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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都編 ―夜桜に剣は眠る―

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木漏れ日と道標

第5話です

今回書いてて思ったんですが、足元の感覚の話って大地を踏みしめてる感があって私は好きで書き込みがちなんですが、これ改めて読み返すとハヤテくんがずっと裸足でいるみたいになってますね...

ハヤテくんは草履を履いてます。初期装備のままです。

この世界では下駄や草履のような装具が一般的ですね。

舶来品の靴もありますが身に着けているのは異国の人か、高位の方たちですね。

「えっと……改めて、でいいのかな」


ミオが小さく咳払いをしてから、こちらを見る。


「私はミオ。見ての通り……って言っていいのかな、冒険者、かな。一応」


「一応、って何だ」


シュラマルさんが静かに突っ込むと、ミオは少しだけ頬を膨らませた。


「だって、討伐専門ってわけでもないし。街の手伝いもするし、調べ物もするし」


なるほど、と俺は内心で頷く。

役割がきっちり分かれていないのが、この世界らしい。


「俺はハヤテです。最近この街に来たばかりで……」


言いながら、少しだけ言葉に詰まる。

改めて名乗ると、自分がこの場にいていいのか、少し不安になる。


「こちらのシュラマルさんに助けてもらってて」


「うんうん、聞いた聞いた!」


ミオが身を乗り出してくる。


「ウォルフの群れでしょ? 最近あそこ、ほんとに多くてさ。正直、助かった人多いと思うよ」


「そうなのか?」


「うん。表じゃあまり言わないけど、商人さんとか困ってたし」


シュラマルさんは静かに茶を口に含み、少しだけ目を伏せた。


「群れが増えるのには、理由がある。単なる偶然ではないだろう」


その言葉に、ミオも真剣な顔になる。


「……そう思う?」


「ああ。森の魔物は、住処や食い扶持が変わらなければ、無闇に動かぬ」


二人の会話を聞きながら、俺は黙って団子を一口頬張る。

甘さが口に広がるのと同時に、自分がまだこの世界の“入口”に立っているだけだと実感する。


「ハヤテは、どうして桜都に来たの?」


不意にミオが聞いてきた。


「え?」


「冒険者って、目的ある人が多いからさ。お金とか、名声とか」


少し考えてから、俺は正直に答えた。


「……正直、はっきりした理由はないです。ただ、ここに来てみたかった」


「へえ」


ミオはそれだけ言って、ふっと笑った。


「それ、嫌いじゃないな」


シュラマルさんも、俺を一度だけ見て、静かに頷いた。


「目的は、歩きながら見つかることもある」


不思議と、その言葉は重くなかった。

押し付けるでもなく、否定するでもなく、ただ事実としてそこにある感じがした。


しばらく、他愛のない話が続く。

街の茶屋のこと、夜桜が綺麗な場所、朝の市場の賑わい。


「そういえばさ」


ミオが箸を止める。


「明日なんだけど。もし良かったら、森の方に行かない?」


「森?」


「うん。最近、小さいけど厄介なのが出てるって話があってさ。コーボルト……って呼ばれてるやつ」


その名を聞いて、シュラマルさんの目が僅かに細くなる。


「数は?」


「多くはない。でも放っておくと増える」


短い沈黙。

俺は二人の顔を交互に見る。


「……俺、まだ慣れてないですけど」


そう前置きしてから、続けた。


「でも、行ってみたいです」


ミオの表情がぱっと明るくなる。


「ほんと? じゃあ決まりだね!」


「待て」


シュラマルさんが静かに制する。


「焦る必要はない。明日は朝に集まり、状況を見てから判断しよう」


「うん、それでいいよ」


ミオは素直に頷いた。


「じゃあ、宿屋の一階。食事処でどう?」


「異論はない」


「俺も大丈夫です」


約束は、それだけで十分だった。

大げさな言葉も、誓いもない。


