眠気を纏った救世主ー談義ー
「やっぱりアクラはすごいですね。1人で5人も倒しちゃうんですから」
レティは戻ってきたアクラにそう声をかけた。
「当たり前だろ。あんなゴミみたいな奴らなら、あと100人いても余裕だぜ!」
アクラは誇るように言った。
こんなに自信満々な発言をしても毒気を感じられないのは、アクラがそれだけの実力を持っているからなのでしょう。
「本当にそうですね。いつも私はアクラに助けられてばかりです」
ほんと、戦いの度に助けてもらってばかりで申し訳ないです。
「…それはそうとさ」
「はい?」
急にどうしたんでしょうか?
「レティ、なんであんたがこんな荒れ地に1人でいるんだ?」
「あ………。それは…………」
逞太さんの事や天使のことですっかり頭から抜けてしまっていました……
「あんたはたしか、あんたの両親と一緒に戦線に出かけて行ったはずだよな?」
「はい……」
「………何か、あったのか?」
悟ったような顔つきで、アクラは聞いた。
どうせなら、ずっと忘れていたかったですけど……
逃げてばかりもいられませんよね。
「我が闇の守護者先鋒部隊は……全滅しました」
「全滅………そう、か………」
どこも見ていない目をしての言葉だった。
「すみません」
「いや、レティが謝る事じゃないだろう」
「いえ。私みたいな未熟者が足を引っ張ってしまった結果だと思います……」
「けど、全力で戦ったんだろ?」
「はい」
「じゃあもう終わったことは悔やむな。両親もそんなレティじゃ、後を任せられ無いだろ。そして……親を亡くして今一番辛いのはレティだろ?」
「はい………すみません…………ありがとう」
あぁ、こんな私にも優しい言葉をかけてくれるなんて…
こんな、1人逃げ帰って来てしまった私に…
泣きそうです……。
しかし、泣いてる場合じゃ無いですよね。
「ところでさ」
アクラは気持ちを入れ替えたのか、元の口調に戻って言った。
「はい?」
「レティはどうやってここまで来たんだ? あんた1人で逃げてこれるほど、戦線は甘くないはずでしょ」
「そのことなのですが……最後にお母様とお父様が魔力を振り絞ってどうにかここまで送って下さったのです。私には、まだ役目があるって言って」
結局お母様とお父様に生かされた形になるのですよね…
「そうだったのか。んで、役目って何だ?」
「勇者の召喚です」
レティが勇者という言葉を口にすると、アクラは驚いた様子で目を丸くした。
「ゆ、勇者って言ったか!? あの、伝説のか!?」
「はい」
「ど、どうやって召喚するんだよ? 異世界からの召喚なんて出来るのか? そんなの大昔に一回出来ただけの話だろ。あたしにだってそんな超絶的な事出来ねーのに」
「それは、これを使ったんです」
レティはそう言うと、一枚の札を出して見せた。
「何だそれ?」
「これは、闇に伝わる秘宝の一つです。魔王様からお母様が預かっていたのを、最後に渡されてきました」
「そ、それは………すげぇな。そうだな、レティの一族は召喚魔法が得意なんだっけな」
「そうなんです。だからこれで、さっき勇者の方を呼び出せたのですが………」
「もう呼び出したのかよ!?」
またアクラは驚いた。
仕方ないですよね。
実世界からの召喚なんて、ほんとにあり得ない事なんですから。
私も実際やってみるまでは不安でしたし。
「はい、逞太さんという素晴らしい方です」
「ほんとかよ!? 伝説の勇者と言えば、あの魔王様よりも強大な魔法を使えるんだろ!? しかも噂によれば、悪魔と勇者の魔力が一致すれば虚実一身ってのが出来るって話じゃねーか!」
虚実一身。
その昔、伝説の勇者とそのパートナーの悪魔とが融合のように体を一つにして、天使を鎮圧したと言われる戦法。
それから生まれる力は、比較することの出来ない圧倒的なものとさえ言われ、神からの奇跡とも呼ばれる。
「そう、これがまた実現されればまた平和なこの世界を取り戻せるのです…!」
「そいつは頼もしいな! んで……その勇者さんはどこにいるんだ?」
「それが……契約の手続きをする前に天使に襲われてしまいまして…」
もう少し天使が来るのが遅ければ、あれくらいの天使なら倒せたのに…!
「そんで実世界に勇者さんを戻したのか?」
「はい、すみません」
「いや、正しい判断だっただろう。そこで戻せてなかったら、天使との戦闘に巻き込んじまってたかもしれないしな。それに、レティも戦線で相当魔力を消耗したんだろ? そんなエロい格好して」
アクラはニヤリと笑って少し涎を垂らしている。
よくもまぁこの話の流れで……
でも、これがアクラですものね。
「はぁ……」
「どうした? ため息なんかついて」
「いえ、何でもないです。逞太さんとは、また逞太さんが眠りにつけば会えると思うので安心して下さい」
「そっか。なら、それまで近くの街に行って休憩しようぜ。あたしもあんだけの魔法使ったら疲れたわ。レティも着替えとかしたいだろ?」
「そうですね。じゃあ行きましょうか」
そうして、2人はアクラの移動魔法を使って近くの街まで移動した。