本文69 名前は二文字
「では、作業を分業したらどうなります?すり潰す人、混ぜる人煮詰める人とか。今回チョシルは私が特技で粉にしましたが、他の物は既に粉になってる物を使わせて貰ってます。セムさんかトムさんかどちらが粉にしたものかは知りませんが」
すり潰す工程は弟子に任せたりする師匠は居ないのかな?弟子の調合はあがるし、師匠は楽が出来る。
「それは…どうなんじゃろう?確かにすり潰すだけなら誰でも出来るのう。ならば調合士か調合士ですら無いものが、すり潰した素材で薬が出来る?薬師がすり潰した物なら調合士では造れない筈の薬が造れる?……いや、薬を造るには調合のレベルと職業のレベルが…その制約はどこにかかっておるんじゃ?」
お~い。グスタフさん~。途中から自問自答に入っちゃってます。完全に考え込んでますね。
仕方無い。グスタフさんは放って置いて、トムさんに倉庫の空きは大丈夫か聞く。色々なランクの薬を造ってしまったと言うことはそれだけ倉庫の場所をとってしまう訳だが、入るんだろうか?
「空きある。大事、早い、しまう。そのまま、だす」
「…早いは、悪くなるのが早い、ですか?」
こくこく。
「…そのまま…」
瓶や皿を指すトムさん。
「外に出していても変化の無い物?」
こくこく。
倉庫は冷蔵庫か冷凍庫のような扱いだな。まぁ、でも容量少なければ、そうするしかないのか。時間劣化や品質変化をしない分、冷蔵庫や冷凍庫よりずっと優秀だ。
外に出しっぱなしにしておくと、埃が付いたり油で汚れたりもするけど、洗えば済むことだしね。まめに掃除してればそこまで汚れないだろう。
「そう言えば、前に造った、揉んだ薬草と絞ったリバイブの薬、まだ残ってます?」
残ってたらどんな物を造ったのか知りたい。…おばあちゃんの知恵袋的な薬だったけど。
こくこく。頷いて出してくれた。…これも倉庫に入れてたのか。
〔亜人の貼り薬〕
傷口に貼り付ける薬。一時的な止血、傷口の保護。
亜人の回復力を高め、傷の治りを早め、体力の減少を緩やかにする。
亜人程の効果は出ないが、亜人以外にも有効。
これも効能のみですか。…消毒薬兼絆創膏みたいなもの?傷や火傷にビワの葉の焼酎漬けを貼るみたいな物かと思ってたけど、ちゃんと効能があるんですね。いや、ビワはビワで効くんだけどね。何が効いてるのかは知らないけど。
「ありがとうございます。…そう言えば、薬造って素材減ってしまいましたよね?大丈夫ですか?」
「素材無い、薬有る。問題無い」
貼り薬をしまいながらそう答えてくれた。素材が無くても薬があればいいのか。そう言うならそれで良いか。いや、それで外で襲われたんじゃなかった?違うな。薬も素材も無くなったからか。在庫チェックはまめにしないとですね。
「収繭、製糸、村総出。村人忙しい。外行かない。素材無い。怪我人、薬使う。薬無い」
「収繭作業と製糸作業は村総出で行うため、村人が外に出ないから素材が無くなって、怪我人が出て薬を使ってしまって、薬も無くなった?」
こくこく。
いや、それを見越しての備蓄でしょうよ。
「想定以上に怪我人が出た?」
「倉庫壊れた。下敷きたくさん。怪我人たくさん」
え?倉庫?倉庫って壊れるの?机の上の箱を指すと、ふるふると横に首を振られた。
「倉庫、物たくさん。建物、大きい」
「中身がどこいくか解らない倉庫ではなく、普通の倉庫ですか。物をただ入れるだけの」
いや、きちんと整理整頓はされてるんでしょうけどね。でないと探すの大変だ。…てか大事じゃないですか。首縦に振ってる場合じゃないでしょう。
「その倉庫は今は?」
「そのまま。収繭、製糸、先。木材足りない。収繭道具、製糸道具、先」
「壊れたらままで、木材が足りない、と」
道具が先は、使うのが先なのか、倉庫を建てるより先に道具を造ったのか…。どっちにしろ木材が足りてないんだね。
…四人の仕事ができた気もするけど、木を切ってすぐに木材にできる訳じゃないし、倉庫建てろって素人に建てさせるのも違うだろう。建てられるとも思わない。出来るとして、木材の買い付けに行くぐらい?
「倉庫、後。薬、いる。外、出た」
倉庫は後でも良いけど、薬はそうはいかないから採集に出た、と。倉庫の倒壊なんてイレギュラーが出たんだ。何が有るか解らないし、薬は早めに欲しいよね。少なくとも造り始めるまで三日かかるわけだし。
…ところでグスタフさん、そろそろ戻ってきませんか?
「オレ、トム、誰?」
誰?あぁ、私ですか。名前を言えば良いんですかね。そういや、名乗ってなかったか。あの四人の事言えませんね。
「庚です」
「かの…えで…す?」
今まで普通に語尾は語尾として流してたのに、何故、ここで引っかかる?
「かのえ」
「かの…え……カノ!」
何でよ?言えない訳じゃないよね?言えてるよね?何故二文字にする?
