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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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華は倒れず、猫は譲らず ―― 名を明かす覚悟

花柳街編第十八話です!

さて、今回は全話の前書きの通り、妖術についての説明や補足をさせて頂きます。

妖術は基本的に血統や才能至上主義です。

例えば、ミオは桜花という妖術を代々使える家系です。

一部の例外を除き、ミオの妖術は家系で受け継がれているので、血の繋がりがある才能のある人物なら誰でも使えます。


そして、ネコメは前話で妖術を使いましたが、あれはネコメの家系に受け継がれている橘花という妖術ではありますが、自身の才能によって独自に改良されているものです。

なので、基本的にネコメは伝統の妖術は使わず自身にあった戦い方を選び、自分の戦いに適した技を独自に編み出しています。

これはかなりの才能です。大抵の場合は研究改良された伝統の技を継承して戦うのが妖術使いの基本ですが、歴史の中で新たな技を命をかけた実践で使えるまでに鍛え上げるのは、誰にでも簡単にできる事では無いのです。



さて、長らくお待たせ致しました。

それでは早速本編をお楽しみください!

 ――強い。


 いや、もうそんな言葉では追いつかない。


 拳が来る。

 刃より速く、影より重い。


「……っ!」


 短刀で受ける。

 否――受け“られた気がした”だけだ。


 衝撃が腕を貫き、指が弾けるように痺れる。

 踏み締めた瓦が、音を立てて砕け散った。


 体勢を崩した瞬間を――

 この人が、見逃すはずがない。


 次の一撃が、迷いなく腹に入る。


「ぐっ……!」


 息が、強引に引き剥がされた。


 身体が宙に浮き、夜空が反転する。

 背中から屋根に叩きつけられ、視界が白く弾けた。


 ――今のは。


 殺せた。


 確実に、終わらせられた。


 それなのに。


「……立ちな」


 低く、短い声。


 追撃は来ない。


 時間を与えられている。

 それが、何よりも腹立たしかった。


 瓦に手をつき、身体を起こす。

 喉の奥に、鉄の味がじわりと広がる。


 妖術も、間合いも、印の速さも。

 すべて――通じていない。


 いや。


 “通じていない”んじゃない。


 まるで。


 ――ずっと、この戦い方を見てきたみたいに。


 頭を振る。


 考えるな。

 今は、ただ――


「……っ、はは」


 思わず、笑いが零れた。


「本当にさ……」


 短刀を握り直す。


「ボクを最初から“諦めさせる”気、だったんだ」


「当然でしょ」


 アサガオは、構えを崩さない。


 けれど、その目は違う。

 遊びでも、牽制でもない。


 獣が、獲物を叩き直す前の眼だ。


 次の瞬間。


 来た。


 踏み込みが、間合いという概念を無視している。

 影を置き去りにする速度。


 朧身を挟む余地すらない。


 拳、肘、膝。

 連撃が、容赦なく叩き込まれる。


 受けるたびに、身体が理解する。


 ――これは。


 教え込まれている。


 倒すためでも、殺すためでもない。


 “立ち続けるための壊し方”だ。


 屋根を転がり、辛うじて距離を取る。


 息が荒い。

 指先が、制御できずに震える。


 それでも。


 視線だけは、逸らさなかった。


「……ねえ」


 静かに、声を出す。


「ここから先はさ」


 短刀を下げ、真正面から彼女を見る。


「もう、後戻りできない」


