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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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18/24

消えた血痕、残る影

花柳街編第六話です!

一話にまとめようとしたんですが、長くなったので今回と次回に分けました!

それでは早速お楽しみください

 朝の花柳街は、夜とはまるで別の顔をしていた。


 陽の光を受け、軒先の暖簾が揺れる。

 掃き清められた路地には、昨夜の気配など微塵も残っていない。


 ――今はそれが、却って不気味だった。


 俺たちはアヤメに導かれ、再びあの部屋へ向かっていた。

 タチバナ組の屋敷、その奥。

 ゲンサイが人を迎える、あの謁見の間だ。


 この屋敷は広い。

 だが、ゲンサイが姿を見せる場所は限られている。


 それは単なる用心深さではない。

 “そう在るべき立場”だからだ。


 障子が開く。


 香木の匂いと共に、重たい空気が流れ出した。


「来たか」


 低く、腹の底に響く声。

 ゲンサイは、昨日と同じ場所に座していた。


 この人は、基本的に街を歩かない。

 自ら剣を振るうこともない。


 それだけで、この街にとっては“均衡”なのだ。


「まずは、昨夜の件だ」


 アヤメが一歩前に出る。


「調査に出していた部下――ヨイカは、依然として戻っていません」


「そうか」


 短い返答。

 だが、その一言に含まれる重みは計り知れない。


 沈黙が落ちる。


 その時だった。


「昨日も居たな、後ろにいるのは誰だ……?」

 シュラマルが振り返りもせずにそう問いかける。


「おっと!これは驚いたね」

 どこからともなく、軽い声がした。


 俺は反射的に身構える。

 ミオも同じだった。


「そんなに警戒しないでよ」


 柱の影から、ふっと人影が現れる。

 いつの間にそこに居たのか、全く分からない。


 気配が、なかった。


「……ネコメだ」


 アヤメが名を告げる。


「今回の調査を手伝ってもらっている」


「初めまして、って言えばいいのかな」


 相手は、にこりともせず、けれど敵意もない視線で俺たちを見た。


 年頃は、俺たちとそう変わらないように見える。

 だが、目だけが違う。


 ――とても鋭い目をしている。


「よく気付いたな」


 ゲンサイが言う。


「たまたまだ」


 シュラマルはそっけなく答える。


「だが昨日よりは、マシになってるぜ」


 ゲンサイが声をかける。


「光栄だね」


 ネコメは肩をすくめた。


 ……昨日より、だと?


