華は倒れず、猫は譲らず ―― 駆ける一閃、受け継がれた刃
花柳街編第二十話です!
今回で5話に渡って続いた2人の戦いも1度終止符が打たれます。
果たして、2人の戦いの行く末は如何に?
――まずい。
理屈じゃない。
胸の奥が、嫌な音を立てている。
目の前のあの人が、
ほんのわずか、呼吸を整えた。
それだけで、
空気が“開いた”。
名乗る気だ。
世界に、名を通すつもりだ。
「……っ!」
考えるより、身体が先に動いた。
踏み込む。
瓦を蹴る。
孤月の残影が、
遅れて空間に刻まれる。
刹那の後、
彩音が通った“軌道”が刃になる。
拳を振るう。
蹴りを打つ。
刃を走らせる。
止める。
止めなきゃいけない。
今、ここで。
「……実はさ」
あの人の声が、低く響く。
「あたしにも、真名があるんだよね」
その声音が、妙に静かで。
妙に、優しくて。
――それが、怖かった。
「黙って!」
声が、荒れる。
落葉の三日月が、限界まで展開される。
半径一・五メートル。
踏み込みの癖。
重心の移動。
呼吸の切り替え。
全部、掴んでいる。
だから――
「名乗らせない!」
叫びながら、刃を振るう。
「ボクは、君に名を明かさせないよ!」
拳が来る。
外す。
蹴りが来る。
流す。
そのすべてに、
最適な返しを叩き込む。
孤月の残影が、逃げ場を削る。
落葉の三日月が、選択肢を殺す。
――押している。
間違いなく。
あの人の足が、半歩下がる。
瓦の端が、近づく。
焦りが、胸を満たす。
……勝てるかどうかじゃない。
今、止めなきゃいけない。
それだけが、
身体を突き動かしていた。
「……大きくなったね」
ぽつりと、呟く声。
その瞬間。
踏み込みが、止まった。
ほんの、一瞬。
だが、それで十分だった。
空気が、変わる。
重い。
息が、詰まる。
さっきまでとは、まるで違う。
「これ以上、君に隠して戦うのは――」
声が、深く響く。
「できないみたいだからさ」
世界が、静まり返る。
風が、消える。
音が、引く。
そして。
――圧。
言葉に出来ない。
形もない。
ただ、在る。
立っているだけで、
膝が、震えそうになる。
あの人が、空を見上げた。
「……聞け、世界よ」
――名が、響いた。
確かに、聞こえた。
音として。
言葉として。
なのに。
意味だけが、掴めない。
頭じゃない。
身体が、拒んでいる。
理解するより先に、
受け入れてはいけないと、血が叫んでいる。
そんなはずはない。
世界に対して宣言している以上、嘘なわけがない。
それでも。
その名を“理解してしまったら”、
何かが、決定的に変わってしまう気がした。
――ダメだ。
聞く前に。
理解する前に。
叩き込むしかない。
全身全霊で。
今のボクの、すべてで。
――この先を、生きるために。
だから――
次の瞬間。
世界が、応えた。
「――RebellionOverlord」
何かが、剥がれ落ちる感覚。
制限。
枷。
抑え。
全部。
圧が、跳ね上がる。
さっきまでの“強さ”が、
子供の遊びに見える。
呼吸一つで、
空間が軋む。
視界が、歪む。
……まずい。
本当に、まずい。
技の勝負じゃない。
次元が、違う。
それでも。
彩音は、退かなかった。
腰に手を伸ばす。
――茨吹雪。
母から託された忍者刀。
逃げるためじゃない。
未来を、生き延びるための刀。
そして。
父の太刀筋を、思い出す。
血に刻まれた、
最速にして最鋭の一閃。
――流天流奥義「迅雷」。
孤月の残影が、直線を刻む。
落葉の三日月が、領域を閉じる。
不可避。
不可避。
不可避。
すべてを、重ねる。
今の自分が出せる、
最速にして、最強。
「……行くよ!」
踏み込む。
世界が、裂けた。
刃と刃が、真正面からぶつかる。
衝撃。
鍔迫り合い。
互いの刃が、火花を散らす。
押し合う。
彩音は、歯を食いしばる。
――負けない。
ここで退いたら、
全部が無意味になる。
忍びとして積み上げた時間。
受け継いだ技。
想い。
「……覚悟は出来てる?」
あの人の声。
近い。
あまりにも近い。
「……出来てるよ!」
絞り出す。
「ボクは――ここで終わらない!」
一瞬。
刃が、押し返された。
力じゃない。
