、煩いわね。本当に置いていこうかしら?」
「さっきからそう言ってるのに…」
「どうじゃろ?この起きてる二人は解いてやって、放置すると言うのは。後は勝手にすれば良かろう」
グスタフさんまで放置方向?
「でも、解いたら危なくない?」
「かかってきたら返り討ちにすれば良かろう。この二人は魔法も使えん。そっちは長剣で、そっちは短剣じゃ。持っとるもんもなまくらじゃし、脅威にもならんぞ?嬢ちゃんのコート無し装備でも、かすり傷すら付けられんじゃろうな」
え?そんなしょぼしょぼだったの?




