本文06 可能性
「ブラックボックスは我々には触れられ無い。つまり、ブラックボックス開発者のBB社に頼むしかないのだが、すぐには不可能だ。上層部から許可がでないといけないからな。会議でもしてるんじゃないか?」
愉快そうに西門さんが言う。
「お前さんは参加しなくてええんか?」
もっともですね。喋り方からして偉そうなんですが偉い人じゃないんですかね?
「報告は済んでいる。必要なら呼び出しがかかるさ」
「それもそうか、って俺に呼び出しだ。すまんが、席外すわな
」
そう言って村山さんが光って固まった。先程まで動いていた人間が時が止まったように動かなくなるのを見るのは変な感じがする。
「えっと、結局会議が終わるまで待つしかないってことですか?」
会議って長いんじゃないの?人集まるまでに時間かかるしってVRシステムなんて物があるんだ。ネット会議とかになるのか?
「その通り」
「では悪い情報は?」
あまり聞きたく無いデスケド。
「その前に、ちょっと実験につきあって貰えないか?」
言いながらテーブルの上に色々取り出す西門さん。ゲーム上のアイテムのようだった。
「これらを君の鞄やポケットに入れてみてくれないか?私は君の物を入れてみるから。木下、お前もやってみてくれ」
三人で物を出したりしまったり、とは言っても二人は私の物をしまえなかったし、私もアイテム類をしまうことは出来なかった。どうなってるの?
「どちらも無理だったか。では次だ。ちょっとこれを借りるぞ」
そう言うとボールペンを手に取り、書き込もうとして何もかけ無いみたいだった。端から見てると書く振りしてるようにしか見えませんね。木下さんにも同様にさせてたけど、彼も書くことは出来なかった。どうなってるの?
西門さんに差し出された紙と鉛筆では、二人は書くことが出来るのに、私が書くことは出来ず、紙とペンの組み合わせを変えてると、誰も書くことは出来なかった。
だから、どうなってるの!?
「次に、これを食べてみてくれないか?」
差し出されたのは飴のようだった。
捻ってある包み紙を開けて口にいれようとしたがけど、それが口に入ることはなかった。口に壁が在るかのように。最終的に口の中に放り込んでみたら、跳ね返って落ちてしまった。口の方には当たったような感触も無く。
「最後の実験だ。手を貸してくれないか?」
言われるがままに差し出した私の手首を掴み
「変わった手の出し方をするね」
と言いながら脈をとる西門さん。あ、それもよく言われます。合気道してる人間なら普通ですよ?
頷きながら差し出してきた西門さんの脈を測ってみたが、予想していた通り脈は感じられなかった。
私の顔をみて西門さんが言う。
「解ったみたいだね」
「何が解ったんですか!?」
木下さんは叫んでたけど、ここまでくれば予想がつくってもんですよ。つきたくもなかったですけどね。
「お前は解らなかったのか?彼女はこちらの物に干渉出来ない。私達は彼女の物に干渉出来ない、と言うことだよ」
「話が出来る事と、掴んで開け閉めできることはなんでか解らないですけどね」
干渉出来ないなら会話できるのも触れるのも変だと思う。飴の包み紙開けたし。木下さん懐中電灯バラしてたし。またしてもご都合主義?
