序章 旧き夢の断片
ザァ…ザァ…と外で雨が降り注ぐ。
強い風が家の壁を襲い、衝撃が内側にも響き渡って来るかのような感覚がする。
外は大雨が降り、雷まで轟く悪天候。
幼い子供達には恐怖を植え付けるような轟音で、布団に頭ごと隠す事で漸く恐怖を辛うじて和らぐ事が出来た。
――怖いよ…誰か助けて…
ふと、隣に居る妹の泣く声が聞こえた。
少年は恐怖に抗い、妹の手を繋ぐ。
すると妹は幾分か和らいだのか、手を握り返し、お兄ちゃんと布団越しに声が届いた。
『……大丈夫。僕が付いて居るから』
少年は妹にそう語ると、妹は勢い良く少年の布団の中に入って来て抱き着く。
『……怖いのは嫌だ。だけどそれ以上に独りなのはもっと嫌だよお兄ちゃん…』
『大丈夫…僕は此処に居るから。咲希、お前を独りにはさせないから』
『…………うん。絶対に離さないで』
『…………ああ、絶対に離さない』
ゴウォォォ…と外の風が再び強く鳴って、古い木造建築の家を襲う。
家は軋むが、耐久性だけは誇っているのか、決して家が壊れる事だけは無い。
それは頭では理解しても、そんな“孤独感”は打ち払えそうに中々無かった。
『……絶対に咲希だけは独りにさせない』
『……お兄ちゃん……お兄ちゃん…!』
それは遠く古く、しかしいつまで経っても忘れられない記憶の断片だった。
※ ※ ※ ※ ※
〜東雲朔夜side〜
「……………ん……んん……んんん………」
――いつかの夢を見ていた気がする。
あれは雨の降る日の夜……“アレ”があった後の出来事だっただろうか。
余り思い出しくは無いが、同時に俺が妹を守ると決めた日でもあった。
俺は複雑な感情に支配され、少し落ち着かせてから布団から出る。
俺は部屋を見回す。
7畳程の広さの部屋に勉強机と椅子が横にあり、他には部屋の隅にタンスや本棚が置かれた至って普通の和室である。
……っと俺は一体誰に説明をしているのだろうか。
俺はスマホの時計を見る。
――現在時刻は5時46分か。
まだ少し早い気もするが、あの夢を見てしまったが故に、気分転換をする為にも顔を洗い、朝食の用意をした。
暫く準備していると、妹の咲希と親父がリビングに来た。
「……おはよう」
「………ああ、おはよう」「おはよー」
軽く挨拶を交わし、俺達は出来上がった食パンを頂く。
「「「頂きます」」」
焼けた食パンに苺ジャムを乗せた味は美味しいが慣れた味だった。
「……そう言えばそろそろ“あの日”だけど今年はどうする?」
「………“あの日”か。私は辞めておく」
「……お父さん。いい加減今年ぐらいは行こうよ」
俺達は朝から静まり返ってしまった。
“あの日”から俺達の時間は止まってしまっているように見える。
……あの日はそれだけ俺達の人生に大きな傷を付けやがったのだから仕方無いと言えば仕方が無いのかも知れないが…
「……俺は仕事だからもう行く。後片付けは任せた」
そう言って親父は早く朝食を済ませると仕事に行ってしまった。
残った俺達、兄妹は押し黙ったまま朝食を食べた。
………………………………………。
「「御馳走様でした」」
朝食を食べ終わり、妹の咲希が後片付けをしてくれると言う事で俺は学校に行く準備を済ませたが、薬を飲み忘れていた事に気が付く。
病院から支給された薬を口に含み、水で飲んだ俺は妹の咲希と共に家を出て、鍵を閉めてから通学路に向かって行く。
外に出れば雨が降っており、俺達は家の傘を差しながら通学路を歩いて行く。
「……さっきの話だけど私は行くよ。だってママと会える日だし」
「……俺も行く。何より行かないと母さんが悲しむしな」
俺達は“あの日”の話題はそこそこにし、通学路で別れる所に差し掛かったので、妹と別れる事にした。
「それじゃお兄ちゃん、また夕方に〜」
「……おう」
そうして俺は駅まで徒歩で向かい、電車に揺られて向かう。
今日の電車内は人がそこそこで比較的空いていた方だった。
俺は空いていた座席に座り、暫く乗っているとお年寄りのお婆さんが近付いて来たので、席を譲る事にした。
「……あの良ければどうぞ」
「あらぁ〜悪いわねぇ〜それじゃあ少し甘えさせて貰うわねぇ〜」
そう言ってお婆さんはゆっくり座り、俺は手すり棒に掴まった。
そうして電車で一個手前に着くとお婆さんから「有難うねぇ〜」と感謝の言葉を頂戴し、それからゆっくりと降りて行った。
俺はそのまま手すり棒に掴まったまま目的地に到着すると、人の波に乗って降りて行き、駅のホームに降りて改札に向かう。
エスカレーターで上に昇っている最中、ふと目眩がして立ち眩みでフラフラとなってしまい、後ろに転倒しそうになった所で誰かに押さえられて間一髪助かった。
「お、おい大丈夫か?」
「……済まない。助かりまし…ってえ?」
背後に居たのは確か球技大会で1年E組にいた善積恭將だったか?
