本文04 状況確認
「解らないなら解ってるところをはっきりさせよう。木下、最初から端的に説明してみろ」
「えっと、僕らがインして、真っ黒でバグかと思って近づいたら彼女で、叫ばれて、説明してたんです」
いきなり指名された木下さんが答えたけど、これで理解できたら天才じゃなかろうか?たまに間延びする語尾といい可哀想な子なのかしら?とみると村山さんも生暖かい目で見ていた。
「…端的とは短ければいい訳じゃないぞ?」
モニタ越しからも憐れみを含んだ声が聞こえてきた。もっともすぎる意見です。
「まぁ、間違っとるわけやない。省きすぎてるだけで」
コクコクと私は首を縦に振る。素晴らしい端折りっぷりだった。説明の呈は成してないけど、大方その通りなのがまたスゴい。
「インして彼女を見つけたんや。うずくまってたから真っ黒に見えて、オブジェかバグホールかなんかかと思って近づいて見たら人やった。でお前さん等を呼ぶか上に報告するか声をかけるべきか、相談してたら『人だ!』って叫ばれたんよ。で、まぁ色々まくし立てられたんやけど、ここがゲームの中だって理解してもらわれへんから、ステータス画面出させてみたんだが、初期ステータスだったもんで、お前さんに声かけたんや」
「なる程。木下は間違ってなかったな。まぁ、あれでは説明にはなってなかったが。では次、黒いの。説明してみろ」
偉そうなしゃべり方する人だな、と少し憤慨しながらも一番この状態を何とかしてくれそうな人のような気もするので私は説明することにした。
「私は中嶋と言います。大阪に住んでます。なぜここにいるか、ですが、さっぱり解りません。買い物に行く途中、気が付いたらここにいたんです」
「ここ着いて、誰に話しかけても誰も反応しないし、よく見たら変な服装してるし、どうしたらいいか解らなくってしゃがみ込んでたんです。結構長い時間でした。何の音もしないってすっごく怖いことなんですね。気が狂うかと思いましたよ。いや、もう狂ってるんでしょうか?気が付いたら別の場所にいるって、中二病かってかんじですよね。貴方達本当にいます?私の妄想じゃないですか?」
あ、駄目だ。ヒステリー興しかけてるのが自分で解る。だって何も動かない、何の音もしない世界、スッゴい怖かったんだもん!!
「ちょう、落ち着きぃや。中二病って自分幾つやねん。見た解るやろ?俺らはここにおる。なんなら触って確かめるか?」
おどけたように両手を広げて言ってきた村山さんを見て、正気に戻れた。…さっきもこの人が正気に戻してくれたんだっけ。関西人ハラショー!
っとここは謝るべき時ですね。
「ごめんなさい。あの音のしない状態を思い出してヒステリー起こしたみたいですね。…どこまで話しましたっけ?」
「しゃがみ込んでた所までですよ」
ホッとしたように木下さんが答える。ごめんなさい、貴方にも迷惑かけました。思わず苦笑がこぼれます。
「暫くしたら人の声が聞こえて…。後はご存じの通りです。…あの時もヒスってましたね。本当にごめんなさい」
頭を下げる私に
「いえ、今のはともかく、あの時は半分も聞き取れてませんでしたから」
とフォローにならないフォローをする木下さん。自分でもそれに気が付いたのか苦笑いをする。
自分でも何言ったか覚えてません。つくづくゴメンナサイ。
「和んでるところを悪いが、解ったのは結局何も解ってないということたぞ?」
呆れを含んだ声が聞こえてきた。
「まぁ中嶋さんが言ったことを信用するならそうなるわなぁ」
「え?信用するんですか?」
私は思わず声をあげた。自分だったらこんな言い分信じない。可哀想な子か嘘を付いてると決めつけるだろう。
「嘘なんですか?」
だが、三人は違ったみたいだ。きょとんとした声を出す木下さん。
実際の所、木下は余り考えてなくて、村山と西門は保留しただけだったが。
西門さんは答えは返さず聞いてきた。
「取り敢えず君の身元を探ることにしよう。中嶋と言ったな?ここにきた日付、個人ID氏名・生年月日・住所に電話番号、仕事先にを教えてくれ」
また知らない単語が増えてるよ?