 つまり、この人は昨日も近くにいたのか。


「さて無駄話はその辺にしてよぉ」


 ゲンサイが場を締める。


「状況が良くねぇ」


 煙管を置き、俺たちを見る。


「失踪だの、辻斬りだの……色々あったが、今までは個別の揉め事で済んでた」


「だが、今回は違う」


 その言葉に、背筋が伸びた。


「血の匂いが濃すぎる」


 ゲンサイは、ゆっくりと続ける。


「理由も、筋も見えねぇ」


「ただ、血が流れてる」


 アヤメが、唇を噛む。


「……引き続き私が出ます」


「今はそうするほかぁねぇな」


 ゲンサイは否定しなかった。


「俺が出りゃ、街が騒ぐ」


「それに――」


 一瞬、視線が鋭くなる。


「カシラが軽々しく出張る訳にもいかねぇ」


 重たい現実。


 だが、それを受け止めた上で――


「ネコメ」


「うん」


「アヤメ」


「はい」


 そして、視線がこちらに向く。


「おめぇらは……どうする?」


 答えは、もう決まっていた。


「行きます」


 俺が言うと、ミオもシュラマルも頷き、一歩前に出る。


「ならいい」


 ゲンサイは、それ以上何も言わなかった。


「まずは、現場を見てこい」


「何も残ってねぇかもしれねぇが」


 その言葉が、胸に引っかかる。


 ――何も残っていない。


 それは、単なる“失敗”ではない。


 そう感じながら、俺たちは部屋を後にした。


 この時点では、まだ誰も知らなかった。


 花柳街の闇が、

 もう“人の手”だけのものではなくなっていることを。



 花柳街の奥。

 昼の光が届きにくい路地は、朝だというのに薄暗かった。


「……ここだ」


 アヤメが足を止める。


 昨夜、血溜まりがあったという場所。

 ヨイカの短刀と簪が見つかった――という路地。


 だが。


「……何もないな」


 シュラマルが呟く。


 地面は乾いている。

 石畳の隙間にも、血の跡は見当たらない。


 洗い流した……というより、

 最初から無かったようにすら見えた。


「消えてるね」


 ネコメが、しゃがみ込みながら言う。


「血も、臭いも、痕跡も」

「徹底的すぎて、逆に不自然だ」


 俺は、周囲を見回す。


 壁。

 屋根。

 路地の奥。


 ――誰かが、ここで傷ついた。


 それだけは、確かだったはずなのに。


「……普通じゃない」


 ミオが小さく呟く。


「うん」

 俺も、同じ感覚を抱いていた。


 まるで、

 “最初から事件が存在しなかった”ことにされているような――。


「聞き込みに切り替えよう」


 アヤメが、すぐに判断を下す。


「ここで立ち止まっても意味がない」


 俺たちは散開し、周辺の店や住人に話を聞き始めた。


 だが。


「知らねぇなぁ……」


「そんな騒ぎ、あったか?」


「夜は騒がしいからねぇ」


 返ってくるのは、曖昧な答えばかり。


 誰も、はっきりとしたことを言わない。

 言えないのか、知らないのか――それすら分からない。


 それでも。


「……影、ですか?」


 ミオが、年配の女将に声を掛けていた。


「ええ」

「黒い影みたいなのを、見た人がいるって……」


 女将は、一瞬だけ目を伏せた。


「……聞いたことはあるよ」


 声が、小さくなる。


「でもねぇ、はっきり見たって人はいない」

「見たって言う人も、皆言うことが違うんだ」


「違う?」


「背が高いだの、低いだの」

「一人だった、いや何人もいた……」


 女将は、最後にこう付け足した。


「ただね」


 一拍。


「“人じゃなかった気がする”って言うのだけは、皆同じさ」


 背中に、冷たいものが走る。


 人じゃない――?


「ありがとう!」


 ミオが礼を言い、俺たちは再び合流した。


「影の目撃は、ほんのわずかだ」


 アヤメがまとめる。


「しかも、証言が揃っていない」


「……けど」


 ネコメが、ふと口を挟んだ。


「面白い話は、ひとつあった」


 全員の視線が集まる。


「少し前にね、賭場の方で騒ぎがあったらしい」


「賭場?」


 俺が聞き返す。


「夜の営業が終わったあと」

「仕切ってた支配人が、忽然と消えた」


 アヤメの目が、鋭くなる。


「……組の者だな」


「うん」

「タチバナの代紋を預かる立場の人間」


 ネコメは淡々と続ける。


「ただ、妙なんだ」


「妙?」


「装備も、外套も、何も持たずに消えてる」

「いつ居なくなったのかも、誰も分からない」


 シュラマルが、低く唸る。


「……それは」


「休憩中にいなくなった、で済ませるには無理がある」


 アヤメが、即座に結論を出す。


「行くぞ」


「今すぐだ」


 夕刻が近づき、人の往来が増え始めた花柳街。

 提灯に火が入り、街は再び“夜の顔”へと移ろい始めていた。


 その中心へ。


 賭場があるという一角へ、俺たちは足を向ける。


 胸の奥が、ざわつく。


 理由は分からない。

 だが――


 ここから先で、

 何かが“決定的に変わる”。


 そんな予感だけが、はっきりとあった。

花柳街編第六話をご覧いただきありがとうございます。

今回は仲間と合流して調査に出た回です!

重なる事件の匂いと街の噂が謎を呼びます...

さて、次にハヤテくんたちは賭場へと事件の調査をしに赴くようですが、今後の展開はどうなりますでしょうか?

次回花柳街編第七話も乞うご期待です!

今後とも応援や感想やレビュー、お待ちしております!

次回更新は本日中目標です。どうぞよろしくお願いいたします!

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