本文78 強盗
「村に戻るか街に帰るかのどっちかよ。ここからなら街のがずっと近い。村にもどる為には真っ暗な森の中歩かなくちゃよ?灯りの用意もしてないし。強盗と決まった訳でも無いし、強盗だとしても半数世界人だもの。無視してくれるかも知れないわ」
「そうだな。悩んでも時間の無駄だ。俺は腹が減ってきたぞ。街へ帰ろうや」
ドミニクさんとアドルフさんの武器を見れば襲ってこないと思うんだけど、二人とも持ち歩いて無いんだよね。それは他の皆も一緒で、明らかに武器を持ってると解るのは、腰から剣を下げているテイラーさんだけだ。戦闘に入ってもポーチから取り出す事は出来るんだから、わざわざ片手を塞ぐ必要は無いだろう。
ビバリーさんは八人と言っていた。こちらは九人。人数だけでもかかってこない可能性はあるか。
「そうね。どうやって判断してるかも解らないし、行くしか無いわね」
「来るかも知れないと解っていたら、GM呼ぶのも間に合うだろう。行くか」
「あのヒト達の側に着いたら「そろそろ街よ」って言うわね。あなた達見つけられないかも知れないから」
…情けないですが、ありがたいことです。
「そろそろ街よ」
ビバリーさんが声をかけてくれた。…あ、一人みっけ。でも一人だけだな。いると解ってなかったら気が付かなかった可能性高いな。ちょっと前から〔周辺警戒〕をかけていたけど反応は無い。明らかに敵意でもないと反応しないのかな?
残りの四人もこっそり窺っているようだけど、同じように見つけられてないようだ。
やはり人数が多すぎると思ったのか、全員世界人だと思ったのか、動きは無いようなので、そのまま通り過ぎれるかと思ったんだけど。
ガサガサ!
「た、助けてくれ!魔物に追われてるんだ!」
「どんな奴だ!?」
アドルフさんとドミニクさんが武器を持ち出し、二人が飛び出してきた方向に構える。
「く、熊みたいな奴だ!額に三日月のある!」
驚いたような声になったのは、二人の武器に気が付いたからでしょうね。どっちも派手だ。
「配置について!女の子は後方!」
声は真面目ですが、バチンとウィンクした顔が笑ってます。乗ってあげるんですか、そうですか。右翼はアドルフさんに取られたので後方に行く。
杖出したら変?投槍器でも出そうか。いや、それも変だな。素手でいいか。
あれ?グスタフさんとビバリーさんはどこ?
…なにも現れませんね。
「人が多くて諦めたのか、あんた達が上手くまいたかだな。どうする?街まで帰るんだが、一緒に帰るか?山熊ごときに追われて逃げるんなら、帰った方がいいんじゃないか?」
「あんた達世界人か?」
「そうよ。で、どうするの?」
「いや…いいよ。ちょっと離れた所にパーティーメンバーが居るんだ。合流すれば問題無いだろう」
「そう?じゃ、行きましょうか」
「あ、そっちの連中は異邦人か?…ちょっと話が有るんだが、こっち来てくれないか?」
分断作戦?
「雇い主はあっちだ。勝手に離れる訳には行かない」
テイラーさんが憮然として言う。
「すぐ、済むからさ!…あの二人に危害加えたく無ければこっちに来いよ!GM呼ぶなよ?呼んだらあの二人が死ぬからな?世界人は死んだら終わりだろ?」
なんと!そんな方法で強盗してたのか!びっくりだ。今回は世界人が一緒だからこういう手になったのか?
