そのはち! 「やっぱり、サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」
この回で、「サンタくんのうわさ」は完結です。
ですが、さらにこの続編「サンタくんと一緒!」を同時にあげています。
もしよろしければ、そちらもどうぞよろしくお願いします。
では、どうぞ!
「ところでチビ。お前が合コンなんて一生縁がない場所に行こうとした理由を、俺はまだ聞いてないんだが?」
「また一生って言った!」
「理由は?」
に、睨まれた。しかもまた魔王降臨してる……。
恐怖に身をよじりながら、なんとか逃げれないかと視線をさまよわせた。だけど、あたしの態度がサンタくんのお気に召さなかったのか、距離を詰められた。
ち、近い近いちかいからっ!
目と鼻のド迫力の美形に、ウッと喉がつまった。な、なんでこんな急接近してくるの!? しかも魔王サンタで。
すぐそばにある顔に目を奪われそうになるけど、必死に視線をずらす。だって合わせた瞬間石になっちゃいそうなんだもん。会ったことないけど、メデューサってこういう怪物だよね。
周囲に人はいないし、助けを求められる相手もここにはいない。結美ちゃん、奈々ちゃん、サキちゃん、へるぷみー。
そもそも、周りの人にこの姿勢がどう見られるのか、想像するだけでも怖い。あたしでも傍から見れば、イチャついてるようにしか思えない。ま、でも、あたしとサンタくんの組み合わせだから、ありえないのはわかってる。
……むしろ、恐喝されてるように見えるかも? でも、それなら悲鳴を上げれば誰か助けて……あ、余計なこと考えるのはやめるから眼光鋭くするの止めてぇ! サンタくんの目からビーム出そうだよっ!
「吐け、理由はなんだ? チビ」
「う、ううう……」
知らないうちに冷や汗もかいてきた。うめき声が口からこぼれるけど、サンタくんはこんなことで容赦しないのはわかってる。
このエス! サンタくんのエスはサドのエスだよ!
がっくり肩を落として、渋々理由を言うことにした。うう、間違いなく、馬鹿にされる。
「……噂を、聞いたの」
「噂?」
「サンタくんとあたしがいつ付き合うかっていう、噂」
「へぇ」
なに、その気のない返事。
サンタくんは尋問の姿勢を崩さずに、この体勢のまま続けた。その目は、嘘は許さないと言っているのがわかる。
「それで、どうして合コンにつながるんだ」
「あたしが彼氏を作れば、そういう噂がなくなるかなって」
「ほぉーう、チビは、それほど俺とそういう風に見られるのが嫌だと。合コンを積極的に参加するほどに」
青筋をこめかみに浮かべて、引きつった笑顔になっているサンタくんを見上げた。け、血管がブチブチ切れそうなくらい、怒ってる? な、なんで!
というよりも、誤解だから!
「え、いや、その! そ、そうじゃないよっ!」
「じゃあ何だって言うんだ。ああ?」
ヤクザみたいに低い声で凄まないでぇ! さっきの十倍怖い!
魔王サンタにガタガタブルブルしながら、叫ぶように事情を言った。ええい、どうにでもなっちゃえ!
「ぎゃ、逆なの! サンタくんが、あたしと噂になって迷惑で怒るかなって思ったから!」
「……俺が?」
「そうだよ!」
こくこくと水鳥のおもちゃみたいに、首を動かしてアピールする。だって、絶対に怒るし、あたしを馬鹿にするって思ったんだもん!
あたしが肯定するのを、疑うようにサンタくんは眺めていた。じっと穴を空けるつもりなのってくらい顔を見てくるけど、これがあたしの本心だからしっかり見返した。
キリッと少し勇ましい顔をしてみせて、顔を合わせること十秒ほど。
サンタくんが動く気配がして、自然と防衛本能が反応してビクっと身をすくませてしまう。
ひぃいいいい、ご容赦を!
思わず目をギュッとつむった。だけど頬をつねるような感触も、頭を叩かれる気配もこなかった。
聞こえたのは、頭上から落ちてきた彼の深~い溜息だけ。
「別に、俺は怒らない。……それより、お前がその噂を最近聞いたことに驚いた」
「……え?」
サンタくんの返しに、パチリと下げていたまぶたを上げた。じっと彼の顔を伺っても、そこには嘘をついてる素振りはない。そもそも、サンタくんは意地悪は言うけど、嘘はつかないってことを思い出した。
最近って……前からあったってこと!? いつから? そ、それより!
「知ってたのっ?」
「まあな」
あっさり頷いてるけど、え、どういうことなのかな。つまり、サンタくんは元々この噂を知ってて、それで、あたしに何も言ってなかったの?
要するに、あたしの取り越し苦労ってこと?
