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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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閃光の向こう側

花柳街編第二十一話話です!

さて、ここで血に宿る権能(血統解放など)について少しだけ補足したいと思います。

物語の序盤で書いたかもなのですがこの世界ではごく稀に特殊な能力を持つ人間が生まれます。広義的な意味では妖術もその一部です。(ほぼ先天性で、後ほど発言するケースがごく稀にありという感じです。)

過去、とある人物が持つ特別な能力を分割して他の人達に刻み込んだものです。

その際に力の全てではなく分けて受け継いだ為、血統によってその権能は変わります。

今まで作中ではLとRが出ましたが、現在判明しているLegacyの権能は同じ血を分かつ者たちの技を未来まで受け継ぐという相伝の能力です。(なので、理論上同じ血筋の猛者の技を当時と同じかそれ以上の強さで使うことが出来ます。但し、1部特殊な才能による能力や余りにも己を超越した力は代償が重くなるか、使用に制限が掛かります。)

彩音は自身の才能を伸ばす形で使っていたり、自身が直接見た中で最高の剣技を選んで使うなどの形で"最適化"しておりましたね。

そんな感じの能力がこれからも登場する事もあります。


話が長くなってしまいましたね、ここまで前書きを読んでくださった方がいらっしゃいましたら、基本的に名前に注目して頂ければ能力の内容も予想できるのでは?と思うので良かったらそれも踏まえて楽しんで頂けるかと思います!


それでは本編をご覧ください!

