表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

1.諦めない少女との出会い。







「……それで、お母さんがどうしたの?」

「えっと……」



 必死に訴えているにもかかわらず、多くの冒険者に無視されていた少女――ドーラ。ボクは彼女のことを放っておけず、声をかけて事情を聴くことにした。

 近場の公園に移動し、椅子に腰かける。

 おずおずとしている少女を促すと、彼女は赤い眼を伏せてしまった。


 ここで無理に話を引き出すのは、悪手かもしれない。

 そう考えながら、ボクは気になっていたドーラの出で立ちを確かめた。



「(……もしかして、貧困街の子?)」



 珍しい紫色の長い髪は、手入れが行き届いていないのかボサボサだ。

 微かに日に焼けた肌色をした細い身体を包むのは、必要最低限の布で作った衣服。年齢はおそらく十代前半、というところだが、栄養状態も悪いので正確なものは分からない。幼い顔立ちをしているので、大きく外れていることはない、と思うけど。



「私のお母さん……【エピデ】になってしまって……」

「【エピデ】って、あの……?」



 そう思っていると、ドーラは意を決したように話し始めた。

 ボクは彼女の言葉を聞いて、王宮でも話題になっていた病を思い出す。



「……はい。最近、王都で問題になっている流行り病です」



 ――【エピデ】というのは、少女の言う通り厄介な流行り病だ。

 その原因として挙げられるのは、生命の源である『マナ』の汚染とされている。言わずもがな『マナ』は生命維持に不可欠なものであり、誰もが自然的に摂取しているものだ。それこそ呼吸をすれば、一定量のそれが体内に吸収される。

 昨今、王都ではその『マナ』に穢れが発生しているとか。



「だけど、それにはもう特効薬が作られてるはずじゃ……?」

「それはその通りです。でも、足りないのです」

「……足りない?」



 ボクが訊ねると、ドーラは悲しげに答えた。



「薬草が、足りないのです。貴族の皆様に多くが配られ、一般に下りてくるのはごく僅か。そんな限られた中で、私たちのところになんて……」

「………………」



 彼女の痛々しい声を耳にして、思わず言葉を失う。

 少し考えれば、分かることのはずだった。それこそドーラの出で立ちから、出自を察する余裕があれば間違いなく。それだというのに、少女に自ら語らせてしまった無配慮をボクは恥じた。

 事はそんなに簡単ではない。

 そうでなければ、少女はここまで苦しんでいないのだ。



「……で、でも! 私も頑張ってお金を貯めたので! 冒険者の皆さんに依頼して、薬草さえ見つけることができれば!!」



 ――可能性はあるはず。

 ドーラは気落ちしたこちらを察して、あえて明るく振る舞った。彼女は努めて元気に語っているのだが、その様子が申し訳なく思えてしまう。

 たしかに、可能性はゼロではない。

 しかし万が一に薬草を確保したとして、調合はどうするのか。依頼をするとなると、そこにはまた費用が必要になる。



「あ、あはは……」



 そのことは、ドーラも承知の上のはずだ。

 ボクが何も言えずにいると、彼女はいよいよ勢いをなくしていく。そして場には、筆舌しがたい沈黙が降り立った。

 このままではいけない。

 ボクがそう思って、口を開こうとした時だった。



「でも、私は絶対に諦めないのです!!」

「ドーラ、さん……?」



 少女が勢いよく立ち、拳を握りしめたのは。

 見るとそこには瞳を潤ませながらも、真っすぐに前を向くその姿があった。



「お母さんは、まだ生きていますから! だったら悩んでいるよりも、もっとやるべきこと、というのがあるはずです!!」



 そして、そう宣言する。

 そこにはきっと、不安や苦悩があるに違いなかった。

 だけどドーラは前を向くのだ。その原動力とはいったい、何なのかは分からない。しかしボクは一心不乱に進む少女の姿に、思わず見惚れてしまった。



「(……あぁ、この子は凄いな)」



 次いで浮かんだのは、素直な敬意。

 この少女には、自分にない光があるに違いなかった。

 それが心の底から、羨ましい。眩しいと、そう思ったからボクは――。



「だから、私は――」

「ボクも手伝う!!」

「……え?」



 彼女の言葉を遮って、そう叫んでいた。

 隣に立って、驚く少女に告げる。



「頼りないかもしれない。でも、迷惑でなければキミの力になりたい」――と。



 突飛かもしれない。だが、この気持ちに嘘はない。

 ボクは右手を差し出しながら、彼女に倣って明るく微笑んだ。すると、




「……え、グリム……さん?」




 ドーラは微かに声を震わせる。

 そして、潤む瞳を強く拭ってから笑うのだった。




「……よろしく、お願いします!!」




 


諦めない系ヒロイン(*'▽')ノ



面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