「それに関しては断言は出来ないんだが、恐らくは、ズレているんだろうね」
「「ズレ?」」
「そう。『ズレ』だ」
「君がここにいる事だか、幾つか仮定がある」
西門さんが滔々と話しだした。
「一つ、君の経歴が出鱈目で過失でログインしてしまった。だがその場合、データが無いのがおかしいしログアウト出来ないのもおかしい。そもそもステータスの初期設定しなければアバターが作れない。アバター無しでログインなんて出来ないはずだからな」
「一つ、故意に違法手段でログインした。これも同じ方法で否定される。別の場合としてブラックボックスに干渉していた場合だが、我々と接触してから一時間以上経っているのにも拘わらずBB社が気付いて居ないはずがない。BB社社を出し抜く様な人間が、目的もこなさず何時までも我々とお喋りしているのも変な話だしな」
「一つ、BB社が何かしら答えを知っている。例えばBB社が仕込んだNPCアバターとかだな。だがそうすると、今まで発現しなかった理由が解らない。時限式だとして、そんな事して彼等に何の得があるのか。解らないから保留だな」
「一つ、タイムスリップした場合だが…これも幾つか考えられる」
「一つは肉体ごとした場合だな。この場合は警察に記録があるだろう。精神生命体に進化した場合も肉体は消滅してしまうから同じと見ていいだろう」
「一つは思考のみだが、これの場合は病院と警察だ。肉体はその場にあるんだ。肉体的死亡が無ければ、今でも病院に居ることだろう」
「一つ、ここに来たのが一時的で、元の時間軸に戻る。こうなると、現代の君と話をするか、既に居ない場合は日記みたいなものか、第三者へ伝えているかしていなければ証明のしようがない」
「一つ、ここと向こうの世界二手に別れた。これは、現代に君が生きていて話が出来たら証明も可能だが、死亡していれば証明不可能だな」
「そして最後だ。君は平行世界から来た。平行世界は解るな?似たような世界だが少しずつ違っている世界が幾つもある、と言う考えだ。そして、ここが君が居ない世界だった場合、証明することは不可能だ」
「一つを除いて、何故そうなったかは、それこそ神の意志か悪魔の仕業か、と言ったとこだな。それを行った方法は現代科学では解明出来ない」
西門さんは一息ついて言った。
「君はここの現実世界に存在していない」
「あれこれ調べたんだか…見つからなかったよ。君がいる痕跡は」
申し訳無さそうに西門さんが言う。
「…私が、中二病のNPCの可能性が一番高いと言うことですか?」
それ以外は荒唐無稽だと、そう言うことだろう。
私はそう納得仕掛けたけど、西門さんは違うと言った。
「いや。NPCにしては作り込まされ過ぎている。『中嶋庚』にする必要性が無いんだ。そもそもBB社がそんな仕込みをするはずがない。ブラックボックスに、ゲームを監視、干渉するプログラムを組み込めばいいだけなのだから。発覚の恐れがあるプログラムなどあそこの技術者達が組むとは思えない。こちらから悪戯を仕掛けたわけではない、ブラックボックス由来の不具合が起きた場合、全ての損害の責任をBB社が持つと言う契約を交わしている。ある意味一番可能性が低いのが、BB社の関与だよ」
となると平行世界世界しか残らないことになる。いいのか?それで?
「そんなSFだがファンタジーみたいな話信じるんですか?有り得ないです…」
「平行世界の理論は確立されてないから、ファンタジーだな。私は科学信仰主義者ではない。目の前で起きている事を否定してもしょうがないだろう?君はここに「いる」のだから」
「っと、私も呼ばれてしまったよ。木下、彼女に第二世界の説明をしておいてくれ。取り合えず公式に出てる分だけだ。では失礼」
喋るだけ喋った後西門さんは光って固まった。
うん。淀みなく話す人だったな。
残された二人で顔を合わせる。
「木下さんも信じるんですか?平行世界とやらを」
木下さんは苦笑しながら答えてくれた。
「僕に聞かないでください。解りません。あったら楽しいかなとは思いますが、巻き込まれたらたまったもんじゃないでしょうね。その辺は学者さんとか科学者さんに任せますよ」
「取り合えず僕に出来ることは、上司の言い付けに従う事です。まぁ、西門さんは直接の上司では無いんですが、僕の課では「エンジニアさんに逆らってはいけない」と言う決まりがあるんです
」
にっこり笑うと木下さんは聞いてきた。
「説明始めますね。僕プレゼン下手なんで解りにくい処もあるかも知れません。解らなかったら聞いてくださいね」
あの端的な説明聞いたら、上手とは言えませんよね。
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