 夜風が、二人の間を抜けた。


「この力、この名を明かすのは――」


 一歩、前へ。


「この場で、ボクが貴女を全力で倒す覚悟の表れだ」


 心臓が、強く鳴る。


「だから、この戦いは」


 息を吸い、言葉を刻む。


「どちらかの敗北って形でしか、終わらなくなる」


 一瞬の沈黙。


 それでもいいか――

 問いは、確かに投げた。


 アサガオは。


 一拍置いて。


 それから、楽しそうに笑った。


「……面白いね」


 拳を鳴らす。


「いいよ」


 その瞬間。


 ボクの中で、何かが静かに切り替わった。


 隠してきたもの。

 伏せてきた名前。

 繋がれていた、血と過去。


 ――もう、いい。


 両足で、屋根を踏みしめる。


 世界を、見据える。


「……聞け、世界よ」


 この戦いは、もう――

 名を持つ者としてのものだ。


 ……聞け、世界よ。


 言葉を口にした瞬間、

 空気が、僅かに軋んだ。


 何かが起きたわけじゃない。

 妖術が発動したわけでもない。


 ただ――

 世界が、こちらを向いた。


 そんな感覚。


 風が止み、

 街のざわめきが、遠のく。


 静寂の中心に、ボクは立っていた。


 アサガオは構えを解いていない。

 だが、ほんの僅かに眉が動く。


 ……やっぱり。


 この人、まだ“決着をつける本気”じゃない。


 折る気はある。

 けれど、壊すつもりはない。


 だから――ここまでだ。


 名を伏せたままじゃ、届かない。


「……ねえ」


 息を整えながら言う。


「貴女、ボクがどこまで行くか」

「ずっと、試してるでしょ」


 答えはない。


 沈黙が、肯定だった。


「ならさ」


 一歩、踏み出す。


「ここからは、試す側と試される側じゃない」


 胸の奥が、熱を帯びる。


 怒りじゃない。

 恐怖でもない。


 ――覚悟だ。


「ボクは、ここで全部出す」


 視線を逸らさず、言い切る。


「引くつもりはないし」

「止められる気もない」


 一瞬。


 アサガオの目から、“大人の余裕”が消えた。


 代わりに宿る、研ぎ澄まされた集中。


「……そう」


「そこまで言うなら」


 拳を握る。


「中途半端には、できないね」


 空気が、重く沈む。


 殴られる覚悟でも、

 叩き伏せられる覚悟でもない。


 ――終わりかねない覚悟だ。


 それでも。


 ボクは、前を向いた。


「……聞け、世界よ」


 二度目の宣言。


 今度は、確信を込めて。


 名を呼ぶ前の、一拍。


 アサガオが、ほんの少しだけ目を細める。


 まるで――

 ようやく辿り着いたとでも言うように。


 世界が、息を止める。


 戻れない。


 それでも。


 ボクは、名を呼ぶ。


「我が真なる名は――」


 一音ずつ、噛みしめる。


「……彩音」

彩音(アヤネ)Legacy(レガシー)(タチバナ)


 名を告げた瞬間、

 背後に“重なり”を感じた。


 剣を握る手。

 影を踏む足。

 刃を振るう覚悟。


 無数のそれが、そこに立つ。


「古よりのLの血を継ぎ」

「過去を預かり」

「未来へ突き進む者」


 視界が、澄み切る。


「今この場において、私は名を隠さない」


 一歩、前へ。


「故に世界よ」

「我が身に架せられた縛りを解き放ちたまえ」


 血が、熱を持つ。


「我は過去の技、意志、覚悟を」

「我が真名(まな)をもって」


 身体が、正解を思い出す。


「ここに――顕現させる」


 ――血統解放。


Legacy(レガシー)Revival(リヴァイヴァル)


