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第二世界  作者: 長月 萩
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本文05 ブラックボックスの説明

残された私達は顔を突き合わせて首を傾げる。

「情報交換て何したらいいんでしょう?」


「そやなぁ、ま、取り敢えずあっち行って座ろや」

広場の角にあるテーブルと椅子を指す。そう言えばずっとつったってた。



コートの下に隠れていたポーチやコートにある複数のポケットからテーブルの上に中身を出していく。

「…色々持ってんな。どこ行くつもりやったん?これなんや?」


最後にマルチツールが出てきて、ついに呆れた声を出す村山さん。

因みに出てきたのはマルチツール以外は財布・小銭入れ(私は札入れと小銭入れは分けてる派だ)・ハンカチ・ティッシュ・部屋の鍵・ボールペン・懐中電灯、それに先程の履歴書。


「どこって、近所のコンビニまで…」

はい、よく言われることです。これに肩掛け鞄が加わると更に言われます。マルチツールを展開させながら弁解を続ける。ナイフ、ペンチ、缶切り等のついているアーミータイプのマルチツールだ。格好いいんだこれが。

「これ貰い物なんですが、あったら便利かな~って。使ったことは一度もないですよ?懐中電灯は昔夜に玄関の鍵穴が見えなくて難儀したことあるので、それから持ち歩いてます」


木下さんもすっかり呆れている。

「…女性の持ち物には見えませんね…櫛とか、化粧品とかは?」


それもよく言われる…。

「櫛は鞄に入れてます。近くまでのつもりで鞄持ってこなかったもので…化粧品はないです。化粧しないんで、普段は」



「今もしてないんですか?」

聞いてきたのは木下さんだが、視線は二人分。


「面倒くさいんですよ。毎日化粧のできる女性を尊敬しています」

嫌みではなく、心底尊敬している。「お洒落とはキツい、寒い、暑い、痛いに文句をいわないことだ」と聞いたことがあるが、とてもじゃない。どれも耐えたくない。ならお洒落じゃなくていい、と思っている。


就職したら化粧を覚えないといけないかな、と思いつつも化粧をしなくていい職場に就けないかな、とも考えているあたり、「キレイ」であることに努力を惜しまない女性とは全く話があわないのもいつものこと。私に美容に関する話を振ってくる女友達はいない。…女友達が居ないわけじゃないですよ?


「これは?携帯端末みたいやんな」

「そうです。電源がここで…ってつかない!?」

電源ボタンを長押ししてもうんともすんとも言ってくれない。出掛けるとき電池は満タンだった。壊れたか!?と青くなった私に、懐中電灯をバラして戻してしていた木下さんの声が掛かる。


「これもつきませんよ~。電池切れですかね?」

一ヶ月前に替えて使ってないから多分それはない。首を振る私に、今度は村山さんが話しかけてきた。


「他に電化製品は持っとらんか?時計、あったよな?」


「これはねじ巻き式で、電池式じゃないんです…」

蓋付きの懐中時計時計はチクタクとちゃんと時を刻んでいた。電化製品ではないよな…。



「二つでは根拠は薄いが電化製品はアウトの可能性があるな」

メガネに白衣の長身の男が現れた。


「存在しないはずの過去の人間かどう見えるのか気になってな。…ふむ、普通だな」


「…西門さんですか?」

こんなタイプが好みだった友人を思い出した。腐ってたけどいい友達だ。


思考をぶったぎる様に西門さんが聞く。否定しないってことは在ってたのかな?

「君に質問だ。君の世界にVRシステムはあったかい?」


「無かったです。研究はされているのかも知れませんが、私は知りません。小説や映画、漫画でしか見たこと無いです」

ネット小説はよく読んでいた。その中ではテンプレだった。異世界転生・転移・召還、デスゲーム化したVRMMO。本やゲームの中に入るのも。


「そうか。さて、君に良くないお知らせと、悪いお知らせがある。どっちから聞きたいかね?」


「「どっちも悪いんかい!」」

私と村山さんのツッコミが被った。訛り無いけどこの人も関西人?


はぁ~、とため息をつきつつも聞かないわけにはいかないだろうから、少しマシそうな方を選ぶ事にした。

「じゃあ、定番で良くないお知らせからお願いします」


「君のデータは全てのプログラム上に存在しないことが判明した。後あるとすればブラックボックスの中だけだ」


意味分からん。




「ブラックボックス?…内部構造が解らないと言う?」


「そうだ。先程フルダイブは50年前から可能になった、と言ったのは覚えてるな?その技術はその時からずっと同じ一社が持ち続けてるんだ。BB社というな」


BBってブラックボックスなの?


