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魔法使い長谷川さん、『混沌』を使役する。そして始まる魔法戦線。  作者: 松浜神ヰ
第1章 魔法使いと【混沌】と元カノとラブコメと
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1章13話 訪問者

 帰りながら事情を聴いたところ、小学校を宮坂家の持つ国家特権で辞めた後に修行で行った異世界で拾った【快晴】の卵を孵化させて育てた奈々ちゃんはその【快晴】にハルと名付け、名づけの影響でドラゴンの姿へ昇格したはいいものの、ドラゴンの肉体を持っていながら人間に擬態できず、こちらの生活で起こる様々な不祥事を危惧して泣く泣く向こうで使っていた住居――宮坂家の別荘の一つに置いてきたらしい。

 こちらと関わりの深いそのとある異世界ではドラゴンが人型になるのが当たり前のことらしく、俺は最近のラノベに出てくる要素の幾つかは異世界人そのものが持ち込んでいるのではないかとも考えてしまった。


 帰ってきて自室のベッドい寝転がり、何分が経過しただろうか。俺は今、ものすごく悩んでいる。

 今後も今日のように奈々ちゃんがルナやそれ以外の使い魔を使役する人物と戦うことがあった時、奈々ちゃんはその使い魔の恩恵を受けることができない。それでは不公平だ。

 もしも可能なことであれば、現地まで迎えに行って、ジュナの【混沌】の力でどうにかできないだろうか。

 それに、使い魔を召喚者の傍に置いておくことは、使い魔そのものの安全にも繋がる。使い魔と召喚者は、互いにどちらかが殺された時、もう一方が召喚をする、またはされる前以上に弱体化するデメリットが存在しているとルナも言っていた。


「まあ、軽く散歩程度に提案してみるか。ジュナの力があればすぐに行ってすぐに終わらせられるだろうし。にしても、ホント昨日から世界観バグったな。もともと自分が多少魔法使えた時点でバグってたんだろうけど」

智溜(さとる)ー、夕飯できたわよ」


 母さんの呼び声を聞いて俺は一階に降りる。少しして、母さんがずっと俺の顔を見ていたことに気がついた。


「どうした?俺の顔に何かついてるか?お生憎、キスマークはついてないぞ」

「いや、表情から何があったか読み取れるかなー、って思ったけど、流石に無理があったな。それで、ガールフレンドちゃんとはどう?」

「それがさ、今日、小学校の時の元カノが急に転入してきたんだって」

「何ちゃんだっけ?名前に『な』が入ってたことは覚えてるんだけど」

「奈々、宮坂奈々だよ。家の仕事の都合か何かみたいだ」

「二日連続で同じクラスに転入生が…?不自然だね。まあいいや。確か、その宮坂家って本家の宮坂家だよね?魔法に関する犯罪でもあったんだね、きっと」

「そういや今朝、いつも降りる駅の手前で線路が爆破されたから、それが関係してるかもしれない」

「そんなことがあったの?物騒だねぇ」


 前から思ってはいたが、俺が色々起きても慌てたり騒ぎ立てたりしないのはきっと母さん譲りだ。昨日近所の線路が爆破されたことは今初めて知ったようだが、それでも平然と食べ続けている。普通はこうじゃいられないはずだ。


「それで、奈々ちゃんは魔法が使えるの?」

「まあ、宮坂家だからな。異世界に修行に行った期間があって、その間に使い魔にしたヤツがこっちに連れてこれないらしい」

「へぇ。私たち一般人も魔法が使えれば毎日楽なんだろうけどね。覚えるのも教えるのも使うのも犯罪なのが残念ね」


 息子は生まれつき色々覚えてましたが?時代が違えば忌み子だったかと思うと恐ろしい。


「まあ、俺の友達には異世界の魔術師の人から教えてもらった、ってヤツもいるけどな」

「そんな危ない子と友達なの?犯罪に巻き込まれたりしなきゃいいけど」

「お互い共有してる秘密があるから、互いに裏切ったり片方だけを危険に晒すようなことはしないよ」

「是非、その子の話ももうちょっと聞きたいところだけど…。お母さん、この後美容院だからそんなに時間ないのよ。ちょっと急がせて」


 話がここで終わってくれて本当に助かった。その友達が昨日できたばっかりのガールフレンドだなんて知られたくない。結婚を反対されてしまう。まあ、反対されるなら宮坂家と結婚すれば安泰だってのもあるけども。


