本文03 説明を求む
本日はこれで投稿終わりです。
動く物が何も無い状態で途方にくれていた私は聞こえてきた声に飛びついた。
「生きてる人が居た~」
しかも三人もいる。ほっとしたのか涙がボロボロ出て来た。三人が口々に何か言っているが耳に入ってこない。人の声が聞こえる事がこんなに嬉しいなんて…グズグズ泣く私の耳に聞こえてきたのは関西弁の怒鳴り声だった。
「いいから落ち着け!人の話を聞けや!ステータス出せ言うてんねん!」
ステータス?何それ?
「【ステータス】?見せろって言われても…うわっ!」
声に反応するのか目の前に半透明の画面が現れた。項目が多いけどRPGなんかでよく見るステータス画面だ。何でこんな物がでてくる?びっくりして涙も止まりましたよ。右端の時計以外数値が無い。初期画面だな、こりゃ。
「…これですか。…何も入ってませんけど…」
「んなわけあるかい、見してみぃや!」
解らないから聞いてるんです!
「だからどうやって?」
「【開示】をタップすれば出来ますよ。【ステータス】の横です」
細身の気弱そうな兄ちゃんが言うと画面がもう一つ出て来た。
「えぇ!?画面が増えた?」
最初の画面の左にもう一つ画面が出てきた。名前『タッカー』て見かけバリバリ日本人なのに異人さんなの?茶髪は染めたんじゃ無くて地毛なの?
最初の画面を見ると【開示】の文字をみつけた。
「…これを押すの?…これで見えるようになってるんですか?変わったようにはって、【非開示】に変わってる?…できてます?」
【開示】が【非開示】になっただけで。これでいいのかと問いかける私を無視して、三人は空中を睨みつけていた。
「無いな…」
「無いですね…」
「てか、名前も入ってへんやないか!自分名無しの権兵衛か!」
口々に言う三人。
「何も入ってませんよね?てかこれどうやって出てきてるんですか?何で触れるんですか?」
「どうなってるんですかねぇ?」
問いかける私に答えになら無い答えを返してくる『タッカー』
「スルーすんなや!」
あ、ボケたつもりだったんだ。関西に住んで何年か経つけど、ボケに反応仕切れないことが多い。「そんなわけ無いでしょう!」と返すべきだったか。
「ごめんなさい、ボケもツッコミも苦手なんです。生粋の関西人ではないので…」
「…素ぅで答えんでや。寂しなるやん…」
『ツッコミは愛だ!』と言っていた友人を思い出す。
「あ、苦手と言っても自分で出来ないだけで聞くのが嫌とかじゃないですよ?どう返そうか考えちゃって間が空いちゃうんです」
「難しいですよね~。僕もよく『つっこめや!』って怒られるんですよねぇ」
『タッカー』さんに関西訛りは全く無い。無茶な要求をしないで欲しいものだ。条件反射で返せるのは大阪か兵庫で生まれ育った人だけだと思う。
「だから、素ぅでってもうええわ。…自分何してるん?」
黙ってゴソゴソしていた長身に声をかける関西弁。
「あぁ、西門と連絡取ろうかと…あ、出た」
「すまん、仮眠中だったか。よく解らないんだが、俺らのこと捕捉できるよな?もう一人居るんだか、確認してくれないか?あ、オープンにするわ」
空中を指先で押しながら独り言をしゃべっているようにしか見えないので首を傾げていると三人とは違う声が聞こえてきた。周りを見渡すが誰も居ない。
「…確認したが、もう一人?初期ステータスがあるのは解るが、何でここに?」
「見えないのか?」
「ちょっと待て。モニタで観てみよう」
「プログラムから観てたんですか…どうしてあれで何がどうなってるのか解るんでしょうか…」
情けない声を出す『タッカー』。
「変態だからな」
言い切る関西弁。
「変態さん?どなたですか?どこにいてはるんですか?声だけ聞こえますけど」
キョロキョロと辺りを見回すが姿は見えない。
「ここにはいませんよ。現実とやりとりしているんです」
笑いを含んだ声で『タッカー』が説明する。
「現実…電話のハンドフリーみたいなもんなんですか?変態さんは側には居ないって事ですか?」
理解できないので聞いてみる。それを遮るように不機嫌な声が聞こえてきた。
「誰が変態だ。今の声はそこの黒い奴だな?モニタでは確認した…が、プログラム上にはいない。どういうことだ?何が起きてる?」
西門の発言に全員が黙り込む。
プログラム?モニタ?現実?まるでゲームの中に居るみたいな言葉だ。となるとプログラムと言うのはPCのプログラムのことなの?解らない事が増えて飽和してきそうだ。
「…こいつはプログラム上にいないってのはどういうことだ?」
少し整理が着いたのか長身が尋ねる。
「そのまんまだ。今動いてるのはお前達三人だけ。それにら初期ステータスだが…これも変だな?何かが足りない?」
「「「足りない?」」」
展開されている画面を見比べてみる。どこを見ればいいのか解らないから『タッカー』のステータスを見ていた。異邦人…やっぱり異人さんなのか。レベル1。レベルがあるってことはゲームの中なのか?いや、でも私が出したステータスには何も入ってなかったし…思考が上滑りを始めた頃関西弁が聞こえてきた。この人タイミングいいな。
「あ、倫理コードとログアウトボタンがあらへん…」
「「え」」?