「一社って…。解析とか流出とか全く無いって事ですか?新規開発も?類似品とかもないんですか?○軍とかシステム解析に躍起になりそうですけど…ハッカーさんとかも」


海の向こうの超大国とか、赤い隣国とかめちゃ頑張りそうだけど。



「ハッカーと言う言葉をどうとっているかはともかく間違いではないな。そもそも触れない。そのブラックボックスは。フルダイブ式の技術が必要な場合、BB社に申請をする。許可が下りたらBB社の人間が設置して封印していくのだ。そして、権限者以外がいじろうとすると、接続されているCPごとクラッシュだ」


「しかもBB社は不正アクセスを絶対許さない。クラッシュ後のブラックボックスを可能な限り回収するし、企業の場合は公表の上、取引停止に莫大な違約金の請求だ。まぁこれに関しては契約書通りなんだがな。クラッカーの場合は国際手配だな。どうも個人を特定する手段を持ってるらしく、ネットにアクセスしたらすぐ追手がきるらしい。今じゃクラッカーの間では触らぬ神に祟り無し扱いらしい」


「相手が国の場合はさらに悲惨だ。国名・関与した部署のみならず、人員に至るまで公表。また、その国に属している全企業との取引停止だ。40年前に、実際にある国がやらかしてな、大手企業・技術者は国を出て行くし、未だ取引は再開されてない。その国は独自開発のシステムを使ってるが、比べものにならないぐらい拙い出来らしいぞ。社員を誘拐して脅迫とか物騒な話もあったみたいだが、成功例はないらしい。海外では社員はニンジャじゃないか、とか言われたりしている。まぁ、これはネタだな」


「それがあってからは契約にかこつけるまで最低で一年の審査期間、過去5年文の調査の許可が必要なんだ。公表はしてないが、創業時よりチェック入れられててもおかしくはないな」


「更にギーク連中を黙らせる為に、年に一度ブラックボックスを解放する。とは言っても会場を用意してそこの中でやらせるだけだけどな。持ち込みは何でも可で期間は一週間。その間の衣食住の保証付き。解析した者には報奨金と技術の複製許可、BB社への就職、就職を望まない者には技術向上の後ろ盾になることが確約されている。技術的にも金銭的にも。企業もこぞって人を送り込んでいるよ。これまた30年程行われているが、セキュリティを突破した者は皆無だ。それによってハッキング対策を強化しているという説もあるが」


「なんですか、その未来企業…」

怖すぎる。凄すぎる。あり得るの、それ?どんな世の中よ。


「未来企業か。言い得て妙だな」


「勿論、色々な国で企業で同様の技術を確立させようとしている。少しずつ発展をしているのだが、今でも50年前にBB社が出したものにすら劣ってるんだ。ある国よりはましらしいがな」


「ブラックボックス内にあるのが主に五感を始めとする感触・身体能力の反映なんだ。立って一歩を出す。これだけで人間の脳は凄い量の処理を行っていることは知っているか?」


「はい。私の所では最近になってやっとロボットにその動きをさせられるようになったそうです」

ニュースで流暢に阿波踊りを踊っていた。見た目は完全ロボットだったけど。


「やはりほぼ一緒の発展の仕方をしているようだな。こちらでも70年ほど前に確立していたはずだ」


「肉体が無い、意識の一部だけにその肉体があるのと全く同じ動き・同じ感触を味あわせるのにどれだけの処理が必要だと思う?嗅覚然り、味覚然り、かなりの個体差がある。それを画一にせず感じさせる。そして元々医療用であったがために障害者への補助はすざまじい。元々動かせなかったものは画一的になるようだが、後天的障害の場合は障害を受ける前の感覚と同じだという。リハビリの成功率もかなりあがっている。義肢装具の技術もBB社の登場によって飛躍的にあがった。素晴らしいと思わないか!?」


うん。凄い。それしかいえないです。

「はぁ~…技術の進歩って凄いですね~。てかBB社の回し者?」


「あはははは。それだけ凄いと言うことだよ。技術者としては脱帽するしかないのが口惜しいが、それだけ先を行かれている、と言うことだ。BB社の技術者はエキスパートの上を行くだろう」


「先程個人IDの話をしたな?それもBB社が担っているのだよ。国としては自前で何とかしたかったのだが、信用性という点でどれも今一でな。個人情報を詰め込むんだ。必要の無い情報まで引き出されてはたまったものではない。とてもじゃないが国民の同意は得られなかったんだ。BB社が絡むことに警察系や公安系は大反対していたんだがな。その辺は情報を出せる部署が彼らに融通を効かせると言う法律が、ひっそりと制定された」


「あの~話ずれてません?」

おすおずとした声で木下さんが口挟んできた。


「そうか?ブラックボックスの説明のつもりだったんだが」


「BB社の説明になってましたよ~」


「だが、BB社の説明をしないと、ブラックボックスに手が出せない理由が解らないだろ?」


「確かにそうですけど…」

尚も食い下がる木下さん。


「まぁ、良くない情報なのに、面白い話が聞けたってことで。話進めましょう。データがあるとしたらブラックボックス内。それから?」

ここはとりなして置くべきだろう。


「面白い話でしたか?」


はい。面白かったです。




お読みいただきありがとうございます。

BB社はBlack Box社ではなくBack to the Basic社の略です。

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