そのなな! 「一生早いってなに!?」
伊月ちゃんのあらすじ。
「サンタくんに拉致ナウ」
痛みと闘ってずっと目をシパシパさせてたら、あたしとサンタくんは外にいた。……いつの間に。
ついでに気がついたら、どこかの公園のベンチに座らされていた。
サンタくんはあたしをここに置いて、どっかに行っちゃった。「待ってろ」って言ったから、帰ってくるとは思うけど。
それにしても、サンタくん、バイトはいいのかな? 途中で抜けたことになっちゃうんじゃ?
止まらなかった涙は、ようやく落ち着きかけてた。痛みは多少残ってるけど、これはしょうがないよね。とりあえず、見えるようになったから、いいかな。
半涙目のまま、周囲を見てみる。目の前には芝生が広がってて、ダメージを負った瞳に優しい。休めるために、ぼーっと景色を観察。日曜日なのに、人気があんまりない。家族連れとかで賑わっていないなんて、もしかしてこの公園は穴場なのかも。
手持ち無沙汰でのんびりしてたら、目の前にニュッと手が出現した。その手には、紺の布ハンカチがのってた。
「冷やせ。このままだと腫れる」
「あ、ありがと」
サンタくんに差し出されたハンカチをありがたく借りる。まぶたに当てるとひんやりとして気持ちよかった。わざわざ水道の水で濡らしてきてくれたのかな?
前もこんなことがあったっけ。あの時はたしか、サンタくんにケイタイを盗られたような。あ、思い出したら少しイラッとする。
そのままサンタくんはあたしの隣に腰掛けた。魔王モードは解除されたけど、不機嫌そうな顔は変わってない。
「バイトはいいの?」
「ちょうど上がりだった。制服は後で返せば問題ない」
「そっか」
それを聞いてちょっと安心。サンタくんが暴走したのが元々だけど、その原因の一因が多分あたしだから、罪悪感みたいなのを感じてんだよね。
ホッと息をつくと、サンタくんがじろりと横目で睨んできた。
「で? なんでチビは泣いた? 理由を吐け」
「え? 別にあたし、泣いてないよ?」
「ああ? 見え透いたつまらない嘘をつくな。小学生でもその百倍はましな嘘をつくぞ。それともチビは、生意気にも俺を馬鹿にして喧嘩を売っているのか?」
え、ええっ? 睨まれても困るんだけど! だって、本当のことだもん!
「う、嘘なんかついてないもんっ」
「じゃあどうして涙が出ていたんだっ! まさか、あの猿になにかされたのか!」
「ちがっ! べ、べつに樫木くんは悪くないよっ」
「あいつを庇うのかっ!?」
「庇うとかじゃないよっ」
な、なんであたし今怒鳴られてるの!? なにっあたしなにかしたっ?
サンタくんは顔を般若のお面みたいにしてる。一体なんなの!?
サンタくんの表情怖いし、サンタくんの言ってることが意味わかんないし、あたしの言いたいことが伝わんなくて、イライラしちゃう。怒鳴り返したけど、サンタくんの眉間のしわが増えるだけで、現状が悪化した。
「だから合コンなんかやめておけばよかったんだ! それをお前はのこのこと間抜けにも釣られて! 見ろっ、目が真っ赤だっ!」
「だからっ! さっきから言ってるけど、これは違うの!」
「じゃあなんでだ!」
「オレンジで目潰ししちゃったの!」
「……あ?」
……? なんでポカンとしてるの? あたしは正直に話しただけなのに。
「……チビ、説明しろ」
「だから、パフェのオレンジ食べたら、目にその果汁が飛んで、涙が止まんなくなったの」
「……無理矢理迫られたとかじゃないんだな?」
「うん? 迫る……って、誰が誰に?」
よくわかんない。あの時、他のみんなは歌を歌ってたり、樫木くんはあたしの介抱をしようとしてくれただけ、だよね?
サンタくんの迫る、なんてあの場にいたみんな条件に当てはまらないはずだけど。
あたしの返事に、サンタくんはガクーっと肩を落とした。
「えっと……?」
なにがなんだか、やっぱりよくわかんないよ。
「……あんなに涙が出てたのは?」
「たぶん、直撃だったから?」
果汁百パーセントだったからかな? それとも、大量にかかったから?
「俺の早とちりか」
サンタくんは妙に疲れた様子で、ぼやいていた。
「早とちりって、なにが?」
「……チビには十年早い」
「むっ」
誤魔化された! 当事者なのにっ!
そもそも、サンタくんのせいで、合コン途中で抜け出す羽目になっちゃったし!
合流なんて、無理だよね。だって、みんなサンタくんの威圧で固まってたし。間接的にだけど、場の雰囲気を悪くしたあたしが戻っても、みんなのテンション下げちゃうから、やめておかないといけないかな。
う~ん、残念。
自然とため息がこぼれちゃう。
「もっと遊びたかったなあ」
「……嫌味とは、いい度胸だな、チビ」
「……はっ!?」
って、あわわっ! た、確かに連れ出した張本人がいるのに、この発言は嫌味に聞こえるかも?
勝手に拉致られたのは困るけど、サンタくんがあたしのことを心配してくれたことは間違いないんだし、慌てて付け加えた。
「ち、違うよ!? えっと、遊びたかったのは本当だけど、サンタくんが心配してくれたのはわかるし! でも、その、せっかく初めて会った人達だから、もう少しお話したかったというか……!」
結美ちゃんの彼氏さんのお友達だし、年上の先輩なのに気安い人なんて知り合う機会滅多にないもん。みんないい人たちばっかりだった。
あ、恋を探しに参加したのに、メルアドも交換してない……あたし。これじゃあ、友達以前の問題だよぅ。
そういえば、参加した男の人達にドキドキしなかった。う~ん、そういうのは、徐々になるものなのかな? まだそういう目で見れないのかも。これから、だよね。きっと。
一人で納得して頷いてると、サンタくんはあたしを横目で睨んできた。な、なによう。
「……俺は謝らないからな」
「ええっ!?」
ちょっと! 謝罪の言葉はサンタくんからは絶対ないだろうなって予想はしてたよ?
で、でも、開き直ってふんぞり返るなんて予想外だよ!
少しは悪びれてほしいんだけど!
あたしの文句が顔に明け透けて見えたのか、言わなくてもサンタくんは鼻を鳴らして一笑した。
フンって言ったフンって! 何度聞いてもサンタくんの「フン」と「ハッ」はムカムカする!
「俺は悪いことをしたなんて、サラサラ思っていない。だから謝る気はない。道理が通っているだろ」
「……通っているかもしれないけど、どうかと思うよ」
少なくとも、偉そうに言うことじゃないと思う。
「そもそも、合コンに参加するのは却下だ。チビには一生早い」
「却下って、サンタくんにされる筋合いないからっ! それに、一生早いってなに!?」
死んでも無理ってこと!?
不満にほっぺが膨らむのを感じつつ、あたしはサンタくんを抗議した。
だけど、彼はあたしの機嫌に興味がないのか、軽く聞き流した。「はいはい」って、適当すぎる!
明日投稿の一話で「サンタくんのうわさ」は完結です。
前作同様に、同時に続編「サンタくんと一緒!」の一話目を投稿します。
サンタくんが暴走しまくっていますので、糖分は急上昇してます。執筆最中は、梅津はコーヒーをがぶ飲みしました。
まさしくラブコメ、という感じになっています……といいな(ボソッ)
引き続き読んでくださると嬉しいです。
ではでは。今回も読んで下さり、ありがとうございました!