1.諦めない少女との出会い。
「……それで、お母さんがどうしたの?」
「えっと……」
必死に訴えているにもかかわらず、多くの冒険者に無視されていた少女――ドーラ。ボクは彼女のことを放っておけず、声をかけて事情を聴くことにした。
近場の公園に移動し、椅子に腰かける。
おずおずとしている少女を促すと、彼女は赤い眼を伏せてしまった。
ここで無理に話を引き出すのは、悪手かもしれない。
そう考えながら、ボクは気になっていたドーラの出で立ちを確かめた。
「(……もしかして、貧困街の子?)」
珍しい紫色の長い髪は、手入れが行き届いていないのかボサボサだ。
微かに日に焼けた肌色をした細い身体を包むのは、必要最低限の布で作った衣服。年齢はおそらく十代前半、というところだが、栄養状態も悪いので正確なものは分からない。幼い顔立ちをしているので、大きく外れていることはない、と思うけど。
「私のお母さん……【エピデ】になってしまって……」
「【エピデ】って、あの……?」
そう思っていると、ドーラは意を決したように話し始めた。
ボクは彼女の言葉を聞いて、王宮でも話題になっていた病を思い出す。
「……はい。最近、王都で問題になっている流行り病です」
――【エピデ】というのは、少女の言う通り厄介な流行り病だ。
その原因として挙げられるのは、生命の源である『マナ』の汚染とされている。言わずもがな『マナ』は生命維持に不可欠なものであり、誰もが自然的に摂取しているものだ。それこそ呼吸をすれば、一定量のそれが体内に吸収される。
昨今、王都ではその『マナ』に穢れが発生しているとか。
「だけど、それにはもう特効薬が作られてるはずじゃ……?」
「それはその通りです。でも、足りないのです」
「……足りない?」
ボクが訊ねると、ドーラは悲しげに答えた。
「薬草が、足りないのです。貴族の皆様に多くが配られ、一般に下りてくるのはごく僅か。そんな限られた中で、私たちのところになんて……」
「………………」
彼女の痛々しい声を耳にして、思わず言葉を失う。
少し考えれば、分かることのはずだった。それこそドーラの出で立ちから、出自を察する余裕があれば間違いなく。それだというのに、少女に自ら語らせてしまった無配慮をボクは恥じた。
事はそんなに簡単ではない。
そうでなければ、少女はここまで苦しんでいないのだ。
「……で、でも! 私も頑張ってお金を貯めたので! 冒険者の皆さんに依頼して、薬草さえ見つけることができれば!!」
――可能性はあるはず。
ドーラは気落ちしたこちらを察して、あえて明るく振る舞った。彼女は努めて元気に語っているのだが、その様子が申し訳なく思えてしまう。
たしかに、可能性はゼロではない。
しかし万が一に薬草を確保したとして、調合はどうするのか。依頼をするとなると、そこにはまた費用が必要になる。
「あ、あはは……」
そのことは、ドーラも承知の上のはずだ。
ボクが何も言えずにいると、彼女はいよいよ勢いをなくしていく。そして場には、筆舌しがたい沈黙が降り立った。
このままではいけない。
ボクがそう思って、口を開こうとした時だった。
「でも、私は絶対に諦めないのです!!」
「ドーラ、さん……?」
少女が勢いよく立ち、拳を握りしめたのは。
見るとそこには瞳を潤ませながらも、真っすぐに前を向くその姿があった。
「お母さんは、まだ生きていますから! だったら悩んでいるよりも、もっとやるべきこと、というのがあるはずです!!」
そして、そう宣言する。
そこにはきっと、不安や苦悩があるに違いなかった。
だけどドーラは前を向くのだ。その原動力とはいったい、何なのかは分からない。しかしボクは一心不乱に進む少女の姿に、思わず見惚れてしまった。
「(……あぁ、この子は凄いな)」
次いで浮かんだのは、素直な敬意。
この少女には、自分にない光があるに違いなかった。
それが心の底から、羨ましい。眩しいと、そう思ったからボクは――。
「だから、私は――」
「ボクも手伝う!!」
「……え?」
彼女の言葉を遮って、そう叫んでいた。
隣に立って、驚く少女に告げる。
「頼りないかもしれない。でも、迷惑でなければキミの力になりたい」――と。
突飛かもしれない。だが、この気持ちに嘘はない。
ボクは右手を差し出しながら、彼女に倣って明るく微笑んだ。すると、
「……え、グリム……さん?」
ドーラは微かに声を震わせる。
そして、潤む瞳を強く拭ってから笑うのだった。
「……よろしく、お願いします!!」
諦めない系ヒロイン(*'▽')ノ
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!