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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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16/22

楽園に指す影

花柳街編第四話です!

今回の話も前書きは省略いたします。

早速本編をお楽しみください!

 客人用の邸宅は、想像していたよりもずっと静かだった。


 花柳街の喧騒から一歩離れただけで、ここまで空気が変わるのかと驚く。

 行灯の灯りは柔らかく、庭先の水音だけが、かすかに夜を満たしていた。


「部屋は、いくつか空いてる」


 案内をしながら、アヤメが言う。


「皆一緒でもいいし、それぞれ別でも構わない」

「好きに選んでくれ」


 一瞬の沈黙。


「えっ……」


 ミオが小さく声を漏らし、ちらりとハヤテを見る。

 ハヤテも、同時に視線を逸らした。


 ……明らかに、顔が赤い。


「べ、別に!」

「一緒でもいいって言われただけで!」


「いや、俺も別に……嫌とかじゃなくて……」


 言い訳が、完全に噛み合っていない。


「……」


 その様子を見て、シュラマルが静かに口を開いた。


「今は、何が起こるか分からん」

「必要があれば、すぐに動ける方がいい」


「……それぞれ別だな」


 一言で、場が収まった。


「……そうだね」


 ミオは少し名残惜しそうに頷き、

 ハヤテも内心ほっとしたような顔をする。


 アヤメは、そのやり取りを見て小さく笑った。


「決まりだな」


 それから、一拍置いて続ける。


「それと――」

「今日から、私もこの屋敷で生活する」


「え?」


「同じ、家で?」


 ミオが驚いたように声を上げる。


「ああ」

「客人を放っておくほど、無責任じゃない」


 冗談めかした口調だが、視線は真剣だった。


「何かあれば、すぐ言ってくれ」


 そう言ってから、アヤメは少しだけ言葉を切る。


「……私は、このあとカシラに報告に行く」

「戻るのは、少し遅くなる」


「分かりました」


 ハヤテが答える。


「お気をつけて」


「心配するな」


 アヤメは軽く手を振り、踵を返した。




 それぞれの部屋に分かれたあと、俺たち三人は自然と一室に集まっていた。


 夜の静けさの中、灯り一つ。

 今日一日の出来事を反芻するような沈黙。


「……これから、どうする?」


 最初に口を開いたのは、ミオだった。


「正直、よく分からないことばっかりだけど……」

「困ってる人がいるなら、出来るだけ助けたい」


 迷いはある。

 だが、言葉は真っ直ぐだった。


「私も同意見だ」


 シュラマルが続く。


「街が荒れるのを見過ごす気はない」

「力が必要なら、貸そう」


 二人の視線が、ハヤテに向く。


 ハヤテは、しばらく黙っていた。


 俺は桜都に来て、まだ日は浅い。

 花柳街のことも、そこに生きる人々のことも、ほとんど知らない。

 それにこれはゲームの中の出来事だ……


 それでも――


「……俺は」


 ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「桜都に来て、色んな人に助けられた」

「ミオも、シュラマルさんも……」


 拳を、軽く握る。


「知らないからって、見ないふりは出来ない」

「困ってる人がいるなら、黙って帰るのは……嫌だ」


 覚悟、と呼ぶほど立派なものじゃない。

 それでも、確かに決めた。


「俺も、やる」


 一瞬の沈黙。


 それから、ミオが笑った。


「うん」


 シュラマルも、小さく頷く。


「なら、決まりだな」


 三人の間に、静かな連帯が生まれる。


「……今日は、もう休もう」


 シュラマルの言葉に従い、それぞれ部屋へ戻った。


 布団に身を沈めながら、ハヤテは目を閉じる。


 明日は早くログインしよう……!


