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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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19/22

夕暮れ時に満ちる熱

花柳街編第七話です!

今回は前回の続きの調査になっています!

是非、この街の雰囲気や情景をお楽しみください。

 賭場の暖簾をくぐった瞬間、空気が変わった。


「……賑やかだな……!」


 思わず声が漏れる。


 広い屋内には、幾つもの卓が並び、人の熱と声が渦巻いていた。

 笑い声、悔しげな呻き、勝負が決した瞬間のどよめき。

 だが、不思議と荒れた雰囲気はない。


 誰もが本気で、だが節度を守っている。


「これでも、夜よりは静かだ」


 隣でアヤメが笑った。


「夜はもっと人が増える。じゃんじゃん酒も入ってな」

「ここは、タチバナ組が仕切ってる賭場だ。ならず者から町の人間まで、誰でも楽しめるように運営している」


 なるほど、と納得する。


 金銭が使われていない。

 卓に積まれているのは、刻印入りのコインだ。


「これが賭け金?」


「桜貨換算のコインだ」

「ここでは直接金を賭けさせない。揉め事を減らすためだ」


 仕組みも、空気も、よく整えられている。


 ――その中で。


 ふと、視界の端に引っかかるものがあった。


 卓の一つ。

 酒瓶を片手に、軽い調子でコインを投げている女。


 負けている。

 明らかに、かなり負けている。


 それなのに。


「……楽しそうだな」


「……楽しそうだね」

 ミオも気付いたらしい。小声で言う。


 女は笑っていた。

 悔しがる様子も、焦る様子もない。

 むしろ、負けるたびに酒を煽り、場の流れを楽しんでいるように見える。


 普通なら、とっくに席を立っているはずだ。


 だが、その違和感を掘り下げる暇はなかった。


「まずは聞き込みだ」


 アヤメの一言で、俺たちは賭場を回り始めた。


 聞き込みは、思った以上に難航した。


「騒ぎ?いや、別に……」


「支配人?確かに今日は見てねえな!」


「夜明け前に居たか?さあ……俺は覚えてねえ」


 誰もが、曖昧な返事しか返さない。


 奇妙だった。

 賭場を仕切る支配人がいないのに、誰も強く気にしていない。


「……妙だな」


 呟いたのはシュラマルだった。


「いなくなった“時間”を、誰も把握していない」


 アヤメも頷く。


「装備も外套も残したまま、だ」

「休んでいるにしては、不自然すぎる」


 だが、それ以上の情報は出てこなかった。


 一度、俺たちは卓から離れ、人の流れを見渡せる位置に集まった。


「手詰まり……かな」


 ミオが小さく息を吐く。


 そのときだった。


「そういえばさ」


 ミオが思い出したように言う。


「さっき、ずっと負けてた人いたよね?」


 俺も頷く。


「ああ、酒飲みながら笑ってた人」

「……普通、あんなに負けたら帰るよな」


 シュラマルは、視線だけを巡らせた。


「……気付いていたか」


 その言葉と同時に。


「ねえ」


 不意に、声を掛けられた。


 振り向く。


 そこに立っていたのは――

 さっきの、負け続けていた女だった。


 酒の匂い。

 軽い笑み。

 だが、目は妙に澄んでいる。


「お兄さん」


 視線は、まっすぐシュラマルに向いていた。


「一勝負、付き合ってくれない?」


 ミオが小声で俺に言う。


「……あの、ボロ負けしてたお姉さんじゃない?」


「噂をすればなんとやらだな……」


 近くで見ると、思っていたよりずっと若く見えた。


 年上なのは分かる。

 けれど、落ち着きよりも先に目に入るのは、屈託のない笑顔だった。


 艶のある黒い長髪は無造作にまとめられ、着崩した着物もどこかラフで、

 賭場に溶け込んだ“場慣れした客”という印象が強い。


 負けが込んでいるはずなのに、目に翳りはない。

 むしろ、楽しそうですらある。


 ――賭け事が好きな、気前のいいお姉さん。


 第一印象は、そんな感じだった。


