第1話 来訪者
――どうも、皆のアイドル・いっ君さんだゾ(キラッ⭐︎)
本日は連休の土曜日であり、世間は休みなんだが…今日は少し客が来るから身だしなみをしっかりしているぜ。
家の鏡の前でし、今日もイケメンのチェックを済ませた俺は、少しだけ時間が空いたので暇潰しにマックス・ドナルドの遊びをしていた。
―こっちの方が良いかなぁ、これも良いな、これかぁ〜!
気分はもう某教祖様である。
――アラー!アラー!アラッラ!
※M.D.マックス・ドナルドは◯◯なのか?を聞いています。
――不⭐︎覇⭐︎不⭐︎覇⭐︎不⭐︎覇!
俺は左右に腕を振りながら、ステップを刻む。
――ラ◯ラン、ルゥ〜!!
ランランと口遊み、真顔で手を叩き、この時テンポがズレないようにするのが大事である。
次に手と腕を上に伸ばし、ルーを大きく言って行きます。
そうして手を腰に当て、もう片方の天井に向けて――
……………俺は何をやっているんだ。
ふと我に帰り、真面目にしようと部屋を出ようとすると…
「朝から楽しそうで良いね…」
そう言って姉貴はそっとドアを閉めるのだった。
………はっ!?待って!?今のは違うんだ!?姉貴ぃぃぃ!!
〜閑話休題〜
姉貴に誤解を解くのに時間が掛かったが、無事に解き終わると少し遅めの朝食を頂き、テレビを付けながら渚に連絡をする。
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いっ君さん
『其方はどうだ?』
なぎさ
『んーそろそろ着くかも』
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「渚、もう着いて来るってさ」
「そう。なら再会した時が楽しみね!」
姉貴は少し笑みを浮かべ、本当に楽しみなんだなと思う。
かく言う俺も楽しみなのは間違いないが、この後どうなるのかが少し気になり、期待と不安がいっぱいであった。
……予定ではこの後、色々出掛けるからお財布大丈夫かな。
なんて言う個人的な不安を抱えつつ、暫く待っていると、ピンポーンとインターホンが鳴り、俺達は出迎えに玄関まで行く。
扉を開けると親戚の家族が立っていらっしゃった。
「あ、お久し振りです」
「ああ、夏休み以来だね。元気にしているみたいで良かったよ」
そう言って姉貴は親戚の大人同士の会話をし、その横から渚が駆け寄って来て、姉貴と抱き合った。
「久っさし振り!碧唯お姉ちゃん!!」
「うん!本当に久し振りだね!なぎちゃん!」
――彼女の名は遠峰渚。
我が遠坂家の親戚であり、俺達と仲が良い従姉妹であった。
※ ※ ※ ※ ※
――遠峰家はとある企業の社長一族である。
我が遠坂家はその親戚に当たり、役員として両親が働いている。
その関係で遠峰家とは年に何回か親戚一同の集まりで顔を合わせたりするのだが、大人同士の話し合いで子供にとってはつまらないと思ってしまうのが実情であった。
しかし、当時中学生だった俺と同じ境遇だったのか、親戚の側に座っていた彼女と目が合い、その瞳に何が映っていたのだろうか。
気になった俺は彼女に話し掛け、パーフェクトコミュニケーション能力を何とか駆使し、緊張を解して会話をしたのが出会いだった。
その際に最初に掛けた言葉が――
※ ※ ※ ※ ※
「ハロー!マイカズン!」
と、俺は姉貴に抱き着く渚に声を掛けた。
因みにcousinとは「いとこ」を意味し、男性や女性問わず言う意味らしいゾ。
俺は英語は余り詳しく無いから知らないけど。
「ハロー!マイ兄貴!」
「兄貴は英語じゃねぇだろ…」
「じゃ…マイ兄貴」
「◯◯ニキじゃねぇよ」
と、このようにネットスラングで会話して見たら意気投合した訳である。