「ハァ~」
どっと疲れが湧いて、肩がずっしり重くなったような気が。口から溜息と一緒に、魂まで出ちゃいそうだよ。
安心したけど、その分すっごくなんか脱力感。
あれ、でも、それじゃあどうして――
「なんで、噂放置してたの? サンタくんのことだから、否定してまわりそうなのに」
プライドが高いサンタくんのことだから、あたしと噂になるのなんて耐え切れないと思うんだけど。それこそ、根絶やしになるまでその元を潰していきそうなイメージ。
そのことを考えると……なんか、またちょっともやっとする。朝もあったけど、どうしちゃったのかな、あたし。もしかして、どこか体調でも悪いのかも。
うん、今日は早めに寝よっと。
一方、サンタくんはあたしの反論を微塵も気にかけないで、呆れた表情を浮かべていた。
「チビ、まさか、わからないのか?」
「なにが?」
「俺が、何故そうしたのか」
「……気まぐれ?」
「……ハァ」
なんであたし、そんなサンタくんに呆れられてるのかな? 変なこと言った覚えないけど。
「そうか、そういった面も小学生並みか。……いや、待てよ。最近のガキはませていると聞く。もしかすると幼稚園児以下か」
「よくわかんないけど、馬鹿にしてるのはわかったよ!」
ため息混じりに、すっごく失礼なこと言われた。あたしのどこが、幼稚園児以下なのっ!?
「わかった。チビにはガキらしく、直球で物事を噛み砕いて言わなければ伝わらないな」
「ガキじゃないもん!」
何度も言われたけど、そもそも、サンタくんも同い年でしょ!
だけど、あたしの主張も、サンタくんは溜息を吐くことで流した。
むぅううううっ! さっきから、一体なんなの!?
怒ったと思えば呆れるし馬鹿にしてくるし! 喧嘩売ってるのかな? 買うよっ!?
恨みを込めて睨んでると、突然サンタくんがあたしに振り向いた。
「――伊月」
「なっ!?」
な、ななななななななななななに!?
初めて、サンタくんに名前呼ばれたんだけど。
おまけに、サンタくん、今まで見たことがないくらい、真顔だし! 魔王モードとは違って威圧感はないけど、真剣味はそれより増してて、少し怖いくらいだよっ?
あたしの困惑なんか、全く無視してサンタくんは口を開いた。
「俺は、あの日以前から、伊月のことを知っていた」
「え?」
あの日って……初めて会った夜のことだよね。でも、それ以前からあたしのことを知ってたって、もしかして学校で?
詳しいことを聞いてみたくなったけど、サンタくんの真剣な目に呑まれて何も言えない。
「一番先に見つけたのは。目をつけたのは、俺だ。だから――」
手首をグイッと引っ張られて、サンタくんのほうに身を強制的に寄せられた。彼の唇が、あたしの右耳のすぐ傍を掠めた。
く、くすぐったいんだけど!? そ、それと、何が起こってるの!?
パニック状態のあたしを嘲笑いながら、サンタくんはそのままの姿勢で囁いた。うわーん、離してよっ!
「他の誰のものでもない。お前は、俺のものだ。……ポッと出た輩に、奪われてたまるか」
「~~っ!?」
耳に、耳に息がっ! ぞわぞわする!
そ、それに、あ、あたしはものじゃないもん! もしそうだとしても、所有権はあたしにあるよっ!
体が怒りで熱くなるのがわかる。それだけじゃなくて、なんか、心臓が飛び跳ねてるみたいに、バクバク言っててうるさい。耳鳴りみたいなのまでするよ。
慌てて身を起こして、後ろに素早く下がる。お尻がベンチと擦れて熱くなっても、それを気にする余裕なんて、あたしには全くなかった。
サンタくんの行動に言葉を失って、口を開け閉めすることしかできない。
「な……な、なななななななな、なんっなにっなにがっ!」
「なんだ、コイのマネか? アホ面に磨きがかかるからやめておけ」
サンタくんがいつものように罵っているけど、その表情はニヤケてる。まるで、あたしの動揺が楽しいみたいに。あたしは全然楽しくないよ!
合コンは邪魔するし、口を開けば毒舌ばっかりだし、時折魔王になるし、よくわかんないことを言って混乱させようとするし。サドだし、たまにドジをするし、どうしようもないくらいオレ様で偉そうだし、少しナルシスト入ってるし。
ああもう、とにかくっ!
あたしはひきつる唇を動かして、震える声で目の前の性悪サンタに向かって叫んだ。
「やっぱり、サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」
裏タイトルは「伊月の空回りと振り回されるサンタくん」です(笑)。
ほんのり甘くしたつもりですが、どうですか?
お子様な主人公なので、あまり進展しませんでした。
今後は、オレ様なサンタくんの健闘次第といったところでしょうか?
これのさらに後日談であり続編の話は、「サンタくんと一緒!」にて収まる予定です。
アドレスはこちら。
http://ncode.syosetu.com/n0580bs/
砂糖成分をより増やした内容となります。
もしよろしければ、読んでみてくださいな。
では、ここまで読んで下さって、ありがとうございました。