存在そのものが、違う。
衝撃が、全身を貫く。
視界が、白く弾けた。
身体が、浮く。
次に感じたのは、
瓦に叩きつけられる感覚だった。
息が、止まる。
音が、遠ざかる。
意識が、沈んでいく。
最後に見えたのは、
夜空と――
静かに立つ、あの人の影。
――暗転。
しばらくの間、
夜は、何も語らなかった。
瓦の上に倒れた少女。
その傍らに、静かに佇む影。
あたしは、ゆっくりと歩み寄る。
無防備に落ちた手元。
それでも離されていない柄。
――茨吹雪。
その忍者刀を、
そっと、見下ろす。
指先で、柄を撫でる。
懐かしむように。
確かめるように。
「……ちゃんと」
小さな声。
「きちんと、受け継いで貰えてたんだね」
刃は、鈍っていない。
扱いも、間違っていない。
何より――
使い方が、正しかった。
あの一閃を、思い出す。
最速で。
最短で。
迷いを挟まない。
あの人は、ほんの一瞬だけ、
目を伏せた。
そして。
彩音の手から、
茨吹雪を、静かに抜き取る。
抵抗はない。
刃を抱くように持ち、
小さく、囁いた。
「……もう一度」
夜に溶ける声。
「あと少しだけ、力を貸してね」
それは命令じゃない。
約束に近い、独り言。
あたしは、立ち上がる。
振り返らない。
倒れた彩音を、一度も見下ろさない。
闇へと、歩き出す。
影が、夜に溶ける。
気配が、消える。
屋根の上には、
戦いの痕跡だけが残された。
折れなかった意志。
届かなかった一歩。
そして――
次へと繋がる、
静かな、敗北。
夜は、再び息をする。
すべてを飲み込んだまま、
何事もなかったかのように。
花柳街編第二十話をご覧いただきありがとうございます!
彩音が圧倒していたのですが、アサガオが真名を名乗ろうとした瞬間から流れが変わりましたね...
そして、名乗りを阻止しようとした彩音は全力で勝負を付けにかかりますが、奮闘及ばずアサガオは宣言と解放に成功します。
しかし、それは彩音にとっては受け入れ難い名だったようで...
そして、彩音は自身の母から託された刀と自分が知っている中で最大最速の父の剣技を持って、目の前の相手に斬りかかります。
そうですね、力及ばず彩音は倒れてしまいました。
彩音に勝った"アサガオと名乗る"彼女は、何やら物思いにふける様子で、彩音の持つ忍者刀、茨吹雪を持ち去り何処かへ向かっていきました。
果たして彼女の名やその目的とはなんなのでしょうか?
次回以降の展開をその目で是非ご覧下さい。
この後の更新は明日以降の予定となっております!
今後とも応援宜しくお願いいたします。
P.S. 華は倒れず、猫は譲らずは花柳街編での大きな山場のひとつでした...!無事に書ききれて良かったです!(しかし、ずっと書いたり確認したり修正したりで疲れました...(笑))
さて、ここからは私の感想になります。
彼女達の戦いを私は上手く書けたでしょうか?
正直、花柳街編は書こうと思えば100話を超える構成で考えていたのですが、流石に長すぎると思ったので、タイトルを漢数字にして出来るだけ物語を圧縮しています。(第百話とかまで数えるのは骨が折れそうだったので...!)
なので、花柳街編第○話を〜というふうに毎回カウントするようにしています!
それでも、花柳街編では最終決戦という山場までにあと1回以上は山場があります。
私は今作が初めての創作になります、上手く文章でキャラの魅力や絡み、戦いや心情を表現出来ているか、読んでくださる方が楽しんでくれているかがまだ分かりません...!
ですので、感想やレビューやリアクションで応援を頂けると幸いです!
@Ayaemon3671というアカウントでXもやっています。
花柳街編も中盤に差し掛かりひと段落ついたので、そちらの方で投稿通知以外のポストを実施していこうと思います!
今のところ設定などの開示をしたり、もし質問などを頂ければ回答したりといった運用をしようと考えています!
なので、お気軽にフォローやポスト、DMなどお願いいたします!(優しいメッセージや暖かいコメント貰えると嬉しいです!)
今後ともより一層の盛り上がりを展開していく所存ですので、是非応援をよろしくお願いいたします。
彩衛門




