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第11話 巨獣王

 訓練が始まってからどのくらいの時間が経っただろうか。

 僕は今、絶賛疲弊中である。

 00番から繰り出される斬撃を何とか躱し続ける。

 けれど、相手は疲れ知らずの戦闘人形。

 速度が落ちる気配はない。


 躱しきれず、【強化ハルト】を使用した腕で剣をいなす。

 開始からずっとこの繰り返しだ。

 確かに、これは訓練としては良いのかもしれない。

 ――相手が本物の剣を使ってさえいなければ。


『主様、どうなさいますか?』


 エイルが僕に質問してくる。

 どうもこうも無いな。このままじゃジリ貧だ。

 ここは『七つの断章』の使い所だろう。


「相手が剣なら、こっちも剣だ」


 次の瞬間、『七つの断章』が反応。


《"湖の乙女(ヴィヴィアン)":投影実行フォーカス・オン――》


 懐に入れていた魔導書が光の粒子となって体を包み込む。

 光が晴れた時、手には聖剣が握られていた。

 異変を感じ取ったのか、00番が素早く距離を取る。


「前回は少し使っただけだったからな。今回でしっかり学んでおこう」

『素晴らしい学習意欲です、主様』


 エイル、別に無理して褒めなくていいぞ。


『承知しました。では、主様はさっさと『七つの断章』の全機能を使いこなせるようになってください』


 おいエイル、そこまで手のひらを返さなくていいぞ。

 ……まぁいい。今後、冒険者として活動していくならもっと力を付けなきゃならない。エイルの言う通り、さっさと使いこなせるようになろう。


 ――互いに剣を構えた。

 熾烈な戦闘訓練が今、始まる。




――――――――――




 バルファは困惑した。

 今まで防戦一方だったゼーレが、急に反撃を開始したのだ。

 単にゼーレが奮起したという様子ではない。

 言うなれば、豹変。まるで別の人間と入れ替わったのかと思う程の変わりぶりだった。


(動きが全く違う……。剣の有無だとか、そんな些細な違いじゃない。根本から別の人間みたいな動きだ。……魔術、とは考えにくい。となると、ボクと同じ〈神片フラグメント〉持ち? もしくは魔法――)


 ギルドマスター室で、バルファは考えを巡らせる。

 誰もいない室内。この部屋は、バルファの許可がなければ入れない。

 これは〈掟ノ神片(テミス・フラグメント)〉による結果だ。

 だから彼女は気兼ねなく思考できる。熟考ができるのだ。

 しかし、いくら頭を回してみても解答は得られない。〈掟ノ神片(テミス・フラグメント)〉では、未知の能力を解析する事はできない。


「あーあ、こんな時にテオがいたらなぁ。〈知恵ノ神片(アテナ・フラグメント)〉なら、一発でどんな能力か分かるのに」


 若くして引退してしまった冒険者の事を思い出すバルファ。

 しかしそんな事を言っても所詮はないものねだりでしかない。

 彼女は投影魔術によって映し出された訓練場の様子を眺める。


 ゼーレは剣を手に00番と互角の戦いを演じている。

 00番は上級以上の冒険者の為に用意した特注品。

 今は上級用のレベルに設定されているが、設定を弄れば霊幇れいほう級用のレベルに変更が可能だ。


「…………」


 ゼーレと00番の攻防を見ていたバルファ。

 彼女はゼーレの本気を引き出したいという欲に駆られていた。

 今でこそ"生ける掟"と名高いギルドマスター、バルファ・ドラウン。

 だが、その過去は実に血生臭い。

 冒険者を狩る冒険者として活動していた頃、彼女は"破綻した掟"として周囲から恐れられていた。


 ――残虐。

 ――凄惨。

 ――非道。


 普段は抑え込んでいるはずの"破綻した掟"としての側面が顔を覗かせる。


「もっと、もっと見せて……!」


 バルファは恍惚な表情を浮かべながら、自律式戦闘人形の制限を一つ解除した。




――――――――――




「速い速い速い速い!」


 体のすれすれを、剣が通り過ぎていく。

 戦闘人形の速度が急に上がった。

 ヴィヴィアンを起動していなかったら、とうに斬り刻まれていたに違いない。


『大変そうですね、主様』


 他人事ですね、エイルさん……!

 お前の主様、結構ピンチなんだが?


『ヴィヴィアンは攻守のバランスに優れた従者です。この程度の速度ならまだ対応可能ですが、反撃の隙が見つかりません』


 結局、また防戦一方って訳だな。

 魔力も無限にある訳じゃない。打開策を考えないと。

 ……っていうか、何で急にスピードが上がったんだ?