 夜は、まだ終わっていなかった。


 屋根の上を渡る風が、低く唸る。

 瓦の感触を足裏で確かめながら、ゲンサイは走っていた。


 孤児院の地下は、すでに制圧した。

 後は遊郭だ。


 派手にやる気はない。

 人目につく必要もない。


 屋根を使うのは、ただの近道だ。

 地面を歩くより、早いからそうしているだけだ。


 ――その時。


 視界の端が、白く焼けた。


「……あ?」


 一瞬。


 雷のような閃光が、夜を裂いた。


 遠い。

 だが、見間違えるはずがない。


 刀が空気や水分を切り裂き、

 剣速が人間の限界を踏み越えた時にだけ生まれる光。


 ゲンサイ自身が、

 何度も命を削って放ってきた――


「……迅雷、か?」


 喉の奥で、低く呟く。


 遊郭の方角。

 だが、ほんの少しだけ逸れている。


 偶然にしては、出来すぎだ。


 足が、自然と向きを変えていた。


 ――見に行く。


 理由は、後からついてくる。



 瓦の割れた屋根。

 抉れた跡。

 空気の焦げた匂い。


 間違いなくここで、何かがあった。


 そして。


「……っ!?」


 ゲンサイの足が、止まった。


 倒れている影。


 小柄で、

 見慣れた――いや、見慣れすぎた輪郭。


 迷わない。


 考えるより先に、駆け寄っていた。


「……アヤネ!」


 呼ぶなと呼ばれていた名前。

 それでも、俺は自分を抑えられなかった。


 抱き起こす。


 呼吸はある。

 脈も、乱れてはいるが切れていない。


 出血は少ない。

 致命傷も見たところはない。


 だが――


「……どこまで無茶しやがった」


 骨が軋むほど、歯を噛みしめる。


 この消耗。

 この削れ方。


 生半可な相手じゃない。


 その時。


 腕の中で、わずかに身じろぎがあった。


「……ん……」


 閉じていた瞼が、ゆっくりと持ち上がる。


 焦点の合わない目が、

 やがて、ゲンサイを捉えた。


「……父様……?」


 かすれた声。


 それから、少し困ったように笑う。


「……その名前……」

「……隠し名とはいえ、呼んじゃダメって……」

「……言ったじゃないか……」


 力のない笑み。


 胸が、ぎしりと軋んだ。


「……ボクは」

「……母様の跡を継いだ、その日から……」

「……忍びの、ネコメ、だよ……?」


 誇りを口にする声。

 だが、身体は動かない。


 ゲンサイは、短く息を吐いた。


「……バカ野郎が」


 低く。

 だが、怒鳴らない。


「そんな理屈なんざ、今どうでもいい」


 彩音の額に、軽く拳を当てる。


「てめぇの大事な“娘”が倒れてんだ」

「俺にゃ、そんな器用な真似は出来やしねぇ」


 一拍。


 彩音の目が、少しだけ潤む。


「……相変わらず……」

「……不器用だなぁ……」


「うるせぇ」


 だが、口元は僅かに緩んだ。


 ゲンサイは、周囲を見渡す。


 割れた瓦。

 残る気配。

 そして――


 娘の身体に刻まれた“疲労”。


 これは、只事じゃねぇ。


「……でだ」


 視線を戻す。


「おめぇほどの実力があって」

「一体誰にやられた?」


 問いは、短い。


 詰問でも、怒りでもない。


 ただの事実確認だ。


 彩音は、少しだけ目を伏せた。


 そして――


 何も、答えなかった。



 沈黙が、夜に落ちた。


 答えない。

 いや――答えられない、か。


 ゲンサイは、鼻で短く息を鳴らした。


「……まぁ、そうだろうな」


 責める気は、ない。


「おめぇが黙る時は」

「自分でケリをつけるつもりか」

「それとも……まだ、整理がついてねぇかだ」


 彩音の睫毛が、わずかに震えた。


「……まぁ、どっちでもいい」


 低く、言い切る。


「今はおめぇが生きてりゃそれでいい」

「話は自分で立てるようになってからだ」


 彩音は、少しだけ目を細めた。


「……父様らしいな……」


「他にやりようを知らねぇだけだ」


 一拍。


 彩音の視線が、ふと宙を彷徨う。


 何かを探すように。

 何かを確かめるように。


 だが、まだ――

 それが“無い”ことには、気づいていない。


「……なぁ、アヤネ」


 ゲンサイは、あえて名を呼んだ。


「今日はもう十分だ」

「背負うもんがあるんなら、後は俺が持つ」


 返事はない。


 代わりに、彼女の身体から力が抜けた。


「……おい」


 呼びかける。


 返らない。


 完全に、意識が落ちた。


 ゲンサイは、娘を抱え直す。


 その重さを、

 今度は、逃がさずに己の背に受け止めた。


「……まったく」

「……背負うってのはそういう意味じゃあねぇよ」


 小さく、吐き捨てる。


「似なくていいとこばっかり、似やがって」


 再び、屋根を見上げる。


 遊郭は、まだ先だ。

 だが――このまま放ってはおけない。


「……急ぐぞ」


 誰に言うでもなく、そう呟き。


 ゲンサイは、再び夜の影へと踏み出した。

花柳街編第二十一話をご覧いただきありがとうございます!

今回のお話は如何でしたでしょうか?

更新が遅くなってしまったのもありますが、個人的には前回までとは違い平和な感じが懐かしく感じてしまいます!


さて、今回は再びゲンサイにスポットが戻りましたね...!

ゲンサイは黒装束のアジトを襲撃したあとは、遊郭に向かっていたようですね、そこで彩音とアサガオの戦いの余波を目撃し、急いで現場へ向かったようです。

そこで目撃したのは倒れた自分の娘の姿でした!(というか、ネコメさんが実は女性でゲンサイの娘だと言うことがここ数話で明らかになりましたが、これ予想出来てた人居ますかね?居たら、Xでも感想でもいいから教えて欲しいです!伏線とか考えるの難しくて...!)


そして、真名という名前は前回以前に登場しましたが、今回は隠し名というものが登場しましたね。

これは次回以降の前書きかなにかで機会があれば説明します。


激闘の果てに戦った相手の名は知っているアヤネさん。

しかし、信じられない気持ちと何かしらの葛藤から父、ゲンサイには伏せておく判断をしたようですね。

ゲンサイ親分はそんな娘の事を信じているのか、よく理解しているからなのか、追求もせず叱責することも無くその判断を受け入れました。

この辺りは互いを信用しているが故なのでしょうね...

今後この選択はお互いにとってどのような結末をもたらすのでしょうか?

また、アサガオの真の名前を知った彩音は今何を想っているのでしょうか?

これらは次回以降にご期待ください!

今後とも皆様より一層の応援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、次回花柳街編第二十二話でお会いいたしましょう!

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