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第2話 依頼

 〝M〟という怪しい人物がこの事務所を訪れた翌日、私は慌ただしく武器や防弾チョッキの整備、携帯食料などの準備に追われていた。

 時刻はすでに夕暮れ時を回っており、デスクの後ろにある防弾仕様の窓からは、茜色の光がブラインドの隙間を縫うように私の背中を、事務所内を照らしている。


「……」

 イスに座っている私は、デスクの上で銃弾を手に取りルーペで傷が無いか確認する。

 少しでも傷があれば不良品として横に弾き、選別が終わると不良品は袋詰めにしてデスクの端に置く。


「……」

 選別した銃弾を、一つ一つ丁寧にリボルバーへと装填していく。

 カチャッ、カチャッと、リボルバーに装填されていく銃弾の音が、静まり返った事務所の中に響き渡る。

 ――この瞬間だ。


 変な嗜好(しこう)だとは承知済みだが、私はこの響く音がたまらなく好きなのだ。

 耳に残る人間の喧騒とは違い、一瞬だけ響くこの無機質で冷たい挿入音――

 あぁ、今だけは、ストレスも何もない。至福の一時なのだ。


「……」

 それでも私は全く口を開くことなく、愛銃であるコルトSAA――通称ピースメーカーに銃弾を詰めていく。それが終わると指で丁寧にシリンダーを閉じ、腰のホルスターへと仕舞い込む。反対側のホルスター内にあるピースメーカーも同様に、点検と装填をしていく。


 一通り終えた私は指を組み、グイッと前へ腕を突き出して伸びをした。

「……んっ。今回は不良品が多かったな。値引きのネタになりそうだ」

 今度は、仕事へ行く際は必ず持ち運ぶ狙撃銃に手を伸ばす。これも不備は無いか徹底的に点検してやや 大きめのヴァイオリン入れのようなカバン――昨日私が背負っていたカバンだ――の中に収納する。


 本来なら分解して細かく収納して運ぶのだが、改良と改造を重ねた結果、分解が非常に面倒な工程となってしまった。そのため点検以外で分解することはない。いつかその問題点を改善しなければ、その間は重たく背中にのし掛かる荷物となってしまうな。それに目立って仕方がない。

