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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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消えたはずの過去

花柳街編第十二話です!

すみません、今日は帰宅後いつのまにか寝てたみたいで、本文自体は何とか書けていたのですが毎日投稿目標なのに、投稿がギリギリになってしまいました。


早速本編をご覧下さい!

 花柳街の灯りは、賑やかで、騒がしく、どこか浮ついている。

 だが、その端に近づくにつれて、音は少しずつ削がれていった。


 それでも――静かすぎる。


「……相変わらず、気味の悪ぃ場所だ」


 ゲンサイは独りごち、足を止めた。


 かつてここには屋敷があった。

 花柳街から外れた、半ば捨てられたような土地に建つ、黒塗りの屋敷。

 十年前、火に包まれ、跡形もなく消えたはずの場所だ。


 今そこにあるのは、孤児院兼療養所。

 戦や病で行き場を失った子供や大人を受け入れている――表向きは、な。


 門をくぐると、若い管理人が出迎えた。

 柔らかい笑顔。

 丁寧な物腰。


「こんな夜更けに、どうされました?」


「ちょいと昔馴染みの土地でな。懐かしくなってよ」


 嘘は言っていない。

 ただ、全部も言っていないだけだ。


 建物の中は清潔だった。

 廊下は磨かれ、寝室からは寝息が聞こえる。

 だが、ゲンサイの鼻は誤魔化されなかった。


 血の匂いがする。

 消そうとして、消し切れていない匂いだ。


 視線を巡らせる。

 子供の数に対して、夜番が多すぎる。

 療養所にしては、足音が重い。


「……妙だな」


 ぽつりと零すと、管理人の笑顔が一瞬だけ硬くなった。


「何か?」


「いや。子供たち、随分お行儀がいいと思ってよ」


 子供は静かすぎる。

 怯えているわけでも、眠っているわけでもない。

 ――慣れている。


 ゲンサイは、その時点で確信した。


「地下、あるだろ?」


 管理人の喉が鳴る。


「何を――」


 最後まで言わせなかった。

 腕を取られ、床に押し伏せられる。

 骨が軋む音がしたが、致命傷ではない。


「安心しな。子供にゃ手ぇ出さねぇ」


 淡々と告げ、階段を探す。

 床板の下、隠された扉はすぐに見つかった。


 階段を降りるにつれ、空気が変わる。

 冷たく、湿り、重い。


 地下は、記憶とほとんど変わっていなかった。


 壁に刻まれた痕跡。

 消えかけの模様。

 かつて、前にも見た印だ。


「……まだやってやがったか」


 声が低くなる。


 物陰から現れたのは、黒装束の男たちだった。

 数は多くない。

 だが、動きは手慣れている。


「侵入者だ!」


「殺せ!」


 声が上がる。


 ゲンサイは、息を吐いた。


「神だの何だの……十年近く経っても、成長しねぇ連中だ」


 一歩、踏み込む。


 拳が鳴る。

 骨が折れる音が、地下に反響する。


 技名も、掛け声もない。

 ただ、確実に、無駄なく叩き伏せていく。


「まだ完成していない……!」


「血が足りないんだ!」


 断片的な叫びが耳に入る。


 その言葉で、ゲンサイの動きが一瞬だけ止まった。


「ほう……」


 次の瞬間、叫びは途切れた。


 地下の最奥には、小さな祭壇があった。

 かつてよりも粗末だが、血の跡は新しい。


 生贄はいない。

 ――今は、な。


 ゲンサイは、静かに目を伏せる。


「……ここは外れみたいだな」


 理由は、口にしない。


 地上に戻ると、タチバナ組の影がすでに動いていた。

 子供たちは別の場所へ移される手筈が整っている。


 管理人は縛られ、項垂れていた。


「また、何かが始まってやがる」


 夜風に紛れて、独白が零れる。


「今度は……」


 一瞬、言葉が途切れる。


「……全部、終わらせる」


 視線は、花柳街の灯りへ。


「これ以上触れさせるわけにはいかねぇ」


 ゲンサイは踵を返し、闇の中へと歩き出した。

 その背中は、迷いなく、静かだった。


 嵐は、すでに動き出している。

花柳街編第十二話をご覧いただきありがとうございます!



すみません、後書きを書けるほど頭が回っていないので起きてから前書きと合わせて後書きを修正追記します!

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