茶屋を出る頃には、夜はすっかり深まっていた。

別れ際、ミオが軽く手を振る。


「じゃあ、また明日ね!」


「うむ。気をつけて戻れ」


「おやすみなさい」


宿屋の階段を上りながら、俺は不思議な感覚に包まれていた。

ゲームの中のはずなのに、明日の約束が、現実の予定みたいに胸に残る。


――最近のゲームって、本当にリアルだな。


そう思いながら、俺はウィンドウを開いた。


視界が反転し、俺は自室の天井を見上げていた。

ログアウト特有の、少しだけ遅れて現実が戻ってくる感覚。


「……ほんと、夢みたいだな」


小さく呟いて、ベッドに腰を下ろす。

剣の重さも、夜桜の匂いも、もうそこにはないはずなのに、感覚だけが残っている。


スマートウィンドウを閉じ、制服を脱ぎ捨てる。

明日は朝からログインする予定だ。

そう思うだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。


――友達と、約束してるからか。


そんな考えに気づいて、苦笑した。



翌朝。


目覚ましより少し早く目が覚めた。

身支度を済ませ、軽く朝食を取ると、迷わずログインユニットの前に立つ。


視界がほどけ、次に感じたのは木の床の感触だった。


宿屋の一階、食事処。

朝の光が障子越しに差し込み、湯気と焼き魚の匂いが漂っている。


「お、早いな」


先に来ていたのはシュラマルさんだった。

既に腰を下ろし、静かに茶を飲んでいる。


「おはようございます」


「うむ。よく眠れたか」


「はい……なんか、変な感じですけど」


現実で眠って、またこの世界に戻ってくる。

それだけなのに、昨日の続きのように会話ができるのが不思議だった。


少し遅れて、軽い足音が近づいてくる。


「おはよー!」


ミオだ。

昨日と変わらない元気さで、俺たちの向かいに座る。


「二人とも早いね。宿のご飯、結構おいしいって聞いたから楽しみにしてたんだ」


料理が運ばれ、三人で箸を取る。

焼き魚、味噌のような香りの汁物、炊きたての米。


「……普通に朝ごはんだ」


思わず漏らすと、ミオが笑った。


「何それ。冒険者だって朝はちゃんと食べるよ?」


「いや、なんというか……」


言葉を探す。

ゲームの中で、こんな当たり前の食事を囲んでいること自体が、まだ信じられない。


食事をしながら、自然と話題は街の噂へと移る。


「最近、森の奥で変な音がするって話もあるよ」


「音?」


「うん。金属を引きずるみたいな……って言ってた」


シュラマルさんが箸を止める。


「それは、あまり良い兆候ではないな」


「だよね。だからコーボルトだけじゃ済まないかも、って思って」


ミオの言葉に、場の空気が少し引き締まる。


「まあ、今日は様子見でいいよ。無理はしない」


「そうだな。まずは森の入口付近を確認する」


食事を終え、各自装備を整えるため席を立つ。

俺は新しい剣を腰に差し、軽く握りを確かめた。


――昨日より、少しだけしっくりくる。


宿屋の前で三人が揃う。

朝の桜都は、夜とは違う表情を見せていた。

商人の声、行き交う人々、柔らかな陽光に舞う花びら。


「じゃ、行こっか」


ミオが一歩踏み出す。


「うむ」


「……よろしくお願いします」


誰かが号令をかけたわけじゃない。

それでも、自然と足並みは揃っていた。


桜都の門を抜け、森へ続く道へ。

まだ何も起きていない。

けれど確かに、物語は前に進み始めている。

第5話です!

本当は戦いまで書きたかったんですが、長くなりそうだったので分割します!

今日中に残りの輪数も書ききるつもりですので、どうか皆様応援のほどをよろしくお願い致します。


さて、今回新たに仲間に加わった?ミオさんですが彼女はかなり街に慣れている様子ですね。

彼女はどのように戦うのでしょうか?というか本当に強いんでしょうか?

それらを踏まえて続きの第6話にどうぞご期待ください。

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