 この依頼が終わった後、修復屋であり発明家のあの者のところへ相談してみようか。


「……さて、ほとんど準備を終えてしまったな」 

 数時間前にワトソンが淹れた、今はもう冷たくなった紅茶をゆっくりと飲み干す。

 冷めていても美味い。あんな喧しいやつでも、意外と器用なのだから世の中分からない。

 少し驚きつつ、私は何か忘れていないかと思い返していく。


 銃弾の数の確認、リボルバーと狙撃銃の整備、簡易医療キットや食料の確認……あと、防弾チョッキの確認やその他もろもろも、済ませた。

 ふむ、完璧なまでに無かったな。

 なら最後にもう一度、ストックしている銃弾の数を数えることにしよう。

「ねぇ、ミステーロ」


 手持ちと予備の銃弾を取り出して数えようとした矢先、それまでソファに座ってメスを研磨材で磨いていたワトソンが、ポツリと私の名を呼んだ。

「何かね」

 彼女には申し訳ないが、私は後ろ髪を引かれる思いを感じつつソファの方に顔を向ける。


「本当に、昨日の依頼を受けるの?」

「受理したではないか。それにこれは私の問題だ。君が無理に付き合うことはない」

「そういうわけにはいかないよ。ボクはミステーロの相棒で、あのホー――」


 ――ドクッ。

 私の左胸を、普段の鼓動とは異なる、嫌悪感を明らかに示す激しい衝撃を走らせた。

 同時に、頭に血が上っていく。興奮したかのように。パニックに陥ったかのように。

 思考が瞬く間に、テレビの砂嵐のようにノイズを走らせていく。


 ――その名は、聞きたくない――


 幻聴のように鮮明に聞こえたその言葉は私の脳内を揺さぶり、次の瞬間には目を剥いてワトソンのことを睨み上げていた。

「実家の名は口にしないでくれッ。また、冷静でいられなくなる……!」

 自分でも驚くほど、低く殺気の放たれた声であった。


「あっ……ごめん」

 皮肉にも、そのお陰で私の頭は、焼けた鉄板を冷水に突っ込んだかのように、急激にクリアなものとなっていく。一気に血の気が引いていく感覚が、やけに生々しく感じられた。

「い、いや……私こそ。声を荒げてすまない」


 ワトソンが此処に来たのは今からおよそ二年半前。当時からうるさく『ボクとタッグを組んで、仕事仲間になってよ!』と迫られたのだったか。何度か断ったものの、結局は根負けして組むことにした。

 ワトソンと相棒を組む際に取り決めたことだが、彼女は私が〝ある一家〟の末裔であることを知っている。いや、そうであると(・・・・・・)信じている(・・・・・)、と言った方が良いか。


 だが私はその家の名を聞くだけで思考が混乱し、冷静を保てなくなってしまう。

 幼い頃に味わった、世の中が私の存在を全否定したという事実が、実家の名を聞くだけでパニックに陥ってしまうのだ。ある種のトラウマだろう。

 今だって、ワトソンが少し口走ろうとしただけで、動悸が激しくなって何も考えられなくなりそうだったのだから。


「でもさ、やっぱりもう一度、冷静になって考えた方が――」

あの報酬(・・・・)を出されては、私も引き下がれないよ」

 あの報酬――


 そう。あれは、私が長年追い求めてきた、私がとある有名な一家の末裔であることを証明する、唯一の手掛かり。それになり得る可能性を持った無二の存在。

「でも考えてもみなよ。何で報酬が『ミステーロの家にまつわる物』なのか。それと誰もミステーロを〝あの家〟の人間として認めていないのに、あの手紙の内容……『私たちは君が〝あの家〟の人間であることを知っている』だなんて、どう考えても怪しすぎるよ!」


「……」

 ワトソンの必死の言葉に、私は押し黙る。しか出来ない。

 あの手紙の内容には、正直驚きを隠せなかった。

 手紙には、『報酬は〝君の一家にまつわる物〟。そして君が〝あの家〟の人間であることを私たちは知っている』という、現段階では信憑性の欠片すら無い荒唐無稽な内容が、その手紙に書かれていたのだ。

 私がどんなに探しても見つけ出せていない、実家にまつわる品々――それが。


「だが、私が〝あの家〟の人間であるという証拠に繋がる物が手に入るかもしれない。これを逃せば、またいつ好機が訪れるか分からないではないか」

「それはそうだけど……。でも、それでもおかしいでしょ!? 手紙の主が、何でミステーロが〝あの家〟の者の末裔だって知っているの? もしかしたら、ミステーロの実家を襲った集団と何か関係があるかもしれないんだよ!?」


 その可能性は私も考えた。何度も何度も、脳の思考回路が焼き切れるかと思うほどに。

 それ以上に、報酬のことが脳裏をチラついてしまうのだ。

 これでも自分は、常時冷静な人間だと自負している。

 だが、私は自分の一家のこととなると自制が利かなくなってしまう。

 相棒であるワトソンの言葉にだって、聞く耳を持たなくなってしまうほどには。


「だがそれ以前に、引き受けると〝M〟に言ったのだ。受けた以上は果たさなければならないだろう。嫌に評価性だからね、この職業は」

 いやそれもそうだけどさ……と、何か言いかけていたが口を(つぐ)んで視線を手元のメスに落としてしまう。その瞳が僅かに潤んでいるのを、私は見逃すことが出来なかった。


 私とて、この依頼があまりに怪しいことなど百どころか一万も承知さ。

 分かってくれ、ワトソン。私は何が何でも、自分という存在を証明しなければならない。

 あの者との約束を果たすためにも――

「でも依頼内容と報酬が全然釣り合ってない点はどうなの! 何だってあのソ――」


 ――ガチャッ


 それは、唐突に事務所の出入り口の方から聞こえてきた扉の開く音だった。

 何かを口走ろうとしたワトソンが慌てて口を押さえ、ルビーのような赤い瞳を丸くする。


「取り込み中か?」

 野太い声のした扉の方を見ると、そこには昨日の〝M〟を彷彿とさせるような、襟元に金色のピンバッジをつけた黒服に、サングラスをかけた体格の良く浅黒い男が仁王立ちしていた。