「殺すってどうやって!」
「しぃっ。静かにしろよ。仲間があの二人に狙い定めてるんだ。本当なら世界人巻き込みたく無かったんだが、今日はあがりが少なくてな。回復薬と現金半分でいいや、置いていきな。後、依頼品も一部でいいや。置いていけよ」
おっと首元にナイフ突きつけられちゃいました。
「コールしたら、オレ達は捕まるかも知れないが、あっちの二人とコイツは巻き添えだ。どうする?」
「「「「!」」」」
「あんたも死にたく無かったら、その四人にお願いしな。死んで終わりなんて嫌だろう?」
ん?世界人認定?あらら。四人とも目を見開いちゃってます。まぁ、私も自分が人質になるとは吃驚仰天ですが。油断し過ぎですね。まぁ、後ろに回られたのは知ったけど、それを避けるわけにもいかなかったしねぇ。さて、どうしたものか。いなくなった二人が、既に隠れてるのを片付けてくれてるなら動くんですがね。
「嬢ちゃん、もう構わんぞぃ」
「了解です。では…『GMコール』」
「ウグッ…」 「「「「え!?」」」」
キラキラとしたエフェクトが出て、羽根の生えた妖精が出て来た。良かった。私の声に反応してくれなかったらどうしようかと思ったよ。これでGMコールが通る事が判明したわけだ。
「呼びましたか?」
「ナイフ突きつけられて、持ち物とお金を置いていけ、さもなくば殺すと脅されました。これは犯罪ですか?それと、向こうにいる二人の事も殺すと脅されました」
「…確認しました。犯罪行為と認定します。ただ、未遂ですので、あまり罰則は重く有りませんし、街に戻らないようでしたら、拘束する事も出来ません。理解していただけますか?」
「はい」
「計八名に、四名に対する強盗未遂、及び三名に対する殺人未遂の罪状が付きます。拘束された後、逮捕の連絡をいたします。罪状否定、または減刑の嘆願が有る場合は、連絡が有ってから24時間以内に衛兵詰め所または役所に申し出てください。それでは失礼します」
キラキラと妖精さんは消えていった。
「きっさま!なんで!おい!なんで……」
「えっと、どうなってるんですか?」
「とりあえずこの二人拘束しちゃいましょうか」
「えっ、あっ…」
「わしが縛ろうかの。嬢ちゃん達じゃ縛り方が甘いからの。…こいつはこの蔓が無くなるまでは、放っておくか」
グスタフさんはそう言うと後手に回して、親指同士と手首を拘束した。簡単そうに縛ってるんだけどね。私を人質した男は蔓で拘束されてるので、それが消えるまでは放置と。うずくまってるままで蔓が巻き付いてるから、どうしようもないよね。
「さてと、どうしたもんかいのう」
「あ、あの!一体何が起きてるんですか!?なんでこの人いきなりうずくまってるの、とか、蔓は魔法として、そいつがいきなり動かなくなったのはなんで、とか、残りの六人はどうしたのか、とか!」
「やだ、気付いてなかった?あの二人が出て来てすぐに、ビバリーちゃんとグスタフがいなくなったでしょ?」
そんな早い段階で居なかったのか。気付くの遅れました。
「その男が脅し文句吐いたから、私とグスタフが無力化したの」
「嬢ちゃんを人質にとった男は、嬢ちゃんが足踏んづけてから金的蹴ってたの。それから〔拘束〕じゃな。喋ってた奴は〔気絶〕かの?」
「えっぐいことするよな。こいつにだけは同情するわ」
「確実で手っ取り早いでしょうが」
「そうよね。女の子はそれぐらい思い切りよくて良いくらいよ」
「…金的蹴られたのに更に〔拘束〕って…」
「うわ~…」
グスタフさんとドミニクさんを除く男性陣は私を人質に取った男に憐れみの目線を送ってる。
「人間ってかかりにくいんですね。この人にはすぐにかかりましたが、そっちの人は五回目でかかりましたよ。おかげでパチンパチン煩くて、妖精さんが何言ってるか聞こえませんでした。どうなったんです?」
「…聞いてなかったのかよ。ちゃんと返事してたよな?」
「「理解していただけますか」は聞き取れました。ああ言うのって、無理って言っても仕方の無い事かと思って、はい、と答えたんですが、なんかまずかったですか?」
「八人に強盗未遂と殺人未遂の罪状が付くけど、街に入らない限りは拘束出来ないって、言ってたの。未遂だから余り罪状は重く無いって。後、逮捕したら連絡するから、罪状否定と減刑の嘆願はそれから24時間以内って言ってたわ。…ところでパチンパチンって何?」
「状態異常の魔法弾かれると、耳元でパチンって音がするんですよ」
「そうなんだ…」
「そろそろ解けますかね?」
ふっと蔓が消えた。
「てっめえ!…あれ?」
自分の置かれた状況に気が付いたようで何より。首元にドミニクさんの大身槍があるんです。そりゃ黙りますよね。
「グスタフ、さっさと拘束しちゃって。もう、うずくまらなくても良いみたいだから」
「暴れなさんな。痛い目見るだけじゃぞ」
ひょい、と下に押さえ込んで片手を後ろに取り、完全に決めている。手錠があれば簡単に拘束出来るんだろうけど、縄だと片手じゃ縛れないよね。と思ったら、輪に相手の手首を通してきゅっと締めて、そのまま足で固めて、もう片方の腕を取りに行ってあっという間に手首を拘束してしまった。…凄い。手首拘束したら、親指は楽だわな。
「ほいっと。さてどうするかの?」
「…その辺放り込んどけば?」
ビバリーさん冷たいです。上手くいけばそのままログアウト。次ログインしたら即捕縛。下手したら魔物や獣に殺されるか。もしかすると誰か通りかかって助けてくれるかも?
「そうね…。街まで連れて帰るか、捨てていくかよね」




