生まれる前からの因縁
フローライト第七十七話
目の前にいる二人は親子だ。奏空は明希が産んだ利成の子供だ。でもお互い元々知っているという。それは生まれる前からの因縁だと・・・。
(意味がわからない・・・)
でも、奏空は真剣な顔だったし、利成もふざけているようには見えなかった。
── 今は意味考えないで。
奏空が言っていたけれど、考えちゃうでしょ?と咲良は思いながら二人を見つめた。
人はどこからきてどこに行くのか・・・そんなことあまり考えたことはない。そんなことを考えたところで、ここでこうして生きていかなければならないことに変わりはないのだ。
「いつも言うけど、そろそろこのゲーム、やめない?」
奏空が利成の顔をじっと見つめている。
「そうだね・・・やめてもいいけどね・・・」
「そうでしょ?退屈なのが広がるばかりだよ」
「そうでもないよ。現に今は退屈じゃないよ」
「・・・・・・」
「少し複雑にした方が、知恵の輪は面白いでしょ?」
利成が奏空を見つめている。暫し沈黙が続いた後、奏空がため息をついた。
「オッケー。続けてもいいけど、咲良からは降りてもらう」
奏空は肩を回しながら言った。
「奏空、俺の話し聞いてたでしょ?咲良が最後の俺のゲーム」
(ん?)と思う。ゲームって・・・。
何それと利成の顔を咲良が見たら、利成が気が付いて微笑んだ。
「ごめん、嫌な言い方だったね」と利成が言う。
「・・・・・・」
咲良は黙って奏空の方を見た。奏空は呆れたような顔で利成を見ている。
「美園がいるじゃん。それで十分でしょ」
奏空が言う。
「美園は美園。咲良は咲良でしょ」
「・・・咲良」と奏空が咲良の方を見た。
「ん?」と咲良が答えると「こういう人どう思う?」と聞いてきた。
「こういうって?」
「わざと困難を設定して自作自演のくせに、それを退屈だと言ってるおバカさんのことだよ」
「・・・さあ・・・もうその意味自体が私にはちょっとね」
「咲良、奏空の言ってることは理解することじゃないんだよ。すでに咲良だって知ってるんだから」と利成が言った。
「利成さん、反則は美園だけにして。今後はやめてよ」と奏楽が言う。
「ルールなんてないでしょ?奏空が勝手に設けてるだけで」
「ないよ。確かに。だけど俺だって感情持ってるんだよ?そこのところは気づかい必要だよ」
奏空の言葉に利成が「アハハ」と急に笑った。そして「やっぱり奏空はいいね」と言う。
(何で笑ったの?)
咲良にはさっぱり話が見えない。
「まあ、もう少しやらせてよ」と利成が言う。
咲良は利成と奏空の顔を見比べて言った。
「お二人とも、私を餌に何か楽しんでいるご様子だけど・・・さっきから私に失礼だとは思わないの?」
真面目な顔でそう言ったら利成が吹き出した。そして言う。
「咲良もやっぱりいいね」
何だか狐につままれたままで何となく日常生活に戻ってしまった。美園との険悪さも無くなりまた普通に美園が話してくる。
利成と美園のユーチューブは、定期的にアップしているようだったが咲良はもちろんもう何も言わなかった。
明希は彼氏がいて心の安定を得た。咲良は奏空の父親である利成の子供を産んで、利成の妻の明希もそれを承知している。美園は利成が本当は自分の父親だと知った後も、利成が好きで変わりない。
咲良は奏空が好きでやっぱり失いたくはなかった。だけど利成には強烈に引っ張られる何かが消えないままだ。
奏空は旅行を海外に行きたいなどど言っていたが、結局それは叶わず国内旅行になった。二人きりではなく美園も一緒だ。
けれど美園は、久しぶりの家族との旅行が嬉しいようだった。温泉や観光や買い物に楽しげだった。それに動画を上げるんだと奏空と一緒にビデオまで撮っていた。
「咲良も一緒に撮ろう」と美園に言われたが咲良は「やだよ」と断っていた。けれどどうやらこっそり撮られていたようで、観光地での様子やホテルでの様子を後から見せられた。
「利成さんてね、明希さんとユーチューブやったこともあるんだって」と美園が無邪気に言う。
「そうなの?」
「そうだよ。だから咲良も奏空と撮りなよ」
「ダメだよ。利成と奏空じゃ立場が全然違うでしょ」と咲良が言うと「えー何の立場?」と不服そうに言った。
二泊三日だが旅行は楽しかった。美園の子供らしい笑顔も見れて咲良はホッとしていた。やはりまだ子供なんだとそう思えた。
そして月日は流れ美園は中学生になった。