「いや、ただの雑談さ。依頼かい?」

「あぁ。悪いな、雑談の邪魔をして」

「構わないさ。そこのソファに座っていてくれ」


 私は彼に何が飲みたいか聞き、リクエスト通り湯飲みに緑茶を注いでいく。

 緑茶と共に棚から取り出した和菓子を木製の皿にいくつか乗せ、ソファに座る男の前にある長テーブルの上にゆっくりと置いた。長テーブルを挟んだ反対側のソファでは、ワトソンが物欲しそうな顔を此方に向けていたが、無視しておく。


 男は和菓子を珍しそうに見つめ、一口頬張ると美味いな、と図太い声で感想を述べ、緑茶を一気に仰いだ。どうやらあの和菓子、美味いらしい。今度食べてみよう。

「では自己紹介から。私はミステーロ。この何でも屋〝グリージョ〟を経営している」

「俺はピエーデ。〝ソフェレンツァ〟という組織の人間だ」


 ――ソフェレンツァ?

 表向きは色々な鉄製部品を製造する会社だが、裏では重火器類などの武器を製造、販売している、裏社会でも有名な組織だ。

(――いや、そこは驚かないのだが。何だ、どういうことだ?)


 顔には出さなかったが、その組織名に驚きと疑問のせめぎ合いに思考が一瞬潰される。

 何かの偶然か?

 いや……いくら何でも昨日今日だぞ?