 世界が、応えた。


 音が消え、

 過去が、現在に重なる。


 無駄が、削ぎ落とされる。


 使える。

 すべてが。


 知らなくても、

 “知っている”。


「……っ」


 アサガオが、初めて踏み込みを止めた。


 ほんの一瞬。


 だが、それで十分。


 踏み込む。


 短刀が閃く。


 拳を外し、流し、斬る。


 ――初めて。


 アサガオの身体が、確かに揺れた。


 だが、倒れない。


 その目は――

 さらに鋭く、獣のように輝いている。


「……いい」


 低い声。


「それでこそだ」


 鬼気が、爆発する。


 ――ここからだ。


 これは、勝負。


 Lの名を背負う者として。


 ボクは、勝ちに行く。


 世界が、静まり返ったまま。


 けれど、身体は軽かった。


 力が溢れているわけじゃない。

 血が滾っているわけでもない。


 ――ただ、無駄がない。


 踏み込みに迷いがなく、

 視線の移動に遅れがなく、

 次の一手が、自然に浮かぶ。


 それだけだ。


 それだけなのに。


「……っ」


 アサガオの踏み込みが、わずかに遅れた。


 ほんの一瞬。

 刹那と呼ぶにも短いズレ。


 でも、今のボクには――

 それが、はっきりと見えた。


 来る。


 そう思った瞬間には、もう動いている。


 前へ。

 斜め。

 影を踏み、間合いの内側へ。


 刃は振るわない。

 振る必要がない。


 拳が、そこにある。


 次の瞬間。


 ――何もないはずの空間で、衝撃が弾けた。


「……!」


 アサガオの身体が、横に流れる。


 避けた。

 確かに避けたはずだ。


 それなのに。


 遅れて――

 肩口が、叩かれたように揺れた。


 【孤月の残影】。


 さっき、そこを殴った。

 ただ、それだけ。


 けれど、その“結果”は、

 今になって、彼女を捉えた。


「……なるほど」


 低く、声が漏れる。


 笑ってはいない。

 楽しんでもいない。


 純粋に――理解しようとしている声。


 次の瞬間、アサガオが距離を詰める。


 速い。

 鋭い。


 だけど。


 踏み込んだ瞬間、

 足裏から情報が流れ込んでくる。


 重心。

 角度。

 殺気の向き。


 ――来る。


 判断する前に、身体が動く。


 【落葉の三日月】。


 半径一・五メートル。

 この距離は、もう“ボクの領域”だ。


 拳を流す。

 肘をいなす。

 膝を外す。


 最小限。

 最短で。


 攻撃じゃない。

 防御ですらない。


 “最適解”。


「っ……!」


 アサガオの攻撃が、通らない。


 偽りの太刀筋。

 誘いの重心移動。


 ――全部、意味を失っていく。


 当たるはずだった場所に、いない。

 当たらないはずの角度から、返ってくる。


 ボクは、淡々と前に出る。


 一歩。

 また一歩。


 力は、入れていない。


 忍びとして積み上げてきた、

 間合い。

 読み。

 反応。


 それらが、すべて噛み合っているだけだ。


「……強いね」


 アサガオの声に、余裕はない。


 息が、ほんの少し荒れている。


「正直……想像以上だ」


 それでも。


 彼女は、下がらない。


 下がれないのか。

 下がるつもりがないのか。


 拳を握る。

 足を踏みしめる。


 獣のような殺気が、再び膨れ上がる。


「けどさ」


 低く、噛みしめるように。


「アタシは――」


 視線が、真っ直ぐこちらを射抜く。


「負けるわけには、いかない!」


 空気が、張り詰めた。


 次の瞬間。


 両者が、同時に踏み込む。


 瓦が、砕ける。


 拳と刃と影が、交錯する。


 残影が走り、

 最適解が弾け、

 読みと読みが、正面からぶつかる。


 もう、試し合いじゃない。


 もう、諭し合いでもない。


 これは――

 技と技の、真っ向勝負。


 血の宿命を背負う者として。


 忍びとして積み上げたすべてを賭けて。


 ボクは、一歩も引かない。


 そして、彼女も――

 絶対に、折れない。


 夜の屋根の上で。


 二人の全力が、ぶつかり合っていた。


花柳街編第十八話をご覧いただきありがとうございます。

まさか、ネコメが本当の名前じゃなかったなんて...

そして、ネコメは彩音と橘という名を名乗りました。

聞き覚えのあるような名前ですね...


彩音さんは戦いの中で本気を出し、自身の才能を限界以上に引き上げて己の技で立ち向かう覚悟を見せたようです。

そして、技や名を偽る事を辞め本当の全力で挑むようですね。

アサガオさんが圧倒していたこの戦いが、一気に彩音さんの方へ流れが傾いているように見えます。

さて、2人の戦いは今後どのような結末を辿るのでしょうか?

次回花柳街編第十九話

「華は倒れず、猫は譲らず ―― 伏せられた名の重み」

次回も今日更新予定ですので、乞うご期待ください。

今後ともより一層の応援をよろしくお願いいたします!

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