本文67 強制クエスト
「庚ちゃんいた~」
ドミニクさんの声がしました。しまった。探されたか?
「工房に行ったら既にいないんだもの。随分速く薬造れたのね」
まぁ、潰す作業がなかったら早かったですよ。調合の大半はあの作業と煮詰める時間ですからね。
「ちょっと待ってて。怪我人の様子みたら戻ってくるから」
ひらひらと手を振ってドミニクさんは去っていった。待てと言われたなら、ここで大人しく待ちますか。
チョシルはこの山で、手にはいるんだよね。取りに行ってた訳だし。リバイブとソルタンが解らないな。ソルタンは余り匂い無かったし、植物油だろうか?朝市で売ってるかな?
そうだ、最初に造ったあれの効能は見てなかったな。あれにもリバイブを使ってたんだったか。それも聞いておけば良かったかな。
「お待たせ~」
ほどなくドミニクさんが戻ってきた。
「向こうで座って説明するわね」
お昼ご飯食べた場所でした。
「庚ちゃんはいつからあそこにいたの?」
「ドミニクさんがくる、ちょっと前ですよ。シフォンさんと一緒に外に怪我人がいる、と聞きましたので殆ど変わらないぐらいじゃないですか?」
やったのは回復ポーションと治癒魔法使っただけですからね。
「そう。だったら最初からね。ま、簡単な事なんだけど」
「薬草を取りにでていたあの三人を、あの連中が魔物と勘違いして襲って、反撃受けて激高して、村まで追いかけてきた。村に入る前にセム、薬師の彼ね、が倒れちゃって、あわやと言うところでチュールちゃんが庇って出たみたい。歩哨が三人を見つけてたから、既に入り口で騒ぎになってたみたいよ」
ならチュールさんも少し先行してたぐらいなのか。
「で、コボルトは魔物ではないって事をなかなか理解してくれなくてね。コボルトを攻撃して何が悪いって。村には街と同じ機能があると言っても、たまたま安全地帯に村を拓いたんじゃないか、なんて言うのよ?例えそうだとしても、百年単位で交流のある村の亜人の事を、最近来たばかりの異邦人が偉そうに言わないで欲しいわよね」
「やっぱり異邦人でしたか」
「世界人で亜人を魔物扱いするのはごく一部の人間至上主義者だけよ」
いるには居るんだ。
「そんな彼らでも、いきなり襲えば自分が犯罪者になるって解ってるから、侮蔑的なことを口でいうぐらいよ?」
それはなんとも牧歌的と言うか、実力行使出来ない分鬱屈がたまると言うべきか…。
「因みに街と同じ機能ってことは、ちゃんと衛兵も居るのよ。村に入ればすぐさま逮捕されること、街に戻っても同様な事を教えても信じてなかったみたいだけど、こっちの人数も増えたし、これ以上追撃は出来そうに無いと思ったのか去っていったわよ」
「コボルト達には暫く外に出ないように言っておいたわ。で、念の為、私は暫くこっちに居る予定なのよ。あの四人も残るみたい。強制クエストがどうたら、とか言ってたわね?なんかしないと帰れないらしいのよ。庚ちゃんはどうする?と言っても一人で帰る訳にもいかないだろうから、ビバリー達が戻って来てからになるけど」
「グスタフさんとロイさんに、ここに居ることが伝わってるなら、別に問題無いです」
「そう?じゃ、宿屋に案内するわ。四人は既に連れて行ったわ。荷物をおろして…って手ぶらよね。少し休憩してらっしゃいな。私は収繭作業の様子を見に行ってるわ。どうせここにいるなら紡ぐ所までやっちゃおうかしら?」
最後のは独り言ですよね?素人に高価な糸を紡がせたりはしないだろう。使い物にならなくなりそうだ。したこと無いけど、画像とかでみる限り、難しそうだ。
宿屋には四人ともいた。食堂でお茶をしているみたいだ。部屋を確認して戻るとシフォンさんから声をかけられた。
「庚さんお疲れ様。薬造れたんですってね。あのコボルトも大丈夫らしいし、良かった」
情報が早いですね。ついさっきの事なのに。まぁ、取り囲んでたコボルト達が薬塗ってから散っていったから、それで広がってるのかもしれないけど。
「皆さんもお疲れさまです」
「で、その連中捕まえなくて良かったのか?」
おや?衛兵システムの説明は受けてないのか?