 だが、今はそう考えるに他はないだろう。


「ソフェ……!? あっ、ワ、ワトソンでーす! ミステーロの相棒だよ!」

 この馬鹿者、大声を出そうとするんじゃないッ。

 私が睨み付けると、ワトソンは小さく『めんご!』と言ってきた。

 軽い謝罪だ、まったく。


「……それで、依頼とは何かね」

 挨拶も早々に、私は彼が持ち込んだ依頼内容を聞くためすぐに話を切り出した。

「実は、組織の跡取り息子が狙われているという情報が入ったんだ」

「……跡取り息子、か」


 目の仇にされている組織の跡取り息子はよく狙われる、とはよく聞くね。私も跡取り息子は護ったり消したりなど、何度かこの手の依頼は経験している。

「場所は詳しく言えないが、某所で国のトップと対談がある。車での移動が大半だが、移動距離が長くて途中は休憩したりもする。その間を護って欲しい」


 国のトップか。この組織は政界と繋がりがあるらしいと、以前聞いたことがある。

 政治絡みの依頼……これは失敗=ほぼ死ぬというリスクの高い依頼だね。

 それは依頼の難易度も高いという意味と――国の暗部に触れる可能性があり、口封じのために消されるという二つの理由から、ほぼ死ぬという意味だ。

 難しいな――私が少しだけ難色を示している顔つきする。するとピエーデは慌てたように口を開け


「次代を担う要人なんだ。頼む、坊ちゃんを狙う輩から何としても護ってくれ!」

 一際大きな野太い声で頭を下げてきた。ワトソンもそのあまりの声量に目を見開いている。それほどまで組織にとっては利益を生む人間なのだろう。坊ちゃんとは。


 だが私にとって受けたいと思う依頼内容は、達成できるレベルのものであれば良い。

 それと達成後に支払われる報酬。これはとても大事なことだ。

 食費や武器代などの生活費もあれば、報酬金を値切られ、安値で受け付けてくれるというあらぬ情報を生ませないためにも、私はかなりの割高で取引をしている。

 客に舐められたらただの安値で働く便利屋。私にも、プライドというものがあるのでね。


「用件は分かった。して、報酬は?」

「十万ユーロは用意している」

「いや十五万ユーロだ。そんな次代を担うような要人の護衛だ。もう少し高くても良いだろう」

 相手が提示してきた金額より少し高く、そして理由をつけて強めに言えば、大抵は此方の要求をすんなりと飲んでくれる場合が多い。


 逆に提示金額より高すぎる額を言ってしまうと、最悪客はこの時点で帰ってしまう。

 匙加減が難しいのだ。ヘタすると依頼より此方の方が難しい時もある。

 だが、此方も遊びで護衛をやるつもりはないのでね。

 相応の対価というものが必要なのだよ。


「……わ、分かった。上と取り合って十五万ユーロ、用意しておこう」

 そして、この通りだ。私は少し口元をニヤつかせた。

「成立だね。準備は出来ているが、用事があるので明後日からで構わないかな?」

「いや、それは明日にしてくれ。対談は明日の予定なのでな」


 明日……か。

 これは少し――いや、出来るのか?

 隣で私の顔を覗きこむワトソンは、どうすんの!? と慌てた様子で口をあわあわと動かしている。少しは落ち着きたまえ。


「……分かった。それと、ちなみにだが、要人の名を聞くことは出来るかな?」

 このとき私は、ある違和感のようなものを抱いていた。ピエーデという男が組織の名を口にした時から、何か引っかかる。喉に刺さる小骨のような些細なものではあるが。

 確かに、感じていた。

 だがその違和感は、どうやら悪い方の違和感だったようで――


「名前か? 名前は――パトリオート坊ちゃん。今年で十になる」

「パ、パトリ――!?」

 ――!

「――ふっ!」

 ゴスッ!

「んぎゃッ!」

 大声を上げそうになったワトソンを、私はソファから強引に蹴り落とした。彼女は何かと頑丈なので、このくらいやっても――

「うううぅぅ……きゅうぅ……」

 小さな奇声を上げると、そのまま目を回して気絶してしまった。少し覗き込んでみるが、彼女は起き上がろうとする気配を見せない。


(少しやりすぎたか……)

 しかしあのまま騒げば、ワトソンは昨日の手紙の内容(・・・・・)を衝動的に口走る可能性があった。

 つまり、手紙の内容をピエーデに知られると面倒なことが起こるというわけだ。

 許せ、ワトソン。

 これは必要な事だったのだよ。

 しかし、だ――


(パトリオート……パトリオート、だと?)

 組織名を聞いたときから少し変だと思ったが、これは一体どういうことだ?