長身と『タッカー』の声が重なる。
「どこ?」
「右っちょのいっちゃん下」
「あぁ、こっちは【お知らせ】が端っこですね…」
確かに中嶋のステータス画面には倫理コードとログアウトボタンが無い。その二つが無いのに違和感なく並んでるその他のボタン。
「何を言ってる?ログアウトボタンがなかったらどうやってログインしたんだ?倫理コードが無いなんてそんなもの存在するはずがない。そもそもどこから入ってきたんだ?まだ流してないぞ?」
何処から聞こえるのか解らない声が色々聞いてくる。
知らんがな!そもそも倫理コードって何?ログアウトって何のことさ!今更ながらここが何処かすら聞いてないことを、私は思い出した。
「どうしようもないな。出て上に報告してくるわ」
言うと同時に長身が一瞬光って動かなくなった。
光った?え?ここの人って光るの?蛍?
「えぇ!?…あれ?どうしちゃったんですか?」
長身は彼らに会う前に見た人達のように身動きしなくなった。
「ログアウトしただけや。ここではちゃんとしたポート以外からログアウトしたら1分程アバターが残る。…原田が行ったから西門と切れたやないか。木下、お前繋いどけ」
ログアウト?さっぱり意味が解らない。何か人の名前も幾つか出て来たけど、誰だ?そう言や名前聞いてない。
「ログアウトって何のことですか?ここは何処で、貴方達は誰ですか?どうやったら帰れるんですか?」
一気に聞きたい事を聞く。この機会逃したらまた聞きそびれそうだ。
「名前は…言うてへんかったか。それ以外はさっき言うたんやけど…泣いてて聞いてへんかったんか…」
…聞こえてなかった。何か言ってるとは思ったけど聞き取ってなかった。だって人がいるのが嬉しかったんだもん!
「すみません。もう一度お願いします」
ここは素直に頭を下げるべきだろう。
「ここは『第二世界』俺らの会社が造った仮想世界や。名前は俺が村山。こいつが木下で止まっとるんが原田。声だけの奴が西門や」
「木下?『タッカー』さんじゃないんですか?」
他にも聞き捨てならない言葉があったけど、人名大事。てか日本名だ。
「それはゲーム名ですよ~。『第二世界』は仮想世界型オンラインゲームなんです。ステータスはゲーム用ので現実は違います」
笑いながら『タッカー』改め木下が言う。異人さんじゃなかったのね。
「現実にもステータスがある?」
「在る訳ないやん。自分にもないやろ?」
ボケたつもりじゃ無かったんだけどツッコまれてしまった。
仮想世界?オンラインゲーム?なにこのラノベ展開。
「ではログアウトは…」
「ゲームから現実に戻ることやな。第二世界ではどこでもログアウト出来るがポート以外からログアウトすると次にログインするまでアバターが1分間残る設定になっとる」
また聞き慣れない単語が増えた。どれから聞けばいいのかさっぱり解らない!
「じゃぁ、あの彫像みたいな人たちもログアウト中ってことですか?ログインしたら動きだすんですか?」
「いや、ログインしたら最終設定したポートに移動しとる。ここやったらあの噴水の周りやな。ついでにあいつらは世界人。NPCや。今ゲームは稼働させてないから止まってんねや」
また増えた…頭の整理が追いつかない。働け!私の脳みそ!と現実逃避しかかってたら、天の声が聞こえてきた。西門さんとやらの声だけど。
「ところでそろそろ私に説明してくれないか?そこの黒いのはどこの誰でどうしてそこにいるのか。ざっと見直したが、黒いのはプログラム上には見あたらない。なら、そこにいるはずがないのにモニタ上では見えるし、発した言葉はちゃんと処理されている。どうやってるんだ?」
「説明ゆうても俺もよう解らん」
「僕も解りません」
「私もさっぱりです」
寧ろ私が説明欲しいです!さっきの人消えましたよ!?どうなってるんですか!?
「なんだそれは」
呆れた声が聞こえてきた。
お読みいただきありがとうございます。