「個人ID?他は解りますが、なんですか、それ」
自分の世界ではまだ実行されてないけど、、国民総背番号制が導入されてる世界なのか?
「…ならいい。それ以外を教えてくれ」
説明はしてくれないみたいだ。
「名前は中嶋庚。来たのは11月15日。生年月日は1991年7月24日23歳。住所は…」
「ちょっと待って!!…1991年て90年前だよ!?」
叫び声をあげる木下さん。
90年て何の冗談だ?え?タイムトリップなの?SF?でも自分の世界ではまだ使われていない仮想世界とやらがある。90年あればここまで技術は進むの?そっち方面は全く詳しくない私には判断できなかった。
「はっきりさせよう。暦は何暦だ?」
そうだよね。暦が全然違う可能性もある。…だとやっぱりラノベ?
「西暦です」
「西暦とは?」
「世界的大宗教の神様の子供が生まれたのを元年としてだった気が」
「一緒だな。今は西暦2081年だが。こちらに来たのは何年だ?」
2081年…私何歳だ?あぁ90歳か。
「2014年です。え…と言うことはここは未来なんですか?タイムスリップ?」
「70年前ですか~。タイムスリップ…ラノベ展開かと思ったらSFだったんですか~」
なんとも気の抜けたことを言う木下。確かに「気が付いたら知らない世界」などとラノベ展開でしかないが、70年経ってもテンプレは変わってないのだろうか?などとくだらない考えが頭をよぎる。
「70年前か…タイムスリップとして友人知人レベルなら生存者もいるか?出来れば、親兄弟、親戚や友人の姓名と勤務先も教えてくれないか?あぁ、友人知人は…そうだな、取り合えず10人ぐらいでいい。なるべく最近あったとか、近くに住んでいる人間を頼む。その頃は、電話番号とネットワーク用のアドレスが別だったはずだな。どれか覚えているのはあるか?」
「今は一緒なんですか?」
一緒だと営業メールや営業電話がひっきりなしな気がする。捨てアドは別に持つのかしら?
「個人IDだけで統一されているよ。開示設定は細かくできるから、公的機関以外にはネットワーク用アドレスのみ開示するのが普通だな。個人IDが施行されたのは30年前だ」
30年前って割と最近だとか思ってしまうのは、すでに感覚が麻痺しているのかな。でも私が子供の頃から国民総背番号の話は出ていた。となると決まるまでに随分とかかったんだなぁ。と感心する。諦めない国が凄い。
「はぁ~。世の中変わるものですね~。と、履歴、履歴…あっ、履歴書見ますか?」
内ポケットからカサリと音がして思い出した。
「何でそんなもん持ってんねん…」
「なんて都合のいい…」
はい。ツッコミごもっとも。自分でも思います。ご都合主義、テンプレじゃん?
「あははは、就職浪人中でして、買い物ついでに投函しようかと。っと、この裏に名前書いちゃいますね」
コートの内ポケットから封筒を取り出し、中身を取り出すと裏に人名を書いた。…もう会えないのかな…。
「紙の履歴書か。初めてみたなぁ」
「切手82円だ!10円も安いですよ!」
二人は口々に好き勝手なことを言っている。確かに、メールで送るとか、エントリーシート式の会社も増えてきている。でもまだまだ手書きの履歴書を要求する企業は多い。
郵便料金もついこの間上がった所だ。てかまだあるんだ。郵便局頑張ってるな。
「えっと誰に渡したら?」
質問してきた西門はここにいない。二人は顔を見合わせていたけど、村山さんが手を伸ばしてきた。
「封筒も貸してな。西門、スキャンして送るから確認頼むわ」
指をちゃかちゃか動かしながら村山さんが言う。
そんな村山さんに西門さんが指示を出す。
「ついでにアイテムチェックもしておいてくれ」
「あ?…あぁ。…無理だわ。アイテムポーチにもアイテムボックスにも入らん。…ポケットにも入らへんわ」
鞄に入れようとしたり、ポケットに入れようとしたりしているけど何かに阻まれているようで入らない。…ドウイウコト?
「そうか、やはりな。…では調べてくる。ちょっと情報交換しておいてくれ。後、何か他に持ち物があるようなら出しておいてくれないか」
お読みいただきありがとうございます。