 変な事をしたつもりはないが……。


『恐らく、あのバルファと名乗っていたギルドマスターが何か細工をしたのかと』


 なるほど。

 初対面で言うのもあれだが、あの人多分まともじゃないだろうからな。

 面白そうだからって何でもやりそうだ。


『どうなさいますか?』


 そうだな……、こっちは体力が限界に近づいてる。

 出来るなら一撃で仕留めたい。

 四体の中で破壊力のある従者となったら、あいつか。


 00番の剣を受け止め、その衝撃のまま後方にわざと吹き飛ばされる。

 体力が切れた――そう、思わせた。

 00番がとどめを刺そうと距離を詰めてくる。


 ギリギリまで引き付ける。

 確実に当たる距離まで。


 00番が、間合いに足を踏み入れた。


《"巨獣王ベヒモス":投影実行フォーカス・オン――》


 光の粒子が溢れる。

 剣は戦槌へと形を変えた。

 00番は異変を察知したが、その加速はもはや止められない。


「ぅぅぅうううらあああ!!」


 力の限り、戦槌を振るう。

 槌頭は胸の刻印部に直撃。

 00番は軽々しく吹き飛び、訓練室の壁にめり込んだ。


「……はぁ……はぁ……」


 肩で息をする。

 この一撃で、どっと疲れた。

 それに、ズキズキと突き刺すような痛みが両腕に走っている。

 有り余るパワーに肉体が追い付いていない証拠だ。


『主様、戦闘人形が……!』


 エイルに言われ、前方を見やる。

 するとそこには壁から抜け出した00番が立っていた。

 機械は疲れないし、痛みを感じない。

 どれだけ攻撃を食らっても、それが規定値に届かなければ停止する事はない。


「まだ立つのか……。流石、特注品って感じだな」


 魔力は残り僅か。

 従者の投影はもうできない。

 ベヒモスを投影し、戦槌を00番の胸部に叩き込んだ時点で、全てが決していたのだ。


「もうとっくに限界を迎えてる。これ以上は戦えない……」


 僕は00番に向けて言葉を掛ける。

 意味が伝わっているかは不明だが、この訓練の幕引きは僕がしなければならないだろう。


「僕の勝ちだ、00番」


 そう発した瞬間。

 00番の胸が爆ぜる様に跳ねた。

 そして四肢が歪に震えだし、最後には電源が切れたように……いや、実際に電源が切れて膝から崩れ落ちた。


『主様、今のは……』


 簡単な事だ。

 自律式の機構人形はどれも胸の刻印に魔力を込める事で起動させる。

 要は、そこが唯一外部とのつながりがある場所。


 戦槌を叩き込んだあの一瞬。

 刻印部から大量に魔力を流し込んだ。

 緻密な術式構造で動いている機構人形に一瞬で膨大な魔力を流し込めば、術式が暴走して故障ショートする。


 外部からの攻撃に強い耐久性があるなら内側から壊す。

 昔、硬い外骨格を有する魔物と対峙した時に師匠が言っていた言葉だ。


『こういう外からの攻撃に強い奴は総じて内側からのダメージに弱い。だから内側から壊すんだ』


 そう言って、師匠は無慈悲にも魔術で毒を散布して魔物を処理していた。

 何だかあまり良い思い出とは言えないが、教えが役に立ったのは事実。

 師匠には感謝しないと。


『お見事です、主様。素晴らしい機転に感服いたしました』


 エイルからお褒めの言葉をいただく。

 とは言っても、あのベヒモスの一撃が決まっていなかったら確実に負けていた。

 今回は賭けに勝っただけの事。

 単に運が良かっただけだ。


 それに両腕にはまだ痛みが残っている。

 パワー特化のベヒモスを使うには、もっと身体を鍛えなきゃ駄目だ。

 まだまだ課題だらけだよ。


 疲労に耐え切れず、その場に腰を着く。

 とりあえず00番は機能停止にしたが、これで終わりなんだろうか。

 虚空を見つめる。

 当然ながら、どこを見てもあの天の声の姿はない。


『訓練を終了するのであれば、集会所へ向かった方が良いかと。ロミア様が主様をお待ちしているかもしれません』


 あぁ、そうだったな。

 訓練後は集会所で落ち合う事になってたんだ。

 大分時間を使った気がするし、ロミアを待たせてるかもしれない。


 僕は疲れた体を引き摺って、集会所へと向かった。

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