最近の若者はやっぱりネット用語とか海外で流行ってる事を話題にして見ると良いのかも知れないね。
「よお、久し振りだな。元気にしては…いたか」
「そりゃ、兄貴の受験シーズンは控えてたけどほぼ毎日メールと写真を送り付けていたんだから元気に決まってるっしょ!」
そう言って遠峰渚は笑顔を浮かべて笑った。
黒髪のポニーテールをした碧眼の幼さを残した童顔の美少女の満面の笑みは可愛らしさと元気さがあった。
「相変わらず元気があってお爺さんは羨ましい限りじゃよ」
「は?樹?あんたがお爺さんなら私は何になるのかしら?」
俺のボケに姉貴が反応してしまい、ニコニコと笑っている。
oh…気の所為じゃ無ければ背後に鬼が見えているような気ガス。
「化石じゃねーの?へぐらっ!?」
「ふん!あんたが余計な事を言うからこうなるのよ!」
「あはは!!相変わらず仲が良い事で何よりですわ」
俺は姉貴の鉄拳を腹に喰らい、少しふっ飛ばされそうになったが、辛うじて全身に力を入れる事で耐え凌ぎ、意識を繋ぎ止める事にも成功した。
……全く俺じゃ無ければ死んでいた頃だぞ?あの化け物が…()
そんな姉弟の様子に渚は御満悦のようだが、そろそろ玄関でふざけているのも終わりにしないとな。
「あ、ふざけてすいません。取り敢えずウチにどうぞ」
「ああ、失礼させて貰うよ…因みに弟…君達のお父さんは?」
「あー…今日も仕事で…帰って来るのは早くて夕方頃らしく」
「全くお爺様から休暇で良いと言われているのに…まあ、真面目な弟の事は良いんだ。自由を求める私は休める時に休みたいからね」
と、遠峰家のご両親の事は姉貴に任せ、渚達の荷物を客室に置いた後に俺の部屋で渚と色々話していた。
「んで予定だと色々言って見たい所があるって聞いてたけど…何処に行って見たいんだ?」
「えっとね〜澁谷とか池袋とか、アキバにも行って見たいなって」
「色々あるな…」
どうやら都心を中心に回りたい様子の渚。
と、なると色々地図アプリから場所を見ながらになるかな…
「けど今日は兄貴が通う高校周辺を見てみたいな〜」
「そこなら1時間もすれば行けるが…良いのか?」
「うん。一度兄貴の通う所がどんなのか気になってたからさ」
ふーん…まあ、渚がそれで良いのならそれでも良いか。
「んじゃ、少し用意出来たら行くとしますか」
「おー!」
こうして高校周辺に行く事が決定したのだった。
※ ※ ※ ※ ※
自宅で昼食を摂り、姉貴と遠峰家ご両親は家に残るとの事で俺と渚は1時間掛けて最寄り駅の聖嶺駅に到着した。
「へぇ〜此処が兄貴の通う街なんだね」
「とは言っても良くて地方都市ぐらいだけどな」
――東亰都多摩市。
多摩地区に位置する地域で、老若男女問わず様々な人達で溢れかえっている活気盛んな街である。
この街は駅中心にショッピングモールや映画館、レストランやらカラオケ店、ゲームセンターなど充実した店舗が多く点在する。
下手すれば一日近く駅周辺だけで暇を潰せるぐらいだった。
「それで先ずはショッピングモールに行きたいです!」
「……何か買い物か何かです?」
「うん!少し美味しい物とか色々」
…………その色々って何でしょうか。
恐らく買い物とか買い物とかなんでしょうか。
「……美味しいスイーツ店を知ってるんだ。其処だけなら奢ってやっても良いぞ」
「やったー!」
やれやれ…
高校生のお財布事情的には余り余裕は無いのだが、可愛い従姉妹の為だと思えば少し程度なら……まあ、大丈夫だろう。
俺達はショッピングモールで渚による服などの買い物に付き合ったり、ホットケーキの店で美味しいホットケーキを頂く事にした。
柔らかい生地の部分が口の中に広がり、それと同時にメープルシロップの甘い味が染み渡り、天国に昇ったかのような気分になる。
渚も幸せそうに食べている姿を見て、ついスマホの写真に収めて姉貴に送り付けた。