「じゃ、悪いけど洗い物やってくれる?そしたらカップアイス買ってきてあげるから」

「わかった。行ってらー」


 母さんが出ていき、俺は皿洗いに取り掛かる。最近洗い物をやっていなかった所為で米の跡がこびりついた茶碗に苦戦を強いられる。

 その時、インターホンが鳴った。ルナはジュナが居なくても簡単に侵入できるはずなのに何故律儀に正面から入ってこようとするのだろう。


「見ーつけた」


 そう言って子供っぽく笑っているのは、奈々ちゃんだった。ルナだと思っていた俺は、不意を突かれてどんな顔をしているんだろうか。


「ルナだと思ってたでしょ?ホントにまだ私のことが好きなの?」

「いや、奈々ちゃんまで俺の家が特定できるとは思ってなかったというか?ルナはジュナに見つけてもらったみたいだし」

「術師本人が家を特定できたってことだし、私の勝ちだね!」


 勝ち誇ったような顔をする奈々ちゃんを見るのは実に久しぶりだ。思えば、今日見た奈々ちゃんの表情の殆どは久しぶりに見たものだ。決して初めて見たものではない。

 どうやらルナのことを恋敵として正式に任命したようだが、魔法使い二人に挟まれる俺はこれからどんな顔をして生活すればいい?


「で、こんな時間にどうしたんだよ?俺の両親がいない時間を狙って夜這いか?夜這いならもっと遅い時間に来るべきだ。それに、うちは母子家庭だから母さんがいない休日の昼間に来たらどうだ?この時間からだと近所迷惑になりかねないだろ?」

「矛盾したようなこと言うからどんな時間に来ればいいか分かんなくなるじゃん。って、夜這いなんかに来たわけじゃなくて、直接話がしたかったから来たの!」


 奈々ちゃんは若干顔が赤い。昔は夜這いなんて言葉の意味も分からずにキョトンとしていたのに。思春期は本当に人を変えてしまう、恐ろしい時期だ。


「それで、直接話したいことって?使い魔のハルの話か?」

「し、し、<思考読解>使ったでしょ、このエッチ!!スケベ!!」

「いやいや、使ってないし、そもそも俺は使えないんだが。で、その使い魔をこっちの世界に連れてくるにはどうすればいいか。おまけに魔物や概念を人型に変える魔法がないってオチだろ?」

「やっぱり<思考読解>使ってるじゃん!そうよ!ナナは破廉恥な女だよ!悪かったね、勝手に変な恰好の想像して」

「だから使えないって。今のは奈々ちゃんが自爆しただけだぞ」

「…今の、忘れてくれる?」

「はいはい、忘れましたー。俺にとって都合の悪いことなので忘れましたー」


 あえて棒読みしたが、忘れるも何もない。奈々ちゃんは普段から何かを考えて顔を赤らめる癖――妄想癖が酷かった。俺のことや俺とのことを妄想していたことは想像に難くなかった。


「でさぁ、ナナは頭悪いからさ、智溜くんのアイデアないとどうにもならないんだよ」

「ナナとしてはどう考えてるんだ?」

「私がハルをもっと強くして、厄災級に育て上げて人型になれるようにしようかな、って考えてるんだけど…。あくまでハルは【快晴】だからドラゴンじゃないし、ドラゴンと同じようにはいかないかな?」

「まあね。だからと言って、アニメやマンガみたく都合よく擬人化できるわけじゃないだろ?」

「そうだね。概念は進化して姿が変わるとその姿から変質するのはムリだし」

「なら、普通にジュナにお願いすればいいんじゃないのか?アイツは最強だし、何でもアリだし。各概念特有の権能以外なら書き換えれるらしいから」

「嫌だ!…私、本音を言うと恋敵のルナの使い魔になんて力を借りたくない」

「いや、一番の近道だろ?恋敵とあれど友達ではあるんだからさ、そんな意地張ってると嫌われちゃうぞ?」

「それも嫌だけど…」


 奈々ちゃんは煮え切らない態度を取っていた。ここはもう、使いたくなかった手を使うしかない。


「じゃあ、僕とお互いの本気を出し合って決闘しよう。死んだ場合は勝った方がジュナを呼んで蘇生させよう。奈々ちゃんが勝ったら好きにしていいけど、僕が勝ったら素直にジュナの力でどうにかしてもらうよ?」

「え?え?ナナと智溜くんが決闘しても意味なくない?だって、智溜くんはそこまで強い魔法の一つも持ってないでしょ?」

「舐められちゃ困るよ。俺だって魔術師だ。ちょっとビックリさせてあげるぞ?」


 悪いが、奈々ちゃんには痛い目に遭ってもらわねばならない。せっかく協力してるのに変な意地で反対されてはたまったモンじゃないし。

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