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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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華は倒れず、猫は譲らず ―― 激突、譲れぬ刃

花柳街編第十六話です!

今回からは少しの間連続でこの2人にスポットが当たります!

それでは早速本編をお楽しみください!

 ……厄介だ。


 これは、予想以上に。


 ボクは内心でそう吐き捨てながら、肩をすくめた。


「尾行だなんて人聞き悪いなぁ。

 心配性なだけだよ。夜の花街は物騒だからさ」


「へぇ」


 アサガオは、あからさまに疑っている顔で笑った。


「じゃあさ、聞いてもいい?」


 また一歩、距離を詰める。

 屋根の上、逃げ場の少ない位置取り。


「ボクがもし、

 “物騒な側”だったらどうするつもりだったの?」


 その問いは軽い。

 けれど、核心を正確に突いていた。


 ボクは、即答しなかった。


 視線を外し、街の灯りを一瞬だけ眺める。


「……止められるなら、止めたいかな」


 正直な言葉だった。


「へぇー」


 アサガオは、くすっと笑う。


「意外。もっと合理的だと思ってた」


「合理的だよ」


 ボクは彼女を見る。


「無駄な争いは嫌いなんだ。

 特に――知ってる相手とならね」


 その瞬間、アサガオの笑みが、ほんの僅かに揺れた。


 ほんの一瞬。

 見逃せば、気のせいで済む程度。


 でも、ボクは見逃さない。


「……優しいんだね」


 そう言いながらも、彼女の指先は自然に、腰の辺りへ落ちていた。


「でもさ」


 声は軽いまま。


「それって、“今さら”じゃない?」


 夜風が強く吹き、瓦の上で音を立てる。


「もう、ここまで来ちゃったんだよ?」


 逃げ道はない。

 それを理解した上での言葉だった。


 ボクは、ゆっくりと息を吸う。


「覚悟、決まってる?」


「うん」


 即答。


 迷いの欠片もない。


「情はあるよ。

 キミに対しても、この街に対しても」


 アサガオは、少しだけ目を伏せる。


「でもね、それでも譲れない」


 顔を上げたとき、そこにあったのは静かな決意だった。


「目的の前じゃ、感情は後ろに置くって決めたの」


 ……なるほど。


 だから軽口が叩ける。

 だから、まだ笑える。


 覚悟を決めた人間ほど、余裕を装える。


「そっか」


 ボクは、短く答える。


「じゃあ、もう一つだけ聞くよ」


 一歩、踏み出す。

 屋根の上の距離が、決定的に縮まる。


「止めに来たボクを、どうするつもり?」


 アサガオは、少しだけ困ったように眉を下げた。


「……できれば、傷つけたくない」


 正直な声だった。


「でも、邪魔するなら」


 次の瞬間、空気が変わる。


「全力で、排除する」


 宣告。


 それで、すべてが揃った。


 ボクは、苦笑する。


「参ったなぁ……」


 そして、覚悟を決める。


「じゃあさ」


 視線を、真正面から合わせる。


「止められるかどうか、

 ここで確かめさせてもらうよ」


 アサガオは、ほんの一瞬だけ目を見開き――

 それから、いつもの笑顔に戻った。


「うん」


「いいよ」


 その笑顔が、もう“戦場のもの”だった。


 夜の屋根の上で、

 二人の間に、刃になる沈黙が落ちる。


 夜の屋根。

 風の音すら、遠ざかった気がした。


 先に動いたのは――アサガオだった。


 予兆はない。

 踏み込みも、溜めもない。


 ただ、次の瞬間には――距離が消えていた。


「っ……!」


 反射で身体を捻る。

 肩口を、何かがかすめた。


 速い。


 だが、それ以上に厄介なのは――

 迷いがない。


 攻撃の軌道が、一直線に“最短”を描いてくる。

 躊躇も、試しもない。


 最初から、通す前提の動き。


「……なるほどね」


 瓦を蹴り、後方へ跳ぶ。

 着地と同時に、短刀を抜いた。


 鞘鳴りが、夜に溶ける。


「止めたいって顔じゃないよ、それ」


 アサガオは、すでに構えを取っていた。

 刃――ではない。


 拳。

 けれど、その間合いは、明らかに“斬る距離”だった。


「止めたいよ」

 ボクは息を整える。

「だから――ここで終わらせる」


「終わらせる、ねぇ」


 くすっと笑う。


「優しい言葉だね。

 でも、それってさ……」


 地を蹴る。


 風が、裂けた。


 拳が迫る。

 受ければ、骨がいく。


 ボクは短刀で受け流し――

 そのまま、懐へ踏み込んだ。


 刃が、彼女の脇腹を狙う。


 ――が。


「甘い」


 そう囁かれた気がした。


 次の瞬間、視界が反転する。


「っ――!」


 投げられた。

 正確に、屋根の端へ。


 受け身を取り、瓦を砕きながら転がる。

 背中に、嫌な衝撃が走った。


 ……今の。


 力じゃない。

 技でもない。


 “読まれていた”。


「ネコメくんさ」


 アサガオは、距離を詰めない。

 あくまで、こちらが立ち上がるのを待つ。


「自分が、どこで踏み込むか」

「どこで刃を振るか」


 一歩。

 ゆっくりと近づく。


「全部、素直すぎる」


 ――ぞくり。


 胸の奥が、冷えた。


 そんなはずはない。

 型は崩している。

 間合いも変えている。


 それでも。


「まるで……」


 アサガオは、少しだけ首を傾げた。


「何度も、見たことがあるみたい」


 その言葉が、

 意味もなく、胸に引っかかった。


「……何を」


「ううん、こっちの話」


 笑って、構え直す。


「でもね、もう少し本気出していい?」


 その瞬間。


 ――空気が、変質した。


 気配が、増えた。

 そこに“いる”のに、“いない”ような感覚。


 影が、二重に揺らぐ。


「……っ」


 背筋が、勝手に緊張する。


 これは――

 さっきまでとは、違う。


「安心して」

 アサガオは、穏やかに言った。

「まだ、殺さないから」


 その言葉が、

 なぜか――脅しよりも重く響いた。


 ボクは、短刀を握り直す。


 逃げ道はない。

 譲る気もない。


「……なら」


 一歩、前へ。


「こっちも、少しだけ本気を出す」


 瓦の上で、二つの影が重なる。


 華は、倒れない。

 猫も、譲らない。


 ――戦いは、ここからだ。

花柳街編第十六話をご覧いただきありがとうございます!

今回からは少し連続した話を展開していきます。

テンポよく投稿出来るように頑張りますね!


今後2人の戦いはどのようになっていくのでしょうか?

次回花柳街編第十七話

「華は倒れず、猫は譲らず ―― 交錯する既視の刃」

乞うご期待ください!

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