 そして――


 意識が、ゆっくりと切り替わる。




 花柳街の夜にしては、静かすぎた。


 私は、組の屋敷へと戻る道すがら、すぐに報告を受けていた。


「……まだ戻っていない?」


 部下は、深く頭を下げる。


「はい」

「ヨイカは、まだ帰ってきておりません」


 胸の奥が、ざわつく。


 ヨイカは、優秀で、要領も良い。

 無断で戻らないような娘じゃない。


「……分かった」


 声は、意識して平静を保つ。


「引き続き、この件について調べろ」

「そして、情報屋を呼んでおけ」


 部下が下がるのを見届けてから、私は踵を返した。


 向かう先は――カシラのもと。




 屋敷に戻った私はその足でカシラへと報告へ向かった

「ハヤテたちは、無事に送り届けました」


 私は、そう切り出した。


「そうか」


 ゲンサイは紫煙をくゆらせる。


「で、本題は?」


 一拍。


「……ヨイカが、帰っていません」


 その言葉に、ゲンサイは眉一つ動かさなかった。


「組のモンが帰って来ねぇとなりゃあ、心配だがよ」

「ここで俺らが動きゃ、街が怯える」


「事件性が確定するまでは、待て」


「……しかし!」


 思わず、声が強くなる。


 その時だった。


「よぉ」

「いつまで、そこで様子見してんだ?」


 ゲンサイが、私の背後の扉に向かって言った。


「……あらら」


 音もなく、影が現れる。


「バレちゃってたかぁ」

「ボク、そんなに目立ってたかな?」


「ネコメ……!」


 私は息を呑む。


「いや、おめぇは見事だったぜ」

「俺でも最初は気付かなかった」


 ゲンサイは笑う。


「だがよ、まだ甘ぇ」


 私は、背筋が冷えるのを感じていた。

 ――全く、気配に気付けなかった。


「そんで、“ネコメ”よ」


 ゲンサイの声が低くなる。


「何か、掴んでんのか?」


「……まあね」


 ネコメは、小さな包みを取り出した。


 それを、私に差し出す。


 受け取り、開いた瞬間――


「……っ!」


 短刀。

 折れた簪。

 そして、血。


「なんで……こんなものが……!」


「それは、ヨイカのもんで間違いねぇか?」


 震える声で、答える。


「はい」

「これらは私が彼女へ贈ったものです……」


 ネコメが続ける。


「見つけたのは、花街の奥の路地」

「血溜まりの中に、これだけが落ちてた」


 私は、堪えきれず一歩踏み出した。

「ヨイカは無事なのか?今どこにいる?」


 ネコメはすっと目を伏せたがすぐに向き直って続ける。


「分からないんだ」

「血溜まりと留意物は見つけた。けど不思議なことに……周囲には血痕がない」

「足跡も、引きずった跡も、何もないんだ」


「そんな馬鹿な……!」

 私はネコメに食い掛った。


「お前、俺を馬鹿にしているのか?」

 私は怒りのままに続ける。

「そんなことはあり得ない、証拠を見落としたんじゃあないのか?」


 黙って聞いていたカシラが口を開いた。

「おい、アヤメよ……おめぇ”素”が出てんぜ?ちったぁ落ち着いたらどうだ?」


「それにそんなヘマ、今更こいつがするかよ」


 ゲンサイが、私を制した。


「……つまり」


 低い声。


「原因不明の怪事件に、うちのモンが巻き込まれてる可能性が高ぇ、ってわけだ」


 ネコメは頷く。


「ボクもそう考えてるよ、この件はボクも無関係じゃない」

「引き続きこっちでも調べるよ」


 私は、拳を握り締める。


「……じゃあ、どうするんですか」


「おう、俺たちが待つのはここまでだ」


 ゲンサイは立ち上がった。


「確かに俺は動けねぇ」

「だが――」


 私を見る。


「おめぇが出るのは、構わねぇ」


「ネコメ、手ぇ貸せるか?」


「もちろん」


 そして、二人に言い渡す。


「明朝、あの三人も交えて話をする」

「それでいいな?」


「はい」


「了解だよ」


 楽園は、静かに軋み始めていた。


 それでも――

 もう、後戻りは出来ない。

花柳街編第四話をご覧いただきありがとうございます。

久しぶりにハヤテくんの日常に戻ってきた感じがありますね!

これから花柳街に滞在する間ハヤテくんたちはアヤメさんも含めて共同生活をするそうです!

関係性がどう変化していくのかも注目したいですね...


さて、ハヤテくんたちが落ち着いて決意を固めている裏でアヤメさんは武漢みついての報告を受けていましたね。

カシラの前で憤りを隠せないほどにアヤメさんは動揺しているようです。

それに新たに登場したネコメという人物は只者ではなさそうですが、いったい何者なのでしょうか?

表立ってカシラが動けない現状、ハヤテくんたちとアヤメさんネコメが協力して事件に立ち向かうしかないようです。

いよいよ開幕した桜都花柳街編!果たして次回はどんな展開が待っているのでしょうか?

次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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