 ただ。


 笑っているのに、どこか視線が鋭い。

 酔っているように見えて、足取りは一切ぶれていない。


 無意識に、胸の奥がざわついた。


 理由は分からない。

 だが、この人は――

 “ただの賭場の客”ではないような気もした。


 シュラマルは、一瞬だけアヤメを見た。


「私は構わないぞ」

 アヤメは、にこやかに僅かに頷く。



「……いいだろう」


 シュラマルが答えると、女は嬉しそうに笑った。


「話が早いね!」


 女はぱっと笑うと、上機嫌な足取りで卓へ向かった。

 酒瓶を片手に、まるで友達を遊びに誘うみたいな軽さだ。


「難しいのはナシね?」

「頭使うの、酔うとめんどくさいし!」


 示されたのは、簡素な卓。

 椀と賽が二つだけの、丁半博打。


「これなら分かるでしょ?」

「奇数か偶数か。当たったら勝ち、外れたら負け!」


 説明するまでもない遊びを、わざわざ説明してくる。

 その様子が妙に自然で、場の空気が少し和んだ。


「私は――半で行こっかな」


 女はそう言って、軽い音を立ててコインを一枚置いた。


「お兄さんは?」


 シュラマルは一瞬だけ考え、


「……丁だ」


 と答える。


「よし、決まり!」


 女は楽しそうに頷き、胴元に合図した。


 椀が振られる。

 賽の転がる音が、からん、と乾いて響く。


 女は、その音に合わせて肩を揺らしながら酒を一口飲んだ。


「ねえねえ」

「こういうのって、考えすぎると当たらないよ?」


 椀が開く。


 一と二。


「ほらー!」


 女はぱっと手を叩いた。


「半!勝ちっ!」


 嬉しそうに笑い、コインを引き寄せる。


「やったぁ」

「今日は負けっぱなしだったから、ちょっと嬉しい!」


 その言葉通り、表情は本当に楽しそうだった。

 悔しさも、警戒もない。


「もう一回いこ?」


 次は女が椀を取る。


「今度は私が振るね!」


 手首の動きは大雑把で、どこか雑。

 だが、本人は気にも留めていない様子で、勢いよく椀を振った。


「はいはい、次はどうする?」


「……半だ」


「じゃ、私は丁!」


 女はにっと笑った。


「さっきと逆ね」

「こういうの、気分で決めるのが一番!」


 椀が開かれる。


 二と二。


「やった!丁ー!」


 女は声を上げて笑った。


「やだ、今日ツイてるかも!」

「お兄さん、強そうな顔してるのに残念!」


 からかうような口調。

 だが、嫌味はまったくない。


 シュラマルは何も言わず、女の手元を見ていた。


「ん?」

「なに、そんなに見て」


 女は首を傾げる。


「私の手、綺麗?」


 そう言って、ひらひらと指を振る。

 完全に酔客の振る舞いだ。


 ――なのに。


 俺は、胸の奥で小さく引っかかるものを感じていた。


 この人は、負けている。

 勝っても、負けても、ただ楽しんでいる。


 だが――

 流されてはいない。


 その違和感が形になる前に。


 賭場のざわめきが、ふっと途切れた。


 その瞬間――

 賭場の空気が、わずかに張り詰めた気がした。


 そして、夕暮れが近づく。


 客の入れ替わりの時間。

 人の波が、少しずつ疎らになっていく。


 ――その時。


 不意に、影が落ちた。


 俺は、反射的に見上げる。


 空から、何かが――


 落ちてくる。

花柳街編第七話ご覧いただきありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?

今回はハヤテくんたちが賭場に訪れて聞き込み調査をしていましたね...

そこで一人のお姉さんがお酒を飲みながら、勝負を楽しんでいるようです!

負けても笑顔でいるのってなかなか難しいのに凄いですよね...!


そんな彼女ですが、シュラマルさんとの勝負では勝ちが続いているようです!

やっとツキが回ってきたのでしょうか?

シュラマルさんと彼女の勝負ややり取りが繰り広げられている中で、時は過ぎてゆき何やら異変があった様子ですね。


次回花柳街編第八話も是非応援の程よろしくお願いいたします。

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