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歯車たちの英雄譚  作者: 彩衛門
第一章 桜都花柳街編 ―楽園に咲く血の華―

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14/23

花街に坐す侠

花柳街編第二話です!

多くは語りません、桜都花柳街編は歯車たちの英雄譚での第一章の内では1,2を争うほどに私が書きたかった話になります。


それでは本編を皆様是非お楽しみください。

屋敷の門は、静かに開いた。


花柳街の喧騒が背後で遠ざかり、

代わりに、重く澄んだ空気が肌を撫でる。


ここは――

タチバナ組の本拠地。


花街を裏から支え、守ってきた場所。


「どうぞ」


私は一歩前に出て、三人を中へ促す。


ハヤテは少しだけ肩に力が入っている。

ミオは、周囲をきょろきょろと見回しながらも、妙に落ち着いている。

そして――シュラマル。


この男だけは、最初から変わらない。

まるで、ここに来ること自体が想定内だったかのように。


……やっぱり、只者じゃない。


廊下を進む。

磨き込まれた床、掛けられた書と刀。

どれもが「見せるため」ではなく、「使われてきた」ものだ。


やがて、襖の前で足を止める。


「――カシラ、お連れしました」


一拍置いて。


「入れ」


低く、よく通る声。


私は襖を開けた。


部屋の中央、畳にどっしりと腰を下ろす男。


白髪を後ろで束ね、和装に身を包んだ巨体。

老いを感じさせない背筋。

そして、鋭くも楽しげな眼。


ゲンサイ タチバナ。


この花街の主だ。


「よぉ」


視線が、三人を順に捉える。


「遠路ご苦労だったな」


軽い口調。

だが、その一言だけで、場の主導権が完全に彼にあると分かる。


「まずは……」


カシラは、ゆっくりとその場にいる全員へ視線を巡らせ、

最後にハヤテの前でぴたりと止めた。


「コーボルトの新種をぶち殺したってぇのは……」


一拍、間。


「あんちゃんだな?」


視線が、突き刺さるように向けられる。


「……はい」


ハヤテは短く答え、わずかに背筋を伸ばした。

虚勢ではない。

だが、逃げもしない。


その様子を見て、ゲンサイは鼻で笑った。


「いい返事だ」


「運が良かった、なんて面じゃねぇな」


畳に置かれた拳が、ぎしりと鳴る。


「命を賭ける場でよ」

「運に縋る奴ぁ、んな立ち方はしねぇ」


ハヤテは一瞬だけ視線を伏せ、言葉を探す。


「……必死だっただけです」


「彼女を守らなきゃ、と思って」


「ほう」


ゲンサイは口角を吊り上げた。


「必死、ねぇ……」


煙管を軽く鳴らし、間を置く。


「だがよ」


「それで“あの力”が出るなら、大したもんだ」


そして不意に――

本当に脈絡もなく、悪戯っぽく目を細めた。


「あんちゃん」


「ひょっとしてよ……その嬢ちゃんに惚れてんのか?」


空気が、ほんの一瞬だけ止まる。


「――っ!?」


ハヤテは完全に言葉に詰まった。

否定しようとして声が出ず、

肯定するにはあまりにも無防備すぎる。


「い、いや、その……」


視線が泳ぎ、最後には床に落ちた。


「……そういうの、よく分からなくて……」


正直すぎる答えだった。


その瞬間――


「えっ!?」


ミオが、勢いよく声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って!?」

「なんでそこで私を見るの!?」


顔が一気に赤くなる。

頬だけじゃない。耳までだ。


「そ、そういうのじゃないから!」

「多分! たぶんね!」


言葉とは裏腹に、完全に動揺している。


……隠す気は、あるのだろうか。


ゲンサイはその様子を見て、腹の底から愉快そうに笑った。


「がははは!」

「いいじゃねぇか、若ぇってのはよ」


煙を吐きながら、楽しそうに続ける。


「命張る理由なんざ、案外そんなもんだ」


そして、ふっと笑みを消した。


「だがな――」


視線が、鋭くなる。


「その“必死”を貫ける奴は、そう多くねぇ」


「守るってぇ覚悟があるなら」

「力は、後からついてくる」