どうやら向こうもそれに気付いた様子で少し思い出す素振りを見せていた。
「あー…確か遠坂君と同じクラスの人だっけ?」
「……そうだな。俺は東雲朔夜だ」
「あー了解。東雲君ね。俺は善積恭將だ。んでそれよりフラついて居たけど体調が悪いんか?」
善積恭將に心配されたが、これは“いつもの”なので気にしない。
「……いや、大丈夫だ。ふとした時にいつもふらつくだけだから。
けど一応病院には行くとしようかな。済まない助かったよ」
「お、おう。大丈夫なら良いんだが…」
まさかの人物に助けられたが、薬の効果が悪いのかも知れないので、これを機に病院には行こうと思った。
「それより東雲君。君ってこっち方面なのか?」
「……ああ。家がこっちでな。何時もこっち方面の電車に乗って通学してる感じだな」
「ほーん。偶然だな?俺も同じ方面だし、何かの機会だ。これから仲良くしてくれると嬉しいよ」
「……俺もだ。宜しく頼む」
「ははっ!もっとフランクで良いのに」と善積恭將は言ってくれたが、これが俺なので許して欲しい。
その後、一緒に話をしながらバスで聖嶺學園に到着し、昇降口を少し行った所で解散し、俺はそのまま1年C組に入るのだった。
※ ※ ※ ※ ※
さて、今日は樹が1年B組の方に行っているので、俺はイヤホンで曲を聴き、ミステリー系の文庫本を読んで暇を潰していた。
……ふーん。此処が序盤の伏線に繋がっていたのか。
俺が本に読み耽っていると、肩を優しく叩かれた。
俺がイヤホンを外し、本を閉じて顔を上げると、廣仁が居た。
「……どうした?何か用か?」
「えっとね。何か遠坂君からL◯NEで勉強会をしないか?って来てると思うんだけど…」
「……勉強会?」
俺はスマホを見ると履歴に『他クラスを交えて勉強会を開こうと思うんだが、どうだ?』と遠坂樹からLIN◯が来ていた。
……一体何があったら他クラスと勉強会を開く事になるんだか。
俺は『何処のクラスとやるんだ?』と樹宛に返信すると…
『それはお楽しみに』と返って来たので、俺は頭を抱える。
「……こんな時に限って秘密かよ。面倒な奴ならどうしてくれる」
「えっと…ボクは参加してみようかなと思うんだけど、東雲君は参加しない方向なの?」
と、廣仁に言われた俺はどうしようかなと思った。
正直言って面倒なのは確かだが、少しばかり興味もあるのも確か。
――なら思い切って行ってみるのも有りか。
「……うーん。少し興味があるのも事実だし、今回は行くか」
「そう?少し安心したぁ…望月さんが居るかも知れないと思うと少し心配でさ」
「あー……」
俺は以前、遠坂樹と望月さんが廣仁を“可愛がって”いたのを目撃しているので、変態共に襲われないか心配していたのか。
「……まあ、俺も居るから万が一何かあったら守るくらいはする。
て言うか、樹の奴も止めろよとは思うけど」
「うーん…まああの人はあの人って感じだしね。良い人ではあるんだけどたまに暴走してしまうのが玉に瑕って言うか…」
散々な言われようだが、事実なので仕方が無い。
……と思っていたらホールルームが始まる前の予鈴が鳴り、樹達が教室に戻って来るのが見え、樹が此方を見ていたのが分かる。
――絶対、俺が気にしている勉強会の事だろうな。
「おはよう御座います。本日もホームルームを始めますよ」
担任の前園先生が来たので、意識を切り替える事にした。
――さて、今日もそれなりにやって行きますか。
こうして時は5月が過ぎ、6月に移り変わろうとしていた。
読んで頂き、有難う御座います。
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