 偶然、と思えばそれまでだが、私にはこれが偶然とは素直に思うことが出来ない。


「ど、どうしたんだいきなり……」

 いきなり人を蹴り落として眉間にしわを寄せれば、誰でも怪訝に思うか。

 ピエーデは私の豹変ぶりに少し引いたような顔で此方を見据え、落ち着くためにまだ残っていたらしい緑茶に口をつけた。


「いや失敬。何でもないよ。ずいぶんと有名な名が出たので、驚いてしまっただけさ」

「そうか……。あと、もう一度確認するが、依頼を受けてくれるか? 出来そうか?」

「あぁ。ただ可能ならば、現金はその場で渡して欲しいのだが」

「了解した。では明日の朝、迎えの車を寄越す。そこに坊ちゃんも乗っている。頼んだぞ。期待しているからな」


 男は一度太ももを両手でバシッと、気合を入れるように打ち付けてから立ち上がり、念を押すように頼んだぞ、と一言残してから事務所から出て行った。

「風のように来て、嵐のように去った……といった感じかね」


 ピエーデという男、どうも急ぎ足であるような気がする。要人の護衛なのだし、色々と準備に追われているということもあるのかもしれんな。

 それと上限超えの報酬金を吹っ掛けたというのに、少し悩んだだけで首を縦に振ったのは少々気になった。上、とやらにもその場で連絡も何もせず、独断で……だ。

 何処か気になるな。何か、まだ違和感があるな。


「……だが」

 これは素晴らしい稼ぎになる……と、私は疑いをやめて笑みを零しつつ目を輝かせた。

 昨日の報酬金もあるが、あれだけの報酬が更に入れば、武器や事務所の設備が一気に快適なものとなるぞ。

 フフッ……。ちょうど欲しい品があるのでね。それに使わせて――


「……………………コホン」

 と、そこで私は自分の鼻息が荒くなっていることに気付き、一人で顔を赤らめて俯いた。

「……」

 わ、私としたことが。色々とNGな顔をしていたような気がする。顔から火が出そうだ。

 もしワトソンに、今の私の顔を見られていたらと考えると――

「ち、ちょっとミステーロ! いきなり何するのさ!」


 蹴り落とされて伸びていたワトソンがここにきて勢いよく起き上がったのだ。

 彼女は私に迫り寄って険しい表情でキャンキャンと、子犬のように吼えてきた。


「……ッ! ど、どうかしたかい。二度も大声を出そうとした喧騒少女・ワトソン君」

 ワトソンに変な顔をしているところを見られたかと焦ってしまったが、この様子だと見られてなかったみたいだ。心の中で、そっと胸を撫で下ろす。


「どうもこうも! いきなり蹴り飛ばすことないじゃないの!」

「あのまま騒げばピエーデが余計に不振がるだろう。それに、君が手紙の内容を口走る可能性も、過去の事例から推測するに否定できなかった」


 うぐっ……とワトソンは、私が淡々と発した言葉に覚えがあるようで縮こまる。

 以前にも彼女は、不注意で依頼内容を対象側にバラしてしまい、依頼が達成出来なくなる危険に陥るところだった――なんてこともあった。


(……しかし、弱ったね)

 弱った。今回の依頼は本当に弱ったね。

 別にピエーデの依頼内容が難しいわけではない。


 護衛の依頼は最もポピュラーな依頼の一つでもある。私も何度か経験しており、更に護衛のノウハウも、過去に現役SPの者から手解(てほど)きを受けているので心配はない。

 だが、それ以外にある問題があるのだ。

 対策を練らねば、後で取り返しが付かなくなる、重大な問題が。


(……非殺傷武器も一応持っておくべきかな。あれは扱いにくくて苦手だが)

 奥のデスクへと向かい、右下にある指紋認証のある引き出しを開け、黒塗りの改造拳銃と黒いホルスターを取り出し、それを背中側のベルトに装着した。

 これを使うときが来るのかは分からないが、まあ持っていて損はないだろう。

 引き出しを閉め、ワトソンの方へと再び近付いた私は話しを再開させる。


「さて、昨日の依頼と明日の依頼についてだが」

「まさか二つ同時にやる気? いくらなんでも無理ゲーでしょ」

「……だが手紙の依頼の期限は明日までだと」


 手紙を読み終わった〝M〟は最後に『手紙には書かれていませんでしたが、期限は明後日までです。失敗すれば当然、報酬は無くなります。物理的に(・・・・)』と迫ってきた。


 物理的――私が長年追い求めてきた物を、彼らは破壊する(・・・・)と脅してきたのだ。

 目的がまるで分からない以上、ここは大人しく依頼を何とかして達成せねばならない。

 それに、長年追い求めてきた物を、みすみす破壊されてなるものか。


「知ってる? ジパングっていう和の国には『二兎を追うものは一兎をも得ず』って言葉があるんだよ」

「それはどういう意味だい?」

「欲張って一気に二つのことをやり遂げようとすると、どちらも成功することはなくダメになっちゃうことだよ」


 ハハッ。

 その言葉は警告のつもりなのだろう。回りくどい相棒だ、まったく。

 まあ、それでも心配はしてくれているということか。素直でないね。


「手厳しい言葉だ。尚更、二つの依頼を同時に達成できるように対策を練らねば」

「えっと……ボクの話、聞いてたかな?」

 もちろん。私は、少しニヤッとすることでその問いに答える。

 呆れるワトソンを横目に、私は昨日の手紙の依頼と、明日の護衛が同時に達成できる方法をあらゆる角度から探っていくのだった。

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