その言葉に、ハヤテは顔を上げた。

ミオも、まだ赤みの残る顔で、黙って聞いている。


私は、その光景を静かに見つめていた。


――一番軽い冗談を投げながら、

一番重たい“芯”を、正確に撃ち抜いている。


やはりこの人は、ただの侠客じゃない。


そして――

この三人は、もう引き返せない場所に足を踏み入れている。


はっきりと、そう分かった。


評価とも、警戒ともつかない沈黙。


やがてゲンサイは、視線を横に流す。


次は――ミオだ。


「嬢ちゃん」


声色が、ほんのわずかに柔らぐ。


「おめぇも、随分と面白ぇ血を引いてる」


ミオは一瞬だけ目を瞬かせ、

それから、いつものようににこっと笑った。


「そうなんですか?」


首を傾げ、あっけらかんと言う。


「正直、よく分からないです!」


場の空気が、わずかに揺れた。


――やっぱり、この子は。


「分からねぇ、か」


ゲンサイは、じっとミオを見据える。


「……いや」


「分からねぇまま前に出られるのも、才能だな」


ミオはきょとんとした顔で、


「そういうものですか?」


と、悪気なく聞き返す。


「そういうもんだ」


ゲンサイは、喉を鳴らして笑った。


……強い。


力の話じゃない。

この場で、気後れせず、取り繕わず、

“自分のまま”立っていられる。


この子もまた――

見た目以上に、厄介で。


そして、頼もしい。


そして――


カシラの視線が、最後に向いた先。


シュラマル。


「……」


一瞬、沈黙。


「よぉ……おめぇさん」


カシラが、首を傾げる。


「どっかで見たような面だなぁ……確か……」


空気が、張り詰めた。


「他人の空似だろう」


シュラマルは即座に返す。

声は低く、淡々としている。


「……そうだ」


カシラは、指を鳴らす。


「思い出したぜ」


にやりと笑い、


「あんちゃん――修羅、じゃねぇか?」


――殺気。


一瞬。


ほんの、一瞬だ。


だが、確かにそこにあった。


背筋を冷たい刃でなぞられたような感覚。

この場で、それを感じ取れたのは――


私と、カシラだけ。


「……知らぬな」


シュラマルは、それだけ言った。


「悪りぃ悪りぃ」


ゲンサイは、笑って手を振る。


「人違いだったみてぇだな」


軽口。

だが、分かる。


――この人は、知っている。

――そして、あの男も。


だからこそ、ここで踏み込まない。


「ま、いい」


ゲンサイは話を切り替えた。


「さて……本題だ」


空気が、再び変わる。


「花柳街でな」

「最近、妙なことが続いてやがる」


失踪。

辻斬り。

夜に現れる、正体不明の影。


「俺たちだけじゃ、追い切れねぇ」


その視線が、再び三人に向く。


「だからよ」


「外の力を借りることにした」


その言葉に、私は小さく息を吸った。


――ここからだ。


花柳街の“楽園”を揺るがす、戦いが始まる。

花柳街編第二話いかがだったでしょうか?

今回は花街の主、任侠の大親分ゲンサイのカシラが登場いたしました!

名前に負けず劣らずの人物のようで、アヤメさんも日々苦労してそうですよね...

また、今回はゲンサイ親分の活躍?によってハヤテくんたちの新たな一面や、普段あまり見れない部分も垣間見えましたね!

今後の皆の活躍に目が離せません!

私自身文字に起こして書くときに、頭の中でキャラクターが動いたり喋ったりしてくれるんですが、このゲンサイ親分は本当に愉快な方で、他の人以上にセリフを出してくれるので泣く泣くカットしているほどです。

さて、ゲンサイ親分から告げられたのは花街に潜む闇の部分です。

タチバナ組のゲンサイ親分やアヤメさんが手を焼くほどの問題とはいったいどのようなものなのでしょうか?

それでは次回も乞うご期待です!


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皆様の応援と皆様に作品を読んでいただけているのがとても励みになっております。

ありがとうございます。(作者Xアカウント : 彩衛門@Ayaemon3671)

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