「コボルト達に取って、人の名前は二文字なんじゃよ。何故かは知らん。他の物は全部ちゃんと言うのに、人名だけは二文字にしてしまうんじゃ。どこを取るとかの基準もよく解っておらんのじゃよ。学者が聞いたことがあるのじゃが、「名前、二文字」としか答えてくれんらしいのじゃ」
てことは、「かえ」とか「のえ」になる可能性もあったのか。種族的習慣なのかな?
「さっきの話じゃが、試してみるかの」
さっきの話?あぁ、分業のですか。
「丁度ここに調合士と薬師成り立てと、薬師のベテランがおるのじゃ。後は調合したこと無い者を連れてこれば良い。その者が〔調合士〕になってしまったら、なっとらん者と交代したら良かろう」
「それは…でもコボルト達は収繭と製糸で忙しいのでは?」
「二人程おらんかったか?若いのが」
「あの人達は…次は金曜になるみたいですよ?聞いてみないと解りませんが」
イン時間の問題がね。今日もそろそろ落ちないと不味いんじゃないか?
「なんと。使えんのう。今日はもう遅いし明日からするつもりじゃったが…」
使えないとは酷いですね。然もそれ、グスタフさんの手伝いであって、コボルト達の手伝いじゃないし。
「ビバリーもおるし、アドルフも来ておるから二人に話すかの」
アドルフさんも来てるの?あの人も人間じゃなかったのか…。
グスタフさん達も宿屋に泊まるそうだ。…忙しいのに泊まり客いっぱいなのは迷惑にならないのかな?
宿屋では異邦人四人は顔を突き合わせていて、世界人三人はお茶を飲んでいた。ドミニクさんも居るって事は、今日の作業は終わったのかな。
「あ、庚さん、ちょっといいですか?」
グスタフさんに、四人に先程の事を聞いてみる、と伝えると、じゃあ、わしは向こうに行っておるの、と言って世界人の方に歩いて行った。
「庚さんは何か有りましたか?こっちは殆ど無くって、どうしたらいいのか…」
「手伝う事無いのに、手伝えってクエスト、酷すぎるよな」
「全く無い訳では無いようなんですが、どれも「すぐ、違う」なんですよ」
「パムだかピムだかが言ってた倉庫は?」
「私達が建てられる訳ないじゃない。材木集めるぐらいよ」
「材木集めたら良いじゃないか」
「…木を切ったって、材木として使えるのは当分先だろ?若しくは材木落とす魔物を倒すか…」
「…どれが落とすのよ。今まで見たこと無いわよ」
「タムの言ってた食料は?」
「獣はまだ良いわよ。木の実の説明して貰わないと、どれ採っていいか解らないじゃない。どの木なのかも。それと食料の話をしたのはテムさんで、タムさんは無いって言った人よ。獣も何指してるか解んないのよ?」
「…とまぁ、こんな具合でね。出来そうな事が無いんだよね」
「…タムだのパムだの、何で皆名前が二文字で、最後に「ム」が付くんだよ!」
「「フ」も何人か居たわよ」
ムにフか。
「ドムさんにグフさんも居るかもですね」
「?ドムさんなら居たわよ?それがどうかしたの?」
…何?通じないだと?これがジェネレーションギャップ?男二人もダメなの?…駄目だ。皆首傾げてる…。哀しいな…。
「…気にしないでください。こっちも薬の素材が足りないけど、すぐでは無いと言われました。それとは別にグスタフさんが実験したいと言ってるんですが、内時間で明日の話ですし、コボルトは関係無いので、無理ならそう言ってください」
「明日は辛いわね…」
「無理だ」
「厳しいね」
「ごめんなさい」
口々に謝られました。気にしないでくださいな。解ってて一応聞いただけですし。
「食料集めと材木集めと素材集めか。どんなものか必要か聞いて、最悪単なる荷物運びだな」
「そうなるわね…もしかしたらまた状況変わるかも知れないしね。そうなったらそっちをすればいいのよね」
「じゃあ、私達はもう落ちるわね。お休みなさい」
口々に世界人四人にも挨拶をして部屋に引っ込んでいった。
「明日は無理だそうですよ」
「そうか。アドルフにもビバリーにも了解は得たぞ。ビバリーはアドルフが調合士になってしまったら、じゃがの」
「おいおい、それじゃ俺が調合士に向いてないみたいに聞こえるぞ?」
「なんじゃ。向いとると思っとるのか?」
「いや、そうじゃないけど…」
「はいはい、その話は後でもいいでしょ。庚ちゃんご飯食べてないのよ。昼が早かったのに。他の皆は食べたわ。先にごめんなさいね?でも二人共戻ってこないんだもの」
調合してたからな。一番の原因はグスタフさんの長考だけどね。言われてみればお腹が空いた、とステータス確認したら、空腹ゲージが赤に突入してた。
「それは悪かったの。わしも食べるかの」
今日は初めての外泊だ。日課は柔軟体操だけにしておこう。
たらいに張ったお湯とタオルを貸して貰った。宿屋に泊まるといつもこれなのかな?タオルで拭いて服には〔洗浄〕をかける。異邦人はお風呂入りたくなったりしないのかな?現実で入ってるから、そう切実には思わないのかな。
寝る前に確認したらレベルアップできた。幸運はいつになったらあがるんだろう?