「あっ!?人の顔を勝手に撮らないでよ!?」
「悪いな。可愛くて姉貴に送り付け…あ、返信した」
「ちょっ!?」
因みに姉貴から『良くやった!』と返信が来ており、渚が拗ねてしまったので、追加でスイーツをあげる事で許して貰えた。
そうして時間も3時過ぎになった事で、そろそろ帰ろうかと言う事になり、ショッピングモールを後にしたのだが…
「あれ?遠坂君?」
と、聞き覚えのある声が聞こえて来たので、声がした方向に顔を向けると其処に居たのは――天宮さんとご家族さんであった。
隣にいる渚から「友達?」と聞かれたので紹介する事にした。
「あ、ああ…こちら同じ学校で友達の天宮さんだ」
「えっと…初めまして天宮いよりです」
「あ、兄貴がお世話になってます。従姉妹の遠峰渚です」
此方が自己紹介し、次に天宮さんファミリーが自己紹介した。
天宮さんと同じ顔付きの少女は天宮さんの背後に隠れながら…
「は、初めまして…い、妹の天宮いさな…です」
「ごめんね。妹は初代面の人だと誰でも人見知りで緊張しちゃって…」
成る程。
まあ、パーフェクトコミュニケーションを誰もが持っている訳では無いので、人見知りな人は緊張するのは当たり前だろう。
「分かった。初めまして遠坂樹です。何時もお姉さんと仲良くさせて貰っています」
「あ、姉とは…ど、どんな…関係です…か」
ほう。天宮(姉)とどんな関係と聞かれたか…
天宮(姉)が「ちょっと!?なに聞いてるの!?」と言ってるが、質問には答えておくべきだろう。
そう思って俺は…
「うーん…天宮いよりさんとは友達だが…可愛くて守ってあげたくなるような大事な人であるのは間違い無いだろうな」
「ふえっ!?」
「「えっ!?」」
おや?どうしたんだろう?
本音のまま答えたつもりが、天宮(姉)は赤面し、渚からはニヤニヤとされ、妹さんからは何故か睨み付けられてしまった。
「ふ、ふぇ…可愛くて守ってあげたくなる人…えへへ…///」
「お、お前が…お姉ちゃんに纏わり付く男…!お、お姉ちゃんはお前なんかに…あげたりしない!」
「……まさかこんな所で兄貴の恋愛フラグを見る事になるとは」
三者それぞれの反応を見せられ、俺は何も分からず、頭に「?」マークを浮かべるのであった。
※ ※ ※ ※ ※
その後、天宮姉妹と少しだけ話し、渚が天宮さん達と連絡先を交換し、女性陣のコミュ力は凄まじいなと思った。
交換してから「兄貴の事で何か困ったら相談に乗りますから」と答えてから解散となり、自宅まで帰ったのだが…
「それでね〜ショッピングモールで出会った天宮いよりさんって人に兄貴がフラグを立てている所を目撃してしまった訳なんですよ」
「へぇ〜?無駄にコミュ強の樹ならそのうち、女の子を私に紹介する日が近いもかもね…あーそれなら眞希ちゃんは…」
「あー…」
何故、そこで眞希が出て来るんだか。
現在、遠坂家と遠峰家のそれぞれの一族が揃っており、俺達の話を聞いて盛り上がっていた。
「あらぁ〜誰に似たんでしょうかね」
「……どうやら血は抗えないようだな(苦笑)」
と、俺の両親。
「孫を見る日も近いのかも知れないな…」
「慶慈さんと悠祐さんの結婚的の速さからすると強ち間違いではないのかも知れませんねぇ〜」
と、遠峰家のご両親。
因みに俺から見て慶慈さんは遠峰慶慈(伯父)の事で、悠祐ってのは遠坂悠祐(父親)の事をそれぞれ言う。
…………さて。
何故か皆が俺を見て微笑ましそうに見ている訳だが俺が何かしただろうか?
結局、俺はこの事が気になって寝るまで考えたが答えに辿り着く事は無かったのだった。
読んで頂き、有難う御座います。
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