宵闇に忍ぶ猫
花柳街編第十四話です!
すみません、体調不良や私のスケジュールの都合上投稿が大幅に遅れてしまいました...!
今後は投稿ペースを高めていければと思っております!
また、次回から花柳街編では没入感を高める為に避けていた前書きでの設定や世界観の説明も入れてみようかなと思います。
それでは、早速本編をお楽しみください!
屋根の上は、夜風が冷たい。
瓦を踏む感触、街の灯りの配置、人の流れ。
すべてを把握しながら、ボクは一人で動いていた。
アサガオ――いや、彼女のことは確かに視界に入れていた。
宿を出てから、距離も角度も完璧に保っていたはずだ。
考え事をしていたのは事実だ。
マホージン、位置、儀式、失踪。
点と点は、ほとんど線になりかけている。
だからこそ――
「やぁ! 奇遇だねぇ!」
背後から、場違いなほど明るい声がした。
……一瞬、思考が止まる。
振り向くより先に、背筋に冷たいものが走った。
そこに、彼女は立っていた。
アサガオは、にこにこと笑いながら、夜風に髪を揺らしている。
「こんな所で何してるのー?」
――おかしい。
内心で、はっきりとそう思った。
ここは建物の屋根。
構造上、彼女からは完全な死角になる位置だ。
移動音も、気配も、まるで感じなかった。
それに――
ボクは、確かに彼女から目を離していない。
……はずだった。
「ちょっと通りかかっただけだよー」
即座に、笑顔を作る。
声の調子も、視線も、完璧に平常。
「驚かせちゃってたらゴメンね!」
自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。
「そっかー」
アサガオは首を傾げる。
「それにしてはさ」
一歩、こちらへ近づく。
「宿からずーっと、着いて来てたよね?」
――。
言葉が、胸の奥に突き刺さる。
何で、バレた?
いや、それ以前に。
“最初から気付いていた”
そう言われた気がして、背中が粟立つ。
ボクは隠密に自信がある。
これは誇張でも慢心でもない。
母様と父様――
あの二人以外に、ここまで簡単に見破られたことなど、記憶にない。
それなのに。
「何か用があったんじゃないかな?」
アサガオは、責めるでもなく、探るでもなく、
ただ楽しそうに笑っている。
まるで――
“かくれんぼが終わった”と言わんばかりに。
……厄介だ。
これは、予想以上に。
赤い提灯がずらりと並び、甘い香の混じった風が通りを流れていく。
行き交う女の人たちは皆、華やかで、目を引くほど綺麗で――
「……ここさ、女の人みんな美人さんばっかだね……!」
思わず、そんな感想が口をついて出た。
「……へぇ?」
すぐ横から、低い声。
嫌な予感がして振り向くと、ミオが腕を組み、じっとこちらを見ていた。
「ハヤテって、ああいう感じの女の人が好きなんだ?」
「えっ!?い、いやいや、違うって!」
慌てて両手を振る。
「ただ、綺麗だなーって見てただけだよ!好きとかじゃないって!」
「……ふーん」
納得していない顔だ。
「そうなのか?」
今度はシュラマルが、首を傾げてこちらを見た。
「……なるほど。では、ハヤテはどのような女子が好みなのだ?」
「え?ええ!?い、いきなり言われても……」
言葉に詰まっていると、
「で?ハヤテはどんな子が好きなの?」
ミオが間髪入れずに追撃してくる。
逃げ場がない。
「え、えーっと……あ!」
必死に考えて、思ったままを口にした。
「元気な子とか、明るい子かな!あと、何か頑張ってる女の子って、かっこいいなって思うよ!」
一瞬の沈黙。
「……そうか」
シュラマルが、ふっと柔らかく笑ってミオを見る。
「確かに、元気があるのは良いな」
「――っ!?」
ミオの顔が一気に赤くなった。
「な、ななななっ……!」
そして次の瞬間、ぽかぽかとシュラマルの腕を叩き始める。
「なに言ってるのよもう!」
「ちょ、ミオ!何やってるんだよ!」
慌てて止めに入ろうとした、その時。
「ははっ!」
後ろで、アヤメが堪えきれないように笑った。
「ミオもハヤテも、元気があっていいな!」
その声に、ミオは少し照れたように動きを止める。
アヤメは続けて、わざとらしく首を傾げた。
「そういえば――シュラマル殿は、アサガオ殿と随分仲がよろしいようだが……ああいう女性が好みなのかな?」
少し意地悪そうな笑み。
「そうだよ!」
ミオがすぐさま食いついた。
「この間、茶屋でデートしてたし!帰り道も送ってあげようとしてたし!腕も組んで歩いてたじゃん!」
「なに!?」
アヤメが目を見開く。
「それは本当か?」
「確かに……シュラマルさん凄く笑顔で、楽しそうでしたよね!」
俺も思い出して頷く。
シュラマルは、一瞬だけ真剣な表情をしたように見えた。
けれどすぐに、いつもの穏やかな笑顔に戻る。
「あぁ、あの子は確かに可愛らしいな」
三人は息を呑む。
「だが、それは別に、異性としてという訳ではない」
「……え?」
ミオと俺は、同時に目を丸くした。
「驚いた……冗談のつもりだったんだが、本当だったとは……」
アヤメも素直に驚いた様子だ。
「いや、恋だの何だのではない」
シュラマルは肩をすくめる。
「あまり期待してくれるな」
「ほんとかなー?」
「怪しいよねー?」
少し離れたところで、俺とミオは顔を見合わせて笑う。
その後ろで、シュラマルはアヤメにだけ聞こえる声で言った。
「……ありがとう」
「?」
「ハヤテもミオも、まだ幼い。この街の事件で、気を病んでいないか……無茶をしていないか、私は少し心配だった」
アヤメは一瞬きょとんとし、それから柔らかく笑った。
「シュラマル殿は優しいな、それに面白い人だと思うぞ。
最初はもっと気難しい人かと勘違いしていたくらいだ」
「……そうか」
シュラマルは小さく息を吐く。
「私も今は、少し気を紛らわせていたいのかもしれないな……」
その瞳は、どこか憂いを帯びて見えた。
――その時だった。
「おや……」
背後から、艶やかな声。
「お若い衆が四人揃って、夜の廓をお散歩とは……随分粋でありんすなぁ」
振り返ると、そこに立っていたのは――
紅を差した唇、艶やかな着物に身を包んだ、一人の花魁。
「兄さんら、ちょいとわっちに付き合っておくんなんし」
その声が、やけに耳に残った。
――この出会いが、ただの偶然ではないと、
俺はまだ、この時は気付いていなかった。
花柳街編第十四話をご覧いただきありがとうございます。
今回はネコメ視点とハヤテ視点の2部構成ですね!
ネコメさんとアサガオさんのやり取りは言葉こそ平穏そうですが、何やら違和感や不穏な行動が見受けられますね...
そして、ハヤテくんたちは道中和やかに目的地である遊郭へと歩みを進めています。
和やかな雰囲気で、とても仲良く互いの絆を深められていますね。
そして、最後に話しかけてきた女性は一体何者なのでしょうか?
それは次回以降に続いていきます!
次回の更新は今日から明日の予定です。
ここからは下書きレベルですが、話のストックはありますので空いた時間に書き込みと投稿を進めて参りますので、どうか皆様より一層の応援をよろしくお願いいたします!
では、次回花柳街編第十五話でお会い致しましょう。