「街に入ったら捕まるなんてそんな暢気でいいのかしら?気付かないで通しちゃったりとか…」
「人が多いと門番が気付かない可能性もあるよね」
あ、衛兵システムを理解してないんだ。門番さんが捕まえると思ってるんだ。
「衛兵は門番さんと違いますよ?」
え?と言う顔で見られましたよ。
「衛兵は街に入った瞬間に現れて、逮捕するんですよ。そのまま衛兵詰め所に連行、尋問・事実確認の後、刑の執行です。冤罪は無し、逮捕したことは犯罪被害者、居なければ被害者に一番近しい人と役所にのみ連絡、24時間以内に減刑の嘆願がなければ、執行です。軽い犯罪なら執行猶予がありますけど」
「王国内の街全で連携されてて、どこで犯罪を犯したとしても、街に入った瞬間に逮捕です。村にもあるとは思いませんでしたけど」
「なにそれ…」
「犯罪犯して捕まりたくなかったら、街に入らないか、王国の外に出るしか無いみたいですよ」
「えげつなー」
「…どこで知ったの?」
「図書館の本です。「王国法令集」だったかと」
読んだのは貰った本だけど、図書館にある本と言ってたもんな。なら間違ってないだろう。
「…なんでそんな本を読んだんだか」
そこに本が有るからです。
いや、木下さんの言葉がなきゃ、かなり後回しにしたとは思いますけどね。
「なら、あの連中は放って置いても大丈夫ってことね。ところで、庚さん強制クエスト来た?」
「あぁ、ドミニクさんが言ってましたね。帰れなくなったとか。私には来てないんですが、どんなのなんです?」
そんなもん見てませんよ。
「来てないのか。やっぱりパーティークエストなのかしら?あの連中が去って行って、村に入った途端来たのよ。〈収繭・製糸作業中で忙しいのに、緊急事態で外に出られなくなったコボルト達の手伝いをしてください〉ってやつが。しかも追加で〈このクエスト中はポートが一時的にこの村に変更になります〉って。ステータス確認したら『モスの村』に変わってるのよ」
自分のステータスを確認してみる。『テグの街』だな。
「私は変わって無いですね」
「お手伝いって漠然と言われて困ってるのよ。具体的に何したらいいのか、何をしたら終わるのか。最長でコボルト達が製糸作業終わるまでよね…」
「昔懐かしお手伝いクエストなら、村人に聞いて回るとか?」
「問題はだ、今日も既に良い時間だし明日早めにインするとしても、こっちでは金曜の夕方になってるって事なんだよな」
あぁ、時差の問題か。数日が何日なのかが問題か。
「強制クエストなのに何も出来ないで、失敗で終わらせるのも悔しいし」
「今日中にある程度聞いて回って、出来そうなことはしておくしか無いのでは?まぁ、無理しない程度にとしか言えませんけど」
本当にそれしか思いつかないよ。
「世界人と絡む長期クエストには、やはり時差が問題になるな。お使いクエストだと、こっちの都合のいい時はここは夜で、相手が寝ちゃってたりするし、期限がタイトだと、深夜や早朝にインしなければ失敗になったりするし」
「かと言って、同じ時間の流れだと、平日は夜にしか来れないから、それはそれで困るわよね」
あぁ、そうか。グスタフさんやロイさんが「都合が良いときでいい」と言うのは、異邦人を弟子にしたときの思考ルーチンなんだ。現実で一日インしないだけで、三日経つんだもんな。そりゃ普通の弟子ならとっくに首だわ。
「その辺は解ってクエスト組んでる、と運営に期待するしかないか」
「でも、コボルト達を襲ったのは異邦人で、突発クエストなんじゃないの?」
「いや、魔物でも異邦人でも不注意でもなんでも良かったのかも知れないぞ?ここに異邦人が居るときに、怪我人が出る、と言うのがトリガーかもしれない」
なんとまぁ、色々考えるものですね。
「クエスト出ちゃったんだから仕方ないじゃない。それより、今の私達の雇い主はドミニクさんよ。まずはドミニクさんに指示を仰がないと。収繭作業も放り出してるんだもの。これで弟子になれなかったら、私は嫌よ!作業場に行くわよ!」
「庚さんはどうします?」
「クエストは私には関係ないですが、ドミニクさんの所